日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第四章『朝敵篇』

第八十話『襲撃』 序

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 九月八日午前一時二十分、東京都内のあ或る病院。
 一人の女が制止する警備員を退けて院内へと侵入した。
 警備員は体に青いあざを浮かばせて倒れ込み、泡を吹いてけいれんしている。
 どうやら女は攻撃した相手の命を毒で蝕む能力を持っているらしい。

「本当にこの病院なんだろうな?」

 そうせんたいおおかみきばの最高幹部「はつしゆう」の一人・はなたまは一つの情報を元にこの病院へと辿たどいた。
 ほのぐらい廊下を行きながら、同じはつしゆうなわげんから下された命令を思い起こす。
 最初、なわしゆりようДデーに意見具申する形で話し始めた。

『我々が犯した最大の失敗は何だったのか、この国へ逃れてからわたしはずっと考えていました……』

 そうせんたいおおかみきばは三週間程前の八月十五日、革命に敗れてこうこくから日本国へと高飛びした。
 捨て身で能力を使ったいつきは死んでしまったが、彼のかげで生き残った最高幹部「はつしゆう」は、先んじて日本国へ入国していた椿つばきようどうじょうかげ姉弟のもとへと飛ぶことが出来た。

 なわは参謀役として、長年の間しゆりようДデーことどうじようふとしを支え続けた男である。
 それ故、日本国で力を蓄えて再起する道を考えていたらしい。
 そして数日前、彼は二人のはつしゆうに命令を下した。

『同志わたりはな、双子を取り戻せ』

 そう告げたなわには冷徹な光が宿っていた。
 はなは知っている。
 なわはつしゆうの中で最も良識的な人物であるが、それと同時に革命のためならば何処どこまでも非情にも非道にもなれる男なのだ。
 そんな彼は極めて冷静な計算をもとに、いたいな少年少女であるくも兄妹に目を付けた。

『我々の革命は絶対強者・かみえいの絶対的な暴力を前に屈しました。しかし、そこまでは極めて順調だったのです。それもこれも、じんのうが一度倒れたが為です。それによってめいひのもとの奮戦が可能になり、こうこくはガタガタとなって革命の機が生まれた』

 はつしゆうは開戦の直前、一人の男からこうこくで大きな事態が起こると聞かされていた。
 後になってその男の予言はじんのうの不予と開戦、そしてこうこくの敗退という形で当たることになったという訳だ。

おと首領補佐にれば、じんのううることというめいひのもとの女によって打倒されたらしい。そう、同志わたりせたあの女だ』
『チッ……』

 舌打ちするわたりりんろうの悔しそうな顔が、はなには少し愉快に思えた。

『しかし、それでもじんのうの力は圧倒的だった。その女は確かに強かろうが、単独でじんのうの命に迫ったとは考えられない。おそらく、双子が手を貸したのだ』
『ふむ、同志わたりの話では双子は脱走者達に連れ出されたそうだし、つじつまは合うね』
『そうです。つまり、革命の機が巡ってきたのは双子の力にるものだとわたしは考える。ならば、我々は何としても取り戻す必要がある』

 これがなわによるしゆりようДデーへの提案、そしてわたりはなへの命令の内容であった。
 数日の間、二人はくも兄妹の身柄を求めて東京の街をさまい続けていたのだ。

(とはいえ、双子が何処に居るか見当も付かなかった。昨日までは……)

 はなは遭遇した病院の職員を血祭りに上げながら、これまでの苦労を思い出す。
 彼女が言い渡されたのは、土地勘の無い国で一億人中二人を探し出すというちやにも程がある命令だった。
 同時に命じられたわたりは「この機に悲願のふくしゆうを果たす」と意気込んでいたが、はなは途方に暮れていた。
 そんな彼女に今日、なわから連絡が入ったのだ。

『同志はな、双子の居場所が判明した』
『本当ですか?』
『今から言う病院に、意識不明の状態で入院しているらしい。隙を見て必ず連れて来るんだ』
わかりました。しかし、よく見付かりましたね。また、おと首領補佐ですか?』
『いや、違う。だが確かな筋の情報だ。あいつが頑張ってくれたという訳だ』

 なわの言葉で、はなは情報の出所を察した。
 そういうことなら、間違いは無いだろう。
 そして今、夜を待って情報にあった病院へと侵入したという訳だ。
 しかし、それでもまだ問題があった。

(同志なわは病室までは教えてくれなかった。そこまでは聞き出せなかった、というより情報源も知らなかったんだろうな。くそ……!)

