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28 僕のために争うな
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「俺以外に、もうひとり火属性使いがほしい」
ダンジョン攻略のための人員選定会議。グノシスが開口一番に放った言葉へ、王宮騎士団長は頷く。他の騎士団幹部たちも頷き、顔を見合わせた。
「火属性ダンジョン攻略の際には、周囲の火属性魔力に干渉し、身体周辺の温度を適切に保つ必要があります。また、道中モンスターも出現するでしょう。殿下以外に最低でもひとり、実力のある火属性の騎士は必要でしょうね」
「他にも当然人員はつけますが、殿下、リンカー殿を軸に編成を考えましょう。殿下の実力を最大限に発揮するため、殿下を補助する騎士は必須かと」
うむ、とグノシスは、騎士たちの名簿に目を通した。魔力量・実力ともに高い火属性持ちは何人か見当たるのだが、誰もグノシスやこの場の騎士たちの満足する基準には達していなかった。
「私の代わりに、ずっとパーティーの温度管理をするんだ。魔力量や技量が貧弱では困る」
言い方はよくないが、彼の言うことは正論であると言えるだろう。ダンジョンのボスを倒すため、グノシスは極力、魔力使用を限定する必要があった。それに加えて、と騎士団長は顎を撫でる。
「リンカー殿は魔力量が少ない、と聞きます。元騎士である彼の格闘能力を侮るわけではありませんが、どうしても戦闘力には劣るでしょう」
幹部は名簿をめくり、彼の言葉を引き継ぐ。
「交渉役である彼の護衛役にもなるよう、魔術だけでなく戦闘力にも長けていなければなりません」
「同時に、戦闘の最中もある程度の温度管理をこなせる、魔力操作にも長けた人物であることも条件です」
温度変化は魔道具である程度防げるとはいえ、それは使用者本人の魔力を消費して作動する。ダンジョン攻略が長時間に及ぶ可能性を考慮すると、フラエの分も温度管理ができ、護衛できる人材が必要になるだろう。
とある騎士は戦闘能力に長け、魔力量も多いが操作の精度に欠ける。とある騎士は戦闘能力に長け、魔力操作の精度は高いが魔力量がやや足りない。どうにも選考会議が難航する中、幹部の一人が言い出した。
「やはり、魔術師を連れていくしかないのでは? 魔術を使うことにおいて、少なくとも騎士はその腕にかないますまい」
魔術師とは、名前の通り魔術の使用を専門とする人々を指す。
「確かに魔術師はその道の玄人ですが、彼らは戦闘訓練を受けていません。ダンジョン攻略の経験が一切ない者に、今回の任務が務まるでしょうか」
「しかし現状、騎士団内にその人員がいないのです。護衛の人数を増員して……」
その時、幹部の一人が「そういえば」と顔を上げる。
「最近王宮へ登用された文官のディール=ヘイリーですが、確か元リンカー騎士団の団員だったはずです」
もうひとりの幹部が、ああ、と声を上げる。
「あちらの知人が嘆いていました。将来の幹部候補だったのに、公爵閣下が手放してしまわれたと。火属性で、魔力量もかなり多いらしく」
「そういえば、ヘイリー侯爵家の息子の一人が、リンカー騎士団に主席で入団したと聞いたことがあります。彼だったのだろうか……」
「攻略者候補に、ディール=ヘイリーを候補に加える、というのは?」
その言葉に、全員が顔を見合わせた。誰かが「ヘイリーを候補に挙げましょう」と言い出す。
「リンカー騎士団の元幹部候補、かつ実力も申し分ないのであれば、ダンジョン攻略の頭数に加えても大丈夫でしょう」
「ひとまずヘイリーを候補に加え、他の騎士たちも含めて実技面などの選考会を行い、検討するというのは」
にわかに会議室が活気づく。グノシスも頷き、「良きに計らってくれ」と会議を結論づけた。
こうして召集された何人かの騎士たちによる選考会が開かれ、見事ディールがグノシス補佐の枠を射止めたのだという。魔術師の補佐も同時並行で検討されてはいたが、彼の実力であれば不要だろう、というのが騎士団の判断らしい。
フラエはグノシスの説明を聞き、なんとも言えない気持ちになった。つまりここにいるディールは、フラエがこのダンジョン攻略に参加することを分かった上で選抜に参加した。そしてその結果、見事にグノシス補佐の座を射止めてここにいる、ということである。ディールはその補佐をする相手に目もくれずに、フラエに甘い笑みを向けた。再び、手を握る。
「よろしく、フラエ」
ようやくフラエとディールの間にある何かを察したらしいグノシスが、彼に険しい視線を送る。フラエはディールに応えるのも無視するのも忍びなくて、無表情で「よろしくお願いします」と礼儀正しい力で彼の手を握り返した。
もう他人のふりをするのは諦めたが、せめて適切な距離をとってくれ、と無言の圧をかける。ディールはその視線にやはり花のように微笑み、そしてグノシスを見た。
グノシスと、ディールの視線が、空中でかち合う。静かに火花が散るのが見えた気がした。
(僕のために争うな……!)
