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22. 甘えん坊
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エリックの言葉に、レオポルトは眉間へわずかにしわを寄せた。しかし遮ることはなく、頷いて続きを促す。
魔術上の詳しい話は省きつつ、エリックはレオポルトへ、日中にしていたことを報告した。レオポルトはエリックの瞳を見上げ、時折彼の背中をさすって、気遣わしげな顔をする。
「……だから、僕が仕掛けた『罠』が作動すれば、誰が今回の誤作動を引き起こしたか、分かるはずなんです」
レオポルトはその言葉を聞いてしばらく、目元を手で覆っていた。なるほど、と呻くように言う。
「エリック。だとしても、今日のことを、俺は許せそうにない」
涼やかな目元を覆っていた掌が、エリックの後頭部へ伸びる。そのまま引き寄せられて、額が触れ合った。
エリックは手を動かして、レオポルトのうなじを撫でる。そのままさらに抱き寄せられて、エリックはレオポルトの腕の中へと納まった。
レオポルトはエリックの背中を叩きながら、「俺は心が狭いんだ」と呟く。
「お前が他の男と馬に乗っているのを見て、……嫌な気持ちになった」
沈んだ声に、エリックの心臓が跳ねる。それどころではないのに、エリックの思考は、色恋の波にさらわれそうだ。
レオポルトは首を横に振って、「いや、そうではなくて」と言葉を切る。
「ヘンケルへ伝言を残してくれたのはいいが、どうしてもっと詳細に教えてくれなかった」
「木こり小屋に、ハンネスさんたちがいるか、確信がなかったので……」
ぼそぼそと言い訳するエリックに、レオポルトは諭すように言う。
「だとしたら、俺の名義で、こちらから使いを出せばよかったのではないか? お前はいつも無鉄砲すぎる」
すべて図星の指摘だった。エリックはしゅんとうなだれて、「申し訳ありません」とレオポルトの鎖骨の辺りへ額を押し付ける。レオポルトはその頭を撫でて、しばらく押し黙った。
沈黙の中、先に口を開いたのは、エリックだった。
「でもおかげで、今日中に解決の糸口が掴めました。運がよかった」
あえて明るく言うと、レオポルトは低く唸る。エリックを抱きしめる腕に、力がこもる。
「仕事に集中していたらお前が出かけていて、お前に与えた権限を、現場の一存で取り上げられていた。その対応に追われて、やっと顔を見ようと思ったら、出かけていると聞いた俺の気持ちは分かるか?」
八つ当たり気味にレオポルトが言う。それほど、エリックが心配だったのだろう。
彼のいたいけな心配に、エリックの胸は張り裂けそうになった。
レオポルトは、さらに続ける。
「そしてこんな時間まで帰らなくて、ずっとお前を心配していた俺に、言うことはないのか」
拗ねた子どもが駄々をこねるように、レオポルトはエリックの首筋へ額を押し付ける。エリックは彼の頭を抱いて、「ごめんなさい」と呟いた。
レオポルトはそれで、ある程度は満足したようだった。鼻を鳴らしてエリックの胸元に懐き、抱きしめる。
「……すまない。八つ当たりをした」
「ううん。大丈夫ですよ」
(この人は案外甘えん坊で、寂しがりなんだけど、自分でそれを分かってないんだよな)
エリックはひとり頷いて、ひたすらにレオポルトの背中を撫でた。二人はしばらく、ただ抱きしめ合っていた。再び黙り込む二人の間で、不意にエリックの腹が鳴る。
「あっ」
エリックは上体をよじって、レオポルトからわずかに身体を離した。レオポルトは「腹が減ったか」とくつくつ笑いながら、エリックを膝から降ろす。
「食事を持ってこさせよう」
ハンドベルを鳴らして、使用人を呼ぶ。エリックはソファの上で、指を組んだ。尻の座りが悪く、もぞもぞと身動きをする。
レオポルトは「食事を。温めて持ってこい」と使用人へ言づけて、エリックの隣に座った。その目つきの優しさに、エリックは思わず身体を寄りかからせた。
擦り寄るエリックの頬を、レオポルトの指の背が撫でる。
「甘えん坊だな」
