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第1章:異形頭の六賢人
01:混濁した記憶
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色褪せた布が垂れた天井は、見慣れた寝室だと告げている。
裸体にまとわりつくシーツの感覚、頭の周囲にある複数の枕。夢ではなく現実だと思えるのは、ぴくりと反射した指先のおかげだろう。
自分の意思で動く指先。
悪夢を思い出して額に手を置いたオフィリアは、わかりやすく深い息を吐いて、夢から覚めた朝の一幕を受け入れていた。
「……ん……ぅ」
妙に身体がぎしぎししている。心当たりがあり過ぎる。
あれだけ激しくもつれあっていたのだから、当然の結果だと受け入れるしかない。
六賢人はどこへ行ったのか。ひとりで寝るには大きすぎるベッドで、目覚めてひとりでは心もとない。もしかして、六賢人の存在も夢だったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
「とりあえず……っ、おきな……きゃ」
起きよう。そう思うのに、妙に身体がだるい。
オフィリアは起き上がろうとした身体の不調に負けて、ベッドの上でごろりと寝返りをうつ。うつ伏せになれば少しはマシになると思って身体をひっくり返したのだが、事実、嗅ぎ慣れたベッドの枕は息のしやすさを連れてきた。
「………うぅ……ぎもぢわる…ぃ」
二日酔い。その言葉がよく似合う朝は、最悪でしかない。胸焼け、頭痛、めまい。身体のだるさを覚えつつも、記憶がどこか曖昧で、思い出せることは数える程度。
いつの間に朝になったのか。
真っ黒な窓と点々と灯るロウソクに照らされていた部屋は不穏な気配を一掃して、穏やかな森の朝を告げている。
「ぅ、にゃぁ……まぶし、ぃ」
寝室の出窓にかかったカーテンから太陽の光が差し込んでいる。微妙な隙間が開いているせいだが、それを締めにいく気力はない。
顔を枕の隙間に埋め込んで、物理的に視界を遮る。
頭痛がめまいをつれてくる。じっとしていれば収まるだろう。それに、生まれたままの姿。つまりは全裸なのだから、もう少しごろりとしていたい。
彼らの行為に散々付き合ったのだから、許される怠惰だと信じたい。
「これはまた、ひどい顔ですね」
「………ランタン」
差し込む光が消えたと思ったら、上半身を折り曲げるように覗き込んできた美形が目に映った。
黒い髪をゆらゆらと揺らして、丸いメガネの奥で青い瞳を細める青年。年齢は知らない。丁寧に着ている服装と、まばたきもせずに見下ろしてくる顔で判断するなら、二十代にも四十代にも見える。
オフィリアを全裸にしたひとり。
それは、オフィリアも覚えている。
「何か飲みたいものは?」
「んー……ぅ……水ぅ」
ぼさぼさとうねる栗色の髪。震えながら水を求める手は老婆を連想させるが、髪の艶や肌のはりは若い女性のもの。
きちんと整えれば垢抜けるだろうに、今のオフィリアは生まれたての赤子に似て、どこかぎこちなく見える。体格も、ランタンに隠れるほど小さい。
それは仕方がない。六賢人は揃って大きい。人間の男と比べても、背丈も厚みも一回り以上大きいのだから、オフィリアなど簡単に包まれてしまう。
「まずは身体を起こしましょう」
オフィリアはランタンに腕を掴まれて、ベッドで半身を起こした。
背中を支えてくれるが、近くに寄った顔に至近距離で肌を見られると、さすがに少し恥ずかしい。
「身体を起こしたからでしょうか。拭きますね」
「……っ、自分で……できる」
「遠慮せずとも、細部まで知りつくした身体ですので」
昨晩、好き勝手に抱いた裸体を目の前に置いて、ランタンは無表情に言葉を放つ。