フラエは心の中で叫び、自分の身の上と、上手く立ち回れなかった愚かさを呪った。それはそれとして役目は役目であり、彼らもさすがに、そこに感情を持ちこむことはしないだろう。
そう信じたいな、とフラエは思った。
ダンジョン攻略のための人員選定会議。グノシスが開口一番に放った言葉へ、王宮騎士団長は頷く。他の騎士団幹部たちも頷き、顔を見合わせた。
「火属性ダンジョン攻略の際には、周囲の火属性魔力に干渉し、身体周辺の温度を適切に保つ必要があります。また、道中モンスターも出現するでしょう。殿下以外に最低でもひとり、実力のある火属性の騎士は必要でしょうね」
「他にも当然人員はつけますが、殿下、リンカー殿を軸に編成を考えましょう。殿下の実力を最大限に発揮するため、殿下を補助する騎士は必須かと」
うむ、とグノシスは、騎士たちの名簿に目を通した。魔力量・実力ともに高い火属性持ちは何人か見当たるのだが、誰もグノシスやこの場の騎士たちの満足する基準には達していなかった。
「私の代わりに、ずっとパーティーの温度管理をするんだ。魔力量や技量が貧弱では困る」
言い方はよくないが、彼の言うことは正論であると言えるだろう。ダンジョンのボスを倒すため、グノシスは極力、魔力使用を限定する必要があった。それに加えて、と騎士団長は顎を撫でる。
「リンカー殿は魔力量が少ない、と聞きます。元騎士である彼の格闘能力を侮るわけではありませんが、どうしても戦闘力には劣るでしょう」
幹部は名簿をめくり、彼の言葉を引き継ぐ。
「交渉役である彼の護衛役にもなるよう、魔術だけでなく戦闘力にも長けていなければなりません」
「同時に、戦闘の最中もある程度の温度管理をこなせる、魔力操作にも長けた人物であることも条件です」
温度変化は魔道具である程度防げるとはいえ、それは使用者本人の魔力を消費して作動する。ダンジョン攻略が長時間に及ぶ可能性を考慮すると、フラエの分も温度管理ができ、護衛できる人材が必要になるだろう。
とある騎士は戦闘能力に長け、魔力量も多いが操作の精度に欠ける。とある騎士は戦闘能力に長け、魔力操作の精度は高いが魔力量がやや足りない。どうにも選考会議が難航する中、幹部の一人が言い出した。
「やはり、魔術師を連れていくしかないのでは? 魔術を使うことにおいて、少なくとも騎士はその腕にかないますまい」
魔術師とは、名前の通り魔術の使用を専門とする人々を指す。
「確かに魔術師はその道の玄人ですが、彼らは戦闘訓練を受けていません。ダンジョン攻略の経験が一切ない者に、今回の任務が務まるでしょうか」
「しかし現状、騎士団内にその人員がいないのです。護衛の人数を増員して……」
その時、幹部の一人が「そういえば」と顔を上げる。
「最近王宮へ登用された文官のディール=ヘイリーですが、確か元リンカー騎士団の団員だったはずです」
もうひとりの幹部が、ああ、と声を上げる。
「あちらの知人が嘆いていました。将来の幹部候補だったのに、公爵閣下が手放してしまわれたと。火属性で、魔力量もかなり多いらしく」
「そういえば、ヘイリー侯爵家の息子の一人が、リンカー騎士団に主席で入団したと聞いたことがあります。彼だったのだろうか……」
「攻略者候補に、ディール=ヘイリーを候補に加える、というのは?」
その言葉に、全員が顔を見合わせた。誰かが「ヘイリーを候補に挙げましょう」と言い出す。
「リンカー騎士団の元幹部候補、かつ実力も申し分ないのであれば、ダンジョン攻略の頭数に加えても大丈夫でしょう」
「ひとまずヘイリーを候補に加え、他の騎士たちも含めて実技面などの選考会を行い、検討するというのは」
にわかに会議室が活気づく。グノシスも頷き、「良きに計らってくれ」と会議を結論づけた。
こうして召集された何人かの騎士たちによる選考会が開かれ、見事ディールがグノシス補佐の枠を射止めたのだという。魔術師の補佐も同時並行で検討されてはいたが、彼の実力であれば不要だろう、というのが騎士団の判断らしい。
フラエはグノシスの説明を聞き、なんとも言えない気持ちになった。つまりここにいるディールは、フラエがこのダンジョン攻略に参加することを分かった上で選抜に参加した。そしてその結果、見事にグノシス補佐の座を射止めてここにいる、ということである。ディールはその補佐をする相手に目もくれずに、フラエに甘い笑みを向けた。再び、手を握る。
「よろしく、フラエ」
ようやくフラエとディールの間にある何かを察したらしいグノシスが、彼に険しい視線を送る。フラエはディールに応えるのも無視するのも忍びなくて、無表情で「よろしくお願いします」と礼儀正しい力で彼の手を握り返した。
もう他人のふりをするのは諦めたが、せめて適切な距離をとってくれ、と無言の圧をかける。ディールはその視線にやはり花のように微笑み、そしてグノシスを見た。
グノシスと、ディールの視線が、空中でかち合う。静かに火花が散るのが見えた気がした。
(僕のために争うな……!)
フラエは心の中で叫び、自分の身の上と、上手く立ち回れなかった愚かさを呪った。それはそれとして役目は役目であり、彼らもさすがに、そこに感情を持ちこむことはしないだろう。
そう信じたいな、とフラエは思った。
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