からかうような声色に、エリックはうっとりと目を細めた。しばらく経って、食事が運ばれてくる。ほかほかと湯気を立てる豆のスープに、トーストされたパン。今日のメインは牛肉をワインで煮たものだったらしく、そちらも温めなおされている。
ありがたく受け取って、エリックは食べ始めた。口に含んだ途端に空腹を自覚する。ものすごい勢いで食べ進めてしまう。
ふと顔をあげると、レオポルトがじっとこちらを見つめていた。無心で食べていたのが恥ずかしくなって、もごもごとパンを口に含む。
「あんまり見ないでください……」
「すまない。かわいくて」
相変わらず、恋人をとんでもなく甘やかす人だ。エリックは首をすくめて、スープをすくって口へ運んだ。
食べ終わって、食器をさげてもらった。またレオポルトがエリックを膝へ抱えて、今度はあやすようにキスをする。
(いくらなんでも甘すぎる……)
どぎまぎしながら、エリックもキスに応える。唇を擦り合わせているうちに、頭がふわふわしてきた。うっとりしてレオポルトの首筋にすり寄ると、顎の下をくすぐられる。
「ひゃん」
「かわいいな」
レオポルトの低く掠れた声が、エリックの耳たぶにかかる。エリックはうなりつつ、耐えきれずにじたばたと暴れた。
「くすぐったいです」
「はは。悪い」
その身体をそっと持ち上げて、レオポルトはエリックの身体を自分と向い合せにする。エリックも大人しく抱き着いて、両ひざでレオポルトの腰を挟んだ。
密着する体勢になり、お互いの体温や鼓動が直接的に伝わる。エリックはじっとりと体重をかけて、レオポルトへ抱き着いた。
レオポルトが、ぽつりと呟く。
「俺は不安なだけでなく、お前がいなくて、寂しかったのかもしれない」
エリックはレオポルトの背中へ腕を回して、さすってやる。この人の無自覚な寂しさや不安を、全部この身体で吸い取れたらいいのに、と思った。
「甘えん坊はどっちですか」
からかうように言って、レオポルトの髪を指で梳いた。レオポルトはエリックを見上げて、ふにゃりと笑った。
「俺の方かもな?」
エリックはレオポルトの目元へキスを落として、「そうかも」と呟く。一瞬呼吸を止めて、レオポルトの瞳を見つめた。
「今日、あなたの叔父に会いました」
その言葉に、レオポルトは目を丸くする。エリックが反応を伺っていると、「そうか」と目を伏せた。それきり黙り込んだ彼に、エリックは身体を押し付けた。そうするべきだと思った。彼の動揺を吸い取るように、背中を撫でる。
「彼はあなたのお母さまのことを、今でも大事に思っているそうです」
「うん……」
レオポルトが、のろい仕草で頷く。エリックは身体を離して、レオポルトを真っすぐに見つめた。遠くから、風の音が聞こえる。微笑みかけながら、囁いた。
「それで僕は、その人に、甥をよろしくって頼まれました。あなたの叔父は、あなたのことも、心配していましたよ」
その言葉が、夜の中に、しんと響いた。レオポルトはぽかんと口を開けて、エリックを見上げている。彼はゆっくりと口を閉じて、そうか、と頷いた。
「……想像も、しなかったな。顔も知らない叔父から、そう思われていたとは」
そうか、とまた頷く。その口の端はわずかに上がり、笑みの形になっていた。上目遣いにエリックを見上げる。
「お前は、俺を頼まれたんだな?」
からかうような声に、エリックは澄まして「はい」と胸を張る。
「言われなくても、ずっと側にいますけどね」
そう付け足せば、レオポルトは喉を鳴らして笑った。エリックはすっかり嬉しくなって、レオポルトにすがりついて、目を閉じた。
「僕はどこまでも着いていきますから、あなたも離れないでください……」
レオポルトの唇が、エリックのそれに触れた。そして、静かな声で言う。
「……お前に、伝えておかねばならないことが、あるんだ。ずっと、伝えそびれていた」
はい、とエリックは頷いた。レオポルトはその頬を撫でて、うっすらと微笑んだ。
「だが、今日はもう遅い。明日の夜、夕食後に話そう」
エリックは、従順に頷いた。そして再び、キスをする。
二人はそうしてしばらく触れ合った後、ベッドへ入った。
うつらうつらとするエリックの耳元で、レオポルトが低く囁いた。
