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042: 猫の国の《アリス》 ②
しおりを挟む「えっとね、さっき連絡したから多分兄さんが出迎えに来てくれてるはずなんだけど、あ!」
「え?れんらく?」
「うん」
どうやって?ハテナのアリスに笑顔で頷いてリオンが嬉しそうに手を振った。
「ルカ兄さん!」
「リオン」
猫が二足歩行で歩く中で黒髪の怜悧な青年がこちらに笑顔で歩いて来ていた。猫耳さえ出していないから本当に人族がそこに立っているようだ。
第二王子であるリオンが兄と呼ぶ。それは第一王子で王太子だ。その王太子が従者もなく一人外を歩いている。アリスの体がガチンと緊張した。
「やっと戻ったか。確か外出は半日の予定だったと記憶していたが、仕方がないやつだな」
「ごめん、色々とあって」
「そのようだな。お前がちょっとだけ、と言ってすぐ帰ってきた試しがない。まったくそんなところまで似なくてもいいんだがな」
リオンと同じ艷やかな黒髪を一つに束ね肩に流している。だが瞳は黒い。やんちゃな弟を可愛がる兄、優しげな視線をリオンに送っている。その青年がアリスに顔を向けた。銀縁メガネをかけているがリオンによく似たその秀麗な顔立ちにアリスの心臓がどきんと跳ねた。その青年が恭しく身を屈めてアリスに手を差し出した。
「ようこそ猫の国へ。リオンの兄のルカです。弟が世話になっています。国賓として歓迎します」
「こここ?!」
国賓ですと?!
恐ろしく礼儀正しく歓迎されてしまった。出迎えられるなら猫の姿だと思っていたため、ルカの人の姿に別の意味で真っ赤になって緊張してしまった。
アリスも震える手を差し出せば挨拶のキスを指に落とされた。人族の貴族のマナーだ。礼儀も人族にあわせ出迎えも人の姿。この青年はアリスに気を遣ってくれているとわかる。自分は妖精殺し持ちなのに、だ。だがその様子にリオンがむッと顔を顰める。
「ここここちらこそ、りおんく‥さんにはお世話になっております!わざわざお越しいただいてありがとうございます!」
「猫の国はのどかなのでそんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。もう猫耳が出ているのですか。だいぶ妖精化が進んでいるようですね。リオンとの繋がりが強いせいでしょう」
「そそそうでしょうかッ」
すでに事情を知っているのかルカがアリスの黒い猫耳を興味深げに見遣っている。その二人の間に不機嫌を隠さないリオンが割って入る。
「挨拶ならもういいでしょ兄さん!もう少し街の中を案内するから、あとで城に行くよ」
「わかった。あまり連れ回すなよ。国についたばかりだ。女性を疲れさせてはいけない。それでは後ほど」
アリスに会釈をしてにこやかに立ち去るルカのそのカッコいい紳士っぷりにアリスがほぅと息を吐いた。その立ち振る舞いは今のリオンに通じている。それはおそらく数年後の大人になったリオンの姿。
ルカは本当に出迎えのためだけにわざわざ出てきてくれたようだ。そこで立ち去るルカの姿がかき消えた。アリスはそれを初めて見たが空間を移動したのだとなんとなく理解できた。自分が先ほど洞を抜けて猫の国に来た時と感じが似ていた。
「すごい、りおん君のお兄さん、カッコいいね。素敵!」
大人になったリオンの姿を思い描いたアリスから出た感想だったのだが。
リオンはなにやら誤解したようだ。ぶすりと拗ねたセリフを吐いた。
「兄さんはダメだからね。もう婚約者がいるんだから」
「え?何が?」
「兄さんは頭もいいしカッコいいしでものすごく人気があるんだよ。もうすぐ王に即位する」
自慢の兄だと教わっていた。先程の会話で兄弟仲がいいとわかる。目を細めアリスは微笑んだ。
「そうなんだ。あと何年かしたらりおん君もあのカッコいいお兄さんみたいになるんだよね?いいね、兄弟って」
「え?」
「ちょっと未来のりおん君を見られて嬉しかったんだ。いいなぁ、私も兄弟欲しかったなぁ」
「え?え?」
「ふふ、未来のりおん君もカッコいいんだね!」
「いや‥‥ボクはあんなにカッコよくは‥」
「え?そっくりだよ?」
むしろリオンの方がやんちゃカッコよくって可愛さプラスの無敵モードだ。アリスの脳内では黄色い悲鳴が止まらない。
一方で自慢の兄とそっくりだと褒められてリオンがオタオタと真っ赤になった。
「えええ、えーと!そうだ!街を案内する約束だった!行こう!すぐ行こう!どこがいいかな?」
「せっかくなので中央公園にご案内してはどうでしょう」
「ギード!ナイス!ありす!公園に行こう!」
「えと、先にお城に行かなくて大丈夫なの?」
「約束の時間までまだあるから大丈夫だよ。猫の国を出来るだけありすに見せてあげたいから」
「‥‥‥そういう‥‥ことなら」
言外でこれが最後かもしれないと言われた。リオンが追放されたらアリスも猫の国には入れない。
二人で公園に向かって歩き出したがギードとは荷物を預けて別れてしまった。
「猫の国はおおらかだからね。ボクが一人で歩いても大丈夫なんだ」
確かに誰も自分達に執拗な視線を向けたりしない。向けられるのは笑顔。リオンもそれに応じて手を振っている。どうやらリオンはこちらでも人気があるようだ。奇異の視線をずっと向けられていた自分とは大違いだ。
「猫の国って素敵ね」
「まあね。猫はご飯が食べられてと昼寝ができればただ平和なだけだから。ちょっと気まぐれでぐうたらが多いのが玉に瑕かな?父さんとルカ兄さんが苦労してる」
その後リオンと公園を見てまわった。人族の公園と違う様式にアリスは大興奮だ。その後近くのレストランに入りオコメという食べ物を初めて食べた。
「焼きオニギリカリカリで美味しい!手で食べるのね。初めて食べたわ」
見るもの食べるもの初めてだらけだ。どれもとても美味しい。興奮気味のアリスに猫の店員が笑顔で茶を出してくれた。
デザートにオモチという甘いお菓子も食べた。これも手で食べていいらしい。そこでハシというカトラリーに不慣れなアリスのために手で食べられるメニューをリオンが頼んでくれたのだと気がついた。
「ダイフクって不思議!もちもちで柔らかい!美味しい!」
「ありすの国とはちょっと違うでしょ?ボクもあっちのゴハン好きだよ。クッキーも美味しかったなぁ」
「ホントりおん君は甘いもの好きだよね」
猫の国や家族の話をするリオンは楽しそうだ。王子なのに国民との距離も近い。肩肘張らないリオンの態度はここら辺から来ているのだろう。皆から愛され皆を愛している猫の王子。
ああ、りおん君はこんなにみんなを、この国を大好きなのに。
アリスは笑顔のまま膝に置いた手をぎゅっと握った。
追放なんて辛すぎるよ‥‥
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