黒の瞳の覚醒者

一条光

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二章~異世界の日本~

出来る事

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「ああ! もう! 全然上手くいかねぇえええ!」
 苛立って叫んだと同時に轟音が廃坑に響き渡った。
 え? 今は電撃を放とうとはしてなかったのに、それに今の電撃身体全体から出た様な感じだった。電撃は手からしか出ないと思ってたけど身体のどこからでも発生させられるのか? …………よく考えたら身体全体に纏えるんだから手からだけとは限らないのか。にしても危ないな、感情に呼応して電撃が出た感じだった。これからはこれも気を付けないと周りに被害を出しかねない…………。
「物凄い音だったなぁ、やっぱり覚醒者の能力ってのは無茶苦茶だな」
 後ろからした声に振り返ると美空の親父さんが居た。
「あれ? どうしたんですか?」
「俺が作った剣をどんな使い方をしてるのかと思って見に来たんだ」
 あぁ気まずい、せっかく作ってもらったのに意図した使い方は出来てないんだから、どう答えればいいんだろう?
「にしてもさっきのも雷か? 物凄い轟音だったぞ。あんな凄い音のする雷なんて放って大丈夫か? この奥どうなってるんだ?」
 奥の様子が気になるみたいで歩いて行ってしまう。奥に人が居る状態じゃ練習出来ないし、さっきの電撃の結果も気になるから俺も見に行ってみるか。

「こりゃあ~また凄い事になってるな、壁どころじゃなく天井も床も黒焦げじゃないか、それに所々穴が開いてる、この岩盤は硬過ぎて掘り進めなかったのにこんなに穴開けやがって」
 黒焦げは今までの練習のせいもあるけど、穴? 昨日の実験だけじゃ諦められずに今日もレールガンを撃ってたけど撃つ毎に壁は確認したけど、全部壁に届かず玉が溶けてる感じだったぞ? さっきの電撃のせいか? 穴…………電撃が通り抜けたって事か、そういえば閃電岩って岩石とかでも形成されるって読んだような? って事は閃電岩が作れる程の電圧が出せてるってことか?
「ん!?」
「どうかしたんですか?」
「ちょっと待ってろ!」
 どうしたんだろう? 慌ててる感じだったけど、壁に何かあるのか? 確かに結構穴が開いてるな、岩石の場合血管みたいな感じになるんだっけか? これだけ穴が開いてて血管みたいに岩盤を巡ってるなら空洞だらけで脆くなってるんじゃ?

「そこどいてくれ!」
 美空の親父さん何か持って…………つるはし? 疑問に思ってる間にガンガン掘り始めてしまった。なにかあるのかな? しばらく掘るのを眺めてたら急にさっきまで聞こえてた音とは違う音が響いた。
「おお! 当たりだ! 航! よくやったな!」
 は? なんの事だろう?
「岩盤の奥にミスリルの鉱床があったんだよ!」
「はぁ…………?」
「なんだよ、もっと嬉しそうにしたらどうだ? またなんか作って欲しい物があればミスリルで作ってやるぞ」
 嬉しそうにって言われてももう欲しい物は作ってもらってるし他に必要な物なんて…………必要な物? 玉をミスリルにしたらどうだろう? 鉄と同じ様に溶けてダメになるだろうか?
「あの! ミスリルでこの前くず鉄で作ってもらった大きさの玉作ってもらえませんか? とりあず一つだけでいいんで」
「あ、そういえば、あの玉ってなにに使ってるんだ? 剣の形と関係あるのか?」
「あ、はい」

 説明するより見てもらった方が早いのでレールガンを撃って見せた。
「今ので玉が飛んだのか?」
「はい、えっとこの辺りに当たったはず…………あった! ここにさっき飛ばした玉がめり込んでます」
 今回は壁までの距離を短くしてたから溶けてはいない。
「んん~? おお、確かにあるな、驚いたなぁ! 雷で鉄の玉が飛ぶとは思わなかったぞ。でもなんでミスリルにするんだ? 鉄じゃダメなのか?」
「鉄でやったらある程度距離があると目標に当たる前に鉄が溶けてダメになるんです。だからミスリルだとどうなのかなって」
 ミスリル玉で射程が伸びても貴重な金属だろうから使い捨ての玉を大量にとか全然実用的じゃないけど、出来るものなら試してみたい。
「なるほど、それでとりあえず一つだけってわけだ。いいぞ、鉱床を見つけてくれたしな」
「ありがとうございます」
「なら俺は早速戻って作ってくる。明日には出来るから美空に持って行かす」

