傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

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12 「仲直り」

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 ヘイリーに研究所を案内して、フラエは彼に「非常に勤勉」という印象を持った。彼は事前にある程度の勉強をしてきたらしく、すぐに実験道具の種類や用途、配置を理解した。薬品類の名称や扱い方も心得ており、これなら彼はいい仕事仲間になりそうだ。正直、フラエは彼を見直した。
 案内を終える頃には昼食の時間になっており、フラエは空腹を覚えた。きっと彼も同じだろう、と振り返ると、彼は涼しい顔をしている。

「ヘイリー、お腹は減った?」
「いや、別に」
「それなら、僕はひとりで食堂に行こうかな」
「お腹が減った!」

 最初からそう言えばいいのに、と思った。フラエは彼を連れて食堂へ向かい、スープと固いパンの食事を受け取る。ヘイリーもそれを受け取り、質素な食事とフラエを交互に見た。言わんとすることを察して頷く。

「騎士団と比べれば、量は少ないよ」

 フラエはパンをちぎって口に運ぶ。食べ始めた彼にならってヘイリーも食事に手を付ける。しばらく無言が続く中、黙々と食べる二人を、職員たちは遠巻きに眺めていた。先にヘイリーが食べ終わり、ちまちまと口に運ぶフラエの顔をじっと見つめる。食事中に話すのはマナー違反だ。フラエは基本、ミスミ相手でなければ食事中に口を開くことはない。

 完食して「何か?」と尋ねると、彼は「綺麗だなと思って」と微笑んだ。

「相変わらず、所作が綺麗だ」
「……ありがとう?」

 なぜ褒められるのかまるで分からないが、一応悪い気はしない。きょとんとするフラエに、ヘイリーが目を細めた。

「今日この後、時間はある?」
「時間はあるけど、そこで実験計画を立てるつもり」

 実験、と彼はオウム返しにして、フラエの顔をじっと見つめた。

「どうしたの?」

 首を傾げるフラエに、ヘイリーは小さく笑う。なんでもない、と言う割に、彼の顔は緊張していた。ねえリンカー、とヘイリーが言う。

「よかったら、夕飯を一緒に食べない?」
「君が行くようなお店だと、たぶん僕はお代を払えないよ」

 フラエがそう言うと、「これまでのお詫びに、僕が払うよ」と、ヘイリーは言い募る。そして王都でも評判の店の名前を口にした。

「そこの個室を押さえてあるんだ」
「行く」

 フラエは一も二もなく即答した。ここにグノシスがいれば大暴れの上ヘイリーをタコ殴りにし、丸焼きにしただろうが、生憎ここに彼はいない。ヘイリーは幸運にも命拾いをした。

 仕事を終えたフラエはヘイリーと待ち合わせをし、随分と久しぶりに、格式高い店へと足を踏み入れた。フラエの礼服は上級学校を卒業した際にしつらえたもので、少し流行おくれの型だった。しかしこの服を着て髪をきちんと結い上げたフラエは、どこからどう見ても貴族の子息である。

 髪をまとめるものは悩んだ挙句、グノシスから十八歳の誕生日にもらった髪飾りをつけた。物に罪はないし、春に咲く花をモチーフにしたそれは、フラエも気に入っている。顔がむくんでいるのだけが残念だ。

 食事の席のヘイリーはやけに饒舌になって、いろいろな話をした。去年リンカー騎士団を辞職し、文官試験を受けたこと。どうして辞職したのかと聞けば、「自分の実力に限界を感じたんだ」と彼は言う。

「結局、騎士として生きていたのは、自分が侯爵家の三男だからだ」

 三男や四男といった、後継になることはまずない貴族の男子たちは、とりあえず騎士団に入るのがならわしだ。名誉ある貴族であるからには民のために働く必要があり、その「働く」とは、名誉ある役職に就くことを指す。

「親の言うままに騎士になって、役職を持って一応貴族らしく振舞ったって、僕にとっては何の意味もない」

 フラエもそれには同じ意見だ。正直、この一日だけで、ヘイリーのことをとても見直した。ただの傲慢な人でも、口だけの人でもない。ちゃんと自分で、成長できる人だ。フラエはしみじみと呟く。

「君は、立派になったね」

 フラエは自覚していないが、彼は他者からの好意にすこぶる弱い。すぐに人を好きになるし、すぐに自分の懐へ入れる。ヘイリーは照れたように笑って、「ディールと呼んでほしい」と言った。

「君と、友達になりたいんだ」

 ともだち、とフラエは反芻する。ヘイリーの顔を見る。彼は緊張した面持ちで、フラエを見ていた。

「いいよ」

 頷くフラエに、彼は喜んだ様子で手を差し出した。テーブル越しに握手を交わすと、やはり彼は力強くフラエの手を握る。そしてゆっくり指を離し、「よろしく」と蕩けるように微笑みかけた。

「ところで、目が腫れているけど……何かあったの? 朝から気になっていたんだ」

 心配そうに、ヘイリー改めディールが言う。フラエは目元を抑えて「なんでもない」と笑った。新しい友達に、少しだけ寂しさが薄らいでいる。
 ちなみにフラエは鈍感なので、彼が自分に好意を持っているかもしれないだなんて、これっぽっちも思っていない。
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