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第三章『争乱篇』
第五十七話『津速產巢日』 急
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航と輪田、それぞれの搭乗機体を中心に十機の壱級が大きく距離を取って取り囲んでいる。
航にとっては存分に動き回って戦うことが出来、且つ自衛官にとっては援護射撃の狙いが付け易い、そんな絶妙の間合いだ。
合計すると十一対一の様相だが、それでも航の心に余裕は無かった。
「皆さん、多勢だからと油断は禁物です。多分相手は敵の撃墜王だ……」
『分かっている。この距離まで接近しただけで凄まじいプレッシャーを感じていますよ』
為動機神体に搭乗する自衛官は、皆例外なく東瀛丸を服用して神為を身に付けている。
レーダー探知を受け付けない敵の探知を試みていた辺りからも、既に対皇國を想定して東瀛丸と神為の訓練を積み、運用しようとしていたことが窺える。
それ故、航と同様に第六感が常人よりも遥かに働き、敵の脅威もどことなく肌で感じているのだろう。
だが、航は実際にこの敵――輪田衛士少佐の駆る特級為動機神体・ツハヤムスビと交戦し、予想を遙かに上回る苦戦を強いられていたところだ。
脅威ではあると感じているだろうが、実際の力量まで想像が及んでいない可能性が高い。
況してや、航と異なり自衛隊にとっては初の為動機神体による実戦である。
幾ら警戒しても、過剰になることはないだろう。
その時、ツハヤムスビが再び両腕を交差させ、翼の様な装備品を拡げた。
航は咄嗟に叫びながら回避行動を取る。
「みんな躱せ! 狙われるぞ!」
ツハヤムスビから十一筋の光線砲が発射された。
輪田ならば乱射しても「下手な鉄砲、数撃てば当たる」といった無様にはならない。
航は紙一重のところでなんとか躱せたが、自衛隊機は回避が間に合わず大なり小なり被弾してしまっていた。
『ぐああああっっ!!』
『金色の機体には見切られたか。素晴らしい動きだ。周りの壱級の方はどうかな? 何機残った?』
自衛隊機の損害は甚大だった。
十機のうち二機は今の射撃で機体を完全に破壊され被撃墜、内部の操縦士は即死だろう。
二機は背中の飛行具を破壊されてしまった為、これ以上の空中戦は出来ない。
どうにか墜落する機体を少しでも安全な場所へ動かし、操縦室を脱出させるしかない。
つまり、今の一瞬で十機中四機が撃墜されてしまった。
残る六機も腕や足などを破壊され、継戦は可能なものの五体満足な壱級は一機として無い。
『ほう、思ったよりも生き残ったな。それなりの訓練は積んでいるらしい』
輪田は自衛隊の練度に感心する言葉を吐いたが、逆にそれは余裕の表れである。
実際、航はカムヤマトイワレヒコを回避させただけではなく切断ユニットによる反撃を試みたが、ツハヤムスビの刃に簡単に機体を弾かれてしまった。
「くっ!」
『油断ならん奴め。だが先程までとは違い単純な動きで容易かったぞ。焦りが見えるな』
航は即座に機体の体勢を立て直した。
輪田には航の心理までも筒抜けらしい。
しかし、先程までと様子が違うのは輪田も同じだった。
今までであれば即座に恐るべき返しの一手に対処しなければならなかったが、輪田は航にそれ以上仕掛けてこない。
どうやら、多対一になったことで航一人に集中出来なくなったらしい。
『よくも山科と榛木を!』
壱級のうち一機が輪田に向けて光線砲を連射した。
撃ったのは恩田聡二尉、自衛隊では豊中一尉に次ぐ為動機神体操縦の巧者だ。
奇しくもカムヤマトイワレヒコとツハヤムスビの間合いが開いていたことで遠慮無く撃てるようになったらしい。
しかし、輪田の戦闘勘とツハヤムスビの回避能力の前に恩田の射撃は掠りもしなかった。
『糞! 中れ! 墜ちろ!』
『恩田二尉! 頭を冷やせ!』
恩田は全くの出鱈目に撃っている訳ではない。
連射しつつも、一発一発ツハヤムスビの回避先へ光線を置きに行っているし、カムヤマトイワレヒコや他の友軍機に流れ弾が行かないように確りと狙い撃っている。