生唾を飲んでもおかしくない場面で無表情でいられると、女としての尊厳が傷つきそうな気もするが、オフィリアもそれは気にしていない。
六賢人の表情はあまり豊かではない。
それを知っていれば、ランタンの言動と態度が伴わないことをいちいち指摘しなくて済む。とはいえ、股の間からこぼれ出た白濁の液を見てしまえば、そうもいかない。
オフィリアは足を簡単に持ち上げて覗き込んでくるランタンに向かって、真っ赤な顔で拒絶を示した。
「……っ…ランタン、あとで……ぅ」
真っ赤な顔を真っ青に変える。
二日酔いに似た気持ち悪さが舞い戻ってきて、オフィリアはランタンの身体にしがみついた。ランタンもその変化に気づいたのだろう。
支える腕に力を込めて、提案を変えてきた。
「水は飲めますか?」
ベッドサイドのテーブルに水差しとコップが置かれている。
水を用意してくれていたのか。
それなら最初から、そっちを優先してほしかった。
「ランタン……っ……気持ちわるい」
「おや、どこかおかしなところでも?」
「違う。ランタンはいつも通りカッコいい」
青白いオフィリアに水の入ったコップを差し出したランタンは、メガネを外して、反射する自分の顔を確認している。六賢人なりの冗談か。異形の頭と人間の顔。どちらも使い分けていると、ときどき造形がわからなくなるらしい。
「……っ……ランタン」
水を飲んだオフィリアの手から、コップがするりと抜け落ちて、ベッドの下に転がっていく。
残っていた水がオフィリアの身体に当たって、シーツが濡れたのは仕方がない。それよりも、吐き気のする体調を訴えるほうが先だと、オフィリアはランタンの服を咄嗟に掴んでいた。
「ああ、あなたが気持ち悪いのですか」
「そ……っぅ……吐きそ、う」
「影が安定していないようですね」
丸いメガネをベッドサイドに置いて、拾ったコップをその横に置いたランタンの顔が近付いてくる。
心配してくれるのか。
どうやらそうではないことに、オフィリアは押し倒されてから気がついた。
「………っ、ぅ」
「オフィリア」
顔にかかる髪をどけて、頬を指でこすったランタンの手が、額から後頭部までを包むように撫で付けてくる。
自然と重なる唇。丁寧に着ていた服を脱ぐ行為は、その先を安易に告げる。けれど、今はそんな気分ではないと、オフィリアは唇を逃がす。
「じっとしなさい」
所詮は無駄な抵抗だった。昨日もそう、その前も、たぶん、そう。
ランタンが与えてくる行為から逃げることも、抜け出すこともできない。重なる唇は歯列をなぞり、こじあけ、口内をゆっくりと広げてくる。
「ランタン……っ……ら、ん…ぅ」
呼吸を整えるために開いた唇の隙間を縫って侵入してきたランタンの舌に、怯えていては始まらない。
どうせ逃がしてはもらえない。
素直に口を開けてランタンを受け入れたほうが無事に終わる。
「……ッん………ん」
口を開けて、舌で撫でられる感覚に耐える。徐々に溶かされる舌が絡まっていく。
うっすらと目を開ければ、目を閉じないランタンと目が合う確率が高いため、ぎゅっと目を閉じるしかない。
「は……っ……ぁ…はぁ……はぁ」
眉をしかめ、顔を歪めて耐えていたオフィリアも次第に身体の力を抜いていく。いや、ある意味、あきらめの心境かもしれない。
ランタンの舌が絡まると、頭がぼうっとして何も考えられなくなってくる。
「………ぁ」
頭を固定する手とは別の、もう片方の手が、首から胸の中央を伝って下腹まで落ちてきた。
ゆっくりと、何度も、何度も同じ事を繰り返してくる。
大きな手で撫でられる肌。深く重なる唇。身動きのとれない身体は従順にランタンが与える刺激を受け止めるだけ。
口付けと、肌の表面を往復するだけの愛撫。
呼吸が浅くなっていく。
