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第2章:巡る記憶の回想
第3話:噛み合わない会話(3)
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「で、どうして手を繋いでいるんですか?」
「縄で縛って吊るされていたかったですか?」
少しわかってきたことだが、萌樹との会話は難しい。
恋人でもないのに指を絡ませ、それも屋敷内の廊下を歩くには不便な距離で微笑み下ろしてくるのに何の意味があるのか。縄で縛って、吊るす。誰が言っても冗談にしか聞こえないその台詞に、信ぴょう性が漂っていることも笑えない。
「それとも檻に閉じ込められたいですか?」
「冗談ですよね?」
チラリと盗み見るように目が合った萌樹には、やはり笑顔でしか答えてもらえなかった。
「ほら逃げない。そういう反応をされると、絞めたくなるから気を付けて」
「も、ちょっと…近…っ」
「そうして抵抗するなら食べてしまいますよ」
今、ここで。
その言葉を聞き終わる前に「ごほん」と咳払いが聞こえてきて助かった。いつからそこにいたのかはわからないが、ここは共有の廊下。執事が立っていても不思議はない。
「冗談です」
清々しいほどの朗らかな声で、萌樹の体が離れていく。幸い、廊下で犯されるという心配はなくなったが、手を繋いで歩くという奇行は続けられた。
「三織の居場所には心当たりがあります」
そう口にされれば従うほかない。
昨日、図書館の窓から見えた中庭。中央に噴水があり、植木が迷路のように入り組んで、花壇に無数の花が咲いている。朝の濃霧もすっかり晴れ、束の間の太陽の光が降り注いでいた。
「太陽の光は、っ」
「大丈夫ですよ。でもそうですね、日陰を歩きましょうか」
いちいち近い。
こうしてここまで一緒に歩いてきたが、階段を降りるときも手を差し伸べ、扉を抜けるときも先を譲り、退屈しない程度の他愛ない会話と、早くも遅くもない歩幅。女性慣れしていると言えばそれまでだが、あまりに違い過ぎる二面性に何か裏でもあるのかと疑いたくもなる。昨日の今日。まだ数時間しか経っていないはずなのに、首を絞めてきた人物と同一人物とは思えない配慮に困惑する。
「あれ、乃亜ちゃん。それに萌樹くんも」
庭に沿って設けられた外廊下を歩いていると、ある花壇の突き当りに目当ての人物はいた。
茅色の髪を持つ三織。どこから調達したのか、長靴をはき、手袋をしたその顔は少し疲れているように見えなくもない。
「すっかり仲良しだね。手なんか繋いじゃって」
「なっ仲良くありません、これは萌樹が勝手に」
「ふぅん。萌樹が勝手に、ねぇ。まあいいや、今はそういうことにしとこうか」
何もよくない。
頬を膨らませてそう訴えてみたが、どうやらこの男にも意思は伝心しにくいらしい。愛嬌のいい笑顔が憎めないところもよくない。勝敗が見える未来に溜息を吐くしか出来なかった乃亜は、会話を諦めて、先ほどから気になっていることを聞いてみることにした。
「何をしているんですか?」
「んー、これ?」
長靴はもちろん、手袋をした手には泥がつき、足元には小さな袋が複数散らばっている。
ガーデニングでも趣味なのだろうか。首を傾げた乃亜の疑問は、それを吹き飛ばすように笑った三織の声に向けられる。
「お目当ての植物がいっぱいあって、採取に夢中になってたら夜が明けちゃった」
「お目当て?」
「そうそう。薬には効果効能が大事でしょ?」
「薬?」
「ちょっと自分の体で先に試したりして、なんとなく目星はついてるんだけどね」
そういって目線だけで案内されたのは屋敷の北にある角部屋。窓が開けっぱなしということは、そこから出入りしているのかもしれない。
「あの部屋ですか?」
「そう、誰も使ってなかったからオレの研究部屋にしたの。覗いてみる?」
聞かれて頷いてみたものの、庭から窓越しに部屋を覗くことになるとは思ってもみなかった。
三織がいったい何の研究をしているのか。一晩中かけて集めたという植物や木の実、キノコも含めると、その数は多い。きっと想像もできない何かを作っているのだろう。乃亜は好奇心の赴くままに、案内される部屋を覗き込んだ。
To be continued...
