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21 祝福と失望
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フラエは休日の夜を過ごしていた。
誕生日だ。とはいえ、何もすることはない。
ふと、扉がノックされる。のそのそと起き上がって対応すると事務員が立っており、二通の封筒を手渡された。封蝋から見るに、恐らく従姉妹のルルとグノシスからだ。
ルルからの封筒を開けると、毎年恒例のメッセージカードだった。誕生日を祝ってくれる彼女の心遣いに気持ちが少し、明るくなる。ふと裏を見ると、彼女の手書きの文字があった。
赤ちゃんができました。来年産まれたら会いにおいで。
「……そっか」
その文章に、フラエは、そっとカードを机に置いた。
「うん。ルル、おめでとう。よかった。よかった」
祝うべきことだ。フラエは、ルルのために研究をしていた。ルルを助けたくて。役に立ちたくて。
だけど、ルルにフラエの力は必要なかった。たったそれだけのことだ。
どうして自分がこんなに動揺しているのか分からなくて、フラエは深く息を吐いた。ルルと同じ悩みを抱えている人は、たくさんいる。今の研究がルルの役には立たなかったとしても、同じ悩みを抱えている彼らを救うかもしれない。
フラエは役に立ちたい。認められたい。
今まで無意識に目を背けていた、自分の中にあるその欲求へ気づいたら、もうダメだった。フラエはベッドにもぐりこみ、深く布団をかぶった。
何もしたくなかった。何も目に入れたくなかった。何も考えたくなかった。ルルがずっと切望していた子どもを授かったのに、素直に祝えない自分が嫌だった。弱い自分が嫌で、歯を食いしばりながら目を瞑った。
気がつけば朝になっていて、フラエはのろのろと支度を済ませて出勤した。研究所の面々はフラエの顔を見て、どうかしたのかと心配そうに声をかけてくる。それに対して「大丈夫」と胸を張るが、ミスミは「今日は帰ったほうがいいんじゃないか」と顔を合わせて開口一番に言った。
「なんで。体調不良でもないのに」
「いや。お前には休養が必要だね」
所長には俺が言っておくから。そう言って、ミスミはフラエを外へと放り出した。
とぼとぼと寮の自室へ帰り、特に何をするでもないのでベッドに潜り込む。頭はずっとどこかが働いているのに、思考が具体的な形にならなくて気持ち悪い。
自分がこれほどショックを受けているということが、ますますショックだった。自分はいつから、誰かの幸福を祝えない、こんなに弱くて心の貧しい人間になったのだろうか。
扉がノックされる。誰であろうと居留守を使うつもりでいると、それは許可もなく、あっさりと開けられた。
「入るぞ」
のそのそと起き上がってみれば、グノシスが質素な服を着て立っていた。どこから突っ込めばいいのか分からなくて、頭を抱える。
「……どうして、ここに?」
全ての疑問を圧縮して尋ねると、「フラエが寝込んだと聞いて」と、彼は勝手に椅子をベッド横へと移動させ、座る。脚が余っているのがまた腹立たしい。彼は自身が贈ったメッセージカードが未開封なのを認め、「余程体調が悪いのだな」と都合のいい解釈をした。自分のメッセージをフラエが受け取る気がないとは、発想そのものにないらしい。
気が遠くなって首を横に振る。仮にも自国の王子を追い出すわけにもいかないし、だんだん何もかもがどうでもよくなってきた。
「何の用ですか」
「見舞いだが……?」
何を当たり前のことを聞いているんだ? という顔の彼に、フラエは天井を見上げた。この人は、こういう人だ。
「……もういいや」
不貞腐れて再び横になる。フラエはとても疲れていたし、彼がこの程度で不敬だと騒ぐ人間でもないことは知っていた。グノシスはフラエの顔を見て、「落ち込んでいるな」と静かに言う。
誕生日だ。とはいえ、何もすることはない。
ふと、扉がノックされる。のそのそと起き上がって対応すると事務員が立っており、二通の封筒を手渡された。封蝋から見るに、恐らく従姉妹のルルとグノシスからだ。
ルルからの封筒を開けると、毎年恒例のメッセージカードだった。誕生日を祝ってくれる彼女の心遣いに気持ちが少し、明るくなる。ふと裏を見ると、彼女の手書きの文字があった。
赤ちゃんができました。来年産まれたら会いにおいで。
「……そっか」
その文章に、フラエは、そっとカードを机に置いた。
「うん。ルル、おめでとう。よかった。よかった」
祝うべきことだ。フラエは、ルルのために研究をしていた。ルルを助けたくて。役に立ちたくて。
だけど、ルルにフラエの力は必要なかった。たったそれだけのことだ。
どうして自分がこんなに動揺しているのか分からなくて、フラエは深く息を吐いた。ルルと同じ悩みを抱えている人は、たくさんいる。今の研究がルルの役には立たなかったとしても、同じ悩みを抱えている彼らを救うかもしれない。
フラエは役に立ちたい。認められたい。
今まで無意識に目を背けていた、自分の中にあるその欲求へ気づいたら、もうダメだった。フラエはベッドにもぐりこみ、深く布団をかぶった。
何もしたくなかった。何も目に入れたくなかった。何も考えたくなかった。ルルがずっと切望していた子どもを授かったのに、素直に祝えない自分が嫌だった。弱い自分が嫌で、歯を食いしばりながら目を瞑った。
気がつけば朝になっていて、フラエはのろのろと支度を済ませて出勤した。研究所の面々はフラエの顔を見て、どうかしたのかと心配そうに声をかけてくる。それに対して「大丈夫」と胸を張るが、ミスミは「今日は帰ったほうがいいんじゃないか」と顔を合わせて開口一番に言った。
「なんで。体調不良でもないのに」
「いや。お前には休養が必要だね」
所長には俺が言っておくから。そう言って、ミスミはフラエを外へと放り出した。
とぼとぼと寮の自室へ帰り、特に何をするでもないのでベッドに潜り込む。頭はずっとどこかが働いているのに、思考が具体的な形にならなくて気持ち悪い。
自分がこれほどショックを受けているということが、ますますショックだった。自分はいつから、誰かの幸福を祝えない、こんなに弱くて心の貧しい人間になったのだろうか。
扉がノックされる。誰であろうと居留守を使うつもりでいると、それは許可もなく、あっさりと開けられた。
「入るぞ」
のそのそと起き上がってみれば、グノシスが質素な服を着て立っていた。どこから突っ込めばいいのか分からなくて、頭を抱える。
「……どうして、ここに?」
全ての疑問を圧縮して尋ねると、「フラエが寝込んだと聞いて」と、彼は勝手に椅子をベッド横へと移動させ、座る。脚が余っているのがまた腹立たしい。彼は自身が贈ったメッセージカードが未開封なのを認め、「余程体調が悪いのだな」と都合のいい解釈をした。自分のメッセージをフラエが受け取る気がないとは、発想そのものにないらしい。
気が遠くなって首を横に振る。仮にも自国の王子を追い出すわけにもいかないし、だんだん何もかもがどうでもよくなってきた。
「何の用ですか」
「見舞いだが……?」
何を当たり前のことを聞いているんだ? という顔の彼に、フラエは天井を見上げた。この人は、こういう人だ。
「……もういいや」
不貞腐れて再び横になる。フラエはとても疲れていたし、彼がこの程度で不敬だと騒ぐ人間でもないことは知っていた。グノシスはフラエの顔を見て、「落ち込んでいるな」と静かに言う。
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