腰が左右に揺れて、ランタンとの密着を求めていく。
「ランタン…っ……ランタン」
「なんです?」
「…………もっと」
自分から少し足を広げてみる。
ランタンの首に腕を回して、重なる唇の間からねだってみたので、全部まで言わなくても理解できるだろう。先ほど「自分で拭く」と言った場所。
昨晩、彼らが散々注いだ王を孕む腹の入り口。
そこを触ってほしいと、オフィリアは閉じていた目を開けてランタンを覗き見る。
「なにを?」
「………なに……って」
目を開いたオフィリアの顔が再び真っ赤に染まったのは言うまでもない。流れでは口にできたとしても、改めて口にするには勇気がいる。
しかも瞳に反射するほど至近距離にある顔が、息も乱さずじっと覗き込んでくるのだからたまらない。
「もっと、何をしてほしいのです?」
「ゃ……っぱ、り……い、い」
オフィリアはもごもごと羞恥に染まる顔を隠して、ランタンの首から腕をほどいていた。
「オフィリア」
「なっ……に、ゃ…ぁ」
「ここであっていますか?」
白々しい。
割れ目を往復して、埋めてくる指が優しくなければ、もっと文句を言えたのに。ゆっくりと埋められた二本の指が、中を確認しながら笑うせいで、文句も言えない。
「オフィリア」
「ゃ……っ……ぁ、だめ……今、ぁ」
なぐさめるように、ランタンの唇が重なり落ちてくる。先ほどと同じ舌を絡ませて、頭を固定して、だけど下肢に埋まる指の動きは止まらない。
密着した身体の熱があがっていく。
呼吸が浅く、荒く、かわっていく。
「どこを触ればいいのか、教えてくれませんでしたが、正解したようで何よりです」
「正解じゃ……な……ンッぅ……ぁ」
「王を孕もうとする気概は好ましいですよ。オフィリア」
「ちが……っ……ぁ……ランタン」
唇から首筋に移動してきた顔が、耳を噛んで、下に向かっている。オフィリアはランタンの肩を掴んで、その大きな身体を退けようとしていたが、難なく乳首を吸い付かれてびくりと固まっていた。
「…………ッ、ぇ」
おかしい。
乳首を舐められるのも、かじられるのも、初めてではない。だから、ある程度は感覚として想像できる。いや、できた。
これは一体どういうわけか。
「りゃ、ランタン…ぁ……い、く……だめ……ァな、ん…で……きもち、ぃ……ッ」
今までとは比較にならないほど、異常に感じる。
舌で舐められる程度の刺激が、全身を突き刺すほどの威力に感じる。
「ここも、きっとお好きですよ」
「………っ……ぁ」
指を埋めた上の部分。
ランタンの服を握りしめて、情けない声をあげてしまったのは、全部ランタンのせいだといいたい。
膣に埋まった中指と薬指が子宮口に触れるほど深く差し込まれ、親指の腹で淫核をすりすりと撫で回される。舌で乳首をこねられながら、頭を固定され、全身で押さえつけてくる行為に泣きたくなる。
「………っぅ……ンッ」
受け入れるしかない快楽を飲み込んで、オフィリアはランタンの身体の下で丸く震えていた。
キモチイイ。
でも、それを口にしたくはない。寝起きから好き勝手にいじられて、喜んでいるなんて知られたくない。
自分の下腹部から込み上げてくる快感に耐えるしかないと、オフィリアはランタンの服を掴んだまま、唇を噛んで黙っていた。
それなのに、くすくすと笑う気配が包んでくる。
「無駄ですよ」
折れ曲がる指が内壁を掻いてくる。
額を押さえていた手が滑って、口を塞いでくる。鼻呼吸をうながすランタンの手に迷いはない。
「あなたの身体を我々が知らないわけないでしょう」
オフィリアの瞳に映るのは、美しい青を歪めて笑う男の姿。普段は無表情のくせに、ランタンは獲物を前にすると饒舌になる。
「………っ…」
オフィリアの本能が反応して、神経が震えたのは当然のこと。膣から抜いたばかりの濡れた指先で、ランタンはオフィリアの下腹部を押し込むように撫でている。