 少し可能性が出てきたかな、結局実用的じゃないのは変わらんけど。う~ん、結局レールガンは多用出来ない、せっかく覚醒者に成ったのに電撃だけじゃ芸がないな、なにか他に出来ないかな? 電気、電気…………そういえば普段使える筋力って脳が制限してる状態だったな、脳からの電気信号で筋肉が動くなら電気流したら制限解除出来て身体能力向上とか出来たりして…………。
「やってみるか」
 とりあえず普通に跳んでみる。天井に手は届かない、結構天井高いな、次は電気を流しながら!
「っとわ! と、届いた!」
 マジか!? これ便利か――。
「いってぇええー!」
 着地後立っていられず倒れ込んだ。マジで痛い! なんじゃこりゃー! ってこれは当然の結果か、普段制限されてるのは全力を出したら筋肉や骨を損傷するからだったはずだ。その上俺は運動不足だから負荷に弱いのかもしれない。普段から鍛えていればある程度なら耐えられるようになるかもだけど、これもすぐに使うのは無理だな。電気刺激で筋肉を鍛える機械とかあったよな? 普段から痛みが出ない程度に電気を流し続けてみるか。
「結局電撃だけか…………」
 異世界に来て凄い能力を得ても、引きこもってたマイナスが負担になるのな。
「はぁ~」
 ダメ人間すぐには変われぬ役立たず…………。


 昼食を終えて今度は猪鹿狩りに来ている。流石にそろそろ気絶させる加減を習得したいからさっさと猪鹿を見つけたい、見つけたいんだが…………。
「お前らなんでそんな虫にびっくりして気絶するような情けないやつにひっついて歩いてるんだよ!」
「そうだよ! 猪鹿狩りに来たんだから真面目に猪鹿探せよ!」
 そんな大声出したら逃げられるんだが…………平太と直七は機嫌が悪い。
「お前たち静かにしなさい、狩りに来てそんな大声だすやつがあるか」
 今日同行してくれてる村のおじさんに怒られる。でも、だからといって平太たちにとっては黙っていられる状況ではないだろう、なぜか美空たちが俺にひっついて歩いてるせいだ。愛衣は右腕にしがみ付き、美空は俺のすぐ左隣を歩いていて、美緒は俺の後ろに居て服の裾を掴んでいる。凄く歩きづらい…………なんで急にこうなった? 昨日まで普通だったのに。
「そんなやつにひっついてないで猪鹿探せよ」
「ひっついてても探せるも~ん」
 探してる感じじゃないけどなぁ、美空はさっきからちらちらとこっちを見てきてるし。
「愛衣、手ぇ放してくれ電撃が使えない、美空も美緒ももう少し離れて歩き辛いから…………」
 これ以上騒がれたら面倒だ。
「一昨日までそんなことしてなかっただろ! なのになんでいきなりひっついてるんだよ!」
「あぁ~、私たち昨日お兄さんに魂奪われちゃったので、なのでお兄さんから離れられなくなりました~」
『な!?』
 平太たち驚愕、俺は困惑、昨日からかった仕返しのつもりなのだろう。愛衣がニヤニヤしている。
「昨日のあれは冗談だって説明しただろ? それにお前たちにもどんな物か使わせてやっただろ、魂奪う道具なんかないって」
「あ~そうだった。あたし達の魂取られた代わりに航の魂もらったんだった」
「…………」

 おじさんがヤバい奴を見る目でこちらを見ている。平太たちは思いっ切り睨んでくるし、俺猪鹿探しに来てるんですけど? まさか昨日の冗談がこんなことになろうとは。
「俺ぁ雷の能力だって聞いてたんだが、まさか魂を奪う能力なのか? 娘御の魂うばって自分のものにするなんて恐ろしい奴だな。猪鹿たちも魂奪って狩ってるのか?」
 変な疑惑もたれたぁぁ…………。
「いや、俺の能力は雷ですって、魂取ったとられたってのは、俺の持ってたあっちの世界の道具で三人をからかっただけです。その道具が日本に入って来た時にその時代の人がそういう風に思い込んでたって話を思い出したので」
 説明したものの疑いの視線は向けられたままだ。というか平太たちは俺の能力何度も見てるんだから魂取る能力なんてないの分かるだろ!
「愛衣離せって、ほら、これが俺の能力です」
 愛衣を振り解いて、親指と人差し指の間で電気を発生させるが信じてる様子はない。
 「あ、あとこれがさっき言ってたやつです。こうやって景色とかを写して保存出来るんです」
 スマホで誰も居ない所を写して見せる。
「な、なんだこりゃぁ! 日本にはこんな物があるのか!? 本当に見たままが写ってるぞ!?」
「はい、それでこれの昔のやつは写すのにかなり時間が掛かったらしいんです。だから写してもらいに行った人達が長時間待たされて疲れた様子で戻ってくるのを見て魂を抜かれたって思った人がいたみたいで、それが噂になって広まったってのを聞いた覚えがあったから、その話で美空たちをからかったってだけなんです!」
 この村を出て行くとはいえ娘たちの魂を取って歩く奴、なんて思われるのは嫌なので必死に説明した。

