222 / 297
第三章『争乱篇』
第六十七話『神產巢日』 序
しおりを挟む
皇奏手の事務所に残され、戦争を終わらせる作戦目的を聞かされた岬守航は、その途方も無い内容に全身の血管が開き、心臓から勢い良く送り出される血液の巡りを感じていた。
皇國本土への上陸、神皇の身柄確保――つまり皇は今とは逆に日本国側が皇國の本土へと進攻すると言っているのだ。
(確かにこのままじゃ埒が明かないだろうな……)
これまでの戦い、日本国が防戦一方なのは航も感じている。
だが確かに、神皇の返還を交渉材料にすれば、彼の神為に依存して恢復を待っている皇國は日本国の要求を呑まざるを得ない。
皇の眼に鋭い光が宿っている。
一筋縄ではいかない作戦であることは火を見るより明らかだ。
実際、航が前回上陸した時は魅琴と彼女を助けた雲野幽鷹を連れ帰るので精一杯だった。
しかし、そうでもしなければ停戦は困難であるということも解る。
「魅琴ちゃんが神皇の暗殺に成功していれば、皇國社会が保たなくなるまで只管守勢のまま耐えるという選択もあった。しかし暗殺に失敗し孰れは恢復してしまう以上、その前に賭けに出るしかないのです」
「ああ、そうですよね……」
「ただ、それでもあの娘が希望を繋いでくれたことに間違いは無い。そしてもう一人、彼も……」
皇は小瓶の頭を指で撫でた。
「先程も言いましたが、東瀛丸は非常に貴重です。崇神會にも生産の技術はあるようですが、一錠生成するだけでかなりの期間を要する。そういう意味で、亡き虎駕さんがこの東瀛丸を持ち帰っていなければ自衛官の操縦士を確保することは出来なかった……」
「そうですか……」
航は複雑な気分だったが、幾分か救われた気がした。
皇國に奔った虎駕はその過ちを悔いて自ら命を絶ったが、その選択が結果として東瀛丸の小瓶を入手させ日本国に齎したのだ。
「虎駕さんが皇國に魅力を感じてしまった気持ちも正直解ります。強い国家には眼を眩ませる魅力があり、これまでも多くの日本国民が力の誘惑に誑かされてきました。しかし、国民の幸福と尊厳を守るのは法と秩序・自由と民主主義の論理で統治される国家であると、私達の日本国は信じています。一方で神聖大日本皇國は、究極ともいえる力の論理が支配する国家です。彼らの支配を受け容れたとき、私達が守り続けたものは音を立てて崩れることでしょう。私達は何としても勝たなければなりません」
皇の言葉に航は思い出す。
確かに、皇國には世話になった恩人達も多く居る。
屹度多くは善良な者が占めているのだろう。
だが、その善良な者達がふとした拍子で力に脅かされる場面もまた目撃してきた。
大貴族の超級為動機神体によって警察署が襲撃され、多くの善良な者が犠牲になった。
航のことを助けてくれた一人の女性が、大貴族に虐げられていた。
また、善良な者達自身が異常な支配の論理を内面化しているということも度々感じられた。
航を助けてくれた者達が、社会秩序にとって危険だと判断した相手を始末すると言い出したり、皇族による実質的な自殺の強要に疑問を持たなかったり……。
挙げ句の果てに、航自身も支配者の横暴によって汚され、殺されかけさえした。
日本国が皇國に吸収されたとき、航の慣れ親しんできた平穏な日常はそのような形に歪められてしまうだろう。
「そう……ですね……」
「ですから、作戦を成功させる為に汎ゆる手を尽くします。まず、皇國への上陸は皇海側、つまり日本国から直接南東へ下るのではなく、一度太平洋側に迂回して首都統京へ向けて北西に上ります」
「随分と回りくどいですね……」
「神皇の身柄確保となると、奇襲によって電撃的に実行する必要がありますからね。そこで、環太平洋諸国と連携し、拠点を転々と移動しながら秘密裏に作戦地点へと戦力を集めます」
日本国は元々中露の脅威に備えて環太平洋諸国と協力関係を築いてきた。
加えて、皇國がこの世界に顕現して太平洋上に鎮座した際、周囲の島嶼は地殻変動によって強制的に移動させられている。
その暴挙が生活や経済活動に何の悪影響も与えていない筈も無く、巻き込まれた地域の対皇國感情は最悪と言っても足りない程なのだ。
作戦の協力を得る目途は充分だろう。
「それともう一つ、日神回路についてです」
「はい。凄まじい力だと思います。あれが無ければ今頃僕は銀座や硫黄島で死んでしまっていたでしょうから」
「ですが、神為の消耗が著しいという大きな欠点がある」
