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第二章『神皇篇』
第五十二話『散華』 序
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皇國が太平洋上に鎮座したことで、当然ながら新しい海が生まれたことになる。
日本と皇國の間に生まれた新たな海は、皇國によって区切られたという由来で「皇海」と呼ばれている。
その皇海上で、超級為動機神体の小隊が猛スピードで飛行し、北上していた。
『司令部はやっと開戦に踏み切ったようだな』
『遠征軍の一番槍は我々、石動隊が貰った!』
『米国との一戦では輪田隊に手柄を取られたが、今回はそうは行かん!』
皇國の軍事的危険性は大きく二つ、統一政府による暴力の独占が成立しておらず大貴族が独自の考えで私軍を動かしてしまうこと、正規軍の規模が巨大過ぎて末端の部隊が統制を外れて暴走しがちであることが挙げられる。
政界で軍閥と貴族閥が権勢を争っているように、正規軍にも貴族の私兵と軍事的な主導権を争う考えが広まっており、中にはその対抗意識から独断専行に出る部隊も存在する。
石動冬二大尉の率いる石動隊十二機は、そんな血の気の多い小隊の一つである。
彼らは虎駕憲進と能條緋月の面談が夜空に流出した段階で出撃準備を始めており、宣戦布告が日本国に届けられたとほぼ同時に日本国へ向けて飛び立っていた。
狙うは電撃的な奇襲により東京の首都機能を壊滅させ、即時的に日本国を継戦不能に追い込むことであった。
もし彼らが日本国に到達してしまえば、その瞬間に皇國は日本の本土に大量の軍事力を一気に転移させられる状況となってしまう。
『む、石動大尉』
『どうした?』
『前方に敵影らしき気配を察知しました』
為動機神体の操縦士が敵の探知に恃むのはレーダーなどの機械的機構ではない。
神為に依って常識外れに強化された感覚が、レーダーよりも遥かに高い精度を以て敵を確実に捕捉するのだ。
『敵影だと? それは妙だな』
しかし今、石動隊は戸惑っていた。
彼らが察知した敵の形状や速度から、信じられない敵が浮かび上がるからだ。
『まさかこれは、超級為動機神体か!』
『そんな莫迦な! 明治日本が持っている筈が無い!』
『だがこの気配、紛れも無く……!』
石動隊は前方から一機の超級為動機神体が猛然と迫ってくる気配を感じ取っていた。
一応、彼らには為動機神体との交戦経験もある。
貴族の私兵との小競り合いや、叛逆組織による蜂起で敵が為動機神体を動員してくることは稀にある。
しかし、外国との戦争で為動機神体を相手にすることは想定していなかった。
『総員、戦闘用意!』
十二機の超級為動機神体・ミロクサーヌ零式が編隊を組み替え、機体同士の間隔を広げていく。
彼らの火力は単機でも充分であり、編隊飛行の目的は専ら移動速度と燃費の向上に尽きる為、戦闘に入る際は同士討ちを避けることを優先して離れるのだ。
そんな彼らは、遥か前方に金色の光が一欠片瞬くのを目撃した。
『見えたぞ! 墜ちろ!』
石動隊長機が右腕の砲口から光線砲を撃った。
視認した瞬間の、躊躇無き射撃である。
この距離で正確な射撃を行うには相当な技術が必要であり、単に石動の腕の確かさが窺える。
現に、撃てたのは隊長機から一発のみである。
通常兵器なら、相手は何が起きたか理解することも無く消し炭になっているだろう。
しかし、敵機はまるで予測していた様に石動の射撃を回避した。
光線砲は物理的に目視で回避出来ず、また超級為動機神体にはレーダー探知が効かない以上、相手方も神為に因る超認識覚を身に付けているとしか考えられない。
今度は敵が腕の光線砲ユニットから二発射撃。
瞬く間に、石動隊は二機を撃墜されてしまった。
更に、敵は刹那にして石動隊に肉薄し、撃墜の爆煙へと突っ込んだ。
