傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

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38 白熱

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 グノシスは派手な金属音を立てて地面に落ち、そこに追い打ちをかけるように竜が炎を吹きかけた。彼は魔力盾でそれを防ぐが、防具をしていても防げなかった衝撃で何度も咳き込んでいた。顔を顰めて胸元に手を当てている。肋骨が何本か折れたのかもしれない。

「逃げてよ……」

 フラエの呟きが聞こえたのか聞こえなかったのか、彼は弾かれるように起き上がり、再び竜に向かって剣を振るった。彼はこういう人だ。傲慢で、自己中心的で、幼稚で。それから一度自分がやると決めたことは、どんな手段を使ってもやり遂げないと、気が済まない。
 彼は絶望的に、諦めが悪いのだ。

「そんなに俺が好きか、フラエ!」

 グノシスが、どこか泣きそうな声で言う。フラエは叫んだ。

「ふざけるな!」

 目元からはずっと涙が流れていた。頬が熱い。頭がくらくらする。ふらつく身体を必死に動かして、立ち上がる。

「あなたこそ、僕が好きなくせに!」

 グノシスが身体全体をバネにして、高く跳躍する。そして竜の首元に剣を突き立て、落下する勢いのまま引き裂く。炎が勢いよく噴き出し、グノシスを包み込んだ。

 竜の咆哮が、ダンジョン全体を震わせる。それは身体のあちこちから炎を噴き出し、グノシスを見下ろした。それは満足しているようにも、怒っているようにも聞こえた。
 グノシスは剣を抜き、トドメを刺そうと竜の頭側に回った。そして、頭骨に剣を突き刺すため、大きく振りかぶり。
 その一瞬の隙。がら空きになった脇腹に、竜が嚙みついた。グノシスを噛み砕かんとする顎の力は甲冑が防ぐが、竜はそのまま上を向く。そして、巨大な火柱を噴きあげた。至近距離でそれを浴びるグノシスに、フラエは絶叫した。

「やめろ――!」

 何もできることがあるわけないのに走り出す。剣を抜き、必死に鱗に覆われた皮膚を切りつける。渾身の力で切り付けても、体当たりしても、剣が刃こぼれを起こしても。当たり前のように傷一つつかない。びくともしない。

 やがて竜は、炎を吐ききって、グノシスを放り投げた。どさりと力なく彼は地面に投げ出され、フラエはそちらへと駆け寄った。頬を熱いものが伝い、必死に彼を呼ぶ。

「グノシス……!」

 彼は酷い有様だった。魔力盾と魔力操作では防ぎきれなかった熱風で鎧は熱く熱され、顔は赤く焼けただれていた。髪の毛の端は黒く焦げ、輝いていた姿は見る影もない。
 フラエは怯まず、甲冑を脱がし始めた。はめていた皮手袋が焼け、じゅう、と音を立てる。内部を開けると籠った熱気が放たれ、その中も酷い有様だ。躊躇わずに手袋を外し、ひりつく掌を彼のぐちゃぐちゃになった皮膚へ近づける。

「はじめに精霊ありき」

 フラエはためらいなくグノシスに手を当て、呪文詠唱を始める。この状態だと、内臓にまで損傷がいっているだろう。目を閉じ、彼の体内に意識を集中させた。

「地のことわりはかたまりである。形を与え、へだたりを持つ」
 焼けただれた皮膚を、損傷を受けた内臓を、元の形へ戻すように。

「水のことわりは浸食である。流れ、満たし、熱をも孕む」

 じゅくじゅくと肉から漏れだす体液を戻すように、足りない分はフラエが生み出すように、肉へ活力を戻していく。竜は、そのフラエの姿を、じっと見つめていた。額にじんわりと汗が滲む。自分の中から、何かが削れていく。ためらわずにポーションを開け、一気に二本飲み干した。

「火のことわりは熱である。熱はあたため、いのちを保つ」

 鼻から熱い血が流れる。けほ、と軽く咳き込むと、血が口の端からこぼれた。過剰供給で魔力が身体の容量を超えた結果、体内で暴走しているらしかった。そんなこと、今は知らない。さらにもう三本ポーションを飲み干し、瓶を投げ捨てる。

「風のことわりは流体である。流れ、運び、いのちを満たす」

 彼の身体から、じわじわと赤みが引いていく。身体の修復が進んでいるのだろう。

「四大精霊のいと高き名を呼ぶ。地の精、水の精、火の精、風の精」

 ぽた、ぽた、と、いろいろな液体が顔の穴からこぼれおちる。赤く濁った体液でグノシスが汚れるのは、嫌だな、と思った。

「汝ら創世の獣、ことわりの精霊。我が名は、フラエ」

 視界が明滅する。それでも必死に意識を保ち、詠唱を続けた。

「四大精霊の祝福を、この者に授けたまえ。我が贖いに、答えかし」

 そうして、彼の身体はもとの綺麗な肌に戻った。なんとかなったかな。フラエはぼんやり考えながら、グノシスの上へ倒れ込んだ。
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