「この腹は王を生むためにあるのです。我々の与える快楽に弱いことは好ましいこと。とてもいい兆候ですよ、オフィリア」
肌に口付けを落としながら言う台詞とは思えない。危険を感じて足を閉じようにも、そこはすでにランタンが陣取っている。
両手で掴んだのは、口を押さえるランタンの手首だけ。
「非常に待ち遠しいと思いませんか?」
「……っ……ん」
「王を孕んだ腹を撫でてみたい」
その顔が一番美しいのは恐ろしい。
普段は公正品行な青年を演じているからといって、本質までそうとは限らない。ランタンは「王」の誕生を誰よりも心待ちにしていて、その王を生むオフィリアを誰よりも大事にしている。
「ンッ………ん、ぅ」
ただ、王は自然に生まれない。
腹を撫でていたランタンの手が、ベルトを緩めて、立派に生えたそれを取り出しているのだから、つまりは、そういうことになる。
「魔女は我々を拒絶できません」
恍惚とした笑みを浮かべているのに、興奮といった感情のない、仄暗い雰囲気が脳を混乱させてくる。
触れる手は優しい。
日々の生活の中で大事にされている実感もある。それでも、この瞬間だけはいつも、なぜか抵抗してしまう。
「んっ………ふ…ぅ……ンンッ」
「ご安心ください。痛みは当に忘れた身体です」
「………ンぅ、ンッ……ぅ」
「ほら、ゆっくりと息を吐いて。力を抜いて、ああ、とても良い心地です」
ランタンの腰が重力をのせて、ゆっくりと埋まってくる。
一度で埋めてくれればいいのに、そうはならない。こんなときばかり青い瞳が揺らめいて、熱をもった炎みたいに見えるから困ってしまう。
「オフィリア」
静かに響く声に熱をあげられる。
塞いでいた手の代わりに唇を寄せて、重ね合わせるのを合図にして、ランタンは全部埋まってきた。
「……ッぁ……ランタン」
今度こそ首に腕を回して、甘い声で挿入をねだる。ランタンはそれに答えるつもりで、朝の営みにベッドを揺らした。
裸体にまとわりつくシーツの感覚、頭の周囲にある複数の枕。夢ではなく現実だと思えるのは、ぴくりと反射した指先のおかげだろう。
自分の意思で動く指先。
悪夢を思い出して額に手を置いたオフィリアは、わかりやすく深い息を吐いて、夢から覚めた朝の一幕を受け入れていた。
「……ん……ぅ」
妙に身体がぎしぎししている。心当たりがあり過ぎる。
あれだけ激しくもつれあっていたのだから、当然の結果だと受け入れるしかない。
六賢人はどこへ行ったのか。ひとりで寝るには大きすぎるベッドで、目覚めてひとりでは心もとない。もしかして、六賢人の存在も夢だったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
「とりあえず……っ、おきな……きゃ」
起きよう。そう思うのに、妙に身体がだるい。
オフィリアは起き上がろうとした身体の不調に負けて、ベッドの上でごろりと寝返りをうつ。うつ伏せになれば少しはマシになると思って身体をひっくり返したのだが、事実、嗅ぎ慣れたベッドの枕は息のしやすさを連れてきた。
「………うぅ……ぎもぢわる…ぃ」
二日酔い。その言葉がよく似合う朝は、最悪でしかない。胸焼け、頭痛、めまい。身体のだるさを覚えつつも、記憶がどこか曖昧で、思い出せることは数える程度。
いつの間に朝になったのか。
真っ黒な窓と点々と灯るロウソクに照らされていた部屋は不穏な気配を一掃して、穏やかな森の朝を告げている。
「ぅ、にゃぁ……まぶし、ぃ」
寝室の出窓にかかったカーテンから太陽の光が差し込んでいる。微妙な隙間が開いているせいだが、それを締めにいく気力はない。
顔を枕の隙間に埋め込んで、物理的に視界を遮る。