『な、なんだ今の機体は!?』
『金色の……超級為動機神体!?』
日本国から飛んできた機体は煙を抜け出し、そのまま石動隊を突っ切って皇國へ向かって行く。
『何をしている! 追え! 奴を皇國へ行かせるな!』
『大尉、直靈彌玉の回収は?』
『俺がやる! お前らは奴を墜とせ!』
石動隊長機以外の九機が金色の超級為動機神体の後を追って旋回した。
九機は編隊を組み、加速して敵との距離を縮めていく。
金色の機体が石動隊の射程圏内に捉えられた。
今度は相手側が射撃を、それも九機の斉射を受ける番だ。
流石に一溜まりもあるまい――誰もがそう思った。
だが、金色の機体は突如急上昇して機体を翻し、九機の斉射を難なく回避した。
宛ら宙返りの様に回転しながら石動隊の方へと正面を向けると、三発の光線砲を連射。
その一つ一つが石動隊の機体を的確に捉え、三機を撃墜。
石動隊は残り六機となった。
『拙い! 直靈彌玉を回収しないと……!』
『させるか!』
撃墜された機体から零れた球体の操縦室「直靈彌玉」を回収しようと、三機のミロクサーヌ零式がそれぞれ向かった。
だが金色の機体はそれを狙い澄ましたかの様に悉く撃ち抜いた。
このとき、石動隊は初めて敵機の操縦士の声を聞いた。
まだ若い、青年の様な声だ。
『うひぃっ!?』
同時に、残ったミロクサーヌ零式の方へは金色の機体自身が接近し、手に持った日本刀型の切断ユニットを振るう。
狙われた機体は為す術無く胴体から真っ二つ、またしても直靈彌玉が機体から零れ落ちた。
石動隊は残り二機。
半ば錯乱して突撃した彼らだったが、敢え無く立て続けに斬り伏せられてしまった。
『莫迦な! 全滅だと!?』
三機のミロクサーヌ零式が追い付いた。
一機は隊長・石動冬二の搭乗する機体、そして他の二機は、なんと金色の機体が最初に撃墜した者達だった。
これこそ、皇國の軍隊が持つ脅威の一つである。
壱級以上の為動機神体は「直靈彌玉」と呼ばれる球体の操縦席さえ無事ならば何度でも再生させることが出来るのだ。
とはいえ一機の超級を再生させるには途方も無い神為が必要で、通常ならば一兵士で賄えるものではない。
しかし、神皇の供給する無尽蔵の神為が、破壊した敵の兵器が何度でも復活してしまう脅威の軍隊を成立させているのだ。
『お前達は隊員の直靈彌玉を回収しろ。金色の機体よ、直靈彌玉を破壊しなければ我々は何度でも蘇ると知らなかったか?』
『関係無いな!』
青年の声が石動の問いを突き返す様に答え、二発の射撃。
蘇ったばかりの二機はあっという間に撃墜され、残るは隊長たる石動冬二の駆る一機のみとなった。
『何処の若造か知らんが舐めるなよ! この石動冬二は新皇軍で空中戦の巧みさから隼と呼ばれ讃えられた男! 明治日本の青二才が間に合わせの為動機神体で勝てるものではないわ!』
石動の機体は変則的なジグザグ飛行で金色の機体に迫りながら光線砲を射撃。
しかし、唯の一発として敵機には中たらない。
反撃とばかりに金色の機体が一発の光線砲を撃つと、その射撃は石動の機体の肩に直撃。
体勢が大きく崩れたところへ、金色の機体は切断ユニットを振るい追い打ちを掛ける。
『何ィ!?』
石動の機体は腰の下から袈裟斬りにされ、金色の機体の背後で爆発四散した。
『莫迦なアアアアアッッ!!』
彼にとって不幸中の幸いは、爆発で直靈彌玉が勢い良く弾け飛んだことだ。
皇海上には十二機の為動機神体――復活した分も含めると十四機分の瓦礫、それと十二個の球体が虚しく波に揺られていた。
金色の機体は既に皇國へ向かって飛び去っていた。
⦿⦿⦿
岬守航は自らの駆る機体――超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコに嘗て無い一体感を覚えていた。
まるで、自分はこれを操縦する為に生まれてきたような、そんな気すらしていた。
「こんな力を出せたのは初めてだ……!」