それは航も百も承知である。
現にその消耗が激しく、一晩眠って回復しなければならなかったからこそ、昨日硫黄島へ向けて出撃した帰りが今日になってしまったのだ。
「作戦中にはどんな事態に見舞われるか分かりませんし、その時に日神回路の使い過ぎで真面に動けないとなっては困ります。そこで貴方に、作戦時の副操縦士を手配しましょう。貴方にとって、大いなる助けとなる副操縦士を……」
作戦に向けた懸念点が詰められていく。
愈々、この争乱は大きな転換点を迎えようとしていた。
⦿⦿⦿
七月十五日以降、超級為動機神体スイゼイ導入の効果もあり、日本国はやや戦局を押し返し始めた。
航は十五日こそ出撃することなく休めたものの、十六日と十七日は十三日と同じく一日に五戦を熟すことになった。
七月十八日、硫黄島防衛戦で破損していたスイゼイ一機の修繕が完了。
寺田章平三尉も復帰し、豊中隊に四機、池田隊に三機に配備されて東西の防衛に割り当てられる。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコはこの日より四日間、一日に三・四回出撃し、防衛に貢献。
七月二二日、七機のスイゼイが追加で配備される。
また、鹵獲した極級為動機神体・タカミムスビの分析結果の中間報告より、スイゼイ後継機の開発に着手。
スイゼイの生産は残り六機を最後に停止することが決定された。
カムヤマトイワレヒコはこの日二回出撃した。
七月二三日、カムヤマトイワレヒコ最後の防衛出撃。
岬守航は停戦に向けた特別作戦の為に修繕すべく出撃停止となる。
彼の撃墜数はこの時点で百機を突破している。
七月二五日、カムヤマトイワレヒコを抜きにした最大規模の防衛戦「南鳥島の戦い」が勃発。
皇國の超級為動機神体・ミロクサーヌ零式二十三機の侵攻によって南鳥島航空基地は壊滅的損害を受けた。
日本国側は再度の硫黄島侵攻を懸念し、超級スイゼイ十四機、壱級二十五機を投入し、南鳥島航空基地の奪還を図る。
戦闘は熾烈を極め、スイゼイ三機と壱級十機を失いながらもどうにかミロクサーヌ零式を撃退。
しかし皇國側は新型超級二十二機を追加投入。
自衛隊はどうにか一機を撃破するも壱級全機とスイゼイ四機を失い、一時硫黄島への撤退を余儀無くされる。
翌二六日、皇國は占領した南鳥島より新型超級十四機で硫黄島への再侵攻を開始。
スイゼイ七機を後退させ駐留していた自衛隊は、戦力差二倍以上の敵に対して再度防衛出動し、負けられない戦いに挑む。
日本国はこの事態に対し、特別作戦に向けた輸送の準備に入っていたカムヤマトイワレヒコの投入を検討するが、自衛隊はスイゼイ七機で皇國新型超級を南鳥島まで撤退させ、そのまま南鳥島奪還の為の再上陸に臨んだ。
結果、スイゼイは最後の一機を残して破壊されてしまったものの、戦いは日本国側が辛勝した。
翌二七日、日本国はスイゼイの最終ロット六機を追加導入。
最初の任務として、南鳥島の戦いで破壊されたスイゼイに搭乗していた操縦士十三名と同機の直靈彌玉・破損部品を回収した。
七月二九日、スイゼイ三機を載せた護衛艦「ひゅうが」が宮崎県細島港よりインドネシアはジャカルタ港へ出港。
また、翌三十日には残る四機も護衛艦「かが」による運搬が開始される。
七月三一日、日本国は新型超級為動機神体・シキツヒコ十機を配備。
同日中に三機が護衛艦「いせ」に積載され、出港した。
八月一日、更に四機のシキツヒコが護衛艦「いずも」に積載され、出港。
八月二日、久住双葉を除く特別警察特殊防衛課の臨時職員が契約を更新し、東瀛丸を飲む。
岬守航はその足で宮崎県細島港へと移動し、新型護衛艦「あめつち」にてシキツヒコ三機及びカムヤマトイワレヒコと共に特別作戦に向けて移動を開始する。
尚「あめつち」には航の他にも豊中隊を初めとした作戦に参加する操縦士達も同乗している。
八月三日、日本国は本土防衛用のシキツヒコを五機追加配備。
八月四日、ジャカルタ港へ護衛艦「ひゅうが」「いせ」が到着。
八月五日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がパプアニューギニアはポートモレスビーに向けて出港。
八月七日、護衛艦「いずも」「かが」そして「あめつち」がジャカルタ港へ到着。
