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第25話 一長一短
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「……う……ああ……? ここは、どこじゃ? わたしゃ何を……?」
次の日、元一家の寝室で占いさんは目覚めた。
悪魔退治の後、急に意識が無くなり倒れたからだ。
朦朧とした意識で身を起こす。
何だか長いこと夢を見ていた気分で、記憶が曖昧だ。
ふと横を見ると六段と飲兵衛が折り重なり、畳の上で寝ている。
さらにその横腹を枕にして寝ている少女を見て、占いさんはようやく何が起こったのかを思い出した。
「そうか……依茉《イマ》よ。おヌシがわたしを救ってくれたのだな」
そう言ってアルテマの頭をやさしく撫でた。
「ね……猫じゃとぉ~~~~!?」
節子の作った朝ごはんを食べながら飲兵衛は呆れた声を上げた。
その隣で六段も何ともいえない苦笑いを浮かべている。
「なんじゃ、文句でもあるのか? 猫はわたしにとってかけがえのない家族も同然
よ、そのために体を張って何が悪い?」
はっきりした口調で反論しながら占いさんは浅漬きゅうりをポリポリとかじる。
悪魔に呪われていた理由を聞いて、出てきた理由が猫だった。
――――五年前、飼っていた猫が病に倒れた。
獣医に診せたが、猫特有の感染症だと言われ、治療法も無いと言われた。
だから悪魔を召喚し、猫に病の加護を掛けさせたのだという。
しかしその代償が酷かった。
加護の生贄に、血の繋がった別の猫を三匹、生贄に捧げよ。という事だったのだ。
猫好きの占いさんにとって、そんな代償はとても用意出来るものではない。
しかし病に伏せた愛猫を諦めることもできず、しかたなく偽物の生贄を用意した。
儀式の後、それに気がついた悪魔は激怒し、契約違反の代償に意識の半分を持っていったのだという。
「……何と言う無謀な事を……。対象がまだ猫畜生だったからよかったものの、人でそれをやったら間違いなく魂を抜き取られ、永年地獄で苦しまされているところだぞ?」
ネギ入り卵焼きをはむはむしながらアルテマが責めるように睨みつける。
しかし占いさんは素知らぬ顔。
「……それで、本当にボケは治ったのか?」
茄子の味噌汁を啜りながら元一が聞く。
悪魔が消滅したことによって、呪いも解除された占いさんは見違えたように凛とした目をし、行動もしっかりとしていた。
「ああ、お陰様でな。奴に奪われた意識は完全に戻った。もうおかしなコトを言うことも、することもあるまいよ」
言って占いさんはアルテマに向き直り、
「昨日はおしめを替えようとしてスマンかった。……隨分とプライドを傷つけてしまったようだの?」
と謝ってきた。
「まあ……そりゃ……まあ……うん」
泣いてしまったことも含めて黒歴史だ。
出来ればもう忘れてもらいたいとアルテマは思った。
「なんの話だ?」
元一が聞くと、
「実はなあ」
六段がかくかくしかじか説明する。
とたんに一同が爆笑の渦に包まれた。
「……しかしまぁ~~ヒック、悪魔憑きとは…………。こんなことがボケや病気の正体やと、いまの医学会が知ったらひっくり返るやろうなぁ」
朝焼酎をたしなみながら飲兵衛は、すっかりシャキッとした占いさんを見て首をかしげた。
すると占いさんは鼻で笑いながら、
「なに、大丈夫だろう。昔からこの世でも呪いや悪霊が病の原因だと言われていたからな。しかし西洋医学が幅を利かせてからは、それらの言い伝えは全て迷信に類だと馬鹿にされ、いまやまともに話を聞く者もいやしない。言ったところで誰も信じやしないよ」
「あ~~そうか……ヒック。そうかも知れんのう。ワシじゃってこの目で実際に悪魔を見たからこそ納得しておるんやからなぁ……ヒック。しかし……それやったらワシラの文明は間違った方向に行っている事にらるんやろかの?」
残念そうに言う飲兵衛に、アルテマは訂正するように口を開いた。
「いや、悪魔憑きや呪いが病気の全てではない。こちらの世界の医学が語るような原因での病も異世界では多く存在している。それらは除霊したところでどうにもならん。……現に私の故郷、サアトル帝国では毎年何人も原因不明の病で無くなっている。それらの多くはこちらの世界では治るとされている病気ばかりだ」
アルテマはタブレットで呼んだ知識を元に話した。
「私の受けたこの傷も、今はもうすっかり治ってしまっている。こんな良質な傷薬などは私たちの世界ではほとんど手に入らない」
「……なるほど。ようするに、ヒック、こっちで治らない病は向こうで治るが、向こうで治らない病はこっちの医学で治るということか? ……ヒック」
「そういう場合も多々あるだろうということだ」
「なら悪魔祓いが出来るお前さんと……ヒック。西洋医学が使えるワシが組めば……はっははは……これは究極の医学なんやないか?」
「そうだな……」
そうしてアルテマは六段の左足を診る。
「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――呪縛《スパウス》」
除霊の魔法を唱えると――――、
『ぎゅきゃきゃっ!!!!』
その足から一匹の異形の低級悪魔が飛び出してきた。
「うおっ!??」
それを見て後ずさる六段だが、アルテマは落ち着いてその悪魔の首根っこを掴むと、
「――――魔素よ、我が元に集まれ」
――――しゅぅぅぅぅぅんっ!!
