【完結】R18 オオカミ王子はウサギ姫をご所望です。

ユリーカ

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第三章 ウサギとオオカミの即位編

第三十ニ話 「また私は利用されてたのですか?!」

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「信号弾です。ミゲルにも知らせないと後で怒られます」
「ミゲルさん、おっかなそうですもんね」
「ええ、そりゃもうひどいものです」

 遥か遠くの森の中から同じく花火の様なものが打ち上げられた。

「お返事ですか?」
「ですね。あとはあちらが残党を討伐してくれます。こちらは兄さんの帰りを待つだけです」

 甲高い笛の音が二回聞こえた。アウル様も移動を始めた様だ。

 アルフォンス様が崖から離れて大木の下に私をエスコートし二人で腰を下ろす。先程使っていた棒状のものはもう片付けたのか、いつの間にかなくなっていた。アルフォンス様はふぅと深いため息をつく。

「兄さんが戻るまで少し時間がありますね。昔話でもしてましょうか」
「昔話?アウル様とアルフォンス様の?」

 それは聞きたいかも!興味津々の顔をすればアルフォンス様が苦笑する。

「あぁなるほど、その話はまた今度。もうちょっと昔です。兄嫁のあなたにはお知らせしておきたい。こんな時でないとできない話ですし。まぁ変な話なのでどうか笑い飛ばしてください」

 少し戸惑いつつも私はこくりと頷く。アルフォンス様の様子からとても笑い話をする様な雰囲気ではない。
 アルフォンス様は私を見て笑みを深めた。

「ずっとずっと昔、あるところに四人の戦闘員がいました。あるトラブルで仕方なく臨時でチームを組んだんですが。即興だったんですがね、あまりに破壊力があってそのまま正式なチーム編成になってしまったくらいです」

 戦闘員?チーム?

 戦闘?傭兵ということだろうか。母国リーネント国は弱小が故に傭兵に頼ることがままあったからイメージはできた。
 意味がわからない細かい言葉は聞き流す。話の流れを止めたくない。アルフォンス様もそこまで期待していないだろう。
 木の幹にもたれかかりアルフォンス様が空を見上げた。目が遠くを見ている。

「一人目は火器の取り扱いに優れた『死神アズライール』。接近戦が得意で破壊力は四人の中で随一でしたが、戦闘を目的とせず保護対象の安全を考えていました。四人の中では一番冷静で忍耐強い男でしたね。二人目は策謀家『悪魔ベルゼブル』。現場の総指揮を担っていました。冷ややかにキレる男です。冷徹すぎて何かと『死神アズ』とは作戦で言い争っていました。まあ作戦での被害者は実行する『死神』でしたから当然です。でもあれを宥めるのは大変だったなぁ‥」

 十六のアルフォンス様が懐かしそうにくつくつと笑う。そのくたびれた様子が王子然としたアルフォンス様となんともそぐわない。

「三人目が『憤怒ネメシス』。索敵と情報収集、狙撃を担当していました。衛生兵でもあったこの男は文句ばかりでした」
「文句‥ですか?」

 小首を傾けた私の相槌の様な問いかけにアルフォンス様は薄く微笑んだ。そしてさらに遠くに視線がとんだ。

「ええ、暴力の理不尽に。その理不尽に対抗する力を必要とする世の中に。自分をこんな境遇に貶めた運命に。そしてそんな中で実力を発揮する自分の才能に。だからでしょうか。僕は彼がこの国に来れて喜んでいます」

 そこでアルフォンス様が私を見つめた。その視線の焦点が私に合ったような気がした。

「彼は暴力のないこの国を、平和を愛しています。この平和を守るためならば尽力を惜しまない。その為になら泣きながら怒りながら己を犠牲にできる。そんな優しい男です。まあ、意図はだいぶ違いますがあの男も同じです」
「あの男?」

 アルフォンス様は静かに笑う。十六とは思えないその大人びた表情はちょっと誇らしげだ。

「四人目。『冥府の王プルート』」

 プルート

 私はその名に思わずびくりと体を震わせた。

「火力では『死神』に敵いませんが、暗殺術としては四人の中で最強です。白兵に特化した強靭な兵器にして無音殺傷法サイレント・キリングの達人、そして三人を育てた教官。恐ろしく頭が切れました」
無音サイレント‥‥?」

 その言葉をごく最近聞いた。アウル様から。

「生まれながらの戦闘狂、まさに無慈悲ブルートでした。その才能の使い方が間違っていたのが勿体ない。『憤怒』の歳の離れた実兄にあたります」
「お兄さん?」
「ええ、実の兄。おかしいでしょ?これも運命でしょうか。僕は嬉しい限りです。暴力を嫌うくせに『憤怒』は兄を敬愛していましたからね」

 あはは、と声を立てて笑うアルフォンス様を私は初めて見た様に思う。弟を守る兄。兄を気遣う弟。そんな仲の良い兄弟。その男を思い私の口から言葉が出た。

「それはお兄さんが弟さんを可愛がったからですね。お兄さんは面倒見がいい優しい方だったんですね」
「‥‥そうですね。敵には非情ですが目をかけたものはとことん世話を焼きました。他人の不幸には無頓着なくせに自分の身のうちのものの幸せを願って‥‥本当に不器用で‥最期の時まで皆を気にかけていました」