唯、輪田の操縦技術が常軌を逸しており全く捉えられないのだ。
『その程度ではこの私の首を取ることなど出来んよ!』
連射を躱し続けるツハヤムスビは腕の光線砲ユニットで恩田の壱級を狙い射撃した。
反撃を受けた壱級は直撃こそどうにか免れたものの、飛行具を破壊され落下していく。
『うおおおおっ!』
『これで残るは半分!』
墜落する壱級から恩田を乗せた操縦室「直靈彌玉」が射出された。
先に墜落させられた二機のうち一機からも既に操縦室が射出され、落下傘を拡げている。
しかし、もう一機は脱出が間に合わずにビルに激突してしまっていた。
つまりこの時点で自衛隊の殉職者は三名になっていた。
『しかし、金色の機体との戦闘に水を差されるのも面倒だな。ならばあれを使うか。序でに、ここで次の作戦段階に向けて準備を進めておくとしよう』
輪田の不穏な言葉の直後、ツハヤムスビの肩と背中が開いた。
また新たな装備を使うのかと身構える航だったが、そこから現れたのは更に厄介な代物だった。
ツハヤムスビの機内から、十機の弐級為動機神体が飛び出したのだ。
二米程のサイズの人型ロボットが五機の自衛隊機と撃墜されて脱出した二つの操縦室へと向かって行く。
「拙い!」
激しい焦燥に駆られた航は、一発の光線砲を撃った。
ツハヤムスビに向けたものではなく、放たれた弐級を狙ったものだった。
一筋の光が二機の弐級を一度に焼き払い、操縦室を脱出させて無防備なところを狙われていた二人の自衛官を救った。
しかし目の前の敵から意識を逸らしてしまえば、それを見逃してくれる輪田ではない。
航はツハヤムスビの射撃を間一髪のところで躱した。
『ほう……』
輪田は何やら航の動きに感心したようだ。
『初めの頃より動きが良くなっているな。邪魔者に弐級を差し向けたのは正解だったかも知れん。尤も、あれらは壱級を蚊帳の外へ追い遣るだけの為に放ったのではない。あれらの操縦は人工知能による自動操縦ではなく、私の思念による遠隔操縦だ。六年前、狼ノ牙が叛乱を起こした際は、あれで壱級や超級を撃破している。明治日本の兵はどれだけ保つかな?』
輪田の不穏な言葉通り、既に二機の壱級が新たに破壊されていた。
他の機体も、弐級の頭部から発射される光線砲を躱すのに手一杯といった情勢だ。
『こちら求来里! 豊中隊長、倉橋君を墜とした弐級が逃げました!』
豊中隊の紅一点、求来里美乃三尉の報告は航と自衛隊に戦慄を齎した。
『なんだと!? 何処へ向かった!』
『こちら剣持! 弐級四機が日比谷公園方面へ離脱!』
『日比谷公園だと!?』
最悪の報せだった。
航達は銀座上空でツハヤムスビと交戦している。
そこから日比谷公園方面へ向かうと、その先には国会議事堂や議員会館、各省庁の建屋がある。
『隠すつもりはないから教えてやろう。今、私は弐級を使って議会を占拠してしまおうと考えている。四機もあれば充分だ』
「何だと? まさか一人で日本を降伏に追い込むつもりか? お前、本気なのか?」
『出来る訳がない、と思っているな。勿論、私一人で国を占領し維持することなど出来んだろう。私一人ならな』
「何……?」
航の心臓が早鐘を打つ。
凄まじく嫌な予感がする。
『間も無く、私の部下達が超級為動機神体・ミロクサーヌ零式でこの地に上陸する。輪田隊は遠征軍の精鋭達だ。国を占領出来るような数ではないが、行政区の一つくらいならば掌握出来る兵力を備えている。先ずは輪田隊で中枢を抑え、機能が麻痺している隙に後続の兵が続々と上陸。神皇陛下の神為が無く、為動機神艦の転移が使えずとも明治日本の地は我々の支配下に置かれる。残念だが貴様らの抵抗は不毛に終わる』
「部下……。そうか、こいつも隊を率いていたのか……」
輪田に与えられた任務はあくまで金色の機体の撃破である。
しかし、可能ならば一気に戦勝まで持っていこうと輪田は考えているらしい。
途方も無い考えだが、輪田ならやりかねないという予感が航にはあった。
航は足下を操作し、或る人物に繋いだ。
大至急、対応を要請しなければならない。
