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42 告白
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そうですか、とフラエは頷いた。
「今、行きます。彼はどこにいますか?」
「面会室にご案内しています」
重たい息を吐き、フラエは面会室に向かって歩き出した。燦燦と午前の光が差し込む廊下を行き、面会室の木製の扉を開く。
「フラエ」
ディールはフラエを見て、蕩けるように微笑む。フラエは頷いて、机を挟んで彼の正面に座る。彼は迷うように指を組み、俯いた。
「……話したいことがあるんだ」
「うん。置手紙で見た」
フラエが肯定すると、彼は照れたように笑った。首の後ろを掻き、また頷く。面会室の窓から差し込む光は、白い部屋をますます清潔に見せていた。ディールは迷うように視線をさ迷わせ、目を瞑る。
そして決心したように目を開け、姿勢を正した。真っすぐフラエを見つめ、「フラエ=リンカー」と、改まった呼び方をする。
「好きです。僕は、あなたを愛しています」
「ごめんなさい」
フラエは深々と頭を下げた。ディールは「悩んですらくれないか」と苦笑して、椅子の背もたれに体重を預ける。フラエは頭をあげて、「ごめんね」と重ねて言った。
「君の気持ちに、たくさん甘えさせてもらったと思う。それには感謝しているし、申し訳ないと思っているよ」
「いいんだよ、そんなの。好きでやってたんだから」
あぁでも、やばいな。彼は呟いて、目元をそっと拭った。泣かせてしまった気まずさと申し訳なさで、フラエは口をつむぐ。
「僕は、君のことを友達として、親愛の情を抱いているよ」
「ああ、……そうだね」
ディールは何かを耐えるように微笑んだ。ずっと、好きだったんだ。彼は言う。
「騎士団にいた頃から、好きだった」
「僕のこと好きだったのに、あんな態度だったの……?」
フラエが思わず漏らした言葉に、ディールはぎくりと動作を止めた。さすがに失言だったとひやりとしたが、この言葉に悪意はない。だから余計に、取り繕うのが難しかった。
言葉に困っていると、彼は「そうだよね」と静かにうなだれた。少し赤くなった目元でフラエを見て、へらりと笑う。その青い瞳からは、ほろほろと涙が流れていた。
「ごめんね。……ごめんなさい。好きな人に、するような態度じゃ、なかった。先に、こっちをちゃんと謝るべきだった、ね」
フラエは少し言葉を失って、首を横に振った。フラエは、彼からの謝罪に期待していなかった。だからもとから、彼と向き合う気がなかったのだ。
それが今、申し訳なかった。
「そうかも。でも僕も僕で、君には酷かったよ」
ディールを絶対に許すことはないと、本当のことは言わなかった。フラエは包帯の巻かれた右手を、ディールへ差し出した。ぼんやりとしている彼に、「和解の握手」とフラエは促した。
「僕は、グノシスが好きなんだ。中級学校で同級生だったときから、ずっと」
がん、と殴られたように彼がショックを受けたのが、手に取るように分かった。それに構わず、だからね、とフラエは続ける。
「君は、再会してからはずっと、僕に誠実でいてくれたと思う。好意も分かりやすく示してくれた。……だけどずっと前から、僕にはグノシスがいたんだ」
僕の方こそごめんね、とフラエは言う。ディールは目元の涙を掌で拭い、「ううん」と首を横に振った。そしてほっそりとした小さな白い手を取り、礼儀正しい強さで握る。
「ありがとう、フラエ」
ディールはそう言って、花のように微笑んだ。フラエも微笑んで、礼儀正しい強さで握り返す。
「君のことを友達と思う気持ちは、本当だよ」
それもまた、フラエの本心だった。その言葉に、ディールが苦笑する。
「やめてよ、みじめになる」
ディールは手荷物の中から箱を取り出した。王都でも人気の菓子店の、焼き菓子の詰め合わせだ。
「もしよければ、フラエが食べてよ」
ディールはそれを渡して、手早く荷物をまとめはじめた。フラエはそれを呼び止めもせず、じっと箱を見つめていた。
「フラエ」
ディールは扉に手をかけ、フラエを振り返った。彼は申し訳なさそうな、それでも少しだけスッキリした顔で微笑む。
「ありがとう。……幸せでいてね」
そう言って、ディールは去っていった。フラエは残された箱菓子を手に取り、しげしげと眺めた。この価格帯の菓子は、フラエの今の給料では手を出しにくいものだ。
ありがたくいただくことにした。封を開けると、クッキーやマドレーヌといった菓子がたっぷり入っていた。ディールがどんな気持ちでこれを買ったかなんて、フラエは知る由もない。知ろうとも思わない。その焼き菓子は甘くて、美味しくて、重苦しかった。