 アルフォンス様の目がまた遠くなる。静かなため息が落ちた。

「そんなわけで三人がこの国で再会したのです。なぜ彼らだったのか。『死神』は長生きしましたね。今頃ですがこちらに無事着いたようです。全員揃えば何か起こるかもしれませんね」
「‥‥揃う?」
「おっと、兄さんが帰ってきましたね。怒り出しそうなので今の話はどうぞ内密に」

 笑顔で人差し指を口に当てるアルフォンス様が立ち上がり崖に向かって歩み出す。その後ろ姿に咄嗟に問いかけた。

「なぜこの話を私に?」

 アルフォンス様はぴたりと足を止めて翳りのある笑顔で振り返った。

「貴方は兄を救う天使ですから。本当の意味で兄さんの理解者になって頂きたくて‥‥」
「?‥‥もうそのつもりでした」
「そうでしたか。なら心配要りませんでしたね」

 その笑顔はいつもの十六のアルフォンス様だった。崖をよじ登ってきたアウル様と手を打ちあう。

「お疲れ様です。まあ心配も不要ですね」
「おう、楽勝だった」

 そういうアウル様は一人の男を背負っていた。その男を荷物の様にぞんざいに下ろして駆け寄った私を抱きしめてくれた。

「今帰った」
「ご無事で‥‥」
「ぬるすぎて手応えが全然なかった。お前を攫うより緩いのはどういうことだろうな。私軍だし戦闘経験もない。こんなもんかもな」

 不満げなその口調に思わず笑みがこぼれてしまった。
 戦闘狂。ホントに仕方がない方だ。

 アルフォンス様が意識のない男をあらためている。

「これがストックデイル公爵家の?今回の首謀者ボスですか?」
「おう、馬鹿な弟だ」
「?ストックデイル公爵家?」

 ストックデイル公爵家といえばセレニティちゃん家だ。そしてアウル様が捕らえたのは反乱の頭のはず。ザッと血の気が引いた。

 公爵家が謀反?お取り潰し?!

「えええ?!」
「安心しろ。これはもう勘当されてる。公爵家とは無関係だ。血縁上はセレニティの叔父だが、挙式から今回の反乱まで一連のゴタゴタの首謀者だ。公爵家当主であるダグラス卿は親王派。まぁこいつとは意見が合わなかった様だな。そう卿から密告を受けている」

 これまたアウル様が私の脳内を理解しサクサクとネタばらしをする。

「勘当?!密告?!ええっと?ということはセレニティちゃんは?問題なし?」
「何もない。お前のお泊まりにかこつけてそこらへんの話はダグラス卿と散々してある」

 そこで私に激震が走った。新事実だ。

 挙式を上げる前に何度かセレニティちゃん家にお忍びでお泊まりには行った。ただ王家と公爵家のパイプを太くするためだと思っていたのだが。私も楽しかったし。それが?

「え?えええ?私のお泊まりの度に公爵家についてきていたのは私への粘着行為ではなく?」
「謀反の情報交換と対策の根回しだ。粘着って‥‥、俺のことをなんだと思っていた?」

 なんだと思ってって?実際ベッタベタに粘着干渉してたじゃん!お泊まり会なのにアウル様と一緒の寝室だったし?セレニティちゃんも呆れてたし?

「私はてっきり‥あれれ?だからお泊まりの許可が出てた?偽装ダミーのため?」
「そこは気にするな。お前も泊まりを楽しんでいただろ。偽装はついでだ」
「また?また私は利用されてたのですか?!」
「またとか言うな。俺がお前を悪用しまくってるみたいだろ」
「そうじゃないですか!!!」

 私の力いっぱいの絶叫が辺りに響いた。

 アルフォンス様が私たちの口論の様子を見て微笑ましげにくすくす笑っている。

 もう!全然笑い事じゃないって!
 毎回私を利用しすぎ!ついで?ひどすぎる!

 アウル様が頭をかきながら嘆息した。

「ウサギの機嫌が悪くなった。先に帰る。後を任せていいか?」
「ええ、大丈夫です。これをミゲルに届けたら僕もテトラを迎えに行きます。姉上も、助けていただいてありがとうございました。では後ほど」

 そう言って苦笑するアルフォンス様が意識不明の主犯格を軽々と肩に担いだ。見た目小柄なのにものすごい怪力だ。そしてアルフォンス様は笑顔で手を振って崖からぴょんと飛び降りた。何度見ても慣れるもんじゃない。


 そしてアウル様が嬉しそうに私を横抱きにする。
 なぜに嬉しそう?

「さて、俺たちも帰るか。よく頑張ったご褒美に帰ったら可愛がってやるから機嫌直せよ?」
「それアウル様のご褒美でしょ?騙されませんよ!そんなもの要りません!」
「むくれても可愛いとか反則だろ。ほれ、しっかりがっつり俺に抱きつけよ?」
「は?抱きつきませんよ?もう!私は怒ってるんです!」

 ツンと顔を背けて癇癪まぎれに暴れてもがくが、私を抱き上げる硬い腕はびくともしない。この筋肉、一体どうなってるんだ?

「どうどう。俺のウサギはすぐ拗ねて活きがよくって。ホントに美味そうだ。そんなに煽るとこの場で食いたくなるだろ」
「はぁ?!褒めてるつもりですか?!」
「その強気もすごくイイな。血が滾ってるから余計たまらんぞ。まあ抱きつきたくなったらいつでも大歓迎だ。どこまで我慢できるか楽しみだな」

 え?どこまで我慢?ってまさか‥‥?!

 そして意地の悪い笑顔のアウル様は、私の悲鳴と共に目の前の崖から羽ばたくように一気に飛び降りた。
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