八月八日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」が出港。
八月九日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がポートモレスビーに到着。
八月十二日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」がポートモレスビーに到着。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコ、スイゼイ七機、シキツヒコ十機が特別作戦に向けアメリカ合衆国ハワイのパールハーバー・ヒッカム統合基地に移動する。
日付変更線を越え、現地時刻の八月十一日午前四時に同基地到着。
⦿⦿⦿
ハワイ時刻、八月十二日木曜日午前六時三○分、自衛隊は皇國首都統京上陸に向けて動き出した。
先行して十機のシキツヒコが出撃。
航のカムヤマトイワレヒコや豊中隊のスイゼイは少し遅れて出撃する作戦である。
シキツヒコ十機に搭乗するのは新規に配属された西宮和彦一尉の率いる西宮隊五名と芦屋守一尉率いる芦屋隊五名である。
彼らの任務は後続の豊中隊七名及び航が恙無く神皇の身柄を確保出来るように洋上の敵機を排除すること、謂わば露祓いだ。
想定通りに事が運べば、到着予定時刻は皇國時刻の八月十三日午前五時過ぎ。
八機の超級為動機神体が朝焼けを背にした神々しき威容を以て皇國首都統京へと上陸し、早朝の人も少ない時間帯のうちに皇宮は宮殿へ臨着。
そのまま神皇の寝室へ押し入り目標の身柄を確保することになるだろう。
西宮隊と芦屋隊は本土防衛に残った尼崎隊と共に七月二七日から防衛戦に参加。
南鳥島の戦いには間に合わなかったものの、その後八月一日までの防衛に貢献している。
不利な壱級為動機神体で戦い抜いてきただけあって、豊中隊や池田隊も一目置く実力者達である。
「なんだ、この気配、圧力は……?」
ウェーク島付近を飛行する西宮一尉は奇妙な感覚に襲われた。
因みに、ウェーク島は皇國顕現の影響で大きく東に位置が移動した島の一つである。
この島の他にもハワイ以西の殆どの島嶼が移動しており、位置は二〇二〇年九月より前と大きく異なる。
『此方芦屋。前方に敵影視認。新型超級と思われる。総員、戦闘準備』
芦屋一尉が連絡した敵影は西宮も感じている。
しかし、彼が感じているのはもっと別の、恐ろしく強大な何かである。
「此方西宮。総員、下方を警戒せよ」
『下方? 海しか無いぞ?』
芦屋は疑問符を投げ掛けたが、西宮が脅威を感じているのはまさに海の下からだった。
その時、彼らの脳内によく通る女の声が響き渡る。
『皇女聖花辞別きて白さく、今し天命の大戦の最中、勁敵が抵抗中中に激しく、遂には帝都をも侵さんと思ひ上がる有様。当に皇国の稜威に係る甚く由々しき戦局にし有れば、吾が力の限りを傾竭し敵を屠り事向けしめむとなも思ほし食す。厳しき天地開闢の参柱大神、弥高に降鑑し、其の明験発顕し給ひ、速けく神州が禍患を禳ひ除き、聖業を成遂げしめ給へと白さく』
海面が激しい光を放つ。
それはまだ薄暗い早朝の海上を真白く塗り潰す程に凄まじい光だった。
「なんだこれは……!」
『総員、敵襲に備え!』
シキツヒコ十機の前方で激しい水飛沫が上がった。
何か巨大な、全高三十六米の為動機神体が彼らの目の前に離水したのだ。
それは何処か女性的な造形の機体だった。
『起動しなさい! 絶級為動機神体・カムムスビ!!』
停戦に向けた作戦の前に立ちはだかったのは、久しく現れていない三機目の特別機だった。
操縦士は第一皇女・麒乃神聖花、この機体は一月程前に仕様を指示された、彼女の為の恐るべき機体である。
今、最悪の敵が自衛隊に牙を剥こうとしていた。
皇國本土への上陸、神皇の身柄確保――つまり皇は今とは逆に日本国側が皇國の本土へと進攻すると言っているのだ。
(確かにこのままじゃ埒が明かないだろうな……)
これまでの戦い、日本国が防戦一方なのは航も感じている。
だが確かに、神皇の返還を交渉材料にすれば、彼の神為に依存して恢復を待っている皇國は日本国の要求を呑まざるを得ない。
皇の眼に鋭い光が宿っている。
一筋縄ではいかない作戦であることは火を見るより明らかだ。
実際、航が前回上陸した時は魅琴と彼女を助けた雲野幽鷹を連れ帰るので精一杯だった。
しかし、そうでもしなければ停戦は困難であるということも解る。