「ほぉ、ならこれは人も写せるのか? 試しに俺も写してくれ!」
「はい、これです。別に身体に異常はないでしょう?」
「ああ、身体には異常ない。しかしこれはどうなってるんだ? こんな一瞬でこんなにそっくりに、絵の上手いやつでもこんなに早くは描けんだろう。お前、これ作ったり出来ないか?」
 いや無理だろ、持ってて使い方を知ってるからってそれを作れるなんて人間の方が絶対少ないと思う。
「無理です。仕組みとかも知らないですし」
「そうかぁ…………それを譲ってもらったりは出来ないか?」
 やけに食いついてくるな。
「無理ですってこれしかないんだし、それにこれ電気が無いと動かないので譲っても使えませんよ」
「そうなのかぁ…………」
 こんなことしてないで早く猪鹿を探したい。村を出て行くと言ってから今日で十六日目、もう半分が過ぎてしまっている。村を出たら生活は絶対に安定しない、訓練してる余裕なんてないはずだ。だから今のうちに出来る事はやっておかないと。
「航さん」
 美緒にくいくいと服の裾を引っ張られる。今度はなんだ? もう猪鹿探しに戻りたいんだけど。
「猪鹿居た」
 美緒の指差した先には体が大きく立派な角を生やした猪鹿がいた。
「よくやった美緒、助かる」
 今度こそ成功してくれよ! 右手をバチバチいわせながら電撃を放った。
 当たった、放った電撃のコントロールはもう全く問題ないな。当たりはしたけど猪鹿は立ったままだ、威力が弱かったか…………また逃げられたな、また失敗した事で俯く。
「おい! みんな逃げろ! 向かってくるぞ!」
 は? なんで? 今までのは失敗したら全部逃げてたのに――。
「うおっ」
 突進してきた猪鹿の角が掠めて行った。あっぶなぁ、左腕折れてるのにこれ以上怪我なんてしたくないぞ! でも逃げないなら丁度いいや、こいつで試してやる。
『ぎゅぃえぇえーん』
 変な鳴き声が一層変になった怒ってるのか? 今までのは逃げてたのに、猪鹿の突進を木の陰に隠れて躱しながら電撃を撃つ。
『ぎゅぃぃえ゛ぇぇええーん』
 攻撃してるのが俺だと分かっているようで俺だけを狙ってくる。
「おい! そこまでにしとけ! 怪我するぞ! そいつは多分群れの頭だ! 最近随分と猪鹿を狩ったから怒ってるんだ!」

 それで群れを襲ってる俺を排除しようとしてるわけか。でもやめるわけにもいかない、この村に居られる時間は限られてるんだ、試したい事は試して早めに習得したい。
「これで、どうだ!」
 何発目かの電撃が猪鹿に命中したけど猪鹿は止まらな――。
「なぁ!?」
 走っていた猪鹿がこちらに転げ落ちてきた。
「ちょ、が!?」
 転げ落ちてきた猪鹿が直撃して俺も巻き込まれて転げ落ちた。
「わたるー! だいじょうぶー!」
 ビビった。転げ落ちる途中で木の根を掴んで止まった。
「おーい! 大丈夫かー! 生きてるかー?」
 生きてる、土が付いて汚れたけど左腕は庇ってたし他に痛いところもない。
「大丈夫でーす!」
 立ち上がって更に下へ落ちた猪鹿の確認に行く。転げ落ちた時に角が折れたようで、立派だった角は無くなっている。
「これ生きてるか?」
 口元に手を当ててみる。呼吸している! 生きてる…………って事は成功だ! やっと気絶させる力加減が分かった。
「おお、仕留めたのか」
「いえ生きてますよ。縄ありませんか? 手足縛っておいて起きたらさっきの感覚を忘れないためにもう一度試すんで」

 この後村に持って帰り、突いて起こし気絶させるのを十回ほど繰り返した後に猪鹿は解体された。もちろん解体が始まる前に俺と美緒は脱兎の如く逃げ出した。
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