IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

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本編

No,53 【姫初め】 ※R18

一条さんの主張でエアコンをつけっ放しで外出したので、帰って来ても部屋の中は暖かだ。

「…ただいま…」

一条さんの家に来てこの挨拶は、正直、真唯にはかなり抵抗がある。
だが、これまた一条さんの強い主張によって『帰宅したのなら、当然の挨拶です』と押し切られた。


「…ただ今…そして、『お帰りなさい』」
背後から聞こえる優しい声に、真唯は振り返る事が出来ない。
ショルダーバッグを肩から外し、ダウンのハーフコートを脱ぎながらウォークインクローゼットに行こうとしたところだった。
……一条さんに後ろから抱き締められたのは。

「…何してるんですか…」落とされる接吻キスにあらがえば、
「お帰りなさいのキスをしています。」シラッと答える一条さん。
「…これをクローゼットに仕舞いたいんですが…」バッグとコートを示せば、「ああ、こちらに貸して下さい。」言われるままに一条さんに渡して、すぐに後悔した。一条さんは真唯のバッグとコート、そして自分のトレンチコートを床に落としてしまったのだ。ここまで堂々とやられると『なにするんですか!』と怒る気力も削がれる。 ……敵はそれも理解っているに違いない。


「……『仕舞う』と云えば…昨夜は【カパック・ライミ】などと云う高尚な単語を出されて言えませんでしたが…大晦日にするSEXを何と言うがご存じですか?」
「~~~~」
「ああ、ご存じなんですね…そう、【姫納め】とか…【姫仕舞い】などと言うんですよ。」
ここで一条さんの意図を見抜いた真唯はジタバタしてみたのだが、塗り壁に猫パンチ、敵には全然こたえた様子もなく、
「…それでは、これから【姫初め】と洒落込みましょう。
 …お付き合い頂けますね、真唯さん。」
「…い、一条さん!
 【姫始め】とは祭りの後に、姫飯ひめいいを食べる事であって…!」
「…寿司屋に行く時にも言いましたが、時代の変化に付いて行くのは大切な事です。」
「…っ! …私、今夜はお風呂に入ってゆっくりしたいんですが…っ!」
「……………」
「…それに、ほらっ、…お正月ですから、禊の意味も込めてゆっくりと…」
「…了解わかりました…」
「…へ…っ?」
「ゆっくりお風呂に入りたいんですね。貴女の意思は尊重します。
 どうぞ、ごゆっくり。」
一条さんは真唯を解放してくれ、真唯のバッグとコートを自分のコートを拾い、クローゼットに消えた。その後ろ姿を見て、(勝った!)と思った。S○X抜きを確約してくれた訳ではないが、お風呂にゆっくり入れるのは嬉しい事だった。その後の事は、またその時に考えれば良い。
途端に気が楽になった真唯は、着替えを取りに行くために自分もクローゼットに向かったが。

……敵が安易に引き下がった理由わけを、深く考えなかった事を直ぐ後に後悔する事になるのだった……



※ ※ ※


一条さんの家は俗に云う億ションだ。当然、湯船も広い。
(ジャグジーもサウナもあるが、真唯は使った事はない。)
真唯がゆったり身体を伸ばしても未だ余る。広い湯船にハーブの精油と岩塩を精製した天然の塩から生まれたバスソルトを使わせてもらって、真唯はご機嫌だった。