実際、航にとってこの機体は今までに操縦した二機を遙かに上回る名機だった。
今なら誰にも負ける気がしない。
先程も、皇國の正規軍と思われる小隊十二機を単機で文字通り全滅させてしまった。
これならば想定よりも早く皇國へ辿り着ける。
航の胸に燃える闘志が神為の嘗て無い深層を照らし、超級為動機神体と密接に感覚を繋げている。
確固たる意志が、自信が神為を急速に回復させ、既に傷も殆ど癒やしてしまっている。
「岬守航さん! 兎黄泉が御兄様の居場所まで誘導しますです!」
「ああ。そこに魅琴も居て、神皇と戦っているんだな?」
「ハイです! 兎黄泉もこの機体と感覚が繋がっていますです!」
「解っているさ。兎黄泉ちゃんの意思が僕の中にも入ってきている。このまま君の案内で飛ばせてもらう!」
後方の副操縦席「和魂座」に坐る雲野兎黄泉の存在も航の視界を明瞭にしていた。
彼女が感じ取っている兄・雲野幽鷹の居場所が操縦席「荒魂座」の航にも直接流れ込んでくる。
ここへ来て、航はまたしても双子の強力な神為に助けられていた。
雲野兄妹はそれぞれ神皇の複製人間である。
それ故に二人は強大な神為を持ち、それを他者に貸し与えることが出来る。
それは元々、オリジナルたる神皇の力だという。
航は先程、その力の一端を体感した。
「この機体を操縦して、そして正規軍と戦って能く解った。何故、超級為動機神体の操縦室は球体をしているのか、その上方には謎の空間が設けられているのか……」
水徒端早辺子と初めて超級に乗り込んだ時の疑問が今紐解かれた。
「超級為動機神体には回収した操縦室『直靈彌玉』から友軍機を復活させる! それを一瞬にして可能にしているのが神皇の強大な神為!」
航達は脱出の際に使用した超級為動機神体・ミロクサーヌ改の直靈彌玉を破壊した。
直靈彌玉が残っていては、撃墜されたとて再生させることが出来てしまうからだとは聞いていた。
おそらく、超級為動機神体を再生させる為の何らかの装置が存在するのだろう。
そしてそれが、超級為動機神体そのものに備わっている。
再生自体には神皇の神為が絶対に必要という訳ではない。
武装戦隊・狼ノ牙がミロクサーヌ改の復活を目論んでいた様に、時間と労力さえ掛ければ常人の神為でも不可能ではない。
だが、それを戦闘中の僅かな時間で行うとなると、尋常では無い強大な神為が必要となる。
それの条件を満たし、強力無比な兵器を事実上無尽蔵に再生してしまう――まさにこれが戦争に於ける神皇の脅威の一端なのだ。
「神皇の強大な神為が可能にする常識外れの軍隊運用はこれだけじゃないんだろう。そりゃ魅琴の爺さんも暗殺を考えるよ、魅琴も使命感を持って決意するよ……」
航は思い出す。
強大な神為を見せ付けて航達を蹂躙した第三皇女・狛乃神嵐花ですら、神皇と比較出来る程のものではないのだろう。
時空・世界線を越えて移動するという超常現象を、日本列島の十倍の面積を持つ島嶼丸ごと実現してしまう程の神為。
そんなエネルギーを背景にしているからこそ、米国の核攻撃にも無傷で耐えたり、空中要塞を転移させて大量展開したりと、皇國は勝ち目の無い新たな覇権国家としての在り方を確立させているのだ。
(魅琴、君はずっと一人で背負い込んでいたのか……)
航は思い出す。
麗真魅琴はなんでも出来る人間だった。
何をやっても敵わない、絶対的な天稟を与えられた人間だった。
そのことが彼女の使命感を確固たるものにしてしまったとすれば……。
(不甲斐無かったよ。僕なんか当てに出来なかったんだな。その癖、御節介で向こう見ずな、厄介な幼馴染だ。あれくらいしないと折れないと思ったんだ。そこまでしてでも、僕の気持ちを踏み躙って、傷付けて、突き放して、憎まれてでも僕を関わらせたくなかった。そうやって最後まで全部自分一人で背負い込んで、全部壊して棄てて、使命だけを抱いて神皇と心中する気か……!)
