26 / 48
26 安全と矜持
しおりを挟む
「君は全属性の魔力が扱える。そういう人は『精霊のいとし子』と呼ばれ、一説によれば全属性の精霊に愛し、守られるという性質を持つみたいなんだ」
それが一体、なんだというのか。フラエが戸惑っていると、彼は続けた。
「精霊に愛される『精霊のいとし子』である君の話ならば、火竜も聞きいれるかもしれない。だから君は、グノシス殿下による攻略が通じなかったときのために、ついてきてほしいんだって」
ディールは苦しげに目を細め、フラエを見つめる。その目には、ありありと愛しさと苦しさが浮かんでいた。
「みんな、殿下が竜を封印するのだと信じている。だけど、まだ騎士団で鍛錬をはじめたばかりの彼が、どこまで戦えるかは分からないという意見も根強い」
だから、と彼は言葉を続けた。まるで彼はそんなこと、まったく望んでいないように。
「君に同行してほしい、という声が上がっている。……最善の矢はグノシス殿下で、次善の矢は、フラエなんだ」
次善の矢、とフラエは口の中で言葉を転がした。悪くない響きだ、と思う。ディールは切ない顔で、フラエを見つめた。
「……でも、僕は君が行かなくても、構わないと思っている」
「どうして?」
フラエが尋ねると、「危ないから」とディールは言った。切なげに目を細め、「フラエ」と名前を呼ぶ。
「大規模ダンジョン攻略、しかも相手は火竜かもしれない。神話に残る大精霊を相手にする可能性がある遠征で、危険な目に遭ってほしくない。殿下で十分なら、それでもう、いいじゃないか」
「そう。君は、そう思うんだね」
フラエはその言葉を聞いて、ふう、と息を吐いた。目を閉じ、しばらく沈黙する。
再び目を開けたとき、彼の纏う雰囲気は一変していた。緑色の瞳は鋭く冷ややかに光り、小さな唇からは冷淡な声が漏れる。仮面のような無表情の顔は、人形のように美しかった。
「何の権利があって、貴殿は王家の決定に否を唱えている」
低い声にディールはびくりと肩を震わせ、「フラエ」と小さく名前を呼んだ。それに構わず、激怒したフラエは淡々と言葉を続ける。
「ディール=ヘイリー、僕を馬鹿にするのも大概にしたまえ。僕が騎士として戦力にならないのは重々承知しているが、今回は騎士としての僕が求められているのではない」
感情の含まれない声で、彼は静かに言う。ディールは強くショックを受けた表情で、フラエを見つめていた。それに対してフラエは無感動に、次々言葉のつぶてを放つ。
「僕に今回求められている役割は、恐れ多くも王家からいただいたものだ。違うかな。それを『行かなくても構わない』? 君は一体何様だ。王家に対しても、僕に対しても、非常に礼を欠くと言わざるを得ない」
「フラエ、そ、そうだけど」
なおも言い募ろうとするディールを片手で制止する。彼の声を聞く価値もない、と言わんばかりに、フラエは吐き捨てた。
「僕も責任を放棄するほど腐ってはいない。リンカー公爵家次男としてのフラエか、研究員としてのフラエか。いずれにしてもその名誉ある役割、僕は確かに承った」
椅子から立ち上がり、ディールを睥睨する。普段は表情豊かなフラエの無表情と威圧感に、ディールは強張った顔をしていた。
「君も名誉あるヘイリー侯爵家の人間であるならば、その程度の分別は持ちたまえ」
そう言って、フラエは部屋の扉を開ける。それを固定し、ディールを外へ出るよう促した。
「僕の意思はきちんと伝達してくれ。違えれば、分かるね」
ディールは、ゆっくり頷く。そして立ち上がり、フラエが開けた扉から出て言った。すれ違い際、ごめん、フラエ、と呟く彼に、フラエは首を横に振る。
「君が僕を守りたい気持ちだけは、分かった」
だけどね、とフラエは続ける。
「これはひとの受け売りなんだけど。僕が本当に弱かったら、今頃ここには立っていないんだよ。あまり、なめてはくれるな」
ディールは薄く笑い、「ごめんね」と謝った。フラエは「二度目はないよ」と静かに言い、扉を閉じた。
それが一体、なんだというのか。フラエが戸惑っていると、彼は続けた。
「精霊に愛される『精霊のいとし子』である君の話ならば、火竜も聞きいれるかもしれない。だから君は、グノシス殿下による攻略が通じなかったときのために、ついてきてほしいんだって」
ディールは苦しげに目を細め、フラエを見つめる。その目には、ありありと愛しさと苦しさが浮かんでいた。