魔素吸収であっという間に分解してしまう。
そして飲兵衛に向かって、手を差し出しながら言った。
「それは双方の世界にとって、図り知れない有益な交流になると思うぞ」
次の日、元一家の寝室で占いさんは目覚めた。
悪魔退治の後、急に意識が無くなり倒れたからだ。
朦朧とした意識で身を起こす。
何だか長いこと夢を見ていた気分で、記憶が曖昧だ。
ふと横を見ると六段と飲兵衛が折り重なり、畳の上で寝ている。
さらにその横腹を枕にして寝ている少女を見て、占いさんはようやく何が起こったのかを思い出した。
「そうか……依茉《イマ》よ。おヌシがわたしを救ってくれたのだな」
そう言ってアルテマの頭をやさしく撫でた。
「ね……猫じゃとぉ~~~~!?」
節子の作った朝ごはんを食べながら飲兵衛は呆れた声を上げた。
その隣で六段も何ともいえない苦笑いを浮かべている。
「なんじゃ、文句でもあるのか? 猫はわたしにとってかけがえのない家族も同然
よ、そのために体を張って何が悪い?」
はっきりした口調で反論しながら占いさんは浅漬きゅうりをポリポリとかじる。
悪魔に呪われていた理由を聞いて、出てきた理由が猫だった。
――――五年前、飼っていた猫が病に倒れた。
獣医に診せたが、猫特有の感染症だと言われ、治療法も無いと言われた。
だから悪魔を召喚し、猫に病の加護を掛けさせたのだという。
しかしその代償が酷かった。
加護の生贄に、血の繋がった別の猫を三匹、生贄に捧げよ。という事だったのだ。
猫好きの占いさんにとって、そんな代償はとても用意出来るものではない。
しかし病に伏せた愛猫を諦めることもできず、しかたなく偽物の生贄を用意した。
儀式の後、それに気がついた悪魔は激怒し、契約違反の代償に意識の半分を持っていったのだという。
「……何と言う無謀な事を……。対象がまだ猫畜生だったからよかったものの、人でそれをやったら間違いなく魂を抜き取られ、永年地獄で苦しまされているところだぞ?」
ネギ入り卵焼きをはむはむしながらアルテマが責めるように睨みつける。
しかし占いさんは素知らぬ顔。
「……それで、本当にボケは治ったのか?」
茄子の味噌汁を啜りながら元一が聞く。
悪魔が消滅したことによって、呪いも解除された占いさんは見違えたように凛とした目をし、行動もしっかりとしていた。
「ああ、お陰様でな。奴に奪われた意識は完全に戻った。もうおかしなコトを言うことも、することもあるまいよ」
言って占いさんはアルテマに向き直り、
「昨日はおしめを替えようとしてスマンかった。……隨分とプライドを傷つけてしまったようだの?」
と謝ってきた。
「まあ……そりゃ……まあ……うん」
泣いてしまったことも含めて黒歴史だ。
出来ればもう忘れてもらいたいとアルテマは思った。
「なんの話だ?」
元一が聞くと、
「実はなあ」
六段がかくかくしかじか説明する。
とたんに一同が爆笑の渦に包まれた。
「……しかしまぁ~~ヒック、悪魔憑きとは…………。こんなことがボケや病気の正体やと、いまの医学会が知ったらひっくり返るやろうなぁ」
朝焼酎をたしなみながら飲兵衛は、すっかりシャキッとした占いさんを見て首をかしげた。
すると占いさんは鼻で笑いながら、
「なに、大丈夫だろう。昔からこの世でも呪いや悪霊が病の原因だと言われていたからな。しかし西洋医学が幅を利かせてからは、それらの言い伝えは全て迷信に類だと馬鹿にされ、いまやまともに話を聞く者もいやしない。言ったところで誰も信じやしないよ」
「あ~~そうか……ヒック。そうかも知れんのう。ワシじゃってこの目で実際に悪魔を見たからこそ納得しておるんやからなぁ……ヒック。しかし……それやったらワシラの文明は間違った方向に行っている事にらるんやろかの?」
残念そうに言う飲兵衛に、アルテマは訂正するように口を開いた。
「いや、悪魔憑きや呪いが病気の全てではない。こちらの世界の医学が語るような原因での病も異世界では多く存在している。それらは除霊したところでどうにもならん。……現に私の故郷、サアトル帝国では毎年何人も原因不明の病で無くなっている。それらの多くはこちらの世界では治るとされている病気ばかりだ」
アルテマはタブレットで呼んだ知識を元に話した。
「私の受けたこの傷も、今はもうすっかり治ってしまっている。こんな良質な傷薬などは私たちの世界ではほとんど手に入らない」
「……なるほど。ようするに、ヒック、こっちで治らない病は向こうで治るが、向こうで治らない病はこっちの医学で治るということか? ……ヒック」
「そういう場合も多々あるだろうということだ」
「なら悪魔祓いが出来るお前さんと……ヒック。西洋医学が使えるワシが組めば……はっははは……これは究極の医学なんやないか?」
「そうだな……」
そうしてアルテマは六段の左足を診る。
「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――呪縛《スパウス》」
除霊の魔法を唱えると――――、
『ぎゅきゃきゃっ!!!!』
その足から一匹の異形の低級悪魔が飛び出してきた。
「うおっ!??」
それを見て後ずさる六段だが、アルテマは落ち着いてその悪魔の首根っこを掴むと、
「――――魔素よ、我が元に集まれ」
――――しゅぅぅぅぅぅんっ!!
魔素吸収であっという間に分解してしまう。
そして飲兵衛に向かって、手を差し出しながら言った。
「それは双方の世界にとって、図り知れない有益な交流になると思うぞ」
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