……一条さんぐらいの体格だったら、丁度良いのかも知れないな……

お風呂場から見える切り取られたウォーターフロントの夜景に、真唯の精神ココロに切なさが忍び込む。


……今まで一体、何人の女性がこの湯船に入ってこの夜景を見つめたのだろう……


……過去に嫉妬しても仕方がないと、理性では理解っている。
けれども感情は、簡単に納得してくれない。

……一条さんのすべてが知りたい。
……だけど、しつこく問い質したりして、鬱陶しい女だと思われたくない。


―――……自分がこんなに独占欲の強いオンナだとは思わなかった……―――





「…何を泣いていらっしゃるのですか…?」

第三者の声がして、慌てて涙を拭って顔を上げれば、そこにいるのは当然一条さんだ。しかも全裸。一応前は隠してくれているものの一瞬で眼に焼き付いたその逞しく美しい裸身に、自分の貧弱な身体が恥ずかしくなり真唯はザバリと立ち上がると消え入りたい気分でタオル一枚で何とか身体を隠しつつ、ソロリと湯船から出るとツツツ…と壁伝いに蟹歩きをしながら一条さんと距離を保ちつつドアを目指そうとする。

「……一条さんがお入りになるなら、私は出ますね…ごゆっくり~~」
「…あなたこそ、ゆっくり風呂に入りたいとおっしゃっていたではありませんか。どうぞ、ご遠慮なさらずに。」
「…っ」じゃあ、出て行って欲しいと云う言葉は家主には言い難い。うう~~~っと心の中で唸っていると、

「風呂に入って、ゆっくりシタい・・・と誘って下さったのは貴女です。
 何を今更恥ずかしがっていらっしゃるのですか?」

大きなストライドで数歩で距離を縮めて来た一条さんに、真唯はアッと云う間に捕まってしまう。そして『したい』と云う言葉を強調して誘った・・・などと真唯に濡れ衣を着せる一条さんに、真唯は(ヤラレタ!)と云う悔しい想いが後悔の念と共に湧き上がるがそれは表面上だけで……彼への独占欲を自覚した今となっては、その彼の真唯に対する執着がただただ嬉しいだけだ。


「ご希望通り“禊”をしましょう。 ……ご一緒に。」

そう言って、シャワーの温度を確かめ高いフックに掛けると、降り注ぐ暖かい雨の中で、一条さんは真唯を抱き締めキスしてくれる。
真唯は一条さんの首に両腕をまわし必死で彼のキスに応えた。一条さんは運転があったので、お寿司屋さんでノンアルコールビールしか飲んでいない。でも一条さんの舌は、確かにあのほろ苦い麦酒ビールの味がする……。彼が流し込んで来る唾液を素直にコクンと呑み込んで。彼の舌の促しに従って、真唯も自分の日本酒の味がするはずの唾液を一条さんに送った。

「……甘い……」
感嘆するような一条さんの言葉が恥ずかしい。
真唯に日本酒の味は理解らない。だから最初は固辞したのだが、『発泡性純米酒と言って、シャンパンのようなものですよ。』と一条さんに薦められて興味が湧いた。飲めない一条さんに申し訳ないと思ったのだが、『私に遠慮せずに。折角のお正月なのですから楽しんで下さい。』にっこり笑われて、それなら……とお言葉に甘えた。


「…あの日本酒、ホントに美味しかったですから…」
「…違いますよ。この甘さは、真唯さんご自身の甘さです。
 …そうでなければ、こんなに私を酔わせるはずがない…」
「~~~~」
赤面ものの言葉を吐いて下さる一条さんに咄嗟に真唯は俯いてしまい、そしてバッチリたくましく勃ち上がった彼自身を目の当たりにしてしまった。

(…大きい…っ!)

真唯は父親とお風呂に入った経験がない。
だから、初めて目撃してしまった男性自身に大きな衝撃を受けた。

(…あ、あんなに大きなものがアタシの中に入ってたの!? 
 …アタシ、今までよく平気でいられたわね~…って言うか、あんなものを受け入れていたんだから、あの苦痛や疲労がパネェのも無理ないわ…)




「…そんなにマジマジと鑑賞されると、私も照れるんですが…」
頭の上から降ってきた声に、真唯はハッと我に返る。あまりに衝撃的なモノをつい凝視してしまった事に気付き、「ご、ごめんなさいっ!!」顔から火を噴きそうな心地で両手で眼を、と云うよりも顔全体を隠す。どんな表情かおをして一条さんに相対して良いのか理解らない。