頭痛がめまいをつれてくる。じっとしていれば収まるだろう。それに、生まれたままの姿。つまりは全裸なのだから、もう少しごろりとしていたい。
彼らの行為に散々付き合ったのだから、許される怠惰だと信じたい。
「これはまた、ひどい顔ですね」
「………ランタン」
差し込む光が消えたと思ったら、上半身を折り曲げるように覗き込んできた美形が目に映った。
黒い髪をゆらゆらと揺らして、丸いメガネの奥で青い瞳を細める青年。年齢は知らない。丁寧に着ている服装と、まばたきもせずに見下ろしてくる顔で判断するなら、二十代にも四十代にも見える。
オフィリアを全裸にしたひとり。
それは、オフィリアも覚えている。
「何か飲みたいものは?」
「んー……ぅ……水ぅ」
ぼさぼさとうねる栗色の髪。震えながら水を求める手は老婆を連想させるが、髪の艶や肌のはりは若い女性のもの。
きちんと整えれば垢抜けるだろうに、今のオフィリアは生まれたての赤子に似て、どこかぎこちなく見える。体格も、ランタンに隠れるほど小さい。
それは仕方がない。六賢人は揃って大きい。人間の男と比べても、背丈も厚みも一回り以上大きいのだから、オフィリアなど簡単に包まれてしまう。
「まずは身体を起こしましょう」
オフィリアはランタンに腕を掴まれて、ベッドで半身を起こした。
背中を支えてくれるが、近くに寄った顔に至近距離で肌を見られると、さすがに少し恥ずかしい。
「身体を起こしたからでしょうか。拭きますね」
「……っ、自分で……できる」
「遠慮せずとも、細部まで知りつくした身体ですので」
昨晩、好き勝手に抱いた裸体を目の前に置いて、ランタンは無表情に言葉を放つ。
生唾を飲んでもおかしくない場面で無表情でいられると、女としての尊厳が傷つきそうな気もするが、オフィリアもそれは気にしていない。
六賢人の表情はあまり豊かではない。
それを知っていれば、ランタンの言動と態度が伴わないことをいちいち指摘しなくて済む。とはいえ、股の間からこぼれ出た白濁の液を見てしまえば、そうもいかない。
オフィリアは足を簡単に持ち上げて覗き込んでくるランタンに向かって、真っ赤な顔で拒絶を示した。
「……っ…ランタン、あとで……ぅ」
真っ赤な顔を真っ青に変える。
二日酔いに似た気持ち悪さが舞い戻ってきて、オフィリアはランタンの身体にしがみついた。ランタンもその変化に気づいたのだろう。
支える腕に力を込めて、提案を変えてきた。
「水は飲めますか?」
ベッドサイドのテーブルに水差しとコップが置かれている。
水を用意してくれていたのか。
それなら最初から、そっちを優先してほしかった。
「ランタン……っ……気持ちわるい」
「おや、どこかおかしなところでも?」
「違う。ランタンはいつも通りカッコいい」
青白いオフィリアに水の入ったコップを差し出したランタンは、メガネを外して、反射する自分の顔を確認している。六賢人なりの冗談か。異形の頭と人間の顔。どちらも使い分けていると、ときどき造形がわからなくなるらしい。
「……っ……ランタン」
水を飲んだオフィリアの手から、コップがするりと抜け落ちて、ベッドの下に転がっていく。
残っていた水がオフィリアの身体に当たって、シーツが濡れたのは仕方がない。それよりも、吐き気のする体調を訴えるほうが先だと、オフィリアはランタンの服を咄嗟に掴んでいた。
「ああ、あなたが気持ち悪いのですか」
「そ……っぅ……吐きそ、う」
「影が安定していないようですね」
丸いメガネをベッドサイドに置いて、拾ったコップをその横に置いたランタンの顔が近付いてくる。
心配してくれるのか。
どうやらそうではないことに、オフィリアは押し倒されてから気がついた。
「………っ、ぅ」
「オフィリア」
顔にかかる髪をどけて、頬を指でこすったランタンの手が、額から後頭部までを包むように撫で付けてくる。