 はなは伸びた髪を束ねて作ったむちを振るい、廊下で擦れ違った看護師の肉をえぐった。
 おびただしい血が明かりの消えた壁に飛び散る。

何故なぜわたしがこんな無差別殺人鬼の様なをしなければならないんだ。こういうのはわたりの役割だろう)

 とその時、はなの前に三人の男がふさがった。
 これまで無抵抗に逃げ惑うばかりだった犠牲者達と違い、彼らは戦う姿勢を見せている。

めいひのもとの戦士達か……」

 彼女の前に現れたのは、特別警察特殊防衛課のB班――元じんかいの戦士達である。
 そもそもこの病院はじんかいの息が掛かっていた施設であり、彼らが守りに就いているのは自然なことであった。

うわさに聞く『そうせんたいおおかみきば』か……!」
いきそうすいの名に懸けて、は通さん!」
「命令通り、この場で生け捕りにしてやる!」

 三人はそれぞれ腰の軍刀を抜いた。
 対するはなは髪の鞭を振るう。

じゆつしきしん鞭韻鞭鸚鵡ベインベノム

 すさまじい速度の鞭が三人を次々に捉え、壁に打ち付ける。
 打ち据えられた胸には毒々しく変色したあとが残されている。
 これこそがはなの能力である。
 彼女が髪の毛で作った鞭で打たれた者は、猛毒に侵されやがて死に至るのだ。

「ぐぅ……!」
「動け……ん!」
「申し訳御座いません……!」

 三人の男達は一撃で動けなくなった。
 これにははなも少し拍子抜けであった。

(話にならんな。この程度の戦士しか用意出来ない為体ていたらくで、よくこうこくと戦えたものだ)

 無理も無いことだった。
 というのも、じんかいこうこくとの戦争で実力者をほとんうしなってしまったのだ。
 今、じゆつしきしんの使い手と戦えるのは総帥のいきりゅうろうと側近のさきじんぞうのみだろう。

 そして、事態は更に悪い方向へ進む。
 というのも、じんかいの三人がこの場に居たのは、近くに彼らの守るべき者が眠っているからだ。
 はなもまた、その事を察した。
 経験上、警備が厳重な場所に重要人物が潜んでいることはく知っているのだ。

「この病室か……」

 はなは一つの病室の扉に手を掛けた。
 表札には「くもたか」「くも」の名がしつかりと掲げられてしまっている。

「間違いなさそうだな。この中から双子を連れて行けば、わたしの任務は完了する……」

 はなは扉を引いて開けようとする。
 しかしその瞬間、ほのおに包まれた黒い塊が飛んできて手首をかすめた。
 とつに手を引っ込めていなければ、手首から先は無くなっていただろう。
 黒い塊は廊下に埋まって煙を立てていた。

「この能力は……!」
「久し振りね、はなたま

 はなは声の方へと振り向いた。
 そこには見覚えのある女が立っていた。
 あかい焔の翼を背にした、かつて戦ったことのある女だった。

まゆづき…………!」

 はなこうで異空間に閉じ込められた際、まゆづきと遭遇し、交戦している。
 戦いはとおどうあやの介入でになったが、逆に言えば決着を見ていないいんねんの相手だとも言える。
 
「気になっていたのよね、わたりが出歩いていた理由。おおかみきばは何かをしようとしていると思っていた。成程、たか君とちゃんをさらおうとしていたなら納得だわ……」

 まゆづきは額に青筋を立て、怒りに震えていた。
 はなのこれまでの所業を思えば当然だろう。
 だが、まゆづきはそれ以上に或る理由で怒りを覚えていたらしい。

「許せない……小さな子供に危害を加えようなんて、何よりも許せない……! 貴女あなた達が行った数々の所業を思えば、二人を連れ去ったらまたろくでもないことをするに決まっている……! そんなことはさせない……!」
「上等だよ。前はとおどうばばあに邪魔されたからな。今度こそち殺してやる……!」

 深夜の病院で、二箇月越しの戦いが幕を開けようとしていた。
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