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第149話 眠りの条件

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「こ……攻撃してこないのか……」

 恐る恐る話しかけるアルテマ。
 難陀《なんだ》はしばらくアルテマを見つめると、

『……うむ』

 と短く答え、クロードが消えていった空を見つめる。
 やがて興味がなくなったか、体から光を出すと空気に溶けるように分散し消えていった。

「あ、ちょ、待ってくれ!!」

 慌てて飛び出すアルテマ。
 しかし難陀《なんだ》の姿は完全に消えて、そこには祠があるだけ。

「私には攻撃しない……だと?」

 理由はわからないが、ならば話をしたかった。
 異世界への転移や魔法の通過など、話し合えば解決できることもあったかもしれない。
 そうでなくても聞きたいことは山ほどあった。
 アルテマは用心深く祠へと近づく。
 すると相変わらず魔素を吸収しにくるが、構わず中を覗き込み御神体を調べてみた。

「たしかあのバカは……ここをこうして……」

 クロードがやったようにアルテマはその小さな手で御神体である石を持ち上げようとしてみる。そうすればまた出てくるかもしれないと思ったからだ。
 しかし思いのほか重くてなかなか持ち上げられない。

「んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……と、……この……もうちょっと……ここを」

 体勢を変え持ち方を変え、ワサワサワサワサもがいていると、

『ぬぅわあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!! やめんか、こそばゆい!!!!』

 ぼわぁぁぁぁぁぁああぁぁん!!
 たまらんと身をよじりつつ、難陀《なんだ》が飛び出してきた。

「おお、出た!! ほんとに出た!?」

 飛び出た難陀《なんだ》は空中でなにやら喘ぐように体をくねらせると、

『……それは我の核となる物、気安く触るでない!!』

 ごごごごごごごごごごごごごごごご……。
 怒りをあらわにアルテマを見下ろしてきた。
 アルテマはその迫力にたじろぎながらも頑張って話しかける。

「す、すまない!! し、しかしお前に話があるのだ、しばし時間をくれないか」
『……お前……だと?』

 ギロリと睨みをきかせてくる難陀《なんだ》。

「ああ……いや、え~~と龍神……様? ……でいいか?」

 言い直すアルテマ。
 難陀《なんだ》はしばらく見つめると、

『……まあいい。我に話しかけようとするヌシの度胸が気に入った、話してみるがいいぞ』

 そう言ってくれた。
 意外と喋ってくれるな、とアルテマは最初に感じたイメージを修正する。
 これだったら本当に話し合いで解決できるかもしれない。

「感謝する……私の名はアルテマ。暗黒騎士アルテマ・ザウザーと言う者。訳あって異世界からこの世界へ飛ばされた別世界の騎士だ」
『ほう? アルテマ……そうか……そうだったかな?』

 自己紹介に、なぜか微妙な反応をする難陀《なんだ》。
 その仕草が少し引っかかったが、かまわず話を進めるアルテマ。

「そなたは世界をつなぐ龍脈の門番と聞いた。それで折り入ってお願いがあるのだ」
『願い……?』

 アルテマは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》 という魔法の存在と、難陀《なんだ》が出現したことによって繋がらなくなってしまった現状を説明した。




『……ほう、それで? ヌシは我に消えて欲しいと?』
「い、いや、そうではない。魔法の通過を許してほしいと言っているだけだ」

 そう言われ、難陀《なんだ》はしばし黙り込む。
 なにかを考えているようだが、なにを考えているのかその鱗に覆われた顔からは読み取れない。
 やがて口を開いて一言。

『無理だな』
「なぜだ、世界の門番をしているのだろう? ならばなんとか融通をきかせてはくれないか!?」

 きっぱりとした拒絶に食い下がるアルテマ。
 難陀《なんだ》は体をニョロニョロと蠢かせ返事を返してくる。

『門番とは、人間たちが勝手に呼んでいるだけのもの。我にはそんなつもりなどない。我の影響で魔法に不都合が出ていると言うが……それも我の意志で行なっていることではない』

「なに? し、しかしそなたが出てきてからおかしくなったのだ」
『で、あろうな。我が目覚めることによって龍脈の流れをせき止めているのは事実。ゆえに門番と言われているが、しかし番をしているつもりは我にはない』

「で、ではどうしたら良いというのだ……!?」
『だから最初にいったであろう……我に消えて欲しいのかと』
「……それしか方法がないのなら……消えてくれるか?」

 アルテマの言葉に難陀《なんだ》は豪快に笑った。

『わっははははっはっはっは~~~~。言うか? あつかましき小娘よ、だが』

 難陀《なんだ》は顔をズズズと下げてきてアルテマに視線を合わせる。

『30年ぶりに目覚めたのじゃ。贄の一つも喰らわずにまた眠るなど無理な相談だとは思わんか?』
「……贄とは若い女のことか?」
『そうだ。知っておるなら話は早い。……昔は祭りと称し、生きの良い女を人間どもから進んで献上しておったのだがな。いつからか……それもなくなり、我は自ら贄をおびき寄せるようになったものよ』

「それは鎮魂の祭りとかいう……」
『そうだ。我に未通の女子を捧げよ。腹も膨れれば寝たくもなるだろうよ』

「……無理だと言えば……どうなる?」
『ここに居続けることになるな。何年でも何十年でも。その間、おびき寄せたおなごを喰らい続ける……満足するまでな』

 元一に祭りの準備を頼んである。
 しかしその祭りに生贄が必要だったとは。
 そんな祭り現代日本で開けるわけがないではないか。
 
 ならばどうやってこの龍を鎮めたらいいのか……アルテマは思案を巡らせた。
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