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第二十四話 閃光
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「それ」は、白く発光する巨大な龍だった。
長い尾をレイの全身に巻き付け、くるりと身をくねらせる。龍には腕があり、こちらも白く輝く、大きな鎌のようなものを持っている。
——これが、第一位陰陽師の使う、式神…
晴人は、その姿の美しさに見惚れながらも、どこか空恐ろしい気持ちを抱いていた。こんなものを「操る」ことができるなんて、彼は一体どんな誓約を式神と結んでいるのか。
いや、それを言えばミヤビだって同じだ。あの骸骨のような式神の姿、そしてもののけを縮めてしまうという脅威的な能力。
——そういえば、式神にはみんな属性があるって百八が言ってたな…うちのは「淫」だけど、ミヤビとレイさんのは…
「ああもう腹立つな!いい加減刺さってくれよ!晴人、後でお前をたっぷり抱かせてもらうからな」
——…いいや、誓約のことは一旦忘れよう。
ミヤビの冷たい視線を横から感じながら、晴人はレイの式神に再び視線を戻した。
「あれが今日の相手か?」
ツクヨミと呼ばれた龍が、鎌首を持ち上げながら言葉を発する。その声には重々しさがあり、どこか威厳のようなものすら感じられる。
すぐそこで矢を暴れ撃ちする誰かとは大違いだ。
「ええ、あなたには役者不足かもしれませんが、お願いします。ただし、完全には祓わないように。その前に聞かなければならないことがありますので」
「あそこにいるのは…百八だな。懐かしい、かなり霊力が落ちているようだが」
レイが抑揚のない声で答える。
「ああ、あれは気にしなくて良いです。何なら巻き添えにしてしまっても構いません」
——ええその通りですとも
晴人は心の中で大きく首肯しながら、レイの式神を、まるで神々しいものを見るような眼差しで眺めた。
ツクヨミは、再び鱗をきらめかせながら身をくねらせると、鎌を両手で持ち、宿り主の体からスッと離れた。
長い尾っぽの先から、白く輝く鱗粉のようなものが、雪のようにハラハラと落ちる。
「人を喰らったツチグモか…生意気に服まで身につけて」
そう言うと、ツクヨミは両手に持った鎌をその場で一振りした。
一瞬、雷のような閃光が、薄暗い廃ビルを明るく照らす。その眩しさに目を閉じた晴人が、次に瞼を開いたとき、ツチグモの上半身と下半身が、まるでスライスされたハムのように二つに分かれるのが見えた。
「な…何ですかこれは?」
もののけは、自分の身に起きたことが信じられないといった様子で、真っ二つになった自らの体を見下ろしている。
やがて、綺麗に切り裂かれた上半身が、ドサリと音を立てて、だるま落としのように床に落下した。
「次は首を狙います」
レイが、何の感情もこもらない声で、ツチグモに向かって言った。
「完全に祓う前にお聞きしたいことがある。——カグラのことです」
もののけが混乱したような顔で、レイの顔を見つめる。
「カグラ様…あのお方は、我々に力を与えてくれました。ただそれだけのこと…」
「カグラはかなり前に封印されたはず。それが今になって何故、再び力を取り戻したのです?」
それを聞くと、ツチグモはふっと冷笑のようなものを浮かべた。上半身だけになってもこれだけ喋れる、というのは、よく考えると何ともグロテスクだ。
「それが聞きたくて、私に接触を?ならば無駄足でしたね。私は…ただ力を頂くだけの存在。あのお方にお会いしたこともない」
「しかしその加護を受けている。そうですね、交渉しましょうか。もしも何か知っていることを一つでもお話ししてくれたなら、首はそのままにしておいてあげます」
——え?マジで?いいのかよ、祓わなくて…でもさっきの話では…
晴人は、疑問を抱きながらも、二人の問答の行方を見守った。
「その保証は?口約束ならごめんですよ。私があなたに何かを伝えたところで、用無しになったこの体を祓われることだって十分あり得る」
「…ではこうしましょう」
レイはそう言うと、手にした勾玉を再び額に当てた。
「ツクヨミ、戻って結構です。有り難う、この礼は後ほど」
「やれやれ、肩慣らしにもならなかったな…」
白く発光する龍が、頭の先から徐々に消えてゆく。やがて全身が見えなくなってしまうと、後には静寂だけが残った。
「さあ、これで私は丸腰になりました。今の私に見せられる精一杯の誠意です。何か、情報を——」
ツチグモは、しばらく黙考するようにレイの顔を見つめていたが、やがてどこか諦めたような表情になり、口を開いた。
「『三隠者』たちが、暗躍しているのです」
レイが、初めて眉をひそめ、顎に手を当てて怪訝な表情を浮かべる。
「…『三隠者』?それは一体…?」
「それ以上のことは私も知りません。後はご自分の力で——」
「本当に、何も知らないのですね?」
「ええ、この期に及んで嘘をつくほど、私も愚かではない。命乞いはしませんよ。このままお引き取り願えれば…それで結構です」
「分かりました…その言葉が聞けただけでも満足です」
そう言うと、レイは手にしていた勾玉を胸に寄せると、ほんの一瞬、十字を切った。
その瞬間、再び閃光がきらめく。
——眩しい!