「エリック。俺なんかが、お前を愛してしまって、すまない」
そういうことは起きているときに言ってください。意識を気だるい闇の中へと落としながら、エリックはそう思った。
魔術上の詳しい話は省きつつ、エリックはレオポルトへ、日中にしていたことを報告した。レオポルトはエリックの瞳を見上げ、時折彼の背中をさすって、気遣わしげな顔をする。
「……だから、僕が仕掛けた『罠』が作動すれば、誰が今回の誤作動を引き起こしたか、分かるはずなんです」
レオポルトはその言葉を聞いてしばらく、目元を手で覆っていた。なるほど、と呻くように言う。
「エリック。だとしても、今日のことを、俺は許せそうにない」
涼やかな目元を覆っていた掌が、エリックの後頭部へ伸びる。そのまま引き寄せられて、額が触れ合った。
エリックは手を動かして、レオポルトのうなじを撫でる。そのままさらに抱き寄せられて、エリックはレオポルトの腕の中へと納まった。
レオポルトはエリックの背中を叩きながら、「俺は心が狭いんだ」と呟く。
「お前が他の男と馬に乗っているのを見て、……嫌な気持ちになった」
沈んだ声に、エリックの心臓が跳ねる。それどころではないのに、エリックの思考は、色恋の波にさらわれそうだ。
レオポルトは首を横に振って、「いや、そうではなくて」と言葉を切る。
「ヘンケルへ伝言を残してくれたのはいいが、どうしてもっと詳細に教えてくれなかった」
「木こり小屋に、ハンネスさんたちがいるか、確信がなかったので……」
ぼそぼそと言い訳するエリックに、レオポルトは諭すように言う。
「だとしたら、俺の名義で、こちらから使いを出せばよかったのではないか? お前はいつも無鉄砲すぎる」
すべて図星の指摘だった。エリックはしゅんとうなだれて、「申し訳ありません」とレオポルトの鎖骨の辺りへ額を押し付ける。レオポルトはその頭を撫でて、しばらく押し黙った。
沈黙の中、先に口を開いたのは、エリックだった。
「でもおかげで、今日中に解決の糸口が掴めました。運がよかった」
あえて明るく言うと、レオポルトは低く唸る。エリックを抱きしめる腕に、力がこもる。
「仕事に集中していたらお前が出かけていて、お前に与えた権限を、現場の一存で取り上げられていた。その対応に追われて、やっと顔を見ようと思ったら、出かけていると聞いた俺の気持ちは分かるか?」
八つ当たり気味にレオポルトが言う。それほど、エリックが心配だったのだろう。
彼のいたいけな心配に、エリックの胸は張り裂けそうになった。
レオポルトは、さらに続ける。
「そしてこんな時間まで帰らなくて、ずっとお前を心配していた俺に、言うことはないのか」
拗ねた子どもが駄々をこねるように、レオポルトはエリックの首筋へ額を押し付ける。エリックは彼の頭を抱いて、「ごめんなさい」と呟いた。
レオポルトはそれで、ある程度は満足したようだった。鼻を鳴らしてエリックの胸元に懐き、抱きしめる。
「……すまない。八つ当たりをした」
「ううん。大丈夫ですよ」
(この人は案外甘えん坊で、寂しがりなんだけど、自分でそれを分かってないんだよな)
エリックはひとり頷いて、ひたすらにレオポルトの背中を撫でた。二人はしばらく、ただ抱きしめ合っていた。再び黙り込む二人の間で、不意にエリックの腹が鳴る。
「あっ」
エリックは上体をよじって、レオポルトからわずかに身体を離した。レオポルトは「腹が減ったか」とくつくつ笑いながら、エリックを膝から降ろす。
「食事を持ってこさせよう」
ハンドベルを鳴らして、使用人を呼ぶ。エリックはソファの上で、指を組んだ。尻の座りが悪く、もぞもぞと身動きをする。
レオポルトは「食事を。温めて持ってこい」と使用人へ言づけて、エリックの隣に座った。その目つきの優しさに、エリックは思わず身体を寄りかからせた。
擦り寄るエリックの頬を、レオポルトの指の背が撫でる。
「甘えん坊だな」
からかうような声色に、エリックはうっとりと目を細めた。しばらく経って、食事が運ばれてくる。ほかほかと湯気を立てる豆のスープに、トーストされたパン。今日のメインは牛肉をワインで煮たものだったらしく、そちらも温めなおされている。
