傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

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 フラエはよく学び、よく練習をした。フラエが得意とするのは生物学、そして基礎的な攻撃魔術。その他上流階級としての一般教養として、ひととおりの魔術知識および技術は持っていた。しかし、生身で行う治療魔術はそれらと比べものにならないほど複雑である。

「まず地属性の魔術で、肉の土台を作るんだ。その後水を入れて潤し、火、風元素で細部を成型する」

 何度もミスミの解説を受ける。組織の再生ということで、まずは豚の肉や内臓での練習である。なぜ豚かといえば、人間とほぼ同じ大きさの臓器を持っており。

「成功すればするほど可食部が増えるぞ」
「僕、今日は牛肉の気分なんだけどな。いいけど」

 後で食べられるためである。
 気を取り直して、フラエは四大精霊らへの言霊を捧げる。

「はじめに精霊ありき。地のことわりはかたまりである。形を与え、へだたりを持つ」

 わずかに肉片の一部が蠢く。肉片の一部が土気色に隆起する。

「水のことわりは浸食である。流れ、満たし、熱をも孕む」

 その土気色に水気が与えられ、フラエはさらに続ける。
「火のことわりは熱である。熱は――」

 詠唱を続けようとした瞬間、肉が焦げる臭いがフラエとミスミの鼻をついた。顔をしかめるミスミを置いて、フラエは淡々と、隣に準備してあった水をかけた。ジュッと音を立て、燻っていたものがおさまる。

「失敗だね」
「だァ~ッ」

 フラエの手前嘆くこともはばかられるのか、ミスミは頭を抱えてのたうち回る。フラエは呆れた顔で彼を見下ろした。

「そんなに簡単に事が進んでいたら、君も僕も、今の三倍の量は研究成果を上げているよ」
「それはそう、なんだけどォッ……」

 悶えるミスミ。フラエが「僕の魔術がもっと上手ければね」と腕組みすると、「それは違う」とミスミは即座に否定する。

「お前の魔力コントロールは完璧だ。あるとすれば、俺の仮説自体の間違いか事前に考えている魔術の組み立て方か」

 ブツブツとものすごい勢いで呟きながらメモを書き始めるミスミを置いて、フラエは再生しかけた部位をメスで切り分ける。食べられそうな部分だけ、隣に用意したバーナーの上に敷いた鉄板に載せる。

「食べなよ。僕はこれから牛肉を焼く」
「しっかり自分だけいいやつ食べやがって」

 それを無視して、う~ん、とフラエは腕組みをする。首をひねって考える。ミスミはいつの間にか隣に立ち、肉をひっくり返していた。

「フラエ。俺、ちょっと思ったんだけど。怪我した動物辺りで、一回試してみないか?」
「やっぱりそう思うよね。生命反応があるのとないのとでは、魔力循環の条件が余りにも違う」

 フラエが続けると、ミスミは「そもそもエイラ法自体が」とろくろを回す仕草をする。

「生体使用を前提にしていて、開発途中の実験も、フラスコ内の肉片への器具を用いた魔力操作によるものがほとんどだ」
「それだと、僕がやり方に困るんだよね」

 フラエの直観として、フラスコ内への人力による魔力操作は非常に困難だ。最初にミスミとすり合わせた認識に、「やっぱ生体実験しないと」とミスミが肉の脂身を丹念に焼きながら頷く。

「どっかで何かしらやらないと、袋小路だな」

 二人で大きなため息をつく。今回のフラエは動物実験には賛成なのだが、次は、一体何の動物で実験するかという課題が立ちはだかる。

「人間の組成に近い、となると、豚、牛とか。その他ダンジョン内で変異したモンスターを除く生物はだいたい、近いと言えば近いんだが……」
「とりあえず、何でもいいから試してみる? 手軽なのはネズミ辺りだけど」

 あれやこれやと二人で話していると、生体研究室の扉がノックされた。いつものようにディールが顔を出す。

「フラエ、いる?」

 しかし普段に比べて浮かない表情で、フラエは首を傾げた。彼はちょっと、と手招きをしていた。

「上の方から、話があって」

 フラエは肉を焼くミスミを置いて、ディールのもとへと向かった。ディールは黙ってフラエを少し離れた個室へ案内し、机を挟んで向かい合った。神妙な顔のディールと部屋に二人きりになり、どこか気まずい沈黙が満ちる。

「……フラエ、これを見て」

 彼はそう言って、分厚い資料を取り出して手渡す。王都西南部における大規模火属性ダンジョン発生の可能性について、という題のそれをめくると、それは研究所の気象・地理部門のまとめた資料のようだった。

「それの、ここ」

 ディールが紙をめくる。そのページには王都近辺の地図が貼られており、半径六十カール(馬が全速力で駆けて半刻程度かかる距離)ほどの正円が、キウラという地点を中心に描かれていた。

「この一帯が火属性のダンジョンになるほど、大きな魔界形成が起こるかもしれないんだって」

 フラエの背筋に、冷たいものが走った。そんなものが発生すれば、王国史上類を見ない大災害になる。

「ここには火竜が眠っているという伝説があるらしい。大精霊である火竜ほどの存在を完全に倒すことは、ほぼ不可能だ。だからもしも火竜と遭遇することがあれば、できるだけ弱らせ、封印する」

 そして、と、さらに一枚の紙をめくる。

「今回は、歴代勇者に匹敵する魔力量を持つグノシス殿下を中心に、討伐隊を編成する。殿下が万全の状態で竜と対峙できれば、恐らく封印までは持っていけるという見込みだ」

 ディールは「ここからが本題」と、フラエを見据えた。

「君には、保険としての役割が期待されている」
「保険?」

 いぶかしむフラエに、ディールは心苦しそうに続ける。そこにはフラエに対する熱情と、慈しみの気持ちがあった。
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