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第26話 祠の謎①
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「なに? 山の祠について聞きたいとな?」
「ああ先日、裏山(蹄丘《ひずめのおか》)の山頂、私が転移していたとされる場所の祠を調べたんだが……」
アルテマはその時の出来事について占いさんに話した。
「ほう……魔力を吸収する祠か」
何か知っていそうな雰囲気で占いさんは思わせぶりにお茶を啜った。
あの祠のことは集落の全員に聞いてみたが、誰もその正体はよく知らなかった。
そこで一番の年長者であり、魔素にも精通していると思われる占いさんに話を聞きに、あらためて家を尋ねて来たのだ。
みゃ~~。みゃぁ~~。みゃぁお~~~~。
ごろごろごろごろ、と喉を鳴らして猫がまとわりついてくる。
一体この家には何匹猫がいるのかと、特別大きなドラ猫を膝に、三毛猫を背中に乗せながらアルテマはうなずいた。
「そう……だ。状況的に考えて私が転移してきたのと、あの祠は無関係とは思えない……。そこで……あれについて何か知っている事があったら聞かせて欲しいと……思って、痛たたたたたたたたたっ!!!!」
黒猫に飛び乗られ悲鳴を上げる。
そんなアルテマを見て微笑みながら、占いさんが話してくれる。
「わたしも40年ほど前にこの地に引っ越して来たばかりじゃからの、詳しいことは知らん。……だか、あれが龍穴だと言うことは知っているぞ」
「龍穴?」
「そうじゃ――――龍穴とは龍脈の口。龍脈とはこの世界の地に流れる『気』の道のこと。すなわち、あの祠はこの世界の『気』の流れを司るもの」
知らんと言いながら結構知ってるじゃないか、などとは突っ込まず、アルテマはさらに質問を重ねる。
「気とはなんだ?」
聞かれた占いさんは、しばらく考えて。
「恐らくは……お前さんが言う『魔素』の事じゃろうな。こっちとそっちの世界では解釈に少しズレがあるかも知れんが、占いや、神術、呪術など奇跡の力を呼び寄せる為に用いる力のことじゃ」
「なるほど……それはまさに魔素のことだな。おいこらやめろ」
白猫に髪の毛を食べられるアルテマ。
「しかし、ならば私の魔素が吸い取られたのは?」
「うむ……そこはわたしにゃわからん。……だが、感じていた気の力が無くなっているところを見ると、これはもしや流れが変わったのかも知れんな?」
「どういうことだ?」
「……まずは見てみないとわからんな」
――――かくして。
アルテマは占いさんを連れて、ふたたび祠へとやってきた。
もちろん、また熊が出るかも知れないので猟銃を持った元一も付いてきている。
さらに90歳を過ぎた占いさんに山登りは無理だろうと、六段もおんぶ役として来てくれた。
「すまんの、六段や。しかし若いってのは良いのう。わたしをおぶってもスイスイこの坂を上がって行きよるわ。カッカカカ!!」
ケラケラと笑いながら六段のハゲ頭をぺしぺし叩く占いさん。
六段の足はこの数日で見違えるように良くなり、もう痛みもほとんど無くなっているようだ。
あらためて興味深いと飲兵衛は目を輝かせていたが、当の六段は難しいことはどうでもいい、とにかく楽になって良かったと全てを簡単に受け入れ、上機嫌である。
「やめんか!! それにワシは若くはないぞ!?」
「20も年下じゃ、充分若者じゃよ。ほれキリキリ登れぃ」
「六段で若者じゃったら、じゃあアルテマは何なのだ?」
苦笑いで元一が聞くと、
「そりゃ、卵じゃよ」
「だれが卵だ!! 私は中身は大人だぞ!? 40超えてるぞ!!」
「50も年下じゃろがい。充分卵じゃ」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
などと年寄りマウントを取り合いしながらマウテンを上る一行。
やがて例の祠が見えてきた。
「おお……やはりか」
それを一目見て、占いさんが全てを理解したようにため息を漏らす。
祠の周りに皆が集まり、
「なんだ? やはり流れとやらが変わっているのか?」
アルテマが見ても何もわからない。
しかし占いさんには何かが見えているようだ。
「うむ。……以前は湧き水のように溢れ出ていた気が、今は何も出ておらん。それどころか……」
呟いて占いさんはそっと祠に手を触れてみる。
「むおぉぉぉぉ……や、やはり」
苦しげに呻くとその場に膝を付いてしまった。
「お、おいっ!?」
「どうした、大丈夫か!?」
元一と六段が慌てて占いさんを支える。
すると息を荒くして彼女は説明する。
「……これは、逆に気を吸い取っておる……!! これは……この場におると危険じゃ」
「なに!?」
それを聞いたアルテマが自分の手を見ると、
ぽわぽわぽわぽわ~~~~……。
と、体から染み出した魔素がどんどん光となって祠へと吸い込まれていた。
「やはり何かのショックで、今まで湧き出ていた流れが逆になっておるんじゃ。出口と入り口が逆になっておる……」
「ん~~~~? ……てことは??」
元一が首をかしげる。
「ここにいては無限に気を吸い取られるということじゃ」
「そうなるとどうなるんじゃ?」
六段も首をかしげるが、そこに占いさんが簡潔に答えを言った。
「死ぬ」
「よし、撤収じゃぁ~~~~~~~~っ!!!!」
これ以上無い簡単な危険信号に、六段は即座に撤収命令を下す。
