黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

変なの捕まえた

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「まぁ、とりあえず、こいつは条件に入ってないから要らないな」
 カイルが金髪の男を殺そうと近付いて行く。確かにあれは必要ないから好きにすればいい、そんな事よりこの異界者が気になって仕方ない。
「やめて! 殺さないで!」
「ああ? こいつ、お前の男か? なら、どんな表情をするのか見るのも面白いかもな」
 カイルのいつもの癖、誰かに見せつけて女を犯すのが好きみたいで、手足を斬り落として動けなくなった男を見物人にしてよくやってる。
 女に近付こうとしたカイルに異界者が剣を向けてる。本当に護る気なの? アドラの人間は異界者を蔑むし、同じ人間だなんて思ってない、奴隷もしくは、混ざり者と同じ様に道具、私たちがされてたみたいに、強制的に従わされてる風でもないのに、なんで護るの?
「おいおい、お前は俺たちの仲間になるんだろう? なに、剣を向けてんだよ。俺はその女と少し話をしようと思っただけだぜ?」
 能力の無い異界者が向ける剣なんて混ざり者には意味がない、カイルは気にも留めず近付いて行く。

「っ! り、リオさんに近づくな! この、混ざりものが!」
 ふ~ん……さっきから驚く事ばかり、襲ってた村で抵抗しようとする人間なんて見なかった。今の金髪みたいに言葉で抵抗するのさえ居なかった、でも――。
「うっせぇよ、喚くな、ゴミが」
 ほら、あっさり首を落とされて倒れた。抵抗したって敵わないなら意味がない、無意味だと知ってるから誰も抵抗しない。
 金髪が死んだのを見て異界者が動かなくなってる。死がそんなに珍しいの? この国ではいくらでも死ぬ、役に立たない混ざり者、生活の為に奴隷として売られた人間、他国から奴隷として攫ってきた人間、言う事を聞かない異界者、犯罪者も奴隷として玩具にされた後で殺される。
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁ!」
 女が悲鳴を上げて泣いてる。今まで見て来た人間は混ざり者に出会った時点で諦めて、誰かが殺されても目を逸らして震えているだけだったのに…………。
「あーあ、死んじまった。目の前で恋人が犯られたら、どんな表情をするか楽しみだったのに」
 やっぱりする気だったんだ。あんな事の何が面白いの? 分からない、同じ混ざり者なのに、私だけが違うの? だから混ざり者にも化け物って言われるの?

「なんだよその目は、今にも飛び掛かって来そうだな。そんなにこの女がお気に入りか?」
 本当に今にも斬りかかりそうな目で異界者がカイルを睨んでる。さっきの死を見て混ざり者に抵抗しても無駄だって分からなかったの?
「嫌! 触らないで」
「きれーなもんだ、染み一つない。そんなに気に入ってるなら、さっさと犯っちまえばいいのに、なに躊躇って――」
「殺す!」
 本当に異界者がカイルに斬りかかった。なんで? 敵うはずないのに、抵抗しなければ異界者は暫く生かしておいてもらえるのに…………。
 でも、動きは遅い、あんなのじゃどんな混ざり者にも当てられない、カイルに簡単に躱されてる。
「おっせーなぁ、なんだよ今の間抜けな一撃は、俺たちとお前じゃ身体能力に差が有り過ぎるってのがわかんないのか?」
 そう、混ざり者と人間は全然違う、同じものじゃない…………。
「カイル、あまりからかうな」
「でもな~、こんな良い女に手ぇ出さずに放置とか馬鹿みたいだろ? こいつが食わねぇってんなら、俺たちが食わないともったいないじゃねぇか」
「条件はどうした! 条件を飲むんじゃなかったのか?」
 あんなの嘘に決まってるのに、異界者だって気付いてたはずなのに叫んでる。そんなにその女を護りたいの?
「あ~、あれ無効な、お前俺に攻撃してきたし、我慢するのが面倒になった。あとあれだ、食える時に食っとかないとな~」

 異界者の目つきが変わった。さっきまでは剣を振る事に躊躇があったけど、今はそれがない。
「死ね!」
 カイルを突き殺そうとして剣を構えて突進してるけど…………遅い。
「さっきよりはマシだが、おっそいねぇ~」
 カイルは態とギリギリで避けて遊んでる。どうにもならないって分かるはずなのに、異界者は動きを止めない。なんでそんなに必死なの? 自分の命は奪われないのに、なんで自分からそれを失うかもしれない行動を取るの?

「おい、どうしたぁ~、今のはなかなかよかったぜ? ギリギリだったからな。それとも、もう終わりか?」
 全然良くない、それにずっとギリギリで避けてる。異界者の動きはどんどん悪くなってる。疲れるのが早い、あんなのでカイルを殺すなんて出来るはずない。
「こんなんで終われるか!」
 まだ続けるの? どうして? もう全然カイルの動きに追い付けてない。それなのにどうしてこんな事を続けるの?
「やっぱ、遅いなぁ~」
 カイルは異界者の剣を身体を回転させながら躱して、そのまま裏拳を当てて吹っ飛ばしてる。
「あぐっ」
「ワタル!」
 混ざり者と違って弱い身体の異界者なのに、まだ立ち上がろうとしてる。
「もう、もうやめてください! これ以上は、私なら何でも言――」
「黙れえええぇぇぇぇぇぇぇぇ! はぁ、はぁ、はぁ、黙ってろリオ、俺ならまだ動ける。勝手に諦めるな」
 まだ諦めないんだ…………変な感じ、勝てるはずないのに、それでもあの異界者は何とかしそう。
「でも! ――」
 女を睨んで黙らせた。本当にまだやる気なんだ。

