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第三章『争乱篇』
第六十七話『神產巢日』 序
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皇奏手の事務所に残され、戦争を終わらせる作戦目的を聞かされた岬守航は、その途方も無い内容に全身の血管が開き、心臓から勢い良く送り出される血液の巡りを感じていた。
皇國本土への上陸、神皇の身柄確保――つまり皇は今とは逆に日本国側が皇國の本土へと進攻すると言っているのだ。
(確かにこのままじゃ埒が明かないだろうな……)
これまでの戦い、日本国が防戦一方なのは航も感じている。
だが確かに、神皇の返還を交渉材料にすれば、彼の神為に依存して恢復を待っている皇國は日本国の要求を呑まざるを得ない。
皇の眼に鋭い光が宿っている。
一筋縄ではいかない作戦であることは火を見るより明らかだ。
実際、航が前回上陸した時は魅琴と彼女を助けた雲野幽鷹を連れ帰るので精一杯だった。
しかし、そうでもしなければ停戦は困難であるということも解る。
「魅琴ちゃんが神皇の暗殺に成功していれば、皇國社会が保たなくなるまで只管守勢のまま耐えるという選択もあった。しかし暗殺に失敗し孰れは恢復してしまう以上、その前に賭けに出るしかないのです」
「ああ、そうですよね……」
「ただ、それでもあの娘が希望を繋いでくれたことに間違いは無い。そしてもう一人、彼も……」
皇は小瓶の頭を指で撫でた。
「先程も言いましたが、東瀛丸は非常に貴重です。崇神會にも生産の技術はあるようですが、一錠生成するだけでかなりの期間を要する。そういう意味で、亡き虎駕さんがこの東瀛丸を持ち帰っていなければ自衛官の操縦士を確保することは出来なかった……」
「そうですか……」
航は複雑な気分だったが、幾分か救われた気がした。
皇國に奔った虎駕はその過ちを悔いて自ら命を絶ったが、その選択が結果として東瀛丸の小瓶を入手させ日本国に齎したのだ。
「虎駕さんが皇國に魅力を感じてしまった気持ちも正直解ります。強い国家には眼を眩ませる魅力があり、これまでも多くの日本国民が力の誘惑に誑かされてきました。しかし、国民の幸福と尊厳を守るのは法と秩序・自由と民主主義の論理で統治される国家であると、私達の日本国は信じています。一方で神聖大日本皇國は、究極ともいえる力の論理が支配する国家です。彼らの支配を受け容れたとき、私達が守り続けたものは音を立てて崩れることでしょう。私達は何としても勝たなければなりません」
皇の言葉に航は思い出す。
確かに、皇國には世話になった恩人達も多く居る。
屹度多くは善良な者が占めているのだろう。
だが、その善良な者達がふとした拍子で力に脅かされる場面もまた目撃してきた。
大貴族の超級為動機神体によって警察署が襲撃され、多くの善良な者が犠牲になった。
航のことを助けてくれた一人の女性が、大貴族に虐げられていた。
また、善良な者達自身が異常な支配の論理を内面化しているということも度々感じられた。
航を助けてくれた者達が、社会秩序にとって危険だと判断した相手を始末すると言い出したり、皇族による実質的な自殺の強要に疑問を持たなかったり……。
挙げ句の果てに、航自身も支配者の横暴によって汚され、殺されかけさえした。
日本国が皇國に吸収されたとき、航の慣れ親しんできた平穏な日常はそのような形に歪められてしまうだろう。
「そう……ですね……」
「ですから、作戦を成功させる為に汎ゆる手を尽くします。まず、皇國への上陸は皇海側、つまり日本国から直接南東へ下るのではなく、一度太平洋側に迂回して首都統京へ向けて北西に上ります」
「随分と回りくどいですね……」
「神皇の身柄確保となると、奇襲によって電撃的に実行する必要がありますからね。そこで、環太平洋諸国と連携し、拠点を転々と移動しながら秘密裏に作戦地点へと戦力を集めます」
日本国は元々中露の脅威に備えて環太平洋諸国と協力関係を築いてきた。
加えて、皇國がこの世界に顕現して太平洋上に鎮座した際、周囲の島嶼は地殻変動によって強制的に移動させられている。
