【R18】サディスティックメイト

皐月うしこ

文字の大きさ
25 / 32
第3章:本当に欲しいもの

第4話:心から求めたもの(2)

しおりを挟む

「言いたいことがあるなら正確に口にしろ」

「牙の疼きを制御しろ。と、申し上げているのですよ。嫉妬で殺されていては、わたしも身が持ちません。これでも忙しいので」


どこをどうみれば、あの行為が嫉妬から引き起こされた殺人に思えるというのか。
三人の表情から受け取れる内心はそんなところか。それでもこれまで数えるほどの人形を出迎えてきた有能な執事には通じない。


「その目を向けられるのは、何もあなた方だけではなかったもので」


実際そうなのだろう。
執事の言葉には先ほどから嘘は一切見られない。


「赤子から育てたのですよ。親のようなものです」


これ以上相手にしても時間だけが無駄に過ぎていくのだと悟ったに違いない。諦めたように斎磨が敵意を消すと、萌樹と三織もそれに習うように肩の力を抜いた。


「よい判断です。わたくしども使用人一同は、乃亜お嬢様がどのような形であれ、ここが一番だと思えるよう務めるだけです。幸せの在り方など人それぞれ。それについては、あなたがたの方が自論をお持ちでしょう。たとえ光の差さない廃墟同然の屋敷内で幽閉されようとも。このような薄暗い場所に咲く一輪の薔薇。ぜひ、思う存分愛でてくださいませ」


首の繋がった執事は、これでようやく仕事に取り掛かれると三人に背を向ける。


「お嬢様が名付けられたのであれば、ここでのあなた方の名前は斎磨、萌樹、三織です。以上でも以下でもなく、それにわたくしどもも習いましょう。風呂場はこちらです」

「他には?」

「何かご入用であれば遠慮なくお申し付けください」

「それだけ?」

「それだけ、とは」


前を歩く執事についた三人は屋敷内を観察するように廊下を進む。時折何に使われている部屋か説明をする場面もあれば、無言で通り抜ける場面もある。別に詳しく聞くつもりはない、確かめれば済むだけのこと。
時間だけは、有限ではなく無限が保証されている。
無駄に殺し合う必要もなくなってしまった以上、ここで出来ることも多くあるだろう。
ただひとつだけ、彼らには確認しておくべきことがあったらしい。


「乃亜の幸せを願っていると言ったな」

「はい、申し上げました」

「それなのにオレたちみたいなのに預けちゃっていいの?」

「と申しますと?」

「ボクたちの素性をご存じであれば想像に難くないでしょう。大事なお嬢様が殺されるかもしれませんよ?」


そこで執事の足がピタリと止まる。
三人も足を止め、無言の背中を向ける執事をただ黙って見つめていた。


「ご冗談を」


ふふっとこらえきれない声を漏らすように執事が振り返る。


「あのお嬢様を殺せる者などこの世にはおりませんよ。確かめたければご自由にどうぞ」


右手で廊下に面した扉を差しながら、我慢できない笑みを隠すように執事の顔が歪んでいる。
何がそんなに面白いのか、やはり世界が変わると微妙にどこかずれるらしい。


「小汚い格好をとりあえずどうにかなさってください」


ガチャリと開いた扉の向こうは浴室。


「屋敷内を歩くのはそれからでお願いします」


三人に忠告して扉の中へと押し込んだ執事は、しばらく一人きりの廊下で笑っていた。
珍しいことを言う変な客人が来たものだと思う。
今まで乃亜に与えられた人形は、乃亜が不死であることを知って、望んで身を捧げに来る。自分も不死になれると思っているのか、はたまたそう吹き込まれるのか。


「お嬢様もどうせ拾ってくるなら、女性らしさを教えてくれる相手を連れてきてくださればよいものを」


今回の珍妙な三人組は手がかかりそうだと溜息が落ちる。
朝の仕事は確かにひとつ減るかもしれないが、それ以上に、厄介なことが起きなければいいと願うばかり。もしも何か不祥事が起こるようなものなら、それこそ執事の首は危ないかもしれない。


「わたしは奥様に叱られないようにいたしましょう」


顔から笑みを消して執事は窓の方へ足を向ける。
いつからそこにいたのか、真っ黒なフクロウが闇に紛れるように赤い目だけを残していた。


「奥様にこれを」


執事が飛ばした伝言は闇の中を切り裂くように飛び去り、そしてものの数時間で屋敷に女主人を寄越すことに成功する。
そうしてやって来たばかりの女主人は、風呂をあがったばかりの美麗な男三人を並べ、叩き起こした乃亜を脇に置いて、三人と乃亜を一瞥すると同室で過ごすことを義務付けた。
そこから先は記憶の通りに進むだけ。
食事を確保するためにバラバラになった三人を集めに出向き、結果、乃亜はかつて自分が使っていた勉強部屋という名の書斎で斎磨に縛り上げられ、今日にいたるまでの過去の記憶を語っている。


「乃亜、お前はなぜ俺たちを呼んだ?」


その問いに対する答えはひとつしかない。
「ただ、愛されたかった」と。

To be continued...
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

朔望大学医学部付属病院/ White Dictator

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
White Dictator______通称:『白衣の独裁者』 <ホワイト・ディクテイター> ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ 圧倒的な「実力」と「技術」で捩じ伏せ・現場を支配する凄腕たち。 ___ ごく僅かな一瞬の隙も逃さない神手の集まり。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...