日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第三章『争乱篇』

第六十七話『神產巢日』 破

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 こうこく顕現によって、ウェーク島はハワイ・とうきよう間のとうきよう寄り三分の二の地点に移動している。
 その上空で、一機のこうこく特別機が日本国ちようきゆうシキツヒコ十機を前にしていた。
 特別機の操縦士はこうこく第一皇女・かみせいである。
 彼女はシキツヒコに取り囲まれ、十三年前のことを思い出していた。

「懐かしいですね。まとわりく殺意、漂う死のかおり、すさぶ戦場の風……」

 これまでしんせいだいにっぽんこうこくは様々な時空へと移動し、異なる世界の日本を吸収すべく戦争を繰り返してきた。
 その中で、特に強力な敵と認めた国に対しては当時女子高生だった彼女が直々に戦場へ出てじゆうりんするのがならわしであった。
 例えばこの世界の米国がそうであったように、強大な覇権国家であればこうこくの誇るちようきゆうどうしんたいであれど撃破されぬとも限らない。
 米国がある意味幸運であったのは、この世界に転移してきた時にはかみせいが既に政治家に転身しており、戦場へ出なくなって久しかったことだろう。

最終オメガ兵器ウェポン超能力サイキック女子高生スクールガール

 かの世界線の覇権国家であったる帝国は、自分達を一瞬にしてちようらくさせた彼女のことを畏怖を込めてそう呼んだ。
 世界最強を誇った最新兵器を素手で解体し、軍事拠点を謎の念動力でかいじんに帰す悪夢に襲われたその国では、以後黒いセーラー服が心的外傷トラウマの象徴として禁忌タブーとなった程である。

「ふふふ、久方振りに初恋の相手とめぐった様な気分でしょうか……。さあ、ちらへ来てわたくしと踊りましょう。悲鳴が奏でる管弦楽と断末魔の地獄絵図にいろどられた、さつりくの舞踏を!」

 かみの高揚する気分を体で表すが如く、彼女の登場する特別機は両腕を引き拳を握り締めて構えた。
 かつての戦いと彼女の様子が異なるのは、この機体に搭乗しているという点だ。
 十三年前は生身で戦場をかつしていたが、今回は彼女のためこしらえられた特別機を駆って自衛隊の前にふさがる。

 ぜつきゆうどうしんたい・カムムスビ――それがこの特別機の名前である。
 
 きのえ公爵家先代当主のきのえくろはた男爵令嬢のはたなどが代表として挙げられるように、こうこくの上流階級の中にはどうしんたいの操縦技能を体得している者が少なくない。
 第一皇女・かみせいもその一人で、まっきゅうどうしんたいを操りすめらぎかなを脅迫したこともあった。
 とはいえしかし、彼女の操縦技術そのものはこうこく最強の操縦士・ひろあきらや第二皇子・しやちかみには遠く及ばない。
 それどころか、隊のはやてつ中尉やしやちかみ隊のひらつじらい少尉など、正規のこうこく軍人の方がはるかに高い技量を持つ。

 現に、彼女は相対する敵部隊のちようきゆうどうしんたい・シキツヒコが放つ光線砲をすべ無くてられてしまっている。
 何度も、何度も、集中砲火が機体を蜂の巣にする勢いで浴びせられる。

「無駄ですよ」

 しかし、カムムスビはビクともしない。
 かすきず一つ付かない様子にただならぬ異変を感じたのか、十機のシキツヒコは斉射を中止して周囲を旋回し始める。

『なんだこいつは……? 威勢良く飛び出して来た割には全く動かん』
『だがシキツヒコの射撃にひるむ様子も全く無い。不気味な敵だぜ……』

 困惑する敵機操縦士、自衛隊の西にしのみや一尉とあし一尉の声がしんに乗って伝わる。
 かみはそれを聞いてほくんだ。

「これは実にわたくし向きの、わたくしならではの良い機体ですね。皇太子殿下のめいせきなる頭脳、全くもつて素晴らしいと言う他ありません……」

 こうこく三機目の特別機――その装甲はやはり例に漏れず並外れて堅固なのか――いや、実は違う。
 カムムスビの装甲はむしろ、旧式のミロクサーヌやガルバケーヌにすら劣る紙同然の代物である。
 それどころか、通常の操縦士ではまとに戦えない機動性しか備わっておらず、おまけに兵装すら一切存在しない。
 女性的な形状はこうごうしくも妖艶な姿で魅せるが、造形の美しさばかりであまりにも見かけ倒しの機体なのだ。

 そう、造形美だけはこうこくの技術力の粋を集めた傑作である。
 それはたいの芸術家が心血を注いだ神像をほう彿ふつとさせる程に。
 すなわち、外見に高い神性を宿しているといえよう。
 そしてこれこそが、カムムスビという機体の神髄であり、かみが操縦して初めて発揮される恐ろしさなのだ。

『撃って駄目なら斬り掛かれ!』

 十機のうちあし隊の五機が一斉にカムムスビに飛び掛かる。
 光線砲が駄目なら、より高い出力を持つ切断ユニットで破壊しようという腹だ。

「ですから無駄です。まえごときの力に皇族たるわたくししんを破れるはずが無いでしょう!」

 シキツヒコ五機の切断ユニットは、カムムスビに衝突した瞬間に粉々に砕け散った。
 それはガラスどころかあめ細工を彷彿とさせるもろさであった。

『なっ!? こいつは、この機体は……!』
『どうした、あし!』
『この機体、装甲じゃない! しんに守られている!』
『なんだと!? そんな訳が無いだろう! ちようきゆうどうしんたいにはしん無効化の機能が備わっているんだぞ!』