その暴挙が生活や経済活動に何の悪影響も与えていない筈も無く、巻き込まれた地域の対皇國感情は最悪と言っても足りない程なのだ。
作戦の協力を得る目途は充分だろう。
「それともう一つ、日神回路についてです」
「はい。凄まじい力だと思います。あれが無ければ今頃僕は銀座や硫黄島で死んでしまっていたでしょうから」
「ですが、神為の消耗が著しいという大きな欠点がある」
それは航も百も承知である。
現にその消耗が激しく、一晩眠って回復しなければならなかったからこそ、昨日硫黄島へ向けて出撃した帰りが今日になってしまったのだ。
「作戦中にはどんな事態に見舞われるか分かりませんし、その時に日神回路の使い過ぎで真面に動けないとなっては困ります。そこで貴方に、作戦時の副操縦士を手配しましょう。貴方にとって、大いなる助けとなる副操縦士を……」
作戦に向けた懸念点が詰められていく。
愈々、この争乱は大きな転換点を迎えようとしていた。
⦿⦿⦿
七月十五日以降、超級為動機神体スイゼイ導入の効果もあり、日本国はやや戦局を押し返し始めた。
航は十五日こそ出撃することなく休めたものの、十六日と十七日は十三日と同じく一日に五戦を熟すことになった。
七月十八日、硫黄島防衛戦で破損していたスイゼイ一機の修繕が完了。
寺田章平三尉も復帰し、豊中隊に四機、池田隊に三機に配備されて東西の防衛に割り当てられる。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコはこの日より四日間、一日に三・四回出撃し、防衛に貢献。
七月二二日、七機のスイゼイが追加で配備される。
また、鹵獲した極級為動機神体・タカミムスビの分析結果の中間報告より、スイゼイ後継機の開発に着手。
スイゼイの生産は残り六機を最後に停止することが決定された。
カムヤマトイワレヒコはこの日二回出撃した。
七月二三日、カムヤマトイワレヒコ最後の防衛出撃。
岬守航は停戦に向けた特別作戦の為に修繕すべく出撃停止となる。
彼の撃墜数はこの時点で百機を突破している。
七月二五日、カムヤマトイワレヒコを抜きにした最大規模の防衛戦「南鳥島の戦い」が勃発。
皇國の超級為動機神体・ミロクサーヌ零式二十三機の侵攻によって南鳥島航空基地は壊滅的損害を受けた。
日本国側は再度の硫黄島侵攻を懸念し、超級スイゼイ十四機、壱級二十五機を投入し、南鳥島航空基地の奪還を図る。
戦闘は熾烈を極め、スイゼイ三機と壱級十機を失いながらもどうにかミロクサーヌ零式を撃退。
しかし皇國側は新型超級二十二機を追加投入。
自衛隊はどうにか一機を撃破するも壱級全機とスイゼイ四機を失い、一時硫黄島への撤退を余儀無くされる。
翌二六日、皇國は占領した南鳥島より新型超級十四機で硫黄島への再侵攻を開始。
スイゼイ七機を後退させ駐留していた自衛隊は、戦力差二倍以上の敵に対して再度防衛出動し、負けられない戦いに挑む。
日本国はこの事態に対し、特別作戦に向けた輸送の準備に入っていたカムヤマトイワレヒコの投入を検討するが、自衛隊はスイゼイ七機で皇國新型超級を南鳥島まで撤退させ、そのまま南鳥島奪還の為の再上陸に臨んだ。
結果、スイゼイは最後の一機を残して破壊されてしまったものの、戦いは日本国側が辛勝した。
翌二七日、日本国はスイゼイの最終ロット六機を追加導入。
最初の任務として、南鳥島の戦いで破壊されたスイゼイに搭乗していた操縦士十三名と同機の直靈彌玉・破損部品を回収した。
七月二九日、スイゼイ三機を載せた護衛艦「ひゅうが」が宮崎県細島港よりインドネシアはジャカルタ港へ出港。
また、翌三十日には残る四機も護衛艦「かが」による運搬が開始される。
七月三一日、日本国は新型超級為動機神体・シキツヒコ十機を配備。
同日中に三機が護衛艦「いせ」に積載され、出港した。
八月一日、更に四機のシキツヒコが護衛艦「いずも」に積載され、出港。
八月二日、久住双葉を除く特別警察特殊防衛課の臨時職員が契約を更新し、東瀛丸を飲む。
岬守航はその足で宮崎県細島港へと移動し、新型護衛艦「あめつち」にてシキツヒコ三機及びカムヤマトイワレヒコと共に特別作戦に向けて移動を開始する。