自然と重なる唇。丁寧に着ていた服を脱ぐ行為は、その先を安易に告げる。けれど、今はそんな気分ではないと、オフィリアは唇を逃がす。
「じっとしなさい」
所詮は無駄な抵抗だった。昨日もそう、その前も、たぶん、そう。
ランタンが与えてくる行為から逃げることも、抜け出すこともできない。重なる唇は歯列をなぞり、こじあけ、口内をゆっくりと広げてくる。
「ランタン……っ……ら、ん…ぅ」
呼吸を整えるために開いた唇の隙間を縫って侵入してきたランタンの舌に、怯えていては始まらない。
どうせ逃がしてはもらえない。
素直に口を開けてランタンを受け入れたほうが無事に終わる。
「……ッん………ん」
口を開けて、舌で撫でられる感覚に耐える。徐々に溶かされる舌が絡まっていく。
うっすらと目を開ければ、目を閉じないランタンと目が合う確率が高いため、ぎゅっと目を閉じるしかない。
「は……っ……ぁ…はぁ……はぁ」
眉をしかめ、顔を歪めて耐えていたオフィリアも次第に身体の力を抜いていく。いや、ある意味、あきらめの心境かもしれない。
ランタンの舌が絡まると、頭がぼうっとして何も考えられなくなってくる。
「………ぁ」
頭を固定する手とは別の、もう片方の手が、首から胸の中央を伝って下腹まで落ちてきた。
ゆっくりと、何度も、何度も同じ事を繰り返してくる。
大きな手で撫でられる肌。深く重なる唇。身動きのとれない身体は従順にランタンが与える刺激を受け止めるだけ。
口付けと、肌の表面を往復するだけの愛撫。
呼吸が浅くなっていく。
腰が左右に揺れて、ランタンとの密着を求めていく。
「ランタン…っ……ランタン」
「なんです?」
「…………もっと」
自分から少し足を広げてみる。
ランタンの首に腕を回して、重なる唇の間からねだってみたので、全部まで言わなくても理解できるだろう。先ほど「自分で拭く」と言った場所。
昨晩、彼らが散々注いだ王を孕む腹の入り口。
そこを触ってほしいと、オフィリアは閉じていた目を開けてランタンを覗き見る。
「なにを?」
「………なに……って」
目を開いたオフィリアの顔が再び真っ赤に染まったのは言うまでもない。流れでは口にできたとしても、改めて口にするには勇気がいる。
しかも瞳に反射するほど至近距離にある顔が、息も乱さずじっと覗き込んでくるのだからたまらない。
「もっと、何をしてほしいのです?」
「ゃ……っぱ、り……い、い」
オフィリアはもごもごと羞恥に染まる顔を隠して、ランタンの首から腕をほどいていた。
「オフィリア」
「なっ……に、ゃ…ぁ」
「ここであっていますか?」
白々しい。
割れ目を往復して、埋めてくる指が優しくなければ、もっと文句を言えたのに。ゆっくりと埋められた二本の指が、中を確認しながら笑うせいで、文句も言えない。
「オフィリア」
「ゃ……っ……ぁ、だめ……今、ぁ」
なぐさめるように、ランタンの唇が重なり落ちてくる。先ほどと同じ舌を絡ませて、頭を固定して、だけど下肢に埋まる指の動きは止まらない。
密着した身体の熱があがっていく。
呼吸が浅く、荒く、かわっていく。
「どこを触ればいいのか、教えてくれませんでしたが、正解したようで何よりです」
「正解じゃ……な……ンッぅ……ぁ」
「王を孕もうとする気概は好ましいですよ。オフィリア」
「ちが……っ……ぁ……ランタン」
唇から首筋に移動してきた顔が、耳を噛んで、下に向かっている。オフィリアはランタンの肩を掴んで、その大きな身体を退けようとしていたが、難なく乳首を吸い付かれてびくりと固まっていた。
「…………ッ、ぇ」
おかしい。
乳首を舐められるのも、かじられるのも、初めてではない。だから、ある程度は感覚として想像できる。いや、できた。
