日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第二章『神皇篇』

第四十六話『子少女』 序

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 こうこく首相官邸ではのうじよう内閣の閣僚達がつきしろさくによって招集されていた。
 内閣総理大臣・のうじようづきが拳銃で自らの胸を撃ったと、その状態をつきしろが発見したという体で、いの一番に連絡を受けた副総理・ふみあきによって集められたのである。
 のうじようはすぐに病院へと搬送された。
 しかし心停止から時間がち過ぎており、急死の発表は時間の問題だろう。

「えらいことになりましたな……」

 外務大臣・づきれんろうは溜息を吐いた。
 この一件、外に向けてはこうこくの危うさをけんでんしたに等しい大問題である。
 この世界にいて、空に映像を投影するのはこうこく政府の公報だと認識されている。
 つまり、こうこくの意思としてあの映像を世界中に見せたと思われるのだ。

 まずいのは、これがのうじようを陥れる政争だとされる点だ。
 更に、身内同士の争いにかまけるあまり他国に平気でけんを売る不安定さ。
 ただでさえ悪いこうこくの対外的イメージがいちじるしく毀損されるのは目に見えている。
 外務大臣の立場として、づきゆううつだった。

「閣僚の皆様方、たった今のうじよう首相閣下御臨終との連絡が入りました」

 そんな中、つきしろが電話を終えて閣僚達に報告をする。
 首相官邸の一室はどよめきに包まれた。

「そうですか……誠に残念です……」

 副首相内務大臣・ふみあきは沈痛な面持ちで目を閉じた。
 しかし、この様な不測の事態で内閣総理大臣が交代になる時、暫定的にその座に就任するのは彼である。
 その表情、仕草のどこまでが本気でどこまでが演技か、わかったものではない。

副総理……いや、総理とお呼びした方がよろしいかな? この度は我が主・のうじよう閣下より首相職を引き継がれる訳ですが、どうかくれぐれも、のうじよう閣下のを無下になさらぬよう願います」

 つきしろくぎを刺す様に言葉を贈った。
 権力の移行は規定の流れであるが、その様はまるでつきしろによってのうじようの後継者が指名されたようにも見えてしまう。
 そんな様子に、閣僚達からは反発の声も上がる。

つきしろ殿、貴方あなたこうこくかじりに口を出す権限などありませんぞ」

 最年長の閣僚であるていしん大臣・ごうむねのりつきしろを叱責した。
 つきしろかしこまって頭を下げる。

「大変失礼致しました。確かに、わたしは今となっては前総理の秘書に過ぎず、基より国の行く末を担う立場になく、今や完全なる部外者となってしまいました。は己が立場をわきまえ、ただ立ち去りましょう」

 閣僚達の目にはつきしろが失意の中で追い出された様に見えていたに違いない。
 だが、づき外相だけはつきしろが一瞬ほくんだのを見ていた。

(あの男、何かたくらんでいる……?)

 そんなづきの疑いをに、新総理は遠征軍大臣・ごくやすから質問を受ける。

「して、ずは世界中の空に映し出された例の映像ですが、いかなさるおつもりですか?」
ごく伯爵……。ふむ、わたしとしては映像にあった『めいひのもとの皇位継承権者の海外訪問』が気になりますな。これは少し、裏を取ってみましょう」
殿、お待ちください」

 嫌な予感から、づきが話に割って入った。

「裏を取ってどうするのです? もし真実なら、のうじよう閣下をした人工知能が言わされた様にめいひのもとを攻め落とすおつもりですか?」
わたしはその可能性も排除しません」

 づきの額に冷や汗が流れた。

「しかし殿、のうじよう閣下はあくまで平和裏の吸収をのぞみだったはず。それはじんのう陛下よりの勅命だったと聞き及んでおりますぞ」
じんのう陛下の御望みはあくまであまのつぎが損なわれぬこと。そのためには相手側の皇統存続が条件であると判明しております。つまり、それを満たすならば武力行使も構わない」
な……! のうじよう殿の御遺志はどうなる?」
「まるでつきしろ殿の様なことをおつしやいますな、づき殿。しかし、先程ごう殿より指摘があったとおり、つきしろ殿がこうこくの行く末を決めるなどあってはならない」

 その時、づきは察した。
 これがつきしろの狙いだったのではないか。
 のうじようの方針を継ぐことを「部外者の介入」におとしめ、路線変更を止められない様にする。

(つまりつきしろ殿は主戦派で、のうじよう前首相が邪魔だった……? いや、すがにそれは……)

 づきに胸中に不安が生じた。
 そんな彼を、は一顧だにしない。

「調査結果が事実と出た場合、めいひのもとに宣戦布告します。のうじよう閣下の、じんのう陛下の、そしてこうこくそのものの期待に、このが必ず応えて見せましょうぞ」

 日本国にとって、状況は加速度的に悪化していた。



    ⦿⦿⦿



 道路上で長身の男が一人、人形の様な機械の残骸が散らばる中でスーツの汚れを払っている。
 第二皇女・たつかみの侍従・かいいんありきようることをこの場から逃がすことに成功したのだが、彼にはやるべきことが残されている。
 周囲に舞い上がった薔薇ばらの花弁に様々な映像が映し出された。
 その中からかいいんは何かを探していた。