「おーおー、かっこいいねぇ~、よくもまぁ、異界者がこの国の人間のためにそこまで必死になれるもんだ」
 カイルの言う通り、誰かが誰かの為に、っていうのだけでも驚いてるのに、異界者を蔑んで道具とか奴隷にするアドラの人間を護ろうとしてる。
「カイル、殺すなよ。せっかく見つけた異界者なんだ、殺したらヴァイスがぶちキレるぞ」
 ヴァイスが怒るのは煩くて面倒、そしていつまでもしつこい。
「でもなぁ、何度も何度も勝手に突っ込んで来るんだぜ? こうしつこいと、ついうっかり殺っちゃいそうだぞ」
「殺せば戻った後でお前がヴァイスに殺されるぞ」
「……わかったよ。気を付ける、これでいいんだろう?」
 気を付けるって言ってるけど、みんなが我慢しないのは知ってる。気に入らない事があったらカイルは異界者を殺す。そうなりそうならその前に止める、ヴァイスが煩いのは嫌。
「ああ、そうしろ」

「よかったな? ダージのおかげで更に手加減してやるぞ。それとも、もう終わりにするか? 俺はその女をさっさと食いたいから、それでも――」
「まだ終わってない!」
 怒った異界者が剣を振り上げてカイルに突進する。たぶん必死に力いっぱい振り下ろした剣は、カイルに指で摘ままれて止められた。必死にやっても、頑張っても無駄なのに、それが分からない程頭が悪いの?
「だからよぉ、さっきから何度も言ってやってるだろうが。遅すぎるんだよ、こんなんじゃいつまで経っても――」
「ッ! ッ! ッ! てめぇ、卑怯だぞ!」
 ? なに? 股間を蹴られたカイルが跳ね回ってる。そんなに蹴る力が強かった様には見えなかったのに、なんであのくらいでカイルは痛そうなの?

 隙が出来たカイルに剣を振り下ろそうとしてる。
「調子にのるなあああぁぁぁ! 雑魚の分際で俺に攻撃してんじゃねぇ!」
 異界者の剣は弾き飛ばされて、カイルが異界者を両断しようとしてる。
「行かないと」
「は?」
 意味が分からないという声を出したダージを無視して、一足飛びにカイルに近付いて振り上げた剣ごとカイルの腕を斬り飛ばした。
「なんで?」
 異界者が何が起こったか分からない様な不思議そうな目で私を見てる。
「フィオ! てめぇ、なにしやがる!?」
 カイルが悪いのに喚いてる。
「異界者を殺すのはダメ」
「フザケルナアアアァァァ! 俺の腕をどうしてくれる!? このクソガキがあああぁぁぁ!」
 カイルが私に斬りかかろうとしてる。
 私と戦うとどうなるか知ってるくせに…………向かって来るんだからしょうがない、それに私をガキって言った。
 持ってる剣で、即死出来るようにカイルを細かく刻んだ。あっという間に生き物から物になったカイル、自分が斬られてるのも分かってない表情だった。

「おい! フィオ! ――っ!」
 ダージが呼んでる。どうせカイルを殺した文句、面倒…………。
「カイルが悪い」
「あ、ああ、そう、だな」
 ダージは脅えた目をしてた。混ざり者に襲われる時の人間と同じ目、やっぱり混ざり者から見ても私は化け物なんだ。
 今異界者にチビとかガキって馬鹿にされた気がした。気が付いたら手が出てた。
「げほっ、ごほっ、ごほっ」
 …………大丈夫、倒れたけど咳をしてるから死んでない。すぐに終わらせて戻ろう、カイルのせいで無駄に時間が掛かった。
「ワタル、ワタル! ワタル!」
 女が異界者を呼んでる…………まるで心配してるみたい。アドラの人間が異界者の心配? 変なの……あの人はどうしよう? ……煩いから静かにしてもらおう。
「っ!?」
「やめ、ろ、り、おに、て、ぇ、だす、な」
 異界者に脚を掴まれた。まだ動けるの? なんで? 能力の無い弱い異界者なのに。でも私がそのまま歩くとあっさり手は放れた。

「ワタル! ワタル! ワタル! っ!? 来ないでっ!」
「べつに殺さない、煩いから静かにして」
「私たちをどうするつもりなんですか?」
「異界者は連れて行く…………」
 この人はどうしよう? 異界者は見逃して欲しいって言ってたけど…………私もこの人を連れて行く理由はない、ヴァイス達と違って興味もないし――。
「その女も連れて戻るぞ、カイルを殺したんだ。あいつが悪かったとしても穴埋めするものは多い方が良い」
「そう、私はこっちを運ぶ」
「ああ、女の方は俺が運ぶ。へへ、確かに良い女だ」
 ダージが気持ち悪い笑いを浮かべてる。
 そろそろ町での騒ぎも終わってるはずだからそのまま隠れ家に戻ろう。
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