それを聞くまでもなくアルテマはスタコラサッサと一人山を駆け下りていた。
「ああ先日、裏山(蹄丘《ひずめのおか》)の山頂、私が転移していたとされる場所の祠を調べたんだが……」
アルテマはその時の出来事について占いさんに話した。
「ほう……魔力を吸収する祠か」
何か知っていそうな雰囲気で占いさんは思わせぶりにお茶を啜った。
あの祠のことは集落の全員に聞いてみたが、誰もその正体はよく知らなかった。
そこで一番の年長者であり、魔素にも精通していると思われる占いさんに話を聞きに、あらためて家を尋ねて来たのだ。
みゃ~~。みゃぁ~~。みゃぁお~~~~。
ごろごろごろごろ、と喉を鳴らして猫がまとわりついてくる。
一体この家には何匹猫がいるのかと、特別大きなドラ猫を膝に、三毛猫を背中に乗せながらアルテマはうなずいた。
「そう……だ。状況的に考えて私が転移してきたのと、あの祠は無関係とは思えない……。そこで……あれについて何か知っている事があったら聞かせて欲しいと……思って、痛たたたたたたたたたっ!!!!」
黒猫に飛び乗られ悲鳴を上げる。
そんなアルテマを見て微笑みながら、占いさんが話してくれる。
「わたしも40年ほど前にこの地に引っ越して来たばかりじゃからの、詳しいことは知らん。……だか、あれが龍穴だと言うことは知っているぞ」
「龍穴?」
「そうじゃ――――龍穴とは龍脈の口。龍脈とはこの世界の地に流れる『気』の道のこと。すなわち、あの祠はこの世界の『気』の流れを司るもの」
知らんと言いながら結構知ってるじゃないか、などとは突っ込まず、アルテマはさらに質問を重ねる。
「気とはなんだ?」
聞かれた占いさんは、しばらく考えて。
「恐らくは……お前さんが言う『魔素』の事じゃろうな。こっちとそっちの世界では解釈に少しズレがあるかも知れんが、占いや、神術、呪術など奇跡の力を呼び寄せる為に用いる力のことじゃ」
「なるほど……それはまさに魔素のことだな。おいこらやめろ」
白猫に髪の毛を食べられるアルテマ。
「しかし、ならば私の魔素が吸い取られたのは?」
「うむ……そこはわたしにゃわからん。……だが、感じていた気の力が無くなっているところを見ると、これはもしや流れが変わったのかも知れんな?」
「どういうことだ?」
「……まずは見てみないとわからんな」
――――かくして。
アルテマは占いさんを連れて、ふたたび祠へとやってきた。
もちろん、また熊が出るかも知れないので猟銃を持った元一も付いてきている。
さらに90歳を過ぎた占いさんに山登りは無理だろうと、六段もおんぶ役として来てくれた。
「すまんの、六段や。しかし若いってのは良いのう。わたしをおぶってもスイスイこの坂を上がって行きよるわ。カッカカカ!!」
ケラケラと笑いながら六段のハゲ頭をぺしぺし叩く占いさん。
六段の足はこの数日で見違えるように良くなり、もう痛みもほとんど無くなっているようだ。
あらためて興味深いと飲兵衛は目を輝かせていたが、当の六段は難しいことはどうでもいい、とにかく楽になって良かったと全てを簡単に受け入れ、上機嫌である。
「やめんか!! それにワシは若くはないぞ!?」
「20も年下じゃ、充分若者じゃよ。ほれキリキリ登れぃ」
「六段で若者じゃったら、じゃあアルテマは何なのだ?」
苦笑いで元一が聞くと、
「そりゃ、卵じゃよ」
「だれが卵だ!! 私は中身は大人だぞ!? 40超えてるぞ!!」
「50も年下じゃろがい。充分卵じゃ」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
などと年寄りマウントを取り合いしながらマウテンを上る一行。
やがて例の祠が見えてきた。
「おお……やはりか」
それを一目見て、占いさんが全てを理解したようにため息を漏らす。
祠の周りに皆が集まり、
「なんだ? やはり流れとやらが変わっているのか?」
アルテマが見ても何もわからない。
しかし占いさんには何かが見えているようだ。
「うむ。……以前は湧き水のように溢れ出ていた気が、今は何も出ておらん。それどころか……」
呟いて占いさんはそっと祠に手を触れてみる。
「むおぉぉぉぉ……や、やはり」
苦しげに呻くとその場に膝を付いてしまった。
「お、おいっ!?」
「どうした、大丈夫か!?」
元一と六段が慌てて占いさんを支える。
すると息を荒くして彼女は説明する。
「……これは、逆に気を吸い取っておる……!! これは……この場におると危険じゃ」
「なに!?」
それを聞いたアルテマが自分の手を見ると、
ぽわぽわぽわぽわ~~~~……。
と、体から染み出した魔素がどんどん光となって祠へと吸い込まれていた。
「やはり何かのショックで、今まで湧き出ていた流れが逆になっておるんじゃ。出口と入り口が逆になっておる……」
「ん~~~~? ……てことは??」
元一が首をかしげる。
「ここにいては無限に気を吸い取られるということじゃ」
「そうなるとどうなるんじゃ?」
六段も首をかしげるが、そこに占いさんが簡潔に答えを言った。
「死ぬ」
「よし、撤収じゃぁ~~~~~~~~っ!!!!」
これ以上無い簡単な危険信号に、六段は即座に撤収命令を下す。
それを聞くまでもなくアルテマはスタコラサッサと一人山を駆け下りていた。
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