ありがたく受け取って、エリックは食べ始めた。口に含んだ途端に空腹を自覚する。ものすごい勢いで食べ進めてしまう。
ふと顔をあげると、レオポルトがじっとこちらを見つめていた。無心で食べていたのが恥ずかしくなって、もごもごとパンを口に含む。
「あんまり見ないでください……」
「すまない。かわいくて」
相変わらず、恋人をとんでもなく甘やかす人だ。エリックは首をすくめて、スープをすくって口へ運んだ。
食べ終わって、食器をさげてもらった。またレオポルトがエリックを膝へ抱えて、今度はあやすようにキスをする。
(いくらなんでも甘すぎる……)
どぎまぎしながら、エリックもキスに応える。唇を擦り合わせているうちに、頭がふわふわしてきた。うっとりしてレオポルトの首筋にすり寄ると、顎の下をくすぐられる。
「ひゃん」
「かわいいな」
レオポルトの低く掠れた声が、エリックの耳たぶにかかる。エリックはうなりつつ、耐えきれずにじたばたと暴れた。
「くすぐったいです」
「はは。悪い」
その身体をそっと持ち上げて、レオポルトはエリックの身体を自分と向い合せにする。エリックも大人しく抱き着いて、両ひざでレオポルトの腰を挟んだ。
密着する体勢になり、お互いの体温や鼓動が直接的に伝わる。エリックはじっとりと体重をかけて、レオポルトへ抱き着いた。
レオポルトが、ぽつりと呟く。
「俺は不安なだけでなく、お前がいなくて、寂しかったのかもしれない」
エリックはレオポルトの背中へ腕を回して、さすってやる。この人の無自覚な寂しさや不安を、全部この身体で吸い取れたらいいのに、と思った。
「甘えん坊はどっちですか」
からかうように言って、レオポルトの髪を指で梳いた。レオポルトはエリックを見上げて、ふにゃりと笑った。
「俺の方かもな?」
エリックはレオポルトの目元へキスを落として、「そうかも」と呟く。一瞬呼吸を止めて、レオポルトの瞳を見つめた。
「今日、あなたの叔父に会いました」
その言葉に、レオポルトは目を丸くする。エリックが反応を伺っていると、「そうか」と目を伏せた。それきり黙り込んだ彼に、エリックは身体を押し付けた。そうするべきだと思った。彼の動揺を吸い取るように、背中を撫でる。
「彼はあなたのお母さまのことを、今でも大事に思っているそうです」
「うん……」
レオポルトが、のろい仕草で頷く。エリックは身体を離して、レオポルトを真っすぐに見つめた。遠くから、風の音が聞こえる。微笑みかけながら、囁いた。
「それで僕は、その人に、甥をよろしくって頼まれました。あなたの叔父は、あなたのことも、心配していましたよ」
その言葉が、夜の中に、しんと響いた。レオポルトはぽかんと口を開けて、エリックを見上げている。彼はゆっくりと口を閉じて、そうか、と頷いた。
「……想像も、しなかったな。顔も知らない叔父から、そう思われていたとは」
そうか、とまた頷く。その口の端はわずかに上がり、笑みの形になっていた。上目遣いにエリックを見上げる。
「お前は、俺を頼まれたんだな?」
からかうような声に、エリックは澄まして「はい」と胸を張る。
「言われなくても、ずっと側にいますけどね」
そう付け足せば、レオポルトは喉を鳴らして笑った。エリックはすっかり嬉しくなって、レオポルトにすがりついて、目を閉じた。
「僕はどこまでも着いていきますから、あなたも離れないでください……」
レオポルトの唇が、エリックのそれに触れた。そして、静かな声で言う。
「……お前に、伝えておかねばならないことが、あるんだ。ずっと、伝えそびれていた」
はい、とエリックは頷いた。レオポルトはその頬を撫でて、うっすらと微笑んだ。
「だが、今日はもう遅い。明日の夜、夕食後に話そう」
エリックは、従順に頷いた。そして再び、キスをする。
二人はそうしてしばらく触れ合った後、ベッドへ入った。
うつらうつらとするエリックの耳元で、レオポルトが低く囁いた。
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