【R18】愛欲の施設- First Wedge -

皐月うしこ

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第二夜 許された味見(下)

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知られてしまう。
自分の中に眠る「メス」の本能が望んでいるものを。


「アァッァァ…り…クッ…あっッ」


その本性が肉食の獰猛な獣だということを忘れてはいけないのに────


「そうだよ。体の一番奥まで僕の名前を刻んであげる」


───────現実は許容範囲を逸脱していく。


「陸…っ~~アァァッりクッ」

「痙攣しちゃって可愛い。ねぇ、もっと呼んで。もっと優羽の声聞かせてよ。」

「ヤッ…リクっ…ンアァァッ…っ…陸」

「そうそう」


満足そうにうなずく陸の顔を、まともに見ていることなんて出来なかった。
揺れる視界、跳ねる身体に、荒い息遣いと、身体中を駆け抜ける快感。
そのどれもが痛みを訴えていたころとは違い、息を吸い込むたびに、混乱していく。
抵抗するなんて、不可能だった。


「ぃッヤァァァッァァ」


二度目の強い波は、一度目とは比べ物にならないほどの脱力感と達成感を引き連れて襲ってくる。最奥まで埋め込まれたモノが、引き抜かれるのに合わせて、卑猥な音がそこらじゅうに飛び散った。
擦りあげられる内壁が、からみつくように快楽をむさぼっていく。とどまることを知らない水音が、優羽の奇声をあおっていた。


「すっごくおいしい。僕、こんなにお腹がいっぱいになるのって、初めてだよ」

「アッ…ぁ…ッ」


言っている意味が、よく理解できない。「おいしい」や「おなかがいっぱい」といった、彼らが口にする言葉の意味を正しく理解できない。でも、その意味を深く考える暇は与えてもらえない。


「アッアアアッァ…ん…ヤッ」


脳味噌まで溶けてしまったんじゃないかと思うほど、全身が力なく、与えられる全ての快楽を受け入れていた。


「アッ…っ…アァッ…はぁ…っ」


止めてもらう方法がわからない。
陸の動きに合わせて、体中が感じていた。


「ほら、見て。さっきよりも美味しそう」

「イヤァッ」

「あっ、ここも気持ちイイの?」


深く織り込まれた優羽の足の間に自身を埋め込む陸は、その花の中心で主張する秘芽を指の腹でこすりあげる。
腰を動かしながら器用に蕾をもてあそぶ陸の指先に、優羽は面白いほど身体を暴れさせた。


「アッ…ヒっアァァ…くッ…ヤァッ」

「大丈夫、大丈夫」

「ッ、ヤ……らァァァッァもっいやァ」

「上手に、イケてるよ?」

「アッ…もうヤメッ…て…くらさッ」

「はい、はい」


歪む優羽の顔に、陸の満面の笑顔がふりそそぐ。逃げられないとわかっていても、本能が勝手に危険を回避させようとして暴れている。そうして、優羽の体が抵抗を見せれば見せるほど、陸の動きは激しさを増していく。


「ねぇ、涼に食べられていない場所ってどこ?」

「ぁ……ぅっ、ぐ…ヒッ、やァァ…ぁ」

「ほら、ちゃんと答えてよ」


可愛らしい笑い声をあげながら、下肢を自在に支配する陸に、優羽は鳴き声でしか答えられなかった。
他に、どうすればいいのかわからない。与え続けられる絶頂の連続に、全身が痙攣を起こしたみたいに震えていた。


「アッ…───…ひ…ッ~…んぁ」


いくら声を押さえようと頑張ってみても、突き抜ける感覚がそれを拒否する。
無意識に全身で陸を抱きしめていた。


「優羽、キモチイイ?」


寄せる唇に答えながら問いかける陸の声が心地いい。どこにそんな力があるのかわからないが、優羽の全体重は陸に担ぎあげられて揺れていた。
陸の上に向い合わせで座る形になったことで、重力が陸のオスをより内部へと迎え入れたがる。それは苦しいだけのはずなのに、明らかに優羽の声は甘えた色を含んでいた。