航は進むべき行き先を真っ直ぐに見据えた。
カムヤマトイワレヒコは更に加速する。
揺るぎ無い決意と情熱が航を突き動かしていた。
己を導く兎黄泉の瞳、意志を宿した航の瞳は同じ場所をはっきりと捉えている。
「させるかよ! 俺を舐めるなァァァァッッ!!」
皇海の上空を驀進する超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコ。
その金色の機体を駆る航はしかし、自身が如何なる戦いに割り込もうとしているのか想像も付くまい。
おそらく、その目的地たる皇國皇宮で繰り広げられているのは、三千世界で類を見ない超絶的規模の戦いである。
運命の時は刻一刻と迫っていた。
日本と皇國の間に生まれた新たな海は、皇國によって区切られたという由来で「皇海」と呼ばれている。
その皇海上で、超級為動機神体の小隊が猛スピードで飛行し、北上していた。
『司令部はやっと開戦に踏み切ったようだな』
『遠征軍の一番槍は我々、石動隊が貰った!』
『米国との一戦では輪田隊に手柄を取られたが、今回はそうは行かん!』
皇國の軍事的危険性は大きく二つ、統一政府による暴力の独占が成立しておらず大貴族が独自の考えで私軍を動かしてしまうこと、正規軍の規模が巨大過ぎて末端の部隊が統制を外れて暴走しがちであることが挙げられる。
政界で軍閥と貴族閥が権勢を争っているように、正規軍にも貴族の私兵と軍事的な主導権を争う考えが広まっており、中にはその対抗意識から独断専行に出る部隊も存在する。
石動冬二大尉の率いる石動隊十二機は、そんな血の気の多い小隊の一つである。
彼らは虎駕憲進と能條緋月の面談が夜空に流出した段階で出撃準備を始めており、宣戦布告が日本国に届けられたとほぼ同時に日本国へ向けて飛び立っていた。
狙うは電撃的な奇襲により東京の首都機能を壊滅させ、即時的に日本国を継戦不能に追い込むことであった。
もし彼らが日本国に到達してしまえば、その瞬間に皇國は日本の本土に大量の軍事力を一気に転移させられる状況となってしまう。
『む、石動大尉』
『どうした?』
『前方に敵影らしき気配を察知しました』
為動機神体の操縦士が敵の探知に恃むのはレーダーなどの機械的機構ではない。
神為に依って常識外れに強化された感覚が、レーダーよりも遥かに高い精度を以て敵を確実に捕捉するのだ。
『敵影だと? それは妙だな』
しかし今、石動隊は戸惑っていた。
彼らが察知した敵の形状や速度から、信じられない敵が浮かび上がるからだ。
『まさかこれは、超級為動機神体か!』
『そんな莫迦な! 明治日本が持っている筈が無い!』
『だがこの気配、紛れも無く……!』
石動隊は前方から一機の超級為動機神体が猛然と迫ってくる気配を感じ取っていた。
一応、彼らには為動機神体との交戦経験もある。
貴族の私兵との小競り合いや、叛逆組織による蜂起で敵が為動機神体を動員してくることは稀にある。
しかし、外国との戦争で為動機神体を相手にすることは想定していなかった。
『総員、戦闘用意!』
十二機の超級為動機神体・ミロクサーヌ零式が編隊を組み替え、機体同士の間隔を広げていく。
彼らの火力は単機でも充分であり、編隊飛行の目的は専ら移動速度と燃費の向上に尽きる為、戦闘に入る際は同士討ちを避けることを優先して離れるのだ。
そんな彼らは、遥か前方に金色の光が一欠片瞬くのを目撃した。
『見えたぞ! 墜ちろ!』
石動隊長機が右腕の砲口から光線砲を撃った。
視認した瞬間の、躊躇無き射撃である。
この距離で正確な射撃を行うには相当な技術が必要であり、単に石動の腕の確かさが窺える。
現に、撃てたのは隊長機から一発のみである。
通常兵器なら、相手は何が起きたか理解することも無く消し炭になっているだろう。
しかし、敵機はまるで予測していた様に石動の射撃を回避した。
光線砲は物理的に目視で回避出来ず、また超級為動機神体にはレーダー探知が効かない以上、相手方も神為に因る超認識覚を身に付けているとしか考えられない。
今度は敵が腕の光線砲ユニットから二発射撃。
瞬く間に、石動隊は二機を撃墜されてしまった。
更に、敵は刹那にして石動隊に肉薄し、撃墜の爆煙へと突っ込んだ。
『な、なんだ今の機体は!?』
『金色の……超級為動機神体!?』
日本国から飛んできた機体は煙を抜け出し、そのまま石動隊を突っ切って皇國へ向かって行く。