「今、行きます。彼はどこにいますか?」
「面会室にご案内しています」
重たい息を吐き、フラエは面会室に向かって歩き出した。燦燦と午前の光が差し込む廊下を行き、面会室の木製の扉を開く。
「フラエ」
ディールはフラエを見て、蕩けるように微笑む。フラエは頷いて、机を挟んで彼の正面に座る。彼は迷うように指を組み、俯いた。
「……話したいことがあるんだ」
「うん。置手紙で見た」
フラエが肯定すると、彼は照れたように笑った。首の後ろを掻き、また頷く。面会室の窓から差し込む光は、白い部屋をますます清潔に見せていた。ディールは迷うように視線をさ迷わせ、目を瞑る。
そして決心したように目を開け、姿勢を正した。真っすぐフラエを見つめ、「フラエ=リンカー」と、改まった呼び方をする。
「好きです。僕は、あなたを愛しています」
「ごめんなさい」
フラエは深々と頭を下げた。ディールは「悩んですらくれないか」と苦笑して、椅子の背もたれに体重を預ける。フラエは頭をあげて、「ごめんね」と重ねて言った。
「君の気持ちに、たくさん甘えさせてもらったと思う。それには感謝しているし、申し訳ないと思っているよ」
「いいんだよ、そんなの。好きでやってたんだから」
あぁでも、やばいな。彼は呟いて、目元をそっと拭った。泣かせてしまった気まずさと申し訳なさで、フラエは口をつむぐ。
「僕は、君のことを友達として、親愛の情を抱いているよ」
「ああ、……そうだね」
ディールは何かを耐えるように微笑んだ。ずっと、好きだったんだ。彼は言う。
「騎士団にいた頃から、好きだった」
「僕のこと好きだったのに、あんな態度だったの……?」
フラエが思わず漏らした言葉に、ディールはぎくりと動作を止めた。さすがに失言だったとひやりとしたが、この言葉に悪意はない。だから余計に、取り繕うのが難しかった。
言葉に困っていると、彼は「そうだよね」と静かにうなだれた。少し赤くなった目元でフラエを見て、へらりと笑う。その青い瞳からは、ほろほろと涙が流れていた。
「ごめんね。……ごめんなさい。好きな人に、するような態度じゃ、なかった。先に、こっちをちゃんと謝るべきだった、ね」
フラエは少し言葉を失って、首を横に振った。フラエは、彼からの謝罪に期待していなかった。だからもとから、彼と向き合う気がなかったのだ。
それが今、申し訳なかった。
「そうかも。でも僕も僕で、君には酷かったよ」
ディールを絶対に許すことはないと、本当のことは言わなかった。フラエは包帯の巻かれた右手を、ディールへ差し出した。ぼんやりとしている彼に、「和解の握手」とフラエは促した。
「僕は、グノシスが好きなんだ。中級学校で同級生だったときから、ずっと」
がん、と殴られたように彼がショックを受けたのが、手に取るように分かった。それに構わず、だからね、とフラエは続ける。
「君は、再会してからはずっと、僕に誠実でいてくれたと思う。好意も分かりやすく示してくれた。……だけどずっと前から、僕にはグノシスがいたんだ」
僕の方こそごめんね、とフラエは言う。ディールは目元の涙を掌で拭い、「ううん」と首を横に振った。そしてほっそりとした小さな白い手を取り、礼儀正しい強さで握る。
「ありがとう、フラエ」
ディールはそう言って、花のように微笑んだ。フラエも微笑んで、礼儀正しい強さで握り返す。
「君のことを友達と思う気持ちは、本当だよ」
それもまた、フラエの本心だった。その言葉に、ディールが苦笑する。
「やめてよ、みじめになる」
ディールは手荷物の中から箱を取り出した。王都でも人気の菓子店の、焼き菓子の詰め合わせだ。
「もしよければ、フラエが食べてよ」
ディールはそれを渡して、手早く荷物をまとめはじめた。フラエはそれを呼び止めもせず、じっと箱を見つめていた。
「フラエ」
ディールは扉に手をかけ、フラエを振り返った。彼は申し訳なさそうな、それでも少しだけスッキリした顔で微笑む。
「ありがとう。……幸せでいてね」
そう言って、ディールは去っていった。フラエは残された箱菓子を手に取り、しげしげと眺めた。この価格帯の菓子は、フラエの今の給料では手を出しにくいものだ。
ありがたくいただくことにした。封を開けると、クッキーやマドレーヌといった菓子がたっぷり入っていた。ディールがどんな気持ちでこれを買ったかなんて、フラエは知る由もない。知ろうとも思わない。その焼き菓子は甘くて、美味しくて、重苦しかった。
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