「魅琴ちゃんが神皇の暗殺に成功していれば、皇國社会が保たなくなるまで只管守勢のまま耐えるという選択もあった。しかし暗殺に失敗し孰れは恢復してしまう以上、その前に賭けに出るしかないのです」
「ああ、そうですよね……」
「ただ、それでもあの娘が希望を繋いでくれたことに間違いは無い。そしてもう一人、彼も……」
皇は小瓶の頭を指で撫でた。
「先程も言いましたが、東瀛丸は非常に貴重です。崇神會にも生産の技術はあるようですが、一錠生成するだけでかなりの期間を要する。そういう意味で、亡き虎駕さんがこの東瀛丸を持ち帰っていなければ自衛官の操縦士を確保することは出来なかった……」
「そうですか……」
航は複雑な気分だったが、幾分か救われた気がした。
皇國に奔った虎駕はその過ちを悔いて自ら命を絶ったが、その選択が結果として東瀛丸の小瓶を入手させ日本国に齎したのだ。
「虎駕さんが皇國に魅力を感じてしまった気持ちも正直解ります。強い国家には眼を眩ませる魅力があり、これまでも多くの日本国民が力の誘惑に誑かされてきました。しかし、国民の幸福と尊厳を守るのは法と秩序・自由と民主主義の論理で統治される国家であると、私達の日本国は信じています。一方で神聖大日本皇國は、究極ともいえる力の論理が支配する国家です。彼らの支配を受け容れたとき、私達が守り続けたものは音を立てて崩れることでしょう。私達は何としても勝たなければなりません」
皇の言葉に航は思い出す。
確かに、皇國には世話になった恩人達も多く居る。
屹度多くは善良な者が占めているのだろう。
だが、その善良な者達がふとした拍子で力に脅かされる場面もまた目撃してきた。
大貴族の超級為動機神体によって警察署が襲撃され、多くの善良な者が犠牲になった。
航のことを助けてくれた一人の女性が、大貴族に虐げられていた。
また、善良な者達自身が異常な支配の論理を内面化しているということも度々感じられた。
航を助けてくれた者達が、社会秩序にとって危険だと判断した相手を始末すると言い出したり、皇族による実質的な自殺の強要に疑問を持たなかったり……。
挙げ句の果てに、航自身も支配者の横暴によって汚され、殺されかけさえした。
日本国が皇國に吸収されたとき、航の慣れ親しんできた平穏な日常はそのような形に歪められてしまうだろう。
「そう……ですね……」
「ですから、作戦を成功させる為に汎ゆる手を尽くします。まず、皇國への上陸は皇海側、つまり日本国から直接南東へ下るのではなく、一度太平洋側に迂回して首都統京へ向けて北西に上ります」
「随分と回りくどいですね……」
「神皇の身柄確保となると、奇襲によって電撃的に実行する必要がありますからね。そこで、環太平洋諸国と連携し、拠点を転々と移動しながら秘密裏に作戦地点へと戦力を集めます」
日本国は元々中露の脅威に備えて環太平洋諸国と協力関係を築いてきた。
加えて、皇國がこの世界に顕現して太平洋上に鎮座した際、周囲の島嶼は地殻変動によって強制的に移動させられている。
その暴挙が生活や経済活動に何の悪影響も与えていない筈も無く、巻き込まれた地域の対皇國感情は最悪と言っても足りない程なのだ。
作戦の協力を得る目途は充分だろう。
「それともう一つ、日神回路についてです」
「はい。凄まじい力だと思います。あれが無ければ今頃僕は銀座や硫黄島で死んでしまっていたでしょうから」
「ですが、神為の消耗が著しいという大きな欠点がある」
それは航も百も承知である。
現にその消耗が激しく、一晩眠って回復しなければならなかったからこそ、昨日硫黄島へ向けて出撃した帰りが今日になってしまったのだ。
「作戦中にはどんな事態に見舞われるか分かりませんし、その時に日神回路の使い過ぎで真面に動けないとなっては困ります。そこで貴方に、作戦時の副操縦士を手配しましょう。貴方にとって、大いなる助けとなる副操縦士を……」
作戦に向けた懸念点が詰められていく。
愈々、この争乱は大きな転換点を迎えようとしていた。
⦿⦿⦿
七月十五日以降、超級為動機神体スイゼイ導入の効果もあり、日本国はやや戦局を押し返し始めた。
航は十五日こそ出撃することなく休めたものの、十六日と十七日は十三日と同じく一日に五戦を熟すことになった。
七月十八日、硫黄島防衛戦で破損していたスイゼイ一機の修繕が完了。
寺田章平三尉も復帰し、豊中隊に四機、池田隊に三機に配備されて東西の防衛に割り当てられる。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコはこの日より四日間、一日に三・四回出撃し、防衛に貢献。
七月二二日、七機のスイゼイが追加で配備される。
また、鹵獲した極級為動機神体・タカミムスビの分析結果の中間報告より、スイゼイ後継機の開発に着手。
スイゼイの生産は残り六機を最後に停止することが決定された。
カムヤマトイワレヒコはこの日二回出撃した。
七月二三日、カムヤマトイワレヒコ最後の防衛出撃。
岬守航は停戦に向けた特別作戦の為に修繕すべく出撃停止となる。
彼の撃墜数はこの時点で百機を突破している。
七月二五日、カムヤマトイワレヒコを抜きにした最大規模の防衛戦「南鳥島の戦い」が勃発。
皇國の超級為動機神体・ミロクサーヌ零式二十三機の侵攻によって南鳥島航空基地は壊滅的損害を受けた。
日本国側は再度の硫黄島侵攻を懸念し、超級スイゼイ十四機、壱級二十五機を投入し、南鳥島航空基地の奪還を図る。
戦闘は熾烈を極め、スイゼイ三機と壱級十機を失いながらもどうにかミロクサーヌ零式を撃退。
しかし皇國側は新型超級二十二機を追加投入。
自衛隊はどうにか一機を撃破するも壱級全機とスイゼイ四機を失い、一時硫黄島への撤退を余儀無くされる。
翌二六日、皇國は占領した南鳥島より新型超級十四機で硫黄島への再侵攻を開始。
スイゼイ七機を後退させ駐留していた自衛隊は、戦力差二倍以上の敵に対して再度防衛出動し、負けられない戦いに挑む。
日本国はこの事態に対し、特別作戦に向けた輸送の準備に入っていたカムヤマトイワレヒコの投入を検討するが、自衛隊はスイゼイ七機で皇國新型超級を南鳥島まで撤退させ、そのまま南鳥島奪還の為の再上陸に臨んだ。
結果、スイゼイは最後の一機を残して破壊されてしまったものの、戦いは日本国側が辛勝した。
翌二七日、日本国はスイゼイの最終ロット六機を追加導入。
最初の任務として、南鳥島の戦いで破壊されたスイゼイに搭乗していた操縦士十三名と同機の直靈彌玉・破損部品を回収した。
七月二九日、スイゼイ三機を載せた護衛艦「ひゅうが」が宮崎県細島港よりインドネシアはジャカルタ港へ出港。
また、翌三十日には残る四機も護衛艦「かが」による運搬が開始される。
七月三一日、日本国は新型超級為動機神体・シキツヒコ十機を配備。
同日中に三機が護衛艦「いせ」に積載され、出港した。
八月一日、更に四機のシキツヒコが護衛艦「いずも」に積載され、出港。
八月二日、久住双葉を除く特別警察特殊防衛課の臨時職員が契約を更新し、東瀛丸を飲む。
岬守航はその足で宮崎県細島港へと移動し、新型護衛艦「あめつち」にてシキツヒコ三機及びカムヤマトイワレヒコと共に特別作戦に向けて移動を開始する。
尚「あめつち」には航の他にも豊中隊を初めとした作戦に参加する操縦士達も同乗している。
八月三日、日本国は本土防衛用のシキツヒコを五機追加配備。
八月四日、ジャカルタ港へ護衛艦「ひゅうが」「いせ」が到着。
八月五日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がパプアニューギニアはポートモレスビーに向けて出港。
八月七日、護衛艦「いずも」「かが」そして「あめつち」がジャカルタ港へ到着。
八月八日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」が出港。
八月九日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がポートモレスビーに到着。
八月十二日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」がポートモレスビーに到着。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコ、スイゼイ七機、シキツヒコ十機が特別作戦に向けアメリカ合衆国ハワイのパールハーバー・ヒッカム統合基地に移動する。
日付変更線を越え、現地時刻の八月十一日午前四時に同基地到着。
⦿⦿⦿
ハワイ時刻、八月十二日木曜日午前六時三○分、自衛隊は皇國首都統京上陸に向けて動き出した。
先行して十機のシキツヒコが出撃。
