見た目金髪ヤンキーの聖者様、龍王様に溺愛されてます

神代天音

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3 龍の国アークレギア

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 僕は空の上で寝ていたらしい。
 いつのまにやら龍の国、それも王城だろうでっかいお城の下にいた。
 しかも、先ほどまで空はオレンジ色だったのに、深い紺色に様変わりしている。結構長い時間寝てしまっていた。

「ご、ごめんなさいっ!」
「気にしなくていい。疲れていたのだろう? 疲れが取れたのならよかった」

 謝っても、イシュアさんは穏やかな微笑みでそう言うばかり。懐がとてつもなく深いっぽい。

「さて、ここが俺の家だ」
「——っえ!」

 先ほどから、ここはどこなのだろうとは思っていた。
 まさかここが家だとは言わないだろうな、とも思っていた。
 ここから家に向かうんだろうな、って。

 ここが、家だったらしい。

「ここ、お城ですよ!? ここに住んでるのって王様くらいじゃないですか!?」
「いや、俺が龍の国アークレギアの王だから間違っていない。ここに、住んでいる」

 驚きすぎて遠慮とかどこかにいった。でも、イシュアさんはまるで当然のような顔だ。確かにとは言っていた。でも、まさか王様なんて思わないじゃんか。
 それどころか、驚いて固まっている僕の手をとって、勝手知ったると言わんばかりに城に入っていく。

「……ぼ、僕は言っていいんですか、こんなすごいところ」
「カナデ入れないのなら、他の誰も入れない。カナデ、遠慮しなくていい」

 そう言われても、遠慮しかできない。助けてもらって、安全なところまで案内してもらって、しかも住む場所まで恵んでもらおうとしている。場合によってはこれから1人で生きていけるように仕事も恵んでもらわなくちゃいけないし。
 遠慮以外何をすればいいんだろう。

「部屋の手配の前に、まずは会ってもらいたい人がいる。疲れているだろうに、すまないな」
「い、いえっ、ぜんっぜん大丈夫です」

 会わせたい人、どんな人だろう。

 そう考えながら、歩いている廊下を見渡す。
 廊下には滑らかな赤い絨毯が敷かれていて、繊細な模様の描かれた高そうなツボが置かれている。歩くだけでも高級そうで腰が引ける。

 しかも、どんどんイシュアさんは城の中心に向かっているような気がする。だって、どんどん廊下の装飾が増えて、高級そうになってきてる。
 さっきまでツボや花瓶が置かれているだけだった。だけど、いまは壁に大胆なタッチで描かれた抽象画まで掛けられている。

 僕はどこへ連れて行かれるんだろう。

「ここだ」

 イシュアさんがそう言って止まったのは、比較的装飾の少ない、シンプルな扉の部屋だった。そこに、ノックもなしに入っていく。
 内装はシンプルで、本が多い。執務室、なのかな。
 中には、眼鏡をかけた細身の男の人、執事服を着たロマンスグレーの紳士がいた。

「帰ったぞ」
「——イシュア様あなたねぇ! 政務ほっぽり出してどこいってるんです!? いつもいつも——」
「ああ、わかったわかった! 後で聞く。今は客人がいるんだ」

 イシュアさんが中に入った途端、眼鏡をかけた男の人から、怒りの声が投げかけられた。でも、イシュアさんは適当にあしらっているから、これがいつも通りなんだと思う。

「客人? 誰ですか?」
「見つけたんだ」

 答えたのはたった一言。なのに、メガネの人にはその意味が伝わったらしい。
 途端に静かになるどころか、眼鏡を外し、目尻をハンカチで拭いている。

「そうですか……。それはようございました」
「だから、政務のことは少し忘れて——」
「それはないです」

 また2人でコントのようなやり取りをしている。

「ふふっ」

 思わず笑ってしまうと、バッとイシュアさんが振り返った。

「よかった。やっと笑ったな」
「……え?」
「カナデは今まで、一度も微笑んでもいなかった。だから心配だったんだ」

 僕は疲れで全く笑っていなかったらしい。僕自身すら気づいていないのに、それに気づくイシュアさんが凄すぎる。
 たしかに、僕はこの部屋に来てからなんだか安心できている気がする。

「それはさておき、自己紹介をしませんか? 私たち、まだお客様のお名前すら知りませんし」
「ああ、そうだな。じゃあ、まずは俺からしっかり自己紹介しようか」

 メガネの人の提案で、自己紹介が始まる。
 ちなみにここまでで、ロマンスグレーの紳士は一度も喋っていないのが逆に緊張する。

「名前はイシュア・ラスティリア。この国、アークレギアでかれこれ千年ほど王をやっている」
「せ、千年!?」

 自己紹介が最後で頭に入ってこなくなった。千年。龍になれる種族というのは寿命がとてつもなく長いのだろうか。

「そういえば人族はだいぶ寿命が短いのだったか? カナデ、龍人……龍に変身できる種族はな、寿命が数千年ほどあるんだ。俺は今1300歳ほどだ」
「な、なるほど……」

 龍人はものすんごく寿命が長いらしい。……それじゃあ、イシュアさんとは少ししか同じ時間を過ごせない。
 
 ——僕は何を考えているんだ?