「根尾さん、頼みがあります!」
『岬守君、何があった?』
「敵の放った弐級が国会議事堂へ向かっています! どうにか止めてください!」
『そうか、解った。此方は我々に任せろ』
根尾は何も訊かず、航の頼みを受け容れてくれた。
一先ず、弐級の方は彼に任せられる。
だが、まだ問題は山積みだ。
兎にも角にも、今は目の前の敵を斃さなければ何も始まらない。
『白兵の戦士に応援を要請したか。だが私の部下はどうする? 私の迎撃に差し向けられた他に為動機神体の戦力はあるのか? 第一、貴様らが私に敗れれば全て無意味だ』
「勝つさ……!」
航はカムヤマトイワレヒコをツハヤムスビに向き合わせた。
勝たなければならない、そんなことは云われるまでもない。
『意気込みは立派だな。だが、忘れていないか? 私が放った弐級は十機。二機は貴様が撃墜したが、三機は以前貴様らの壱級と交戦中で、四機は議会へと向かわせた。計算が合わないと思わないか?』
輪田の言うとおり、一機行方が判らない。
航は背中に不穏な気配が突き刺さるのを感じた。
残る一機の弐級はカムヤマトイワレヒコの背後に迫っていた。
『今度は貴様が二対一だ。今までも押されていた戦況が更に悪化したな。それでも尚、この私に勝てるつもりでいるのか?』
輪田の遠隔操作する弐級がカムヤマトイワレヒコの背後から光線砲を撃ってきた。
しかし航は機体を宙返りさせ、あっさりと攻撃を回避した。
そればかりか、回転するカムヤマトイワレヒコはそのまま蹴りを繰り出し、弐級を粉々に打ち砕いてしまった。
『何?』
「勝つさ! 何度も言わせるな!」
航は切断ユニットでツハヤムスビに斬り掛かった。
ツハヤムスビの方も刃を構え、カムヤマトイワレヒコの刃を受け止める。
だが今度は航の方が刃を押し込み、ツハヤムスビの懐を抉じ開けた。
『うおおおおっ!?』
ツハヤムスビの体勢が崩れる。
航は空かさず二の太刀を振り下ろした。
敵は機体を退かせて回避したが、切断ユニットの鋒が敵機の胸を掠めた。
『何!?』
「輪田衛士! お前の狙いは何一つ果たさせない! 早急にお前を墜とす!」
航は腹を括った。
本当の勝負はこれからである。
航にとっては存分に動き回って戦うことが出来、且つ自衛官にとっては援護射撃の狙いが付け易い、そんな絶妙の間合いだ。
合計すると十一対一の様相だが、それでも航の心に余裕は無かった。
「皆さん、多勢だからと油断は禁物です。多分相手は敵の撃墜王だ……」
『分かっている。この距離まで接近しただけで凄まじいプレッシャーを感じていますよ』
為動機神体に搭乗する自衛官は、皆例外なく東瀛丸を服用して神為を身に付けている。
レーダー探知を受け付けない敵の探知を試みていた辺りからも、既に対皇國を想定して東瀛丸と神為の訓練を積み、運用しようとしていたことが窺える。
それ故、航と同様に第六感が常人よりも遥かに働き、敵の脅威もどことなく肌で感じているのだろう。
だが、航は実際にこの敵――輪田衛士少佐の駆る特級為動機神体・ツハヤムスビと交戦し、予想を遙かに上回る苦戦を強いられていたところだ。
脅威ではあると感じているだろうが、実際の力量まで想像が及んでいない可能性が高い。
況してや、航と異なり自衛隊にとっては初の為動機神体による実戦である。
幾ら警戒しても、過剰になることはないだろう。
その時、ツハヤムスビが再び両腕を交差させ、翼の様な装備品を拡げた。
航は咄嗟に叫びながら回避行動を取る。
「みんな躱せ! 狙われるぞ!」
ツハヤムスビから十一筋の光線砲が発射された。
輪田ならば乱射しても「下手な鉄砲、数撃てば当たる」といった無様にはならない。
航は紙一重のところでなんとか躱せたが、自衛隊機は回避が間に合わず大なり小なり被弾してしまっていた。
『ぐああああっっ!!』
『金色の機体には見切られたか。素晴らしい動きだ。周りの壱級の方はどうかな? 何機残った?』
自衛隊機の損害は甚大だった。
十機のうち二機は今の射撃で機体を完全に破壊され被撃墜、内部の操縦士は即死だろう。