その明るさに、晴人が数秒目を閉じ、再び瞼を開いた時、そこには首のないツチグモの上半身だけが存在していた。
宙を舞うもののけの頭部——その瞳が、驚愕に見開かれる。
「な…にを」
「陰陽師が目の前にいるもののけを祓わないわけがないでしょう?」
レイは興味を失った玩具を眺めるような目で、ツチグモを見て言った。
「あなたは十分な働きをしてくれました。それに報いて、痛みは最小限に留めたはずです。さようなら」
ツチグモの顔から精気が失われていき、やがて首は、ゴロンとまるでボウリングの球のような音を立てて地面に転がった。
——式神が出ていないのに…力を使えるのか?
晴人は、言葉を失いながら、自分とレイとの圧倒的な力の差を感じていた。
——これが、プロの仕事…
「ああっ、俺の獲物が横取りされた!」
その瞬間、百八の間抜けな声が廃ビルに響いた——
長い尾をレイの全身に巻き付け、くるりと身をくねらせる。龍には腕があり、こちらも白く輝く、大きな鎌のようなものを持っている。
——これが、第一位陰陽師の使う、式神…
晴人は、その姿の美しさに見惚れながらも、どこか空恐ろしい気持ちを抱いていた。こんなものを「操る」ことができるなんて、彼は一体どんな誓約を式神と結んでいるのか。
いや、それを言えばミヤビだって同じだ。あの骸骨のような式神の姿、そしてもののけを縮めてしまうという脅威的な能力。
——そういえば、式神にはみんな属性があるって百八が言ってたな…うちのは「淫」だけど、ミヤビとレイさんのは…
「ああもう腹立つな!いい加減刺さってくれよ!晴人、後でお前をたっぷり抱かせてもらうからな」
——…いいや、誓約のことは一旦忘れよう。
ミヤビの冷たい視線を横から感じながら、晴人はレイの式神に再び視線を戻した。
「あれが今日の相手か?」
ツクヨミと呼ばれた龍が、鎌首を持ち上げながら言葉を発する。その声には重々しさがあり、どこか威厳のようなものすら感じられる。
すぐそこで矢を暴れ撃ちする誰かとは大違いだ。
「ええ、あなたには役者不足かもしれませんが、お願いします。ただし、完全には祓わないように。その前に聞かなければならないことがありますので」
「あそこにいるのは…百八だな。懐かしい、かなり霊力が落ちているようだが」
レイが抑揚のない声で答える。
「ああ、あれは気にしなくて良いです。何なら巻き添えにしてしまっても構いません」
——ええその通りですとも
晴人は心の中で大きく首肯しながら、レイの式神を、まるで神々しいものを見るような眼差しで眺めた。
ツクヨミは、再び鱗をきらめかせながら身をくねらせると、鎌を両手で持ち、宿り主の体からスッと離れた。
長い尾っぽの先から、白く輝く鱗粉のようなものが、雪のようにハラハラと落ちる。
「人を喰らったツチグモか…生意気に服まで身につけて」
そう言うと、ツクヨミは両手に持った鎌をその場で一振りした。
一瞬、雷のような閃光が、薄暗い廃ビルを明るく照らす。その眩しさに目を閉じた晴人が、次に瞼を開いたとき、ツチグモの上半身と下半身が、まるでスライスされたハムのように二つに分かれるのが見えた。
「な…何ですかこれは?」
もののけは、自分の身に起きたことが信じられないといった様子で、真っ二つになった自らの体を見下ろしている。
やがて、綺麗に切り裂かれた上半身が、ドサリと音を立てて、だるま落としのように床に落下した。
「次は首を狙います」
レイが、何の感情もこもらない声で、ツチグモに向かって言った。
