傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ

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41 その後

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 フラエが次に目を覚ましたとき、彼は清潔なベッドの上にいた。個室で寝かされており、広々としたそこは、南向きの窓から光が差し込んでくる。明るい部屋だった。

 火傷した掌には、軟膏が塗られた上に包帯がされているようだった。入院用のガウンを着ていて、ベッドから降りてぺたぺたと裸足のままで歩く。部屋の中心に置かれた机の上には、ディールの置手紙があった。
 彼は明日、改めて見舞いに来るようだった。そして、そこで伝えたいことがあるらしい。

 ディールの手紙を一旦机の上に戻した。フラエはどっと疲れて、ベッドに戻って横になる。ディールの気持ちには気づいていたが、自分は、それにどう返せばいいのだろうか。何を返せるのだろうか。
 下腹部に手をやり、そっと撫でる。竜が入り、グノシスが種をつけたというこの胎。どうにもむずむずして、自分の身体を大事にしなければいけない、となぜか気負ってしまう。
 竜を孕んだということは、不思議と嫌でも怖くもない。ただ現実味がなくて、奇妙な高揚感の中にフラエは漂っていた。
 そのとき、病室の扉が開く。飛び込んできたのはミスミだった。

「フラエ!」

 身体的接触を避けるきらいのある親友にしては珍しく、彼はフラエに腕を伸ばし、抱きしめた。そして背中をさすり、「生きていてよかったぁ」と涙声で言う。

「お前、大変だったんだってな」

 聞いたよ、と彼は言う。どこまで聞いているんだろうと思いながら抱きしめられていると、「大丈夫か?」と、彼は改まった口調で尋ねた。身体を離し、フラエとしっかり目を合わせる。

「すごく不躾なことを聞くぞ。殿下にされたことで、お前は、傷ついていないか」
「どのことなのか分からないね……」

 苦笑いすると、ミスミは「昨晩のやつだ」と、静かに言った。フラエは彼の言わんとすることを理解して、首を横に振る。

「あれは、僕を助けるために、仕方なかったんだ」
「……身体は、大丈夫か?」

 暗に心も案じる彼に、フラエは「心配性だな」と肩を竦めた。大丈夫だよ、という言葉が、自然と口をつく。

「ミスミは、僕が強姦されたと思ってるかもしれないけど」

 その直接的な物言いに、「言い方」とミスミが顔をしかめる。いつものやり取りに、フラエは花のように笑った。

「僕は、別にそう思っていないよ。殿下のことが好きだからね」

 ミスミはその言葉を聞いて「お前さ~……」と頭を抱えた。たっぷりとため息を吐いて、膝を叩いて顔を上げる。

「そういう問題じゃないんだが、ま、いいや」

 諦めたように、それでいてほっとしたように、ミスミはまたため息をついた。お前だもんなぁ、としみじみと言う彼に、「僕だからね」とフラエは胸を張る。

「僕でなければ、とてもじゃないけど、彼の相手は務まらないよ」
「それは同意できちゃうんだよな」

 ミスミは膝に肘を置き、「元気そうでよかった」と優しい顔で言った。フラエは頷き、ありがとう、と礼をする。

「心配してくれて、嬉しいよ」
「そりゃ心配するぞ。友達のことだからな」

 その言葉に、一瞬時が止まる。そして二人は同時に弾けるように笑いだして、だんだんとミスミの声が涙交じりになる。彼は頬を伝う涙を手の甲で拭う。

「本当に、つらいことがあったら、言ってくれよな……!」
「だから何もないんだって」

 おおよしよし、と大げさに背中を叩いてやる。彼は「フラエは俺と古本屋をするはずだったのに……」としくしく泣き始めた。

「初耳だけど」
「お互い定年まで独身だったら、二人で面白おかしく暮らしたかった……」

 それも悪くなかったねぇ、とフラエはのんびり言う。だけど今のフラエは、隣にいたい人がいた。

「古本屋、一人でやってね」
「俺が結婚とかする可能性を捨てるな!」

 噛みつくミスミに、また笑い声をあげた。
 それから彼はすぐに「じゃあ、俺は戻るわ」と立ち上がる。わざわざ業務を抜けてきていたらしい。あ、そうそう、と置き土産に、グノシスのことも教えてくれた。

「お前が治癒魔術を使ったからか、ほとんど無傷だったって。後遺症なんかはこれからの経過観察で見ていくそうだ」

 そっか、とフラエは頷いた。無意識に下腹部を摩り、「会いたいな」と呟く。ミスミは眩しそうに窓の外を見て、「ま、ゆっくり休んでくれや」と立ち上がった。

「また見舞いに来るよ。欲しいものはあるか?」
「果物の盛り合わせ、寮の近くの菓子屋の一番高いケーキ、いつもの定食屋のプリン」
「図々しくてびっくりした」

 じゃあな、と手を振って彼は立ち去っていった。残されたフラエはまたベッドに寝そべり、目を閉じる。
 気がつくと日がすっかり落ちており、夕食が運ばれてくる時間だった。薄味の粥を啜り、空になった食器を戻す。病院の人々は時折フラエを奇異の目で見るものの、概ね平穏に過ごせそうだ。食べて、寝る。それ以外にやることがなくて、退屈ではある。

「僕は後、何日くらいここに入院しないといけないんですか?」

 医者に尋ねると「経過観察次第」という返事が返ってきたので、一日でも早く回復しよう、とフラエは誓った。
 その日はすぐに眠り、翌朝は早くに起きだした。食事をとってから病院内を軽く散歩し、花壇を見て回る。ぶらぶらと歩きまわるフラエに、看護師が声をかけた。

「面会の方がいらっしゃっていますよ。ディール=ヘイリーさんとおっしゃるそうです」
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