「ん?」


息もままならないほど乱れる優羽を覗き込みながら、陸は笑みを向けてくる。
ドキンと胸がなった。
それと同時に、中がキツくしまる。


「そっかぁ。キモチイイんだ。僕もね」


すっごく気持ちイイ
耳元で囁かれた言葉が嘘でなければ、そう聞こえたはずなのに、優羽は、自分の高い狂声に洗い流されていく。


「アッ…やめ…ッ…ヤだ、やだぁ」

「ダメダメ。いっきに食べて欲しいって言ったのは、優羽なんだから、大人しく食べられなよね」

「ッア…ちがッ…陸っ…りッア、く」


頭がうまく働かない。
食べるとは、どういう意味だっただろうか。何を、誰が、どうしてこんなことになったのか、解決されない疑問符が浮かんでは消えていく。


「ぃヤ、あァッァァァ……陸…っ…りくぅ」


伸ばした手で陸の首にしがみつきながら、優羽は全身に力を込める。唇を噛みしめ、強く目を閉じ、丸まろうとする体は、即座に陸に引き剥がされた。
おかげで絶頂にのけぞる体が陸の上でしなやかに曲がる。


「なんだろう」

「はぁ…っはぁ…アァァっア」

「あはは。止まんないや。困ったなぁ、味見だけのつもりだったのに」


どさっと柔らかく倒れ込んだ体が、真上に陸を連れてくる。
曲げられた足に深々と突き刺さる固いそれは、根元まで押し込むように優羽に密着していた。


「ッあぁ…~~ぅアッ」


上でも下でも感じる快楽に変わりはない。止まることも、止めることもできない快楽は、陸に奪われて重なる唇の隙間からも漏れ出ていく。
もうどうでもいいと、すべてを放棄したくなるほどの気持ちよさに溺れていく。


「や……へ、ん…変な、の、やだぁッ」

「涼ってば、この子どこで見つけたの?」


勢いの増した陸の腰に、優羽は驚く。
そして見開いた瞳の端に、刺すような視線を見つけた。


「~~~~~ッ、ぅ…もう……やだ」


涼が見てる。
いつからそこにいたのか、記憶の中では後ろから体重を支えていたはずの涼が、少し離れた場所にいる。腰をすえ、腕をくみ、まばたきもせずにジッと優羽を見つめていた。


「もしかして、涼がいたこと忘れてたの?」

「……っ…ひッ!?」


ふいに耳の横で聞こえた陸の声に、優羽はビクリと肩を震わせた。誰が、どこで、どのようになど、こんな状態で判断できるわけがない。初めてばかりの戸惑いの渦についていくこともできないのに、客観的に他者を把握できるわけがない。
陸だけしか見えてなかった。
つながる陸に、その胸中はありのまま伝わってしまったらしい。


「へぇ」


そのいたずらな笑みに悪寒が駆け抜けたのは気のせいではない。


「ほら、わかる?」


グイッと引き起こされて、陸と優羽の上下が入れ替わる。今度は陸が仰向けになり、そこにまたがる形で優羽は腰を打ち付けていた。


「いま、優羽を食べてるのは僕だよ?」


目の前に座る涼の視線を真っ向から受けながら、優羽は真下の陸の瞳に鋭利さが増したのを感じ取った。


「ヒッ…~~ぁヤァァッ」


突き上げられて、宙に浮いたからだは、重力に従って陸のモノを埋め込む。
真下から陸。真正面から涼に見つめられる感覚は優羽の精神を異常に追い込むように深く突き刺さってくる。何度も何度も揺れる双方の視線をかわすことも出来ずに、優羽は顔を両手で覆い隠そうとした。


「だめ。ちゃんと見て?」


泣きたくなってくる。


「今、優羽を食べてるのは誰?」


陸に両手を引きずり下ろされるついでに、快楽を突きつけられた。
また、勝手に身体が逃げようとする。


「ほら、ちゃんと食べられなきゃダメじゃん」

「うッ…~~っ、アァッ…ひ…」

「涼なんか、忘れちゃいなよ?」

「…ンッぁ…あ、ぁあ……やっ」


逃がさないとでもいう風に、腰をつかまれ、突き上げられ、半身を起こした陸の唇に乳首は消えた。軽く歯をたてられ、異様に光る胸の頂(イタダキ)から沸き立つ甘い感覚は、一瞬でも涼を忘れさせるには十分だった。
陸に食べられている。
身体中が、陸のすべてに染まっていく。
ついさっきまで、涼の匂いを全身にまとっていたはずなのに、この部屋に充満する匂いは陸一色に変わっていた。


「り…く…ッ…~~陸…ぅ」

「何?」

「アァッりく…ッ見ない…っで…ぁ涼…っ」


ギュッと抱きついた感覚が、弓なりにのけぞる。
誰にも許しを乞わなくてもいいはずなのに、自然と懇願の声が優羽の口からあふれ出る。


「見ちゃヤ~~~~~~~~~……っあ」


二つの視線が交差する中央で、陸を強く締め付けながら、優羽はかん高い鳴き声を飲み込んだ。全身が硬直して、弛緩して、涙を溢れさせて困惑する。
おかしい。どう考えても、自分の身体じゃない。快楽を貪欲に受け入れてしまう怖さに震えているのに、心とは裏腹に、身体が陸を望んでいる。
理由を知りたい。
自由の利かない自分の体が疎ましくなる。
体の奥底から込みあがってくる快楽に終わりはないのか、声がかすれ、涙があふれるのに、気持ちよくてたまらない。
もっと欲しいと願いそうになる自分が恐ろしい。