二機は背中の飛行具を破壊されてしまった為、これ以上の空中戦は出来ない。
どうにか墜落する機体を少しでも安全な場所へ動かし、操縦室を脱出させるしかない。
つまり、今の一瞬で十機中四機が撃墜されてしまった。
残る六機も腕や足などを破壊され、継戦は可能なものの五体満足な壱級は一機として無い。
『ほう、思ったよりも生き残ったな。それなりの訓練は積んでいるらしい』
輪田は自衛隊の練度に感心する言葉を吐いたが、逆にそれは余裕の表れである。
実際、航はカムヤマトイワレヒコを回避させただけではなく切断ユニットによる反撃を試みたが、ツハヤムスビの刃に簡単に機体を弾かれてしまった。
「くっ!」
『油断ならん奴め。だが先程までとは違い単純な動きで容易かったぞ。焦りが見えるな』
航は即座に機体の体勢を立て直した。
輪田には航の心理までも筒抜けらしい。
しかし、先程までと様子が違うのは輪田も同じだった。
今までであれば即座に恐るべき返しの一手に対処しなければならなかったが、輪田は航にそれ以上仕掛けてこない。
どうやら、多対一になったことで航一人に集中出来なくなったらしい。
『よくも山科と榛木を!』
壱級のうち一機が輪田に向けて光線砲を連射した。
撃ったのは恩田聡二尉、自衛隊では豊中一尉に次ぐ為動機神体操縦の巧者だ。
奇しくもカムヤマトイワレヒコとツハヤムスビの間合いが開いていたことで遠慮無く撃てるようになったらしい。
しかし、輪田の戦闘勘とツハヤムスビの回避能力の前に恩田の射撃は掠りもしなかった。
『糞! 中れ! 墜ちろ!』
『恩田二尉! 頭を冷やせ!』
恩田は全くの出鱈目に撃っている訳ではない。
連射しつつも、一発一発ツハヤムスビの回避先へ光線を置きに行っているし、カムヤマトイワレヒコや他の友軍機に流れ弾が行かないように確りと狙い撃っている。
唯、輪田の操縦技術が常軌を逸しており全く捉えられないのだ。
『その程度ではこの私の首を取ることなど出来んよ!』
連射を躱し続けるツハヤムスビは腕の光線砲ユニットで恩田の壱級を狙い射撃した。
反撃を受けた壱級は直撃こそどうにか免れたものの、飛行具を破壊され落下していく。
『うおおおおっ!』
『これで残るは半分!』
墜落する壱級から恩田を乗せた操縦室「直靈彌玉」が射出された。
先に墜落させられた二機のうち一機からも既に操縦室が射出され、落下傘を拡げている。
しかし、もう一機は脱出が間に合わずにビルに激突してしまっていた。
つまりこの時点で自衛隊の殉職者は三名になっていた。
『しかし、金色の機体との戦闘に水を差されるのも面倒だな。ならばあれを使うか。序でに、ここで次の作戦段階に向けて準備を進めておくとしよう』
輪田の不穏な言葉の直後、ツハヤムスビの肩と背中が開いた。
また新たな装備を使うのかと身構える航だったが、そこから現れたのは更に厄介な代物だった。
ツハヤムスビの機内から、十機の弐級為動機神体が飛び出したのだ。
二米程のサイズの人型ロボットが五機の自衛隊機と撃墜されて脱出した二つの操縦室へと向かって行く。
「拙い!」
激しい焦燥に駆られた航は、一発の光線砲を撃った。
ツハヤムスビに向けたものではなく、放たれた弐級を狙ったものだった。
一筋の光が二機の弐級を一度に焼き払い、操縦室を脱出させて無防備なところを狙われていた二人の自衛官を救った。
しかし目の前の敵から意識を逸らしてしまえば、それを見逃してくれる輪田ではない。
航はツハヤムスビの射撃を間一髪のところで躱した。
『ほう……』
輪田は何やら航の動きに感心したようだ。
『初めの頃より動きが良くなっているな。邪魔者に弐級を差し向けたのは正解だったかも知れん。尤も、あれらは壱級を蚊帳の外へ追い遣るだけの為に放ったのではない。あれらの操縦は人工知能による自動操縦ではなく、私の思念による遠隔操縦だ。六年前、狼ノ牙が叛乱を起こした際は、あれで壱級や超級を撃破している。明治日本の兵はどれだけ保つかな?』
輪田の不穏な言葉通り、既に二機の壱級が新たに破壊されていた。
他の機体も、弐級の頭部から発射される光線砲を躱すのに手一杯といった情勢だ。
