【完結】農民オメガ、領主の跡取りアルファに見初められるけど畑の方が心配

鳥羽ミワ

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2 番にしてもらいなさい

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 フランクが遠くから一直線に駆けてきて、俺たちの足元へ這いつくばる。必死でおでこを地面へこすりつけて、叫ぶように許しを請うた。

「申し訳ございません! な、なにか、俺たちにご用でしょうか!」

 いつも通り腹から声を出しているフランクをよそに、俺は、とんでもないやらかしをしてしまったことを悟る。
 つまり俺がやったことは、領主さまや、そのご家族に逆らうってことだったんじゃないだろうか。
 こんなに立派な身なりの人間なんか、見たことないもんな。
 これは、死んだかもしれない。でも俺がいなくなったら、この畑の麦は、誰が刈るっていうんだ。俺がフランク、麦、男をかわるがわるみていると、男はふっと笑った。そしてその笑い声はどんどん大きくなって、辺りに響き渡る。
 呆気に取られる俺たちへ、男は「いいだろう」と微笑んだ。

「お前、名は」

 腕を離して、俺に尋ねる。おずおずと「アンジュと申します」と名乗れば、男は何度も俺の名前をとなえた。

「ふむ。いい名だ」

 そして、馬の手綱を引っ張る。俺を置いて、またひらりと馬へまたがった。

「俺はルイという。俺たちはすぐ、また会うことになるだろう」

 そして、馬の腹を蹴る。蹄の音も高らかに、その姿は、どんどん遠ざかっていった。遠くから「ルイ様」と、騎士らしき人たちが呼んでいる。
 俺が思わず尻もちをつくと、「兄さん」とフランクが支えてくれる。

「だ、大丈夫だよ。俺がいるから……」

 かわいそうに、フランクは震えていた。やがて父さんと母さんもやってきて、俺たちは畑のすみっこに固まる。
 そしてその男の正体は、後にやってきた騎士らしき人が教えてくれた。彼は同情したような視線を、俺に投げかける。

「あのお方はデシャン家のご長男、ルイ様だ。つまり領主さまのご子息である。お前たちは、後のお達しを待つように」

 その言葉に、俺たち一家はますます震えあがった。だけど俺だけはしっかりしていようと、騎士が立ち去った後、俯く父さんや手で顔を覆う母さんの背中を撫でた。

「ごめんね。俺が変なことしちゃったから……」

 二人はますますさめざめと泣く。俺も自分がしたことの罪深さを思って、その重たさに、少しずつ背中が丸まっていった。
 フランクだけが「そういえば」と顔をあげて、俺に尋ねる。

「兄さんは、ルイ様から、何て言われたの? 遠かったから、よく聞こえなくて」

 そういえば、何を言われたのだっけか。しばらく思い出すために顎をさすって、ああ、と掌を打つ。

「俺のことを、運命の番だとか、どうとか言っていた。だけどそんなことより……」

 麦を刈らないと。そう続けようとした俺の言葉は、母さんの「なんですって」という声に遮られる。途端に父さんの目もぎらついて、鼻息荒く俺の肩に手を置いた。

「アンジュ。畑のことはどうでもいいから、今すぐお屋敷に行って、非礼を詫びてきなさい」
「は!?」

 呆気に取られる俺を置いて、母さんも小刻みに頷く。

「そうよ。今すぐお屋敷に行って、お詫びして、番にしてもらいなさい」
「母さんまで」

 俺が途方に暮れていると、父さんは「いいから」と、怒鳴るように言った。いきなりのあんまりな出来事に、気が立っているみたいだ。

「お前のようなオメガが生きていく上で、この上のない幸運が転がり込んできたんだぞ。掴まなくてどうするんだ。お前、一人で生きていくつもりなのか?」

 その言葉に、俺は答えられなかった。俺の中にある答えなんか無視して、生き方を決めつけるみたいな言葉だったからだ。
 それに俺は実際、今のままだと、一人じゃ生きていけない人間だ。身体は弱いし、力だって弱い。体力もない。三か月に一度の発情期では全く身動きが取れなくなる。だからといって、俺の答えを無視されるのは、こたえる。
 フランクが「まあまあ」と、俺たちの間へ割って入った。

「こんなことしてても、日が暮れるだけだ。麦を刈ろうよ」

 俺はパッと顔をあげて、頷く。助かった。父さんと母さんは渋い顔をしたけど、しぶしぶといった様子で頷いた。
 その後俺たちは、日が暮れるまでずっと畑にいた。いつもより長く働いた。どうやら父さんたちは、俺たちが畑で仕事をしている間に、ルイ様がもう一度来やしないか期待していたらしい。
 だけどそんなこともなく、その日は暮れた。今日も俺の収穫量がいちばん少なかった。俺は体力がないせいで、休み休みでしか仕事ができない。そのせいで、認めたくないけど――俺は正直なところ、この家のごく潰しなのだ。
 俺たちは家へ戻って、冷めたメシを食べて、眠った。
 そして次の朝、俺は腰を抜かすことになる。
 またルイ様が馬に乗ってやってきて、俺たちの家の前にやってきたからだ。

「また会ったな」

 輝かんばかりの毛並みの黒い馬。その鼻先が俺を向いている。ルイ様はひらりと馬から飛び降りて、俺に向かって手を伸ばした。
 俺はといえば、当然、言葉も出てこない。
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