これは一体どういうわけか。
「りゃ、ランタン…ぁ……い、く……だめ……ァな、ん…で……きもち、ぃ……ッ」
今までとは比較にならないほど、異常に感じる。
舌で舐められる程度の刺激が、全身を突き刺すほどの威力に感じる。
「ここも、きっとお好きですよ」
「………っ……ぁ」
指を埋めた上の部分。
ランタンの服を握りしめて、情けない声をあげてしまったのは、全部ランタンのせいだといいたい。
膣に埋まった中指と薬指が子宮口に触れるほど深く差し込まれ、親指の腹で淫核をすりすりと撫で回される。舌で乳首をこねられながら、頭を固定され、全身で押さえつけてくる行為に泣きたくなる。
「………っぅ……ンッ」
受け入れるしかない快楽を飲み込んで、オフィリアはランタンの身体の下で丸く震えていた。
キモチイイ。
でも、それを口にしたくはない。寝起きから好き勝手にいじられて、喜んでいるなんて知られたくない。
自分の下腹部から込み上げてくる快感に耐えるしかないと、オフィリアはランタンの服を掴んだまま、唇を噛んで黙っていた。
それなのに、くすくすと笑う気配が包んでくる。
「無駄ですよ」
折れ曲がる指が内壁を掻いてくる。
額を押さえていた手が滑って、口を塞いでくる。鼻呼吸をうながすランタンの手に迷いはない。
「あなたの身体を我々が知らないわけないでしょう」
オフィリアの瞳に映るのは、美しい青を歪めて笑う男の姿。普段は無表情のくせに、ランタンは獲物を前にすると饒舌になる。
「………っ…」
オフィリアの本能が反応して、神経が震えたのは当然のこと。膣から抜いたばかりの濡れた指先で、ランタンはオフィリアの下腹部を押し込むように撫でている。
「この腹は王を生むためにあるのです。我々の与える快楽に弱いことは好ましいこと。とてもいい兆候ですよ、オフィリア」
肌に口付けを落としながら言う台詞とは思えない。危険を感じて足を閉じようにも、そこはすでにランタンが陣取っている。
両手で掴んだのは、口を押さえるランタンの手首だけ。
「非常に待ち遠しいと思いませんか?」
「……っ……ん」
「王を孕んだ腹を撫でてみたい」
その顔が一番美しいのは恐ろしい。
普段は公正品行な青年を演じているからといって、本質までそうとは限らない。ランタンは「王」の誕生を誰よりも心待ちにしていて、その王を生むオフィリアを誰よりも大事にしている。
「ンッ………ん、ぅ」
ただ、王は自然に生まれない。
腹を撫でていたランタンの手が、ベルトを緩めて、立派に生えたそれを取り出しているのだから、つまりは、そういうことになる。
「魔女は我々を拒絶できません」
恍惚とした笑みを浮かべているのに、興奮といった感情のない、仄暗い雰囲気が脳を混乱させてくる。
触れる手は優しい。
日々の生活の中で大事にされている実感もある。それでも、この瞬間だけはいつも、なぜか抵抗してしまう。
「んっ………ふ…ぅ……ンンッ」
「ご安心ください。痛みは当に忘れた身体です」
「………ンぅ、ンッ……ぅ」
「ほら、ゆっくりと息を吐いて。力を抜いて、ああ、とても良い心地です」
ランタンの腰が重力をのせて、ゆっくりと埋まってくる。
一度で埋めてくれればいいのに、そうはならない。こんなときばかり青い瞳が揺らめいて、熱をもった炎みたいに見えるから困ってしまう。
「オフィリア」
静かに響く声に熱をあげられる。
塞いでいた手の代わりに唇を寄せて、重ね合わせるのを合図にして、ランタンは全部埋まってきた。
「……ッぁ……ランタン」
今度こそ首に腕を回して、甘い声で挿入をねだる。ランタンはそれに答えるつもりで、朝の営みにベッドを揺らした。
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