「妙だ……あの双子の姿が捕捉出来ない……」

 かいいんありきよじゆつしきしんは、その薔薇の花弁で様々な現象を起こす。
 戦闘に於いて相手を殺傷するだけでなく、様々な機械に形を変えることも出来るのだ。
 うることくも兄妹を送迎していた快適な大型車も彼が作り出したものだし、今は探知機として機能している。
 その能力を駆使して、彼は行方不明になっているくも兄妹を探し出し、保護しようとしていた。

「我が能力から逃れる隠れ場所はとおどうきようの異空間しか考えられない。あるいは皇族方と同程度の速度で移動しているのか……。いずれもあり得ぬが、そもそも突如姿を消したことからして奇妙な話。もう少し検索能力を上げてみるか……」

 かいいんが薔薇の花を振ると、更なる花びらが彼の周囲を舞った。
 彼は一刻も早く自身が預かった者達の安全を確保したかった。
 とはいえ、この様な不測の襲撃に遭って自身の警戒を怠っていた訳ではない。
 だが、そんな彼に予想外の一撃が襲い掛かった。

「がはっ……何……!?」

 突如、一本の矢がかいいんの腹部を貫いた。
 薔薇の索敵に引っかからなかった矢が花弁の隙間を縫って飛来したのだ。
 かいいんは困惑しながらも体を伏せ、花弁を自身に積もらせる。

「くっ……! しくじった……! 意識が……!」

 突然不意打ちに射られた矢によって、かいいんは意識を失ってしまった。

    ⦿

 高架の上に一人の少年の様な風体の男が和弓を持ってたたずんでいる。
 風にあげまきがみと朝服似の衣装を棚引かせるその男はおとせい――そうせんたいおおかみきばの首領補佐だ。
 月明かりを浴びる彼の視線の先には薔薇の花弁に埋もれたかいいんの姿があった。

「流石は皇族の侍従だ。ぼくそうしんけずりゆみ』と『』をもつてしても仕留め切れなかった」
「珍しいですな、貴方あなたが狙いを外すとは……」

 おとの背後から旧日本軍の軍服を思わせるちの老翁が声を掛けた。
 首には猫面が掛けられている。

「やあ、御苦労だったね」
「いえいえ、まだわしの役割は尽きていませんよ。空港でやったことなどほんの肩慣らし、本番はこれからで御座いますからのう……」

 老翁の背後に黒渦が多数生じ、その中から小型人形状の機械――さんきゆうどうしんたいが顔を出した。
 どうやら大型車を襲ったのも老翁の手によるものらしい。
 老翁は周囲を見回し、何者かを探している。

「ふむ、居ましたぞ」
うることか。そんな我楽多共の寄せ集めで彼女を仕留められるとは思わないがね」
「基よりそのつもりは御座いません。あくまでも足止めです。こういう場合、雑魚ざこの寄せ集めの方がむしろ効果的なのですよ」

 さんきゆうどうしんたいが一斉に飛び立っていった。

    ⦿

 うることは夜の街を急ぎ疾駆していた。
 目指すはさきもりわたる達が帰国の時を待つ空港である。
 彼女は嫌な予感を覚えていたのだ。

わたる……みんな……無事で居て……!)

 しかし、そんな彼女の元に空から無数の機械人形――さんきゆうどうしんたいが襲い掛かる。
 すぐさま異変に気が付いたことは、とどまって天に拳を振り上げた。
 すさまじい風圧が夜空に向けて立ち昇り、さんきゆうが粉々に砕けて破片が舞い落ちる。
 彼女の周囲では急ハンドルと急ブレーキを掛けて停止する車が右に左に混乱を呼んでいた。

(やはり狙いはわたしか……!)

 その時、ことは背後から悲鳴を聞いた。
 すぐさま振り向くと、さんきゆうが道行く人々を襲っている光景が目に入った。
 彼女は駆け出し、刹那にして遠く離れた現場でさんきゆうを蹴り砕く。

「あ、ありがとうございます!」

 間一髪で助けられた二人の男女がことに礼を言った。
 こといちべつもくれずに別の人を襲うさんきゆうに飛び掛かる。
 敵の目的が彼女の足止めだとすると、このやり方は実に効果的だった。

うつとうしい! こんなところで道草を食っている場合じゃないのに!)

 ことは次から次へと市民に襲い掛かるさんきゆうたたこわし、彼らを守る。
 この場から人々を逃がすことには成功したが、すぐさま次の交差点にさんきゆうが群がろうとしている光景が目に入った。
 ことは直ちにちらの防衛へ向かい、再びさんきゆうの破壊を始めなければならなかった。

(切りが無い……!)

 ことさんきゆうに拳や蹴りを浴びせ、破壊し続ける中で市民は逃げ惑う。
 まだまだ彼女の足止めは続くようだ。
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