「完全に祓う前にお聞きしたいことがある。——カグラのことです」
もののけが混乱したような顔で、レイの顔を見つめる。
「カグラ様…あのお方は、我々に力を与えてくれました。ただそれだけのこと…」
「カグラはかなり前に封印されたはず。それが今になって何故、再び力を取り戻したのです?」
それを聞くと、ツチグモはふっと冷笑のようなものを浮かべた。上半身だけになってもこれだけ喋れる、というのは、よく考えると何ともグロテスクだ。
「それが聞きたくて、私に接触を?ならば無駄足でしたね。私は…ただ力を頂くだけの存在。あのお方にお会いしたこともない」
「しかしその加護を受けている。そうですね、交渉しましょうか。もしも何か知っていることを一つでもお話ししてくれたなら、首はそのままにしておいてあげます」
——え?マジで?いいのかよ、祓わなくて…でもさっきの話では…
晴人は、疑問を抱きながらも、二人の問答の行方を見守った。
「その保証は?口約束ならごめんですよ。私があなたに何かを伝えたところで、用無しになったこの体を祓われることだって十分あり得る」
「…ではこうしましょう」
レイはそう言うと、手にした勾玉を再び額に当てた。
「ツクヨミ、戻って結構です。有り難う、この礼は後ほど」
「やれやれ、肩慣らしにもならなかったな…」
白く発光する龍が、頭の先から徐々に消えてゆく。やがて全身が見えなくなってしまうと、後には静寂だけが残った。
「さあ、これで私は丸腰になりました。今の私に見せられる精一杯の誠意です。何か、情報を——」
ツチグモは、しばらく黙考するようにレイの顔を見つめていたが、やがてどこか諦めたような表情になり、口を開いた。
「『三隠者』たちが、暗躍しているのです」
レイが、初めて眉をひそめ、顎に手を当てて怪訝な表情を浮かべる。
「…『三隠者』?それは一体…?」
「それ以上のことは私も知りません。後はご自分の力で——」
「本当に、何も知らないのですね?」
「ええ、この期に及んで嘘をつくほど、私も愚かではない。命乞いはしませんよ。このままお引き取り願えれば…それで結構です」
「分かりました…その言葉が聞けただけでも満足です」
そう言うと、レイは手にしていた勾玉を胸に寄せると、ほんの一瞬、十字を切った。
その瞬間、再び閃光がきらめく。
——眩しい!
その明るさに、晴人が数秒目を閉じ、再び瞼を開いた時、そこには首のないツチグモの上半身だけが存在していた。
宙を舞うもののけの頭部——その瞳が、驚愕に見開かれる。
「な…にを」
「陰陽師が目の前にいるもののけを祓わないわけがないでしょう?」
レイは興味を失った玩具を眺めるような目で、ツチグモを見て言った。
「あなたは十分な働きをしてくれました。それに報いて、痛みは最小限に留めたはずです。さようなら」
ツチグモの顔から精気が失われていき、やがて首は、ゴロンとまるでボウリングの球のような音を立てて地面に転がった。
——式神が出ていないのに…力を使えるのか?
晴人は、言葉を失いながら、自分とレイとの圧倒的な力の差を感じていた。
——これが、プロの仕事…
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その瞬間、百八の間抜けな声が廃ビルに響いた——
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