「縄で縛って吊るされていたかったですか?」
少しわかってきたことだが、萌樹との会話は難しい。
恋人でもないのに指を絡ませ、それも屋敷内の廊下を歩くには不便な距離で微笑み下ろしてくるのに何の意味があるのか。縄で縛って、吊るす。誰が言っても冗談にしか聞こえないその台詞に、信ぴょう性が漂っていることも笑えない。
「それとも檻に閉じ込められたいですか?」
「冗談ですよね?」
チラリと盗み見るように目が合った萌樹には、やはり笑顔でしか答えてもらえなかった。
「ほら逃げない。そういう反応をされると、絞めたくなるから気を付けて」
「も、ちょっと…近…っ」
「そうして抵抗するなら食べてしまいますよ」
今、ここで。
その言葉を聞き終わる前に「ごほん」と咳払いが聞こえてきて助かった。いつからそこにいたのかはわからないが、ここは共有の廊下。執事が立っていても不思議はない。
「冗談です」
清々しいほどの朗らかな声で、萌樹の体が離れていく。幸い、廊下で犯されるという心配はなくなったが、手を繋いで歩くという奇行は続けられた。
「三織の居場所には心当たりがあります」
そう口にされれば従うほかない。
昨日、図書館の窓から見えた中庭。中央に噴水があり、植木が迷路のように入り組んで、花壇に無数の花が咲いている。朝の濃霧もすっかり晴れ、束の間の太陽の光が降り注いでいた。
「太陽の光は、っ」
「大丈夫ですよ。でもそうですね、日陰を歩きましょうか」
いちいち近い。
こうしてここまで一緒に歩いてきたが、階段を降りるときも手を差し伸べ、扉を抜けるときも先を譲り、退屈しない程度の他愛ない会話と、早くも遅くもない歩幅。女性慣れしていると言えばそれまでだが、あまりに違い過ぎる二面性に何か裏でもあるのかと疑いたくもなる。昨日の今日。まだ数時間しか経っていないはずなのに、首を絞めてきた人物と同一人物とは思えない配慮に困惑する。
「あれ、乃亜ちゃん。それに萌樹くんも」
庭に沿って設けられた外廊下を歩いていると、ある花壇の突き当りに目当ての人物はいた。
茅色の髪を持つ三織。どこから調達したのか、長靴をはき、手袋をしたその顔は少し疲れているように見えなくもない。
「すっかり仲良しだね。手なんか繋いじゃって」
「なっ仲良くありません、これは萌樹が勝手に」
「ふぅん。萌樹が勝手に、ねぇ。まあいいや、今はそういうことにしとこうか」
何もよくない。
頬を膨らませてそう訴えてみたが、どうやらこの男にも意思は伝心しにくいらしい。愛嬌のいい笑顔が憎めないところもよくない。勝敗が見える未来に溜息を吐くしか出来なかった乃亜は、会話を諦めて、先ほどから気になっていることを聞いてみることにした。
「何をしているんですか?」
「んー、これ?」
長靴はもちろん、手袋をした手には泥がつき、足元には小さな袋が複数散らばっている。
ガーデニングでも趣味なのだろうか。首を傾げた乃亜の疑問は、それを吹き飛ばすように笑った三織の声に向けられる。
「お目当ての植物がいっぱいあって、採取に夢中になってたら夜が明けちゃった」
「お目当て?」
「そうそう。薬には効果効能が大事でしょ?」
「薬?」
「ちょっと自分の体で先に試したりして、なんとなく目星はついてるんだけどね」
そういって目線だけで案内されたのは屋敷の北にある角部屋。窓が開けっぱなしということは、そこから出入りしているのかもしれない。
「あの部屋ですか?」
「そう、誰も使ってなかったからオレの研究部屋にしたの。覗いてみる?」
聞かれて頷いてみたものの、庭から窓越しに部屋を覗くことになるとは思ってもみなかった。
三織がいったい何の研究をしているのか。一晩中かけて集めたという植物や木の実、キノコも含めると、その数は多い。きっと想像もできない何かを作っているのだろう。乃亜は好奇心の赴くままに、案内される部屋を覗き込んだ。
To be continued...
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