『こちら求来里! 豊中隊長、倉橋君を墜とした弐級が逃げました!』
豊中隊の紅一点、求来里美乃三尉の報告は航と自衛隊に戦慄を齎した。
『なんだと!? 何処へ向かった!』
『こちら剣持! 弐級四機が日比谷公園方面へ離脱!』
『日比谷公園だと!?』
最悪の報せだった。
航達は銀座上空でツハヤムスビと交戦している。
そこから日比谷公園方面へ向かうと、その先には国会議事堂や議員会館、各省庁の建屋がある。
『隠すつもりはないから教えてやろう。今、私は弐級を使って議会を占拠してしまおうと考えている。四機もあれば充分だ』
「何だと? まさか一人で日本を降伏に追い込むつもりか? お前、本気なのか?」
『出来る訳がない、と思っているな。勿論、私一人で国を占領し維持することなど出来んだろう。私一人ならな』
「何……?」
航の心臓が早鐘を打つ。
凄まじく嫌な予感がする。
『間も無く、私の部下達が超級為動機神体・ミロクサーヌ零式でこの地に上陸する。輪田隊は遠征軍の精鋭達だ。国を占領出来るような数ではないが、行政区の一つくらいならば掌握出来る兵力を備えている。先ずは輪田隊で中枢を抑え、機能が麻痺している隙に後続の兵が続々と上陸。神皇陛下の神為が無く、為動機神艦の転移が使えずとも明治日本の地は我々の支配下に置かれる。残念だが貴様らの抵抗は不毛に終わる』
「部下……。そうか、こいつも隊を率いていたのか……」
輪田に与えられた任務はあくまで金色の機体の撃破である。
しかし、可能ならば一気に戦勝まで持っていこうと輪田は考えているらしい。
途方も無い考えだが、輪田ならやりかねないという予感が航にはあった。
航は足下を操作し、或る人物に繋いだ。
大至急、対応を要請しなければならない。
「根尾さん、頼みがあります!」
『岬守君、何があった?』
「敵の放った弐級が国会議事堂へ向かっています! どうにか止めてください!」
『そうか、解った。此方は我々に任せろ』
根尾は何も訊かず、航の頼みを受け容れてくれた。
一先ず、弐級の方は彼に任せられる。
だが、まだ問題は山積みだ。
兎にも角にも、今は目の前の敵を斃さなければ何も始まらない。
『白兵の戦士に応援を要請したか。だが私の部下はどうする? 私の迎撃に差し向けられた他に為動機神体の戦力はあるのか? 第一、貴様らが私に敗れれば全て無意味だ』
「勝つさ……!」
航はカムヤマトイワレヒコをツハヤムスビに向き合わせた。
勝たなければならない、そんなことは云われるまでもない。
『意気込みは立派だな。だが、忘れていないか? 私が放った弐級は十機。二機は貴様が撃墜したが、三機は以前貴様らの壱級と交戦中で、四機は議会へと向かわせた。計算が合わないと思わないか?』
輪田の言うとおり、一機行方が判らない。
航は背中に不穏な気配が突き刺さるのを感じた。
残る一機の弐級はカムヤマトイワレヒコの背後に迫っていた。
『今度は貴様が二対一だ。今までも押されていた戦況が更に悪化したな。それでも尚、この私に勝てるつもりでいるのか?』
輪田の遠隔操作する弐級がカムヤマトイワレヒコの背後から光線砲を撃ってきた。
しかし航は機体を宙返りさせ、あっさりと攻撃を回避した。
そればかりか、回転するカムヤマトイワレヒコはそのまま蹴りを繰り出し、弐級を粉々に打ち砕いてしまった。
『何?』
「勝つさ! 何度も言わせるな!」
航は切断ユニットでツハヤムスビに斬り掛かった。
ツハヤムスビの方も刃を構え、カムヤマトイワレヒコの刃を受け止める。
だが今度は航の方が刃を押し込み、ツハヤムスビの懐を抉じ開けた。
『うおおおおっ!?』
ツハヤムスビの体勢が崩れる。
航は空かさず二の太刀を振り下ろした。
敵は機体を退かせて回避したが、切断ユニットの鋒が敵機の胸を掠めた。
『何!?』
「輪田衛士! お前の狙いは何一つ果たさせない! 早急にお前を墜とす!」
航は腹を括った。
本当の勝負はこれからである。
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