「他のことについても今度また説明しよう。次は、だなシュリエンだな」
「はい。はじめまして。私はシュリエン・レオネスと申します。王の政務の補佐をする宰相という役職についております」
「よろしくお願いします」

 細身の眼鏡の男の人はシュリエンというらしい。変身すると青い龍なのだろうか? 目はイシュアさんがと同じ金色だが、髪の毛が綺麗な青色だ。

「次はレオヴィルだな」
「はじめまして。レオヴィル・アルザレインと申します。城の使用人の総括をしております。……そうですなぁ、お客様には『じぃ』とでも呼んでもらいましょうかの」
「……じ、じぃ? よろしくお願いします?」

 先ほどまで一言も喋らなかったロマンスグレーの紳士は最後の最後にぶっ込んできた。何故にじぃなの? お嬢様が執事を呼ぶのと同じノリなの?

「はじめから悪ノリするやつがあるか。……じゃあ、カナデ、頼む」

 ひとつ、深呼吸。それから自己紹介を始める。

「……はじめまして。結城奏と申します。ぜひ、カナデ、と呼んでください」

 自己紹介はそれだけ。自分が聖者として召喚されて、捨てられているのは言って良いのかわからないからいえない。結果的に簡素な自己紹介になってしまった。

「ということで、自己紹介は終わったな。レオヴィル、カナデに部屋を用意してくれ。カナデはファルメリアからこちらにきて疲れているんだ」
「それをはじめから言ってください。……では退出してよろしいかの? 準備してまいりますので」
「ああ」

 特に詮索されることもなく、話は流れた。
 というか、僕の部屋まで準備してくれるらしい。申し訳なさで頭が下がる。



 それからしばらくはイシュアさんとはシェリエンさんと他愛無い話をして時間を潰した。
 基本的には龍の国の城下町の話だった。2人が話す内容があまりにも楽しそうなので、いつかいってみたい。

「準備ができましたぞ」

 そう言ってレオヴィルさんがやってきたのは15分ほど経ってから。
 イシュアさんとシェリエンさんも立ち上がったから、一緒に部屋まで行ってくれるのだろう。

「ではいきましょうか」

 そう言って歩き出した。

 が、歩いたのは30秒。

「……こ、ここですか」
「はい」

 案内されたのは明らかに他の部屋より装飾の多い扉の前。

「どうぞ、入ってください」

 そう言って中に案内されると、僕の実家のマンションの一室の3倍はある部屋が現れた。

「ひ、広すぎません?」
「いえいえ、カナデ様にはこの部屋しかございません」

 しかも、様呼びだし。
 そして、気になることがもう一つ。

「あの、あの扉は何ですか?」

 部屋の中に、シンプルな扉が一つ、目立つように設置されている。あれは何だろう。

「ああ、あれはイシュア様の部屋に繋がる扉にございます。いつ開けていただいても構いません」
「つ、続き扉!?」

 そんな扉がある部屋をこんなよそ者に与えていいのか?

「……申し訳ないです。ほんと、馬小屋とかの端っこでいいです……」
「この国に馬はいないが? 龍人を怖がってしまって使い物にならないんだ」

 いらない情報が入ってきた。どうにもならないのかな。

「すまない。俺の隣の部屋がそんなに嫌か? ならば、レオヴィルに新しい部屋を用意させるが……」

 僕が他の部屋がいいと言ってしまったから? イシュアが目をうるうるさせて悲しそうにそう言ってきた。

「そんなことないです! むしろ光栄です!」
「ならば、この部屋で良いな!」

 イシュアさんは満面の笑み。
 丸め込まれたような気がする。……ずるい。

「では、カナデ。今日はもう夜も遅い。この部屋で寝てくれ。また明日必要なことを話し合おう」
「はい。……イシュアさん、シェリエンさん、レオヴィルさんおやすみなさい」

 そう言って、3人を見送ってから扉を閉める。
 
「着替えは、良いか」

 着替えていないのが気になるけど、続き扉以外を開けて良いのかがわからない。今日はとりあえず外着のまま寝よう。

「いえなかったな……。僕の事情」

 僕の事象は話して良いのかわからない。話したらイシュアさんたちもあの神官たちと同じように、僕のことを「穢れ」と呼ぶのだろうか。怖くて怖くて仕方がない。

 そんなことを考えていたら、いつのまにか眠りに落ちていた。

 



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