「良いんですよ……で、ご感想は?」
「…へ…っ?」

抱き寄せられて今まで意識していなかったアレ・・の存在をリアルに肌に感じて、心の中で悲鳴を上げていた真唯は、一条さんの問いについ、素っ頓狂な声をあげてしまった。
一条さんは真唯の妙な声に動じる事もなく再び問うてくる。


「……コレは、貴女が欲しくてこんなになっているのです。
 もう、貴女以外に反応しない…ご感想は?」

「……本当です…か…?」

その言葉は真唯にとっては泣きたいほどに嬉しい台詞だった。
縋るような声になってしまったと思うが仕方がない。

「勿論、本当です。貴女以外、抱きたいと思える女性がいなくなってしまったのですから…責任とって下さいね。」
「……責任…とります…とらせて下さい……」



―――躊躇いは……感じなかった―――



「…ま、真唯さんっ! ……私はそんな心算で言った訳では…っ!」
いつも余裕綽綽で真唯を翻弄する男が珍しく焦っている様子が逆に真唯を落ち着かせ、何やら楽しい気分にさえさせられる。
一条さんの前に膝をつき、太くて大きく赤黒いそれ・・をなるだけ優しく両手で包む。初め真唯を驚愕させたそれは、もう愛しさの対象でしかなかった。
口唇に迎え入れ、しゃぶろうとしたそれは見る見るうちにもっと大きく太くなり、小さな真唯の口では先っぽしか入らない。仕方がないから、手で愛撫しつつ心を込めて舌を使った。方法は……知っていた。会社のオバサマ方のY談から仕入れた情報によって。ぎこちない動きや技巧のつたなさは、実践は初めてなのだから勘弁して欲しい。

最初は吃驚して真唯の頭を引き剥がそうとしていた一条さんの手が、諦めたように真唯の髪を優しく撫で「…っ、……ん…クゥ…ッ!」と喘ぎ声を漏らしてくれた瞬間ときは本当に嬉しかった。……少しでも一条さんに感じて欲しい……。その一心でを閉じて、ひたすらに奉仕を続ける真唯には、男の表情の変化は分からなかった……


終わりは唐突にやって来た。
一条さんが無理矢理真唯の顔を引き剥がしたのだ。

……まだ、イってくれてない……

少し寂しく思い、怖ず怖ずと顔を上げて聞いてみる。
「……一条さん…あの…気持ち良くなかった…? ……ごめんなさい……」

すると、「…っ! …貴女と云う女性ひとは…っ!!」なぜか一条さんの怒ったような声が聞こえ、そんなによくなかっただろうか…と軽く落ち込んでしまうと、「良くなかったかですって…!? …貴女の身体で直接確かめてみればいい…っ!」と真唯を無理矢理立たせシャワーを止めた一条さんは、真唯の両手をタイルの壁につかせて前戯もなにもなく慣らす事もせずに背後バックからいきなり真唯を貫いた。



「キャアァーーーッッん!!」
一条さんのいきなりの暴挙に思わずあげた真唯の悲鳴は、苦しげな呻き声に変わり……しかし、直ぐに始まった一条さんの律動と共に嬌声へと変わって行った。

「イヤア…ァッ、一条さんっ! ……そんな、いきなりっ……ハアあ…っ! ハウ…ッ!!」
「……だいじょう…ぶっ! …充分濡れています…私を舐めながら感じていたんですね…イヤラしい身体だ…っ」
「やあァ…ッ、…そん…な言い方しないで…っ! ……お湯ですっ、…お湯で濡れて…ひあアァ…ッン!」
「…白々しいっ、…それより、どうですかは…っ! …貴女が育ててくれたものです…よっ」
「ヒウ…っ、……すごく…っ……おおきい…っ! ……ハア…ッ、…ハウァ…ッ!!」
「…っ、…それは最高の誉め言葉ですね…じっくり…味わって頂きたかったんですが…生憎、私にも余裕がない…っ、…クゥ…ッ、……ダメだ…っ、がまん、出来ない…っ!」
「アアッ…!! ひっ…! ひぁ……んっ!!」
「……くっ…んァ…っ!」
ほぼ同時に絶頂を迎えたようだが弛緩する意識の中で、一条さんの昇りつめた嬌声こえを聴いたのは初めてのような気がして、半ば無理矢理抱かれたのにそれを嬉しく思うなんて自分でも終わってると思った真唯だった。