 西にしのみやろたえるのも無理は無い。
 しかし、彼らは知らなかった。
 皇族のしんはその強大さ故にぜいじやくな制約を受け付けない。
 光を透過する筈の水であっても、はるかな深海は常闇にとざされてしまう様に。
 あまりに巨大な電力を受けてしまうと、絶縁体であっても消し炭となってしまう様に。
 度を超した力に対しては、ざかしい能力的制限など全くの無意味なのだ。

ぜつきゆうどうしんたい・カムムスビの役割は武器でも防具でもありません。圧倒的なしんを誇る、皇族たるわたくしにその様なものは一切不要。身を守るならば己の力で事足りる。寧ろこのわたくしが脆弱なる機体を損傷から守っているのです。まえ達如きではどうにもなりませんよ」

 そう、カムムスビ自身に防御力はほとんど無い。
 しかし、その機体は操縦士であるかみせいしんに守られている。
 機体が操縦士を守るのではなく、操縦士が機体を守るという、一見して本末転倒の設計思想。
 ではこの機体は何の為に存在するのか、何故なぜわざわざかみはこのようなどうしんたいを駆るのか。

「冥土の土産に見せてあげましょう! このわたくしの新たなる力、カムムスビの何たるかを!」

 かみの全身が激しい光を放つ。
 それは彼女を覆うカムムスビにでんし、全高三十六メートルの造形美の結晶から全方位にせんこうが瞬いた。
 刹那の光、しかしその後に残ったのはカムムスビただ一機であった。
 カムムスビを取り囲んでいたシキツヒコ十機は、すさまじい光の一撃に跡形も無く消滅してしまったのだ。

「カムムスビの造形美によって備わる機体のしん、それによって強化されたわたくししんって恐怖も苦しみも無く逝けたのです。感謝しなさい……」

 ぜつきゆうどうしんたい・カムムスビの役割、それは操縦士であるかみせいしんに機体のしんを掛け合わせ、何倍にも強化する増幅器なのだ。
 唯でさえ圧倒的なかみの力が更に増強されては、はや手が付けられる相手などこうこく外に存在するかどうか……。

わたくしの愛弟を殺した『金色の機体』、葬り去るのは同じどうしんたいさわしい。それでいて、撃つのは皇族たるわたくしの象徴『しん』の力……。まさにわたくしの気分と完全に合致します。実に素晴らしい……」

 かみはカムムスビの力を加えた新たなる力の試し撃ちに満足していた。
 と、そこへ彼女の背後から十五機のちようきゆうどうしんたいが追い付いてきた。
 南鳥島の戦いから導入された新型機である。

『殿下、遅くなりました、申し訳御座いません』
「いいえ、構いませんよ。丁度肩慣らしも済んだところです」

 十五機は主に、硫黄島や南鳥島で生き残った兵達で構成された志願者達の特別部隊である。
 軍人ではないかみは自身の部隊を持たず、彼女自身も必要としていなかったが、めいばんかいを願う彼らが自ら申し出たのだ。
 や弟を慕う者達が隊長の無念を晴らしたいと言うのなら、かみもそれを無下にはしない。

て、しばしの後に敵の第二陣がやって来るでしょう。このわたくしが一機残らずがいしゆういつしよくに砕いてやりますが、恐れを成した臆病者が逃げぬとも限りません。まえ達は南北二手に分かれ、敵の拠点とおぼしき布哇ハワイ島へと回り込みなさい。性懲りも無くこうこくに刃向かった元覇権国家に思い知らせ、敵の退路を断つのです」
『ははっ、仰せのままに、殿下』

 ちようきゆう十五機は八機と七機に分かれ、カムムスビを置いて先へと進んだ。
 取り残されたかみは一人、前方の敵を感知してほくむ。

「ふふふ、ではわたくしは挨拶代わりに一発お見舞いしてやりましょうか……」

 カムムスビの右腕が振り上げられた。
 宣誓の姿勢にも見えるが、手首は大きく反らされている。
 空にかざされたてのひらから、あかい光が天に向かって放たれた。
 その瞬間、世界はかみせいという女が持つ力の余りの脅威に対し、この世の終わりの様におののいた。



    ⦿⦿⦿



 日本時間、八月十三日午前二時頃、気象衛星ひまわりが突如として撮影不可能の状態に陥った。
 丁度その頃は自衛隊が戦争終結に向けた作戦実行中である。
 戦いの影響でシステムに不具合が起こったのかと、しらせを受けた気象庁の職員に緊張がはしったという。

 だが、その本当の原因を知ったのは防衛省の職員だった。
 本土と離島に配置された敵機探知の職員達は皆一様に戦慄を覚えた。
 特に、多くの人員で今も本土への侵攻に備えている横田基地の騒乱は一際だった。

「なんだ……この常軌を逸した巨大なエネルギー体は……?」
「気象庁から問い合わせが来ています! ひまわりの様子がおかしい、画像が撮影出来ないと!」
「出来なくて当然だ!」

 焦燥に駆られた拳が机を打ち付ける。

「今、太平洋上空に巨大なエネルギーの球体が浮かんでいる……。いや、これは球体というより『天体』だ……! ひまわりの映像はそいつの存在で完全に遮られている……!」
こうこくの……大量破壊兵器でしょうか……?」
「それにしてもやり過ぎだ……。エネルギー体の大きさは半径約三四〇〇キロ……。殆ど火星と同じ大きさの巨大なエネルギーの塊で何を攻撃しようというんだ……」
「火星と同じ大きさの『天体』……。もし、そんなものが落ちてきたとしたら……!」

 あおめる彼らの脳に、よく通る女の声がおどろおどろしく響く。

がんみそぎてい

 こうこく本土を目指す航や自衛隊に、人知を超えた巨大な衝撃が襲い掛かろうとしていた。
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