航のカムヤマトイワレヒコや豊中隊のスイゼイは少し遅れて出撃する作戦である。
シキツヒコ十機に搭乗するのは新規に配属された西宮和彦一尉の率いる西宮隊五名と芦屋守一尉率いる芦屋隊五名である。
彼らの任務は後続の豊中隊七名及び航が恙無く神皇の身柄を確保出来るように洋上の敵機を排除すること、謂わば露祓いだ。
想定通りに事が運べば、到着予定時刻は皇國時刻の八月十三日午前五時過ぎ。
八機の超級為動機神体が朝焼けを背にした神々しき威容を以て皇國首都統京へと上陸し、早朝の人も少ない時間帯のうちに皇宮は宮殿へ臨着。
そのまま神皇の寝室へ押し入り目標の身柄を確保することになるだろう。
西宮隊と芦屋隊は本土防衛に残った尼崎隊と共に七月二七日から防衛戦に参加。
南鳥島の戦いには間に合わなかったものの、その後八月一日までの防衛に貢献している。
不利な壱級為動機神体で戦い抜いてきただけあって、豊中隊や池田隊も一目置く実力者達である。
「なんだ、この気配、圧力は……?」
ウェーク島付近を飛行する西宮一尉は奇妙な感覚に襲われた。
因みに、ウェーク島は皇國顕現の影響で大きく東に位置が移動した島の一つである。
この島の他にもハワイ以西の殆どの島嶼が移動しており、位置は二〇二〇年九月より前と大きく異なる。
『此方芦屋。前方に敵影視認。新型超級と思われる。総員、戦闘準備』
芦屋一尉が連絡した敵影は西宮も感じている。
しかし、彼が感じているのはもっと別の、恐ろしく強大な何かである。
「此方西宮。総員、下方を警戒せよ」
『下方? 海しか無いぞ?』
芦屋は疑問符を投げ掛けたが、西宮が脅威を感じているのはまさに海の下からだった。
その時、彼らの脳内によく通る女の声が響き渡る。
『皇女聖花辞別きて白さく、今し天命の大戦の最中、勁敵が抵抗中中に激しく、遂には帝都をも侵さんと思ひ上がる有様。当に皇国の稜威に係る甚く由々しき戦局にし有れば、吾が力の限りを傾竭し敵を屠り事向けしめむとなも思ほし食す。厳しき天地開闢の参柱大神、弥高に降鑑し、其の明験発顕し給ひ、速けく神州が禍患を禳ひ除き、聖業を成遂げしめ給へと白さく』
海面が激しい光を放つ。
それはまだ薄暗い早朝の海上を真白く塗り潰す程に凄まじい光だった。
「なんだこれは……!」
『総員、敵襲に備え!』
シキツヒコ十機の前方で激しい水飛沫が上がった。
何か巨大な、全高三十六米の為動機神体が彼らの目の前に離水したのだ。
それは何処か女性的な造形の機体だった。
『起動しなさい! 絶級為動機神体・カムムスビ!!』
停戦に向けた作戦の前に立ちはだかったのは、久しく現れていない三機目の特別機だった。
操縦士は第一皇女・麒乃神聖花、この機体は一月程前に仕様を指示された、彼女の為の恐るべき機体である。
今、最悪の敵が自衛隊に牙を剥こうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!
naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】
気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。
大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。
魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。
しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、
気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。
王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。
「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」
異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、
悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。
笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる