傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

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26 安全と矜持

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「君は全属性の魔力が扱える。そういう人は『精霊のいとし子』と呼ばれ、一説によれば全属性の精霊に愛し、守られるという性質を持つみたいなんだ」

 それが一体、なんだというのか。フラエが戸惑っていると、彼は続けた。

「精霊に愛される『精霊のいとし子』である君の話ならば、火竜も聞きいれるかもしれない。だから君は、グノシス殿下による攻略が通じなかったときのために、ついてきてほしいんだって」

 ディールは苦しげに目を細め、フラエを見つめる。その目には、ありありと愛しさと苦しさが浮かんでいた。

「みんな、殿下が竜を封印するのだと信じている。だけど、まだ騎士団で鍛錬をはじめたばかりの彼が、どこまで戦えるかは分からないという意見も根強い」

 だから、と彼は言葉を続けた。まるで彼はそんなこと、まったく望んでいないように。

「君に同行してほしい、という声が上がっている。……最善の矢はグノシス殿下で、次善の矢は、フラエなんだ」

 次善の矢、とフラエは口の中で言葉を転がした。悪くない響きだ、と思う。ディールは切ない顔で、フラエを見つめた。

「……でも、僕は君が行かなくても、構わないと思っている」
「どうして?」

 フラエが尋ねると、「危ないから」とディールは言った。切なげに目を細め、「フラエ」と名前を呼ぶ。

「大規模ダンジョン攻略、しかも相手は火竜かもしれない。神話に残る大精霊を相手にする可能性がある遠征で、危険な目に遭ってほしくない。殿下で十分なら、それでもう、いいじゃないか」
「そう。君は、そう思うんだね」

 フラエはその言葉を聞いて、ふう、と息を吐いた。目を閉じ、しばらく沈黙する。

 再び目を開けたとき、彼の纏う雰囲気は一変していた。緑色の瞳は鋭く冷ややかに光り、小さな唇からは冷淡な声が漏れる。仮面のような無表情の顔は、人形のように美しかった。

「何の権利があって、貴殿は王家の決定に否を唱えている」

 低い声にディールはびくりと肩を震わせ、「フラエ」と小さく名前を呼んだ。それに構わず、激怒したフラエは淡々と言葉を続ける。

「ディール=ヘイリー、僕を馬鹿にするのも大概にしたまえ。僕が騎士として戦力にならないのは重々承知しているが、今回は騎士としての僕が求められているのではない」

 感情の含まれない声で、彼は静かに言う。ディールは強くショックを受けた表情で、フラエを見つめていた。それに対してフラエは無感動に、次々言葉のつぶてを放つ。

「僕に今回求められている役割は、恐れ多くも王家からいただいたものだ。違うかな。それを『行かなくても構わない』? 君は一体何様だ。王家に対しても、僕に対しても、非常に礼を欠くと言わざるを得ない」
「フラエ、そ、そうだけど」

 なおも言い募ろうとするディールを片手で制止する。彼の声を聞く価値もない、と言わんばかりに、フラエは吐き捨てた。

「僕も責任を放棄するほど腐ってはいない。リンカー公爵家次男としてのフラエか、研究員としてのフラエか。いずれにしてもその名誉ある役割、僕は確かに承った」

 椅子から立ち上がり、ディールを睥睨する。普段は表情豊かなフラエの無表情と威圧感に、ディールは強張った顔をしていた。

「君も名誉あるヘイリー侯爵家の人間であるならば、その程度の分別は持ちたまえ」

 そう言って、フラエは部屋の扉を開ける。それを固定し、ディールを外へ出るよう促した。

「僕の意思はきちんと伝達してくれ。違えれば、分かるね」

 ディールは、ゆっくり頷く。そして立ち上がり、フラエが開けた扉から出て言った。すれ違い際、ごめん、フラエ、と呟く彼に、フラエは首を横に振る。

「君が僕を守りたい気持ちだけは、分かった」

 だけどね、とフラエは続ける。

「これはひとの受け売りなんだけど。僕が本当に弱かったら、今頃ここには立っていないんだよ。あまり、なめてはくれるな」

 ディールは薄く笑い、「ごめんね」と謝った。フラエは「二度目はないよ」と静かに言い、扉を閉じた。
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