尚「あめつち」には航の他にも豊中隊を初めとした作戦に参加する操縦士達も同乗している。
八月三日、日本国は本土防衛用のシキツヒコを五機追加配備。
八月四日、ジャカルタ港へ護衛艦「ひゅうが」「いせ」が到着。
八月五日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がパプアニューギニアはポートモレスビーに向けて出港。
八月七日、護衛艦「いずも」「かが」そして「あめつち」がジャカルタ港へ到着。
八月八日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」が出港。
八月九日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がポートモレスビーに到着。
八月十二日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」がポートモレスビーに到着。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコ、スイゼイ七機、シキツヒコ十機が特別作戦に向けアメリカ合衆国ハワイのパールハーバー・ヒッカム統合基地に移動する。
日付変更線を越え、現地時刻の八月十一日午前四時に同基地到着。
⦿⦿⦿
ハワイ時刻、八月十二日木曜日午前六時三○分、自衛隊は皇國首都統京上陸に向けて動き出した。
先行して十機のシキツヒコが出撃。
航のカムヤマトイワレヒコや豊中隊のスイゼイは少し遅れて出撃する作戦である。
シキツヒコ十機に搭乗するのは新規に配属された西宮和彦一尉の率いる西宮隊五名と芦屋守一尉率いる芦屋隊五名である。
彼らの任務は後続の豊中隊七名及び航が恙無く神皇の身柄を確保出来るように洋上の敵機を排除すること、謂わば露祓いだ。
想定通りに事が運べば、到着予定時刻は皇國時刻の八月十三日午前五時過ぎ。
八機の超級為動機神体が朝焼けを背にした神々しき威容を以て皇國首都統京へと上陸し、早朝の人も少ない時間帯のうちに皇宮は宮殿へ臨着。
そのまま神皇の寝室へ押し入り目標の身柄を確保することになるだろう。
西宮隊と芦屋隊は本土防衛に残った尼崎隊と共に七月二七日から防衛戦に参加。
南鳥島の戦いには間に合わなかったものの、その後八月一日までの防衛に貢献している。
不利な壱級為動機神体で戦い抜いてきただけあって、豊中隊や池田隊も一目置く実力者達である。
「なんだ、この気配、圧力は……?」
ウェーク島付近を飛行する西宮一尉は奇妙な感覚に襲われた。
因みに、ウェーク島は皇國顕現の影響で大きく東に位置が移動した島の一つである。
この島の他にもハワイ以西の殆どの島嶼が移動しており、位置は二〇二〇年九月より前と大きく異なる。
『此方芦屋。前方に敵影視認。新型超級と思われる。総員、戦闘準備』
芦屋一尉が連絡した敵影は西宮も感じている。
しかし、彼が感じているのはもっと別の、恐ろしく強大な何かである。
「此方西宮。総員、下方を警戒せよ」
『下方? 海しか無いぞ?』
芦屋は疑問符を投げ掛けたが、西宮が脅威を感じているのはまさに海の下からだった。
その時、彼らの脳内によく通る女の声が響き渡る。
『皇女聖花辞別きて白さく、今し天命の大戦の最中、勁敵が抵抗中中に激しく、遂には帝都をも侵さんと思ひ上がる有様。当に皇国の稜威に係る甚く由々しき戦局にし有れば、吾が力の限りを傾竭し敵を屠り事向けしめむとなも思ほし食す。厳しき天地開闢の参柱大神、弥高に降鑑し、其の明験発顕し給ひ、速けく神州が禍患を禳ひ除き、聖業を成遂げしめ給へと白さく』
海面が激しい光を放つ。
それはまだ薄暗い早朝の海上を真白く塗り潰す程に凄まじい光だった。
「なんだこれは……!」
『総員、敵襲に備え!』
シキツヒコ十機の前方で激しい水飛沫が上がった。
何か巨大な、全高三十六米の為動機神体が彼らの目の前に離水したのだ。
それは何処か女性的な造形の機体だった。
『起動しなさい! 絶級為動機神体・カムムスビ!!』
停戦に向けた作戦の前に立ちはだかったのは、久しく現れていない三機目の特別機だった。
操縦士は第一皇女・麒乃神聖花、この機体は一月程前に仕様を指示された、彼女の為の恐るべき機体である。
今、最悪の敵が自衛隊に牙を剥こうとしていた。
皇國本土への上陸、神皇の身柄確保――つまり皇は今とは逆に日本国側が皇國の本土へと進攻すると言っているのだ。
(確かにこのままじゃ埒が明かないだろうな……)
これまでの戦い、日本国が防戦一方なのは航も感じている。
だが確かに、神皇の返還を交渉材料にすれば、彼の神為に依存して恢復を待っている皇國は日本国の要求を呑まざるを得ない。
皇の眼に鋭い光が宿っている。
一筋縄ではいかない作戦であることは火を見るより明らかだ。
実際、航が前回上陸した時は魅琴と彼女を助けた雲野幽鷹を連れ帰るので精一杯だった。
しかし、そうでもしなければ停戦は困難であるということも解る。
「魅琴ちゃんが神皇の暗殺に成功していれば、皇國社会が保たなくなるまで只管守勢のまま耐えるという選択もあった。しかし暗殺に失敗し孰れは恢復してしまう以上、その前に賭けに出るしかないのです」
「ああ、そうですよね……」
「ただ、それでもあの娘が希望を繋いでくれたことに間違いは無い。そしてもう一人、彼も……」
皇は小瓶の頭を指で撫でた。
「先程も言いましたが、東瀛丸は非常に貴重です。崇神會にも生産の技術はあるようですが、一錠生成するだけでかなりの期間を要する。そういう意味で、亡き虎駕さんがこの東瀛丸を持ち帰っていなければ自衛官の操縦士を確保することは出来なかった……」
「そうですか……」
航は複雑な気分だったが、幾分か救われた気がした。
皇國に奔った虎駕はその過ちを悔いて自ら命を絶ったが、その選択が結果として東瀛丸の小瓶を入手させ日本国に齎したのだ。
「虎駕さんが皇國に魅力を感じてしまった気持ちも正直解ります。強い国家には眼を眩ませる魅力があり、これまでも多くの日本国民が力の誘惑に誑かされてきました。しかし、国民の幸福と尊厳を守るのは法と秩序・自由と民主主義の論理で統治される国家であると、私達の日本国は信じています。一方で神聖大日本皇國は、究極ともいえる力の論理が支配する国家です。彼らの支配を受け容れたとき、私達が守り続けたものは音を立てて崩れることでしょう。私達は何としても勝たなければなりません」
皇の言葉に航は思い出す。
確かに、皇國には世話になった恩人達も多く居る。
屹度多くは善良な者が占めているのだろう。
だが、その善良な者達がふとした拍子で力に脅かされる場面もまた目撃してきた。
大貴族の超級為動機神体によって警察署が襲撃され、多くの善良な者が犠牲になった。
航のことを助けてくれた一人の女性が、大貴族に虐げられていた。
また、善良な者達自身が異常な支配の論理を内面化しているということも度々感じられた。
航を助けてくれた者達が、社会秩序にとって危険だと判断した相手を始末すると言い出したり、皇族による実質的な自殺の強要に疑問を持たなかったり……。
挙げ句の果てに、航自身も支配者の横暴によって汚され、殺されかけさえした。
日本国が皇國に吸収されたとき、航の慣れ親しんできた平穏な日常はそのような形に歪められてしまうだろう。
「そう……ですね……」
「ですから、作戦を成功させる為に汎ゆる手を尽くします。まず、皇國への上陸は皇海側、つまり日本国から直接南東へ下るのではなく、一度太平洋側に迂回して首都統京へ向けて北西に上ります」
「随分と回りくどいですね……」
「神皇の身柄確保となると、奇襲によって電撃的に実行する必要がありますからね。そこで、環太平洋諸国と連携し、拠点を転々と移動しながら秘密裏に作戦地点へと戦力を集めます」
日本国は元々中露の脅威に備えて環太平洋諸国と協力関係を築いてきた。
加えて、皇國がこの世界に顕現して太平洋上に鎮座した際、周囲の島嶼は地殻変動によって強制的に移動させられている。
その暴挙が生活や経済活動に何の悪影響も与えていない筈も無く、巻き込まれた地域の対皇國感情は最悪と言っても足りない程なのだ。
作戦の協力を得る目途は充分だろう。
「それともう一つ、日神回路についてです」
「はい。凄まじい力だと思います。あれが無ければ今頃僕は銀座や硫黄島で死んでしまっていたでしょうから」
「ですが、神為の消耗が著しいという大きな欠点がある」
それは航も百も承知である。
現にその消耗が激しく、一晩眠って回復しなければならなかったからこそ、昨日硫黄島へ向けて出撃した帰りが今日になってしまったのだ。
「作戦中にはどんな事態に見舞われるか分かりませんし、その時に日神回路の使い過ぎで真面に動けないとなっては困ります。そこで貴方に、作戦時の副操縦士を手配しましょう。貴方にとって、大いなる助けとなる副操縦士を……」
作戦に向けた懸念点が詰められていく。
愈々、この争乱は大きな転換点を迎えようとしていた。
⦿⦿⦿
七月十五日以降、超級為動機神体スイゼイ導入の効果もあり、日本国はやや戦局を押し返し始めた。
航は十五日こそ出撃することなく休めたものの、十六日と十七日は十三日と同じく一日に五戦を熟すことになった。
七月十八日、硫黄島防衛戦で破損していたスイゼイ一機の修繕が完了。
寺田章平三尉も復帰し、豊中隊に四機、池田隊に三機に配備されて東西の防衛に割り当てられる。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコはこの日より四日間、一日に三・四回出撃し、防衛に貢献。
七月二二日、七機のスイゼイが追加で配備される。
また、鹵獲した極級為動機神体・タカミムスビの分析結果の中間報告より、スイゼイ後継機の開発に着手。
スイゼイの生産は残り六機を最後に停止することが決定された。
カムヤマトイワレヒコはこの日二回出撃した。
七月二三日、カムヤマトイワレヒコ最後の防衛出撃。
岬守航は停戦に向けた特別作戦の為に修繕すべく出撃停止となる。
彼の撃墜数はこの時点で百機を突破している。
七月二五日、カムヤマトイワレヒコを抜きにした最大規模の防衛戦「南鳥島の戦い」が勃発。
皇國の超級為動機神体・ミロクサーヌ零式二十三機の侵攻によって南鳥島航空基地は壊滅的損害を受けた。
日本国側は再度の硫黄島侵攻を懸念し、超級スイゼイ十四機、壱級二十五機を投入し、南鳥島航空基地の奪還を図る。
戦闘は熾烈を極め、スイゼイ三機と壱級十機を失いながらもどうにかミロクサーヌ零式を撃退。
しかし皇國側は新型超級二十二機を追加投入。
自衛隊はどうにか一機を撃破するも壱級全機とスイゼイ四機を失い、一時硫黄島への撤退を余儀無くされる。
翌二六日、皇國は占領した南鳥島より新型超級十四機で硫黄島への再侵攻を開始。
スイゼイ七機を後退させ駐留していた自衛隊は、戦力差二倍以上の敵に対して再度防衛出動し、負けられない戦いに挑む。
日本国はこの事態に対し、特別作戦に向けた輸送の準備に入っていたカムヤマトイワレヒコの投入を検討するが、自衛隊はスイゼイ七機で皇國新型超級を南鳥島まで撤退させ、そのまま南鳥島奪還の為の再上陸に臨んだ。
結果、スイゼイは最後の一機を残して破壊されてしまったものの、戦いは日本国側が辛勝した。
翌二七日、日本国はスイゼイの最終ロット六機を追加導入。
最初の任務として、南鳥島の戦いで破壊されたスイゼイに搭乗していた操縦士十三名と同機の直靈彌玉・破損部品を回収した。
七月二九日、スイゼイ三機を載せた護衛艦「ひゅうが」が宮崎県細島港よりインドネシアはジャカルタ港へ出港。
また、翌三十日には残る四機も護衛艦「かが」による運搬が開始される。
七月三一日、日本国は新型超級為動機神体・シキツヒコ十機を配備。
同日中に三機が護衛艦「いせ」に積載され、出港した。
八月一日、更に四機のシキツヒコが護衛艦「いずも」に積載され、出港。
八月二日、久住双葉を除く特別警察特殊防衛課の臨時職員が契約を更新し、東瀛丸を飲む。
岬守航はその足で宮崎県細島港へと移動し、新型護衛艦「あめつち」にてシキツヒコ三機及びカムヤマトイワレヒコと共に特別作戦に向けて移動を開始する。
尚「あめつち」には航の他にも豊中隊を初めとした作戦に参加する操縦士達も同乗している。
八月三日、日本国は本土防衛用のシキツヒコを五機追加配備。
八月四日、ジャカルタ港へ護衛艦「ひゅうが」「いせ」が到着。
八月五日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がパプアニューギニアはポートモレスビーに向けて出港。
八月七日、護衛艦「いずも」「かが」そして「あめつち」がジャカルタ港へ到着。
八月八日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」が出港。
八月九日、護衛艦「ひゅうが」「いせ」がポートモレスビーに到着。
八月十二日、護衛艦「いずも」「かが」「あめつち」がポートモレスビーに到着。
超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコ、スイゼイ七機、シキツヒコ十機が特別作戦に向けアメリカ合衆国ハワイのパールハーバー・ヒッカム統合基地に移動する。
日付変更線を越え、現地時刻の八月十一日午前四時に同基地到着。
⦿⦿⦿
ハワイ時刻、八月十二日木曜日午前六時三○分、自衛隊は皇國首都統京上陸に向けて動き出した。
先行して十機のシキツヒコが出撃。
航のカムヤマトイワレヒコや豊中隊のスイゼイは少し遅れて出撃する作戦である。
シキツヒコ十機に搭乗するのは新規に配属された西宮和彦一尉の率いる西宮隊五名と芦屋守一尉率いる芦屋隊五名である。
彼らの任務は後続の豊中隊七名及び航が恙無く神皇の身柄を確保出来るように洋上の敵機を排除すること、謂わば露祓いだ。
想定通りに事が運べば、到着予定時刻は皇國時刻の八月十三日午前五時過ぎ。
八機の超級為動機神体が朝焼けを背にした神々しき威容を以て皇國首都統京へと上陸し、早朝の人も少ない時間帯のうちに皇宮は宮殿へ臨着。
そのまま神皇の寝室へ押し入り目標の身柄を確保することになるだろう。
西宮隊と芦屋隊は本土防衛に残った尼崎隊と共に七月二七日から防衛戦に参加。
南鳥島の戦いには間に合わなかったものの、その後八月一日までの防衛に貢献している。
不利な壱級為動機神体で戦い抜いてきただけあって、豊中隊や池田隊も一目置く実力者達である。
「なんだ、この気配、圧力は……?」
ウェーク島付近を飛行する西宮一尉は奇妙な感覚に襲われた。
因みに、ウェーク島は皇國顕現の影響で大きく東に位置が移動した島の一つである。
この島の他にもハワイ以西の殆どの島嶼が移動しており、位置は二〇二〇年九月より前と大きく異なる。
『此方芦屋。前方に敵影視認。新型超級と思われる。総員、戦闘準備』
芦屋一尉が連絡した敵影は西宮も感じている。
しかし、彼が感じているのはもっと別の、恐ろしく強大な何かである。
「此方西宮。総員、下方を警戒せよ」
『下方? 海しか無いぞ?』
芦屋は疑問符を投げ掛けたが、西宮が脅威を感じているのはまさに海の下からだった。
その時、彼らの脳内によく通る女の声が響き渡る。
『皇女聖花辞別きて白さく、今し天命の大戦の最中、勁敵が抵抗中中に激しく、遂には帝都をも侵さんと思ひ上がる有様。当に皇国の稜威に係る甚く由々しき戦局にし有れば、吾が力の限りを傾竭し敵を屠り事向けしめむとなも思ほし食す。厳しき天地開闢の参柱大神、弥高に降鑑し、其の明験発顕し給ひ、速けく神州が禍患を禳ひ除き、聖業を成遂げしめ給へと白さく』
海面が激しい光を放つ。
それはまだ薄暗い早朝の海上を真白く塗り潰す程に凄まじい光だった。
「なんだこれは……!」
『総員、敵襲に備え!』
シキツヒコ十機の前方で激しい水飛沫が上がった。
何か巨大な、全高三十六米の為動機神体が彼らの目の前に離水したのだ。
それは何処か女性的な造形の機体だった。
『起動しなさい! 絶級為動機神体・カムムスビ!!』
停戦に向けた作戦の前に立ちはだかったのは、久しく現れていない三機目の特別機だった。
操縦士は第一皇女・麒乃神聖花、この機体は一月程前に仕様を指示された、彼女の為の恐るべき機体である。
今、最悪の敵が自衛隊に牙を剥こうとしていた。
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それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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