日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第四章『朝敵篇』

第八十八話『奪還』 急

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 まゆづきはワゴン車と合流し、後部座席へと乗り込んだ。
 運転席にはびゃくだんあげ、助手席にはひらつじ、後部座席のうち、前列にはまゆづきはた、後列には気を失ったごくと眠りに落ちたびゅまんれいがそれぞれ位置している。
 まゆづきはワゴン車に乗り込み次第、きゅうへと連絡した。

さん、全員確保しました。これより戻ります」
『負傷者は?』
「まずびゅまんれいさん、長くとらわれていてどうじょうの能力に掛かっているため、戦線へ復帰は出来ないでしょう。ひらつじさんとごくさんはどうじょうと交戦、ひらつじさんは大きく消耗し、ごくさんは気絶。しかししんは失われておらず、そう時間を掛けずにかいふくすると思われます。わたしびゃくだんさん、はたさんは無事です」
『了解した。ありがとう、奪還作戦の成功はきみ達のかげだ』
「しかし、どうじょうを捕えることまでは出来ませんでした」
『今は良い。何よりびゅまん嬢とひらつじ嬢の無事こそが最優先だからな』

 からどうじょうの居場所を把握したとの報告を受け、直ちに奪還作戦を組み上げた。
 さきもりわたるうることはたとは協力関係を結んでいる。
 その取り成しで、二人の救出を最優先するというの指揮下に入ったのだ。

『後はずみふたの安否だな……』

 そしてはもう一つ、危機が迫っているずみふたの安全確保を急いでいた。
 彼はふたにB班・元じんかいを護衛に付けたが、彼らからの連絡が途絶えている。
 今や民間人である彼女に危害が及ぶことはれい以上にあってはならないことなので、わたること、そしてあぶしんを捜索に宛てたのだ。

 ふたと友人関係にあるわたることは足跡を辿たどやすいであろうという意図が一つ。
 そして関係悪化を取り成す人材としてしんに白羽の矢が立てられたという訳だ。

「無事で居てくれると良いですけど……」
『三人を信じるしか無いな……』

 ワゴン車はこのままホテルへと向かう。



    ⦿⦿⦿



 さきもりわたるうることあぶしんの三人は、ずみふたを求めて街中を探し回っていた。
 ふたに付けられた護衛からの定時連絡が途絶えた時、三人はまっさきに彼女の家へと訪れた。
 しかし、家の者いわく、ふたは昨日に出掛けた切り帰って来ないのだという。
 彼女の安否に嫌な予感を覚えずにはいられない。

 一応、先日の袋小路に残されていた血痕からはふたの血液も検出されている。
 それを用いれば、の能力でふたの足取りを辿ることは可能であった。
 が能力で追尾する瞬間まで、ふたが移動していることは確認出来てはいる。
 だがそれがすなわち彼女の無事を意味するという訳ではない。

 何者かにさらわれたとしたら、既に殺されて死体を運搬されているとしたら――嫌な想像をすれば切りが無い。
 護衛に異変が起こっているのだから、決して事態を楽観視することは出来ないのだ。

 三人は繁華街の路地裏へと足を運んだ。
 ふたが失踪した昨日一夜を明かしたのは、この近辺のホテルだろう。
 そしてもう一つ、この場所には重要な手掛かりが残されている。

「間違い無いわね。この残存しんいきさんのものだわ」

 ことはこの路地裏の一角で、顔見知りの痕跡を気取っていた。
 いきりゅうろう――じんかい三代目そうすいで、組織ごと特殊防衛課のB班に編入されている。
 じんかいことの祖父が創設した組織なので、いきも顔見知りという訳だ。
 そのいきで何者かと戦ったと見て間違い無いだろう。

「この場所でやられたのか……」
「おそらくね。時間はおそらく、最後の定時連絡直後。椿つばきようとの接触及び宿泊を伝えたのは良いものの、敵の襲撃に遭って全滅させられている……」
椿つばきやつがやったってのかよ?」
「それは無いわ。確かにじんかいに大した戦力は残されていなかったけれど、いきさんは別格よ。もし椿つばきようと戦闘になったのなら、この場所にも彼女の血痕が残されているはずしゅにんは別に居ると見て良さそうだわ」

 いきに一日数回の定時報告と、事態が動いた際に状況を逐一報告するよう頼んでいた。
 つまり、ようとの接触は把握済みである。
 だが、そのようではない何者かがいきらと接触したという報告は無い。
 これは、彼らが護衛・監視対象とは無関係な別の誰かに不意を突かれたということを意味する。

しんえいたいてんのう、あいつらの仕業か」
「でしょうね」

 わたるわたりりんろうとの戦いの後、しんえいたいてんのうの一人・つきしろさくと遭遇している。
 同じ様に、おおかみきばしんえいたいてんのうに動向を探られていると見て良いだろう。
 ならば余計にふたの行方を早くつかみたいところだ。

「あのお嬢ちゃんの能力で辿った最新の場所には居なかったからなー。また戻って探らせる訳にも行かねーし」
「それに、今頃ごくさんはどうじょうの元へ向かっている筈だ。なんとかぼく達だけで見付けないと……」
「一旦、家に帰っていないかもう一度確かめてみましょう」

 三人は再びふたの家へと向かった。



    ⦿⦿⦿



 その後、三人はふたの家へ戻った。
 気が付けば日は沈み、すっかり暗くなっている。
 この時間まで家に帰っていなかったとしたら、いよいよ彼女の安否が心配になってくるところだ。

「あ……」

 しかし、三人は丁度ふたが帰宅してきたところにばったりと出くわした。
 わたる達からあんの息が漏れる。

ずみさん、無事だったか……」

 三人はふたもとへと駆け寄った。
 だがふたが合うなり顔を背けてしまった。
 けんしわを寄せ、口を固く結んだその表情からは、わたることとのわだかまりが解けていない心情がうかがえる。

「なんの用?」

 ふたわたることにらける。
 確かな怒りが込められていた。

「さも無事で安心した風に近付いてきたけどさ、さきもり君達はわたしの何を心配していたの? 確かに昨日、わたしは外で泊まったけどさ、ただそれだけのことを心配されるいわれが分からないんだよね。たった一夜外泊しただけで血相変えてわたしを捜し回ったの? たった一日でわかったね、わたしが昨日家に帰らなかったこと」

 ふたの声は冷たく、批難の色を帯びている。
 わたるは思わずたじろいでしまった。

「それは……」
「ああ言い訳は要らないよ、もうネタは割れているから。なんかホテルから帰ってずっとわたしを守ってくれていたみたいじゃない。さんも人がいよね。わざわざわたしに危害が及ばないか、見張りを付けて四六時中尾け回してくれるなんてね。御陰でようさんに会ったこともバレちゃったのかな」

 わたる達を心底さげすむ様に冷笑を浮かべるふた
 そんな彼女に言葉を返したのはわたることではなく、しんだった。

ずみちゃん、そりゃ心配もするって。お前、椿つばきの奴にガッツリ会っちまってるんだろ? 敵が居ると判っている危険の中に態々飛び込んでる様なもんだ。さきもりうるからしちゃ、放っておける訳ねえじゃんかよ」

 ふたは痛いところを突かれたのか、くされた様な表情で黙り込んだ。

ずみさん、勝手に護衛を付けていたことは謝るわ」

 い沈黙が流れる寸前で、ことおもむろに会話を続ける。

「でも、貴女あなたは今本当に危ないところだったのよ。今日、貴女あなたに付いていた護衛はみな消息を絶っている。おそらく殺されたのでしょう。おおかみきばとは別の、もっと恐ろしい何かが背後でうごめいているかも知れないの。椿つばきようにその気が無くても、不用意に近付けば巻き込まれても何らおかしくないのよ」
「うるさいな……」

 ふたことに反発する用に、小さな声でつぶやいた。

「要はわたしを利用しようとしただけでしょ? それをさもわたしの為みたいに言ってさ。そりゃ、おおかみきばなんかのさばらせておいたら世の中の為に良くないでしょうよ。でもそれを捕まえる為に、わたしのプライバシーを無視して良いとでも思ってるわけ? 本当、そういうところさ、あのすめらぎかなと変わらないよね。あの親にしてこの娘ありだよ」

 ふたとげとげしい言葉に、ことどうもくしていた。
 わたるにはその理由が能くわかる。

うるさん、お母さんがどうとか関係無いからね。うるさんはうるさんなんだから』

 かつて高校生だった頃そう言っていたふたの口から正反対の言葉が投げ付けられた。
 その変容は、ことひどかなしげな眼でうつむかせている。

「ま、精々血眼になっておおかみきばを追い掛けなよ。三人とも、わたしより目が良いんだから見付けられるでしょ。わたしの気持ちには気付かなくてもさ」

 そう言って再び冷笑するふたの表情を見て、わたる達は気が付いた。
 ふたは相変わらず眼鏡を掛けていない。
 三人で選んだ新しい眼鏡を使わず、コンタクトレンズを使い続けている。
 成程、眉間に皺が寄るのも能く見える筈だ。

 ふたは拒絶したのだ。
 わたると約束した、以前の日常に帰ることを。
 ことと共に過ごした、嘗ての自分に戻ることを。
 それは明確な、無言の絶縁宣言だった。

ずみさん……貴女あなたを、取り返しが付かない程傷付けてしまったのね……」

 ことが悲しみを堪えるように言葉を絞り出した。

貴女あなたにとって、はやわたしは友達に値しないのかも知れない……。わたし貴女あなたの後髪を引く資格は無いのでしょうね」

 ふたは答えない。
 ことは笑って見せていた。
 それは今生の別れを笑顔で遂げるべく努める様に。

「けれどもわたしは……わたし達は貴女あなたのことを、それでもずっとおもっているから。友達として、貴女あなたの幸せを願い続けているから。だからもし……もし貴女あなたが助けを必要するときは、遠慮無く声を掛けてね。必ず力になるから……」

 ふたことを振り切る様に、黙って自宅へと入っていった。
 わたることと同じ気持ちだったが、最早ふたには届かないのだろう。

 三人は知らない。
 この日ふたが遅くなったのは、すめらぎかなのスキャンダルを記者に売っていたからだ。
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