「みんな、殿下が竜を封印するのだと信じている。だけど、まだ騎士団で鍛錬をはじめたばかりの彼が、どこまで戦えるかは分からないという意見も根強い」
だから、と彼は言葉を続けた。まるで彼はそんなこと、まったく望んでいないように。
「君に同行してほしい、という声が上がっている。……最善の矢はグノシス殿下で、次善の矢は、フラエなんだ」
次善の矢、とフラエは口の中で言葉を転がした。悪くない響きだ、と思う。ディールは切ない顔で、フラエを見つめた。
「……でも、僕は君が行かなくても、構わないと思っている」
「どうして?」
フラエが尋ねると、「危ないから」とディールは言った。切なげに目を細め、「フラエ」と名前を呼ぶ。
「大規模ダンジョン攻略、しかも相手は火竜かもしれない。神話に残る大精霊を相手にする可能性がある遠征で、危険な目に遭ってほしくない。殿下で十分なら、それでもう、いいじゃないか」
「そう。君は、そう思うんだね」
フラエはその言葉を聞いて、ふう、と息を吐いた。目を閉じ、しばらく沈黙する。
再び目を開けたとき、彼の纏う雰囲気は一変していた。緑色の瞳は鋭く冷ややかに光り、小さな唇からは冷淡な声が漏れる。仮面のような無表情の顔は、人形のように美しかった。
「何の権利があって、貴殿は王家の決定に否を唱えている」
低い声にディールはびくりと肩を震わせ、「フラエ」と小さく名前を呼んだ。それに構わず、激怒したフラエは淡々と言葉を続ける。
「ディール=ヘイリー、僕を馬鹿にするのも大概にしたまえ。僕が騎士として戦力にならないのは重々承知しているが、今回は騎士としての僕が求められているのではない」
感情の含まれない声で、彼は静かに言う。ディールは強くショックを受けた表情で、フラエを見つめていた。それに対してフラエは無感動に、次々言葉のつぶてを放つ。
「僕に今回求められている役割は、恐れ多くも王家からいただいたものだ。違うかな。それを『行かなくても構わない』? 君は一体何様だ。王家に対しても、僕に対しても、非常に礼を欠くと言わざるを得ない」
「フラエ、そ、そうだけど」
なおも言い募ろうとするディールを片手で制止する。彼の声を聞く価値もない、と言わんばかりに、フラエは吐き捨てた。
「僕も責任を放棄するほど腐ってはいない。リンカー公爵家次男としてのフラエか、研究員としてのフラエか。いずれにしてもその名誉ある役割、僕は確かに承った」
椅子から立ち上がり、ディールを睥睨する。普段は表情豊かなフラエの無表情と威圧感に、ディールは強張った顔をしていた。
「君も名誉あるヘイリー侯爵家の人間であるならば、その程度の分別は持ちたまえ」
そう言って、フラエは部屋の扉を開ける。それを固定し、ディールを外へ出るよう促した。
「僕の意思はきちんと伝達してくれ。違えれば、分かるね」
ディールは、ゆっくり頷く。そして立ち上がり、フラエが開けた扉から出て言った。すれ違い際、ごめん、フラエ、と呟く彼に、フラエは首を横に振る。
「君が僕を守りたい気持ちだけは、分かった」
だけどね、とフラエは続ける。
「これはひとの受け売りなんだけど。僕が本当に弱かったら、今頃ここには立っていないんだよ。あまり、なめてはくれるな」
ディールは薄く笑い、「ごめんね」と謝った。フラエは「二度目はないよ」と静かに言い、扉を閉じた。
22
あなたにおすすめの小説
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ギャルゲー主人公に狙われてます
一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
死神は結婚生活が楽しすぎて探し物をすぐ忘れる
ユーリ
BL
「俺たち本当の夫婦になろうな」
駆除対象である死神に出された条件は、なんと結婚! 死神は生きるためにその条件を飲むけれどーー
「お前と結婚してよかった」生かす代わりに結婚を条件に出した悪魔×突然変異で生まれた死神「僕の鎌知りませんか!?」ーー死神は落とした鎌を探そうとするけれど、悪魔との結婚生活が楽しくてすぐに忘れてしまい…。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる