日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

文字の大きさ
57 / 315
第一章『脱出篇』

第十八話『粗大塵』 破

しおりを挟む
 しんって大幅に強化された腕力は、片腕でいともやすく机を振り回す。
 しんは怒りのままにじがの頭部を何度も殴打していた。
 顔を血で真赤まっかにしたじがほうほうていで逃れようとするも、背中に激しく机の縁がむ。

「ぐえええっっ!」

 何より、この様に武器を介して攻撃されると、じがじゅつしきしんは発動しない。
 怒りにより解き放たれたしんの暴力性が、皮肉にも閉塞していたしんの活路を開いた、かに見えた。

「うらああアアアアッッ!!」

 しんは机を真二つに蹴り割ると、片割れの脚をつかんで再びじがを下敷きにする。
 更に、割れた縁に飛び乗って体重を掛け、追い打ちを掛けた。
 その手には椅子の背が握られている。

「ガアアアアッッ!!」

 しんじがを下敷きにした机の片割れを踏み締め、敵の体を床へくぎけにした上で、椅子による殴打を見舞う。
 何度も、何度も後頭部目掛けて両手でたたける。
 その胸中には、ける様な痛みが咲き乱れていた。

 ごめんな、ごめんな――しんのうに家族の顔が去来する。
 けんに明け暮れて散々迷惑を掛けた癖に、肝心な時に守ってやれなかった。
 どこまでも駄目な兄貴でごめんな。
 せめてこいつだけはぶっ殺す!――まるで喪失という毒の花が麻薬として作用しているかの様に、しんの肉体は限界を超えて突き動かされていた。

「この……調子に……乗るな!」

 じがは机の下から脱出し、しんに飛び掛かった。
 不安定な足場で思うように動けなかったしんは腰にしがみ付かれてしまった。

『熱源を感知しました』

 全身から血を噴き出しながら、しんは机の上から転げ落ちた。
 じがはそのまましんの体を押さえ込む。

「ははは、もう放さない! このまま出血多量で死ぬが良い!」
気持悪キモいんだよ、ごみくず野郎がァッ!!」

 しんじがの博衣を掴み、腕力でがし、ともえげの要領でじがを天井に叩き付けた。
 両手と足から激しく血が噴き出したが、今やしんは痛みを意に介さない。
 素早く起き上がると、机の片割れの脚を掴み、落下してきたじがに向けてフルスイングをたたんだ。

「ギャバァーッッ!!」

 じがは机と共に壁に叩き付けられた。

「ハァ……ハァ……」

 ここまで強烈な怒りと憎しみ、そして悲しみを原動力に暴れ回ったしんだったが、すがに体力が尽きてきていた。
 この出血量、まとに動けていただけでも奇跡なのだ。
 むしろ、まみれで立ったままじがにらける姿が異様ですらある。

「フフ……ククク……」

 じがはゆっくりと笑いながら起き上がった。

「いや、流石にダメージは受けたよ。だが、全然致命的とまでは行かないな。しん使いにとって、強化された己の肉体の堅固さは並大抵の鈍器を上回る。つまり、武器を使った殴打は寧ろ普通に殴るよりも効果が薄いのさ。だから、簡単にかいふくしてしまう」

 じがしんの攻撃などでもないとでも言いたげに、ピンピンしている姿を殊更に見せ付ける様に両腕をひろげた。
 頭から流れていた血も既に止まっており、まんしんそうしんと残酷なまでの対比が鮮明になっている。
 しんが怒りのままに暴れ回ってした事は、精々が所長室を散々荒らし回った事くらいだった。
 振り回した机に巻き込まれた電灯が弱々しく点滅している。

「全く、どうしてくれるんだ。ぼくの研究はこうこくを打倒し、世界を正しく創り変えるための大事な研究なんだぞ。高々数人が死んだからって向きになっちゃってさ。もうまい、革命に非協力的な愚民共のことなんて知らないよ」

 部屋の明かりが切れ、部屋は薄闇に包まれた。
 じがは表情から薄笑いを消してためいきを吐くと、ひどく冷め切った眼でしんを侮蔑的に見下ろす。

きみの父親の身分証は見せてもらったよ。警察官だったんだって? ぼく、あいつら嫌いなんだよね。頭悪い癖に法の番人気取っちゃってさ。世の中の進歩に全く寄与しない。世の中を良くしようという志に難癖を付け、結論ありきで罪人に仕立て上げる、権力による民衆への抑圧と弾圧の象徴。この世で最も殺さなければならない、全く価値の無いごみの様な連中だ」

 じがむらもりかつて大学の研究者だった。
 しかし、その研究には違法な不正が見付かり、逮捕されて職を追われた。
 その時の取り調べが横暴だった為、彼は警察を酷く憎んでいるのだ。

 保釈された彼が最初にした事は、過激派のデモを取り締まる機動隊員へのリンチに参加した事だった。
 この時、じがに放火されて殺害された機動隊員はまだ二十歳そこそこの未来ある若者だった。
 彼がそうせんたいおおかみきばに入ったきっかけは、この時の「活躍」がしゅりょうДデーの目にとどまったことだった。

 以後、彼は警察官を率先して殺している。
 研究の為の人体実験、そして研究成果となる兵器の試用には率先して警察官の身柄をさらっている。
 無論、目撃者は全て抹殺しつつ、である。
 所長室まで直接来たしんは見ていないが、ちら側北館の研究室にはそんな死体が何人分も安置されている。

きみの様な、野蛮人の息子を持つ父親だ。警察官として何をやってきたのかも何となく想像出来る。どうせ警察権力をかさに着てきみの非行をしたりとか、そういう汚い事をやっていたんだろう? 寧ろ世直しになったと思うね」
「勝手に言ってろよ、人殺しのごみが。既に手前テメエへの怒りはカンストしてるんだ。今更何言われようが響かねえよ」

 しんの父親は単なる巡査であり、そのような権力などあろうはずが無かった。
 が、じがの暴言にしんはや取り乱さない。
 ただ冷静に、目の前の相手をどうたたきのめすか考えていた。
 荒れていた頃から、寧ろキレた後にめてからがしんの本領発揮だった。

 ふと、冷静になったしんは奇妙な感覚に気が付いた。
 全身から噴き出た筈の血が流れていかない。
 動脈すら傷付いた筈なのに、既に血が止まっている。

(不思議な気分だ。冷静になったら、むなくそは悪いのに気分は良くなってきやがった。死に掛けてハイになってんのか? いや、多分その段階はもう超えた……)

 じがもまた、この異変に気が付いたのかあおめた。
 明らかに変化の兆候がある。
 じがはさっさと勝負を決めようと、例によって突進してきた。
 しかし、しんとっに椅子を投げ付け、じがの出鼻をくじいた。

「ひゃん!!」

 じがは情けない悲鳴を上げてひるんだ。
 明らかにしんの体力は恢復している。
 それは、彼がしんの更なる深みに達したからだ。

「おい、手前テメエ……」

 しんはドスの利いた低い声ですごんだ。
 彼には一つの確信があった。
 全身にまとわりいた血が固まり始めている。
 しかし、それは血液の凝固作用に因る現象ではない。

しんの深みに達すれば、ダメージも恢復力も大きくなるんだったな」

 しんの全身で固まり始めた血がゼリー状になって両腕へと移動していく。
 そして、腕の血と混ざり合い結晶化していく。
 いなしんの腕に熱を奪われて氷結していく。
 しんはこれら一連の現象を自らの意思で確信的に起こしていた。

「じ、じゅつしきしんに覚醒しただと!?」

 じがは動揺してあと退ずさる。
 この時をもって、彼の優位は完全に消滅した。
 しんの深みが同等ならば、しんの攻撃は充分にじがの命に届き得る。
 最早彼は安全ではない。

「覚悟しろよ、ごみくず野郎。どうやらおれは完全に目覚めちまった。自分がどんな能力を持っているか、完全にわかっちまったよ」

 あぶしんじゅつしきしんは水分を操る能力である。
 彼は血液の水分を操って腕に集中させ、更に凍らせて拳にまとわせたのだ。
 そのあかい氷は、ただの氷ではない。
 しんによって固まった結晶のその硬度はダイヤモンドにも匹敵する。

「往生しろやあっっ!!」
「ヒイイイイイッッ!!」

 しんじがに飛び掛かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

優しい世界のシリウスさん

みなと劉
ファンタジー
ギルドで毎日仕事をコツコツとこなす青年シリウスは 今日も掲示板とにらめっこ。 大抵は薬草採取とか簡単なものをこなしていく。 今日も彼は彼なりに努力し掲示板にある依頼書の仕事をこなしていく

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...