『何をしている! 追え! 奴を皇國へ行かせるな!』
『大尉、直靈彌玉の回収は?』
『俺がやる! お前らは奴を墜とせ!』
石動隊長機以外の九機が金色の超級為動機神体の後を追って旋回した。
九機は編隊を組み、加速して敵との距離を縮めていく。
金色の機体が石動隊の射程圏内に捉えられた。
今度は相手側が射撃を、それも九機の斉射を受ける番だ。
流石に一溜まりもあるまい――誰もがそう思った。
だが、金色の機体は突如急上昇して機体を翻し、九機の斉射を難なく回避した。
宛ら宙返りの様に回転しながら石動隊の方へと正面を向けると、三発の光線砲を連射。
その一つ一つが石動隊の機体を的確に捉え、三機を撃墜。
石動隊は残り六機となった。
『拙い! 直靈彌玉を回収しないと……!』
『させるか!』
撃墜された機体から零れた球体の操縦室「直靈彌玉」を回収しようと、三機のミロクサーヌ零式がそれぞれ向かった。
だが金色の機体はそれを狙い澄ましたかの様に悉く撃ち抜いた。
このとき、石動隊は初めて敵機の操縦士の声を聞いた。
まだ若い、青年の様な声だ。
『うひぃっ!?』
同時に、残ったミロクサーヌ零式の方へは金色の機体自身が接近し、手に持った日本刀型の切断ユニットを振るう。
狙われた機体は為す術無く胴体から真っ二つ、またしても直靈彌玉が機体から零れ落ちた。
石動隊は残り二機。
半ば錯乱して突撃した彼らだったが、敢え無く立て続けに斬り伏せられてしまった。
『莫迦な! 全滅だと!?』
三機のミロクサーヌ零式が追い付いた。
一機は隊長・石動冬二の搭乗する機体、そして他の二機は、なんと金色の機体が最初に撃墜した者達だった。
これこそ、皇國の軍隊が持つ脅威の一つである。
壱級以上の為動機神体は「直靈彌玉」と呼ばれる球体の操縦席さえ無事ならば何度でも再生させることが出来るのだ。
とはいえ一機の超級を再生させるには途方も無い神為が必要で、通常ならば一兵士で賄えるものではない。
しかし、神皇の供給する無尽蔵の神為が、破壊した敵の兵器が何度でも復活してしまう脅威の軍隊を成立させているのだ。
『お前達は隊員の直靈彌玉を回収しろ。金色の機体よ、直靈彌玉を破壊しなければ我々は何度でも蘇ると知らなかったか?』
『関係無いな!』
青年の声が石動の問いを突き返す様に答え、二発の射撃。
蘇ったばかりの二機はあっという間に撃墜され、残るは隊長たる石動冬二の駆る一機のみとなった。
『何処の若造か知らんが舐めるなよ! この石動冬二は新皇軍で空中戦の巧みさから隼と呼ばれ讃えられた男! 明治日本の青二才が間に合わせの為動機神体で勝てるものではないわ!』
石動の機体は変則的なジグザグ飛行で金色の機体に迫りながら光線砲を射撃。
しかし、唯の一発として敵機には中たらない。
反撃とばかりに金色の機体が一発の光線砲を撃つと、その射撃は石動の機体の肩に直撃。
体勢が大きく崩れたところへ、金色の機体は切断ユニットを振るい追い打ちを掛ける。
『何ィ!?』
石動の機体は腰の下から袈裟斬りにされ、金色の機体の背後で爆発四散した。
『莫迦なアアアアアッッ!!』
彼にとって不幸中の幸いは、爆発で直靈彌玉が勢い良く弾け飛んだことだ。
皇海上には十二機の為動機神体――復活した分も含めると十四機分の瓦礫、それと十二個の球体が虚しく波に揺られていた。
金色の機体は既に皇國へ向かって飛び去っていた。
⦿⦿⦿
岬守航は自らの駆る機体――超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコに嘗て無い一体感を覚えていた。
まるで、自分はこれを操縦する為に生まれてきたような、そんな気すらしていた。
「こんな力を出せたのは初めてだ……!」
実際、航にとってこの機体は今までに操縦した二機を遙かに上回る名機だった。
今なら誰にも負ける気がしない。
先程も、皇國の正規軍と思われる小隊十二機を単機で文字通り全滅させてしまった。
これならば想定よりも早く皇國へ辿り着ける。
航の胸に燃える闘志が神為の嘗て無い深層を照らし、超級為動機神体と密接に感覚を繋げている。
確固たる意志が、自信が神為を急速に回復させ、既に傷も殆ど癒やしてしまっている。
「岬守航さん! 兎黄泉が御兄様の居場所まで誘導しますです!」
「ああ。そこに魅琴も居て、神皇と戦っているんだな?」