「あッ…~~はぁ…ぁ…っはぁ」


こんなにも息が出来ないのに、こんなにも、身体の自由がきかないのに、陸はなぜ平然と動き続けることが出来るのかと疑問に思う。
涼もそうだった。
意識が朦朧としていく中、ふと彼らの本来の姿を思い出す。白銀になびく毛並みと四本の足。古来種ともいえる崇高さを感じさせる肉食獣。


「ねぇ、優羽。もっとちょうだい?」


彼らが息一つ乱さず動き続けることができるのは、彼らが捕食者だからに違いない。単なる食事は、獲物側に与える負荷とは異なるもの。食べられる側は、いつだって必死なのだ。
食べる側の飢えを満たすために、体は抵抗しても本能が喜びを覚えていく。


「はぁはぁアァッ…っ…ヒァ…あっ」


陰湿な音は、食事の音。


「ぃヤッ…あ…アァッ…はぁ」


鳴き声は、最高の香辛料。


「ン…ッ…アァァッ──」


放つ色香は、捕食者を更なる奥地へと誘い込み、淫乱な世界を提供する。
満足するまで。永遠に。


「逃がさないって言ったでしょ」

「ヒッ…も…だめ…ッあ」


どうして素直に殺してくれないんだろう。
銀色の瞳をみるたびに、彼らが人間ではないことがわかるのに、優羽は現世にとどまることを願いそうになる自分を否定していた。
望んではいけない。
食べられるため、彼らの飢えを満たすために、自分の意志で来たのだから抵抗は許されない。


「もぅ…ゆる……し~~ぁて」


それでも体は勝手に許しを求める。
陸になのか、涼になのか、どちらにも訴えるように優羽の声は喘ぎ声に犯される。


「りょ…ッう…はぁ…り、クッ」


声がかすれてうまく出てこない。
こみ上げてくる悦楽が、輪をかけて優羽を淫乱な世界へ誘いこんでいた。


「~ッ……アァァッ」


力がうまく入らない。
陸の上で踊るように腰をくねらせる優羽の姿に、涼の瞳がすっと細く変わる。
抵抗は無意味。
感じるままに受け入れてこそ、捕食者の満足を得ることができる。声も蜜も出せるままに本能で叫ぶことが、彼らが求める獲物の姿。乱れて、求め、狂うことが望まれる行為。与えられる刺激を喜びに変え、その肉を柔らかく熟成させるだけ。


「妬けるな」


ぼそりと涼がつぶやいた。


「ひッ?!」


陸の腰が鋭利に動いたことで、優羽の視界が再び涼から陸に戻る。


「いま、優羽を食べてるのは誰?」


強制的に植え付けられる支配者の名前。


「り、クッ……陸…ぅ…イ、ぁ…りく」

「そうだよね。今は僕に食べられているんだよ」


キモチイイ
五感のすべてが、その一言で片付けることができる。向かい合って、重なる陸を受け入れた体は、すぐに反転して四つん這いに転がる。


「ァアアァアァッァ」


そのまま高く突き上げられたお尻を叩いて、打ち付けられる律動に、優羽の声はまるで獣のように洞窟内に響いていた。


「ッア…~~~っ…ぁ……はぁ…ッ」


もう思考はうまく働かない。
体を支えることも出来ずに、床に這いつくばる優羽を見下ろしながら、陸はその目を背後の涼へと流していく。


「ねぇ、涼?」


可愛い顔だと、誰がそんな風に思うのだろう。


「なんだ?」


勝ち誇ったように舌なめずる陸の黒い笑みが、呆れたように息を吐き出す涼の視線と交わった。


「優羽を僕にちょうだい?」


甲高く鳴く優羽の声の隙間から、陸の声が涼に宣戦布告を告げる。


「いいでしょ?」


にこりと笑う表情に比べて、その声に含まれる感情は突き刺さるものが感じられた。
それは強奪の宣言。
その証拠に、優羽がまたひとつ身体を大きくのけぞらせる。


「死ぬか?」


涼の声が静かに響いた。
微動だにせずつむがれる言葉に、思わず耳を疑うしかない。


「優羽は、俺のものだ。誰にも渡さない」


その瞬間、優羽の内部が陸を拒絶するように締まり、涙をこぼした。
イケナイ
本気にしてはイケナイ
それでも脳が錯覚を起こしたがる現象に戸惑う優羽をチラリと見た後で、陸は再び涼のほうへその顔を振り向かせる。


「でも、僕のでこんなに可愛くなってるんだよ?」

「見ればわかる」

「じゃあ、もらってもいいよね?」


ふいに快楽がやんだ。


「~~ぁ…っ…ぅ」


意識がまどろんでいく。
感じたことのない疲労感が急激に優羽に襲い掛かり、先ほどまで必死にあえいでいた優羽の体は、突然やんだ揺れについていけずに床に崩れ落ちていた。


「はぁ…っ…はぁ……ぅ……はぁ」


そこでわかる。
もう、とっくに限界は過ぎ去っていたのだと。今度こそ死ぬかもしれないと、薄れていく意識の端で、優羽は白銀の毛並みが横切るのを知った。


* * * * * *


「待って!!」

全裸の陸が、真上で牙をむき出しにする涼に両手を突き出した。
その必死さに勢いを削がれたのか、噛み殺そうと眉間にシワをよせた涼が、わずかに思いとどまる。


「しばらく僕たちの優羽ってことでどう?」

「言い残すことは、それだけか?」


お腹いっぱい食べた若者相手に、年長者の飢えは拍車をかけて凄みを増す。この状況で何を言っているのかと、ぶち切れた涼の牙が陸の喉元を切り裂こうとしていた。
それなのに、勇敢にも陸は両手を突き出したまま、涼にニコリと天使の笑顔を見せる。


「だって、涼だけじゃ優羽の面倒は見れないじゃん。こうやってすぐに周りが見えなくなるし」


ほらっと、陸は涼の視線を誘導するようにある場所を指さした。


「ねっ。優羽をあのまま放置しとくつもり?」


陸に示されるがままに視線を動かした涼が、忌々しそうに顔をしかめる。
たしかに、力尽きた優羽が変な体勢で床に転がっている。原因は陸だとわかっていても、いや、わかっているから殺意がわくのだが、残念なことに、陸は簡単に殺されてくれそうにない。
しばらく考え込んでいた涼は、やがて、陸と優羽を見比べた後で、その牙を口の中にしまった。


「人間なんだから、そのまま放置すると風邪引いちゃうよ?」

「言われなくてもわかっている」

「えー。嘘だぁ」


忘れていたくせにと、からかう陸の声にいちいち反応していては日が暮れてしまう。怒りに我を失いかけたが、陸の言葉を聞き終わらない内に、涼は優羽をその毛並みでくるむことにした。
フワフワと心地よい感触に気づいた優羽が、眠りながらもわずかに身体をすりよせてくる。ふっと、涼の顔も柔らかく変わった。


「僕もここで寝よっと」

「部屋に帰れ」

「ヤダッ。優羽と一緒にいたい」

「しつこい」


バシッと音をたてて、涼の尻尾で凪ぎ払われた陸が飛んでいった。が、軽々と宙で反転し、何事もなかったかのように着地した陸は、涼に抱かれながら寝息をたてる優羽をジッと見つめている。


「優羽は、仲良く一緒にって言ってたじゃん」


どの口がそれを言うのだろうか。
優羽を抱き寄せながら涼は、無感情の視線で陸の弁舌を聞いていた。


「僕だって、独り占めしたい気持ちはわかるよ。だって優羽、あり得ないくらいすっごくおいしいんだもん。こんなに満足したのって、生まれて初めてだよ。本当にどこで見つけてきたの?」


それに応える義理はないとでも言いたげに、涼は瞳を閉じて陸の言葉を受け流す。瞳を閉じた涼は、ただ黙って、陸の次の言葉を待った。その様子から察するに、自分の気持ちと陸の言い分を照らし合わせているようにも見える。
陸に至っては、瞳を煌めかせた興奮を隠しもしない。


「どういう経緯で、優羽のこと気にいったか知らないけどさ。僕もなんだか優羽のこと気にいっちゃったんだよね。素直だし、純粋そうだし、美味しいし」


仲良く一緒にという未来を考えるだけ無駄だったらしい。
素直というより、正直といったほうがしっくりくる陸の言い分に、涼ははぁっと盛大なため息をついた。


「だから?」


涼が声だけで陸に問いかける。
いつ、少年から元の狼に戻っていたのか。陸はピンッととがった耳を揺らして、涼のそばでふせた。正確には、優羽の傍から離れようとしなかった。