その後、立っていられずに崩れ落ちた真唯をバスマットに寝かせ直ぐさま二回戦を開始した一条さんだが、真唯はそこで尋問を受けてしまった。曰く―――なぜ、あんなにフェラが上手いのかと。
『上手い』と言われて(ああ、一条さんを気持ち良く出来たんだ…!)と嬉しくなった真唯は、問われるままに正直に話した。一条さんの雰囲気がなんだか怖いと思いながら。真唯の答えに、一条さんの呆気にとられたような表情は段々ばつが悪そうなものへと変わって行く。

『…なんでそんな事を聞くんですか? …他にどんな理由があると思ったんですか?』
『……すみません、…その…あんまりお上手だったので……経験がおありなのかと……』
『…なっ! ……酷い、一条さん!! …私、他の男の人なんて…想像しただけで吐き気がして、鳥肌が立ちますっ!!』
『すみません、真唯さん! …今、落ち着いて考えれば、確かに貴女の舌遣いはたどたどしかった。バカ正直とも言える貴女に、私を裏切るような真似が出来るはずがないと理解りますっ! …ですが、もう少しで貴女の口に出してしまいそうになるほど追い詰められた、私の気持ちも理解って下さいっ!!』
『……………』
それは明らかに真唯への賛辞で、気分が浮上した真唯は結局一条さんを許してしまった。

だが、もう一つの質問。これには答えられなかった。曰く―――
『私がバスルームに入って来た時に何故、泣いていたんですか?』

頑として答えない真唯に、片眉をヒョイと上げ…『浮気疑惑は簡単に晴れましたが、こちらは追及の必要がありそうですね。吐いて頂きますよ、どんな事をしても』宣言した一条さんは真唯を快感地獄に陥れ…身体を使っての尋問に屈してしまった真唯は、泣きながらすべてを白状させられてしまったのだった。


※ ※ ※


「おバカさんですね、真唯さんは」
「……どうせ、バカだもん……」

ここは湯船の中。一条さんに背後から抱き締められる形で、真唯はバスソルトから薫る微かなハーブの匂いを感じていた。


一条さんは説明してくれた。若い頃から確かにモテたが、女性は大概、財産目当てで一条さんを財布のように思っているか、連れて歩くと自慢出来るアクセサリーのような感覚でコナをかけてきた事。『そんな女性おんなを恋人などと思えると思いますか?』逆に聞かれて、真唯は首を左右に振る。
『私も若かったですからね、正直に申し上げますが、後腐れのない女と適当に身体の関係を持ちました。ですが、短くて一晩。長くて一ヶ月くらいしか続きません。ハッキリ言って単なる性欲処理です…軽蔑しますか…?』
苦い物を飲み下すような一条さんの告白に、真唯はプルプルとまた首を左右に振る。
途端に微笑んだ声で言われた。
『…ありがとうございます…』
と。


「今までどんな女も、部屋に入れた事はありません。この部屋も同様です。
私は自分のテリトリーを他人に犯される事が何より嫌いですので。
寝室のベッドルームを使った事があるのも、この風呂に入ってこの夜景を見たのも貴女一人だけです。」




そして、最後に耳元に囁かれた一言に、真唯はKOされた。





―――だからね……真唯さんは……私の初恋の女性ひとなんですよ―――







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