「ハイです! 兎黄泉もこの機体と感覚が繋がっていますです!」
「解っているさ。兎黄泉ちゃんの意思が僕の中にも入ってきている。このまま君の案内で飛ばせてもらう!」
後方の副操縦席「和魂座」に坐る雲野兎黄泉の存在も航の視界を明瞭にしていた。
彼女が感じ取っている兄・雲野幽鷹の居場所が操縦席「荒魂座」の航にも直接流れ込んでくる。
ここへ来て、航はまたしても双子の強力な神為に助けられていた。
雲野兄妹はそれぞれ神皇の複製人間である。
それ故に二人は強大な神為を持ち、それを他者に貸し与えることが出来る。
それは元々、オリジナルたる神皇の力だという。
航は先程、その力の一端を体感した。
「この機体を操縦して、そして正規軍と戦って能く解った。何故、超級為動機神体の操縦室は球体をしているのか、その上方には謎の空間が設けられているのか……」
水徒端早辺子と初めて超級に乗り込んだ時の疑問が今紐解かれた。
「超級為動機神体には回収した操縦室『直靈彌玉』から友軍機を復活させる! それを一瞬にして可能にしているのが神皇の強大な神為!」
航達は脱出の際に使用した超級為動機神体・ミロクサーヌ改の直靈彌玉を破壊した。
直靈彌玉が残っていては、撃墜されたとて再生させることが出来てしまうからだとは聞いていた。
おそらく、超級為動機神体を再生させる為の何らかの装置が存在するのだろう。
そしてそれが、超級為動機神体そのものに備わっている。
再生自体には神皇の神為が絶対に必要という訳ではない。
武装戦隊・狼ノ牙がミロクサーヌ改の復活を目論んでいた様に、時間と労力さえ掛ければ常人の神為でも不可能ではない。
だが、それを戦闘中の僅かな時間で行うとなると、尋常では無い強大な神為が必要となる。
それの条件を満たし、強力無比な兵器を事実上無尽蔵に再生してしまう――まさにこれが戦争に於ける神皇の脅威の一端なのだ。
「神皇の強大な神為が可能にする常識外れの軍隊運用はこれだけじゃないんだろう。そりゃ魅琴の爺さんも暗殺を考えるよ、魅琴も使命感を持って決意するよ……」
航は思い出す。
強大な神為を見せ付けて航達を蹂躙した第三皇女・狛乃神嵐花ですら、神皇と比較出来る程のものではないのだろう。
時空・世界線を越えて移動するという超常現象を、日本列島の十倍の面積を持つ島嶼丸ごと実現してしまう程の神為。
そんなエネルギーを背景にしているからこそ、米国の核攻撃にも無傷で耐えたり、空中要塞を転移させて大量展開したりと、皇國は勝ち目の無い新たな覇権国家としての在り方を確立させているのだ。
(魅琴、君はずっと一人で背負い込んでいたのか……)
航は思い出す。
麗真魅琴はなんでも出来る人間だった。
何をやっても敵わない、絶対的な天稟を与えられた人間だった。
そのことが彼女の使命感を確固たるものにしてしまったとすれば……。
(不甲斐無かったよ。僕なんか当てに出来なかったんだな。その癖、御節介で向こう見ずな、厄介な幼馴染だ。あれくらいしないと折れないと思ったんだ。そこまでしてでも、僕の気持ちを踏み躙って、傷付けて、突き放して、憎まれてでも僕を関わらせたくなかった。そうやって最後まで全部自分一人で背負い込んで、全部壊して棄てて、使命だけを抱いて神皇と心中する気か……!)
航は進むべき行き先を真っ直ぐに見据えた。
カムヤマトイワレヒコは更に加速する。
揺るぎ無い決意と情熱が航を突き動かしていた。
己を導く兎黄泉の瞳、意志を宿した航の瞳は同じ場所をはっきりと捉えている。
「させるかよ! 俺を舐めるなァァァァッッ!!」
皇海の上空を驀進する超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコ。
その金色の機体を駆る航はしかし、自身が如何なる戦いに割り込もうとしているのか想像も付くまい。
おそらく、その目的地たる皇國皇宮で繰り広げられているのは、三千世界で類を見ない超絶的規模の戦いである。
運命の時は刻一刻と迫っていた。
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ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
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