「僕にちょうだい?」


おねだりは末っ子の特権のようなもの。
年長者は必ず譲ってくれることを知っているからこそ、陸はいつもの様子で涼にそのキラキラした瞳をむけている。内心、陸にも自信があったのだろう。


「涼だって、別に優羽に固執してるわけじゃないんでしょ?」


長年一緒に過ごしてきた兄の性格は知っている。


「特定の一人に執着したことなんか今までないもんね」


明るく言い切った陸の言葉に、涼の視線が細く変わった。それを知りながら、陸は変わらない調子で言葉を口にする。


「あ、勘違いしないでよ。今回は遊び道具がほしくておねだりしてるんじゃないんだから」


おねだりの自覚はどうやら陸にもあったらしい。
涼は口数の減らない兄弟に言い返すつもりもないのか、しっぽまで楽しそうに踊る陸をただ黙って見つめていた。


「難しいことはよくわかんないけど、いま、涼のところに優羽がいるってだけで、無性に腹がたつんだよね」

「優羽は陸の女じゃない」

「涼の女でもないじゃん」

「俺が見つけた」


冷めた視線で言いきった涼に、陸の顔がふてくされたものに変わった。あきらかに不満だと全身が告げている。


「見つけたのは、涼かもしんないけど、それだけでしょ?」


無邪気とは恐ろしい。
頭で思うことがそのまま口から言葉となって出てくる陸に、涼は言い返す言葉が見つからずに視線をそらした。
一番最初に見つけただけ。
確かにそう言われてしまえばそうかもしない。


「勝手に連れてきて、無理矢理犯して、俺の女だって言ったって、優羽は理解してくれないと思う」


正論かもしれないが、陸に言われると素直に聞くことができない。何か言いかけて、結局止めてしまった涼は、結果的に無視することを決めたらしい。


「ちょっとずるいよ。いつもそうやって逃げるんだから」


言い返さない涼に、陸はふてくされた顔をする一方で、優位な色を見せ始めた。だが、次の涼の一言に、見事なまでに打ちひしがれる。


「優羽は、自分から望んで俺のもとにきた」

「嘘だ」

「嘘じゃない」


今度は、涼が不敵な笑みで陸をみおろす。


「優羽は、わかった上でついてきた」

「えぇぇぇ。絶対ウソだよ。どこの世界に、食料として自分から身を捧げる人間がいるって言うのさ。絶対、涼が強制連行してきたに決まってるよ」

「そう思うなら、それでいい」

「え、それはヤダ」


真顔で即答した陸に、涼は不可解な目を向けた。
いまではすっかり愛くるしさしか残らない陸の姿に、真意を問いかけるのは無謀だと思いながらも答えを聞かずにはいられない。


「優羽が自分から来たんだったら、僕にも選ばれる権利があるってことになるよね?」


どこからその解釈が生まれるのかわからない。
涼の目は、あきらかに陸を馬鹿にしている。


「ならない」


ふんっと、涼はもう相手にしないといわんばかりに、鼻を鳴らして寝る姿勢をとった。それもいつものことなのか、陸はめげずに涼の耳に言葉を吹きかける。


「じゃあ、僕が涼から優羽を奪ってみせるよ」

「無理だな」

「やってみなくちゃ、わかんないじゃん。現に優羽は、涼の目の前で僕に食べられたんだよ?」


交わされる視線の間に、一瞬にして殺気が火花を散らせた。鎮火したはずの感情が再沸してくる。与奪の権利まで譲渡するつもりはないと、涼の瞳が濁りを見せ始めた。
もちろん、喧嘩を売った陸は可能性が得られたとばかりにギラついている。
いつでも受けて立つと、お互いが臨戦態勢に入る刹那、空気がゆれる。


「…っん…」


寝がえりをうった優羽の動きに、張り詰めていた空気は流れ去ってしまった。
理由はない。説明できない事実がそこにあるだけ。
思わず、陸と涼はお互いに顔を見合わせて耳を下げる。


「起しちゃ可哀想だから、優羽が起きてからにする?」

「優羽は、俺のだ」


それで終わりだ。と、涼は陸から視線をはずして、優羽の方へその鼻先をかえた。


「えぇー」


陸が、不満な声をあげながら床に鼻をつける。


「あんまり独占欲丸出しだと、嫌われちゃうよ?」


そのまま丸まって眠る体制をとった陸の言葉に、涼は優羽を強く抱きしめることで答えた。
誰にも渡したくない。
その意志は譲れそうにない。
お互いに胸の内を秘めながらも、そのどちらもが初めて感じる感情に戸惑いを見せていた。
何故かわからない。それでも、安寧の寝息をたてる優羽の存在が、これからの運命に深く関わるだろうということは、心のどこかで感じていた。
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