日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

文字の大きさ
224 / 315
第三章『争乱篇』

第六十七話『神產巢日』 急

しおりを挟む
 先行した西にしのみや隊とあし隊の混成部隊に続き、わたるとよなか隊と共に太平洋上をとうきようへ向かっていた。
 部隊編成はわたるの愛機「ちようきゆうどうしんたい・カムヤマトイワレヒコ」とその後継機「ちようきゆうどうしんたい・スイゼイ」七機の計八機である。
 とよなか隊との共闘ははや毎度おみと言っても良いだろう。
 だが一つ様子が違うのは、わたるの後部座席、すなわち副操縦席「にぎみたまくら」に一人の少女がすわっていることだ。

「ふみゅう、先に行った人達、何かあったんでしょうかね……」
ちゃん、やはりきみも感じたか……」

 くも――幼い少女の姿をした彼女は、そうせんたいおおかみきばの手から逃れる途中に立ち寄ったくも研究所で出会った双子の兄妹の片割れである。
 じんのう複製人間クローンとしての肉体に魂を移された彼女は、その器に違わぬ強大なしんを有し、更にそれを一日に一度だけ他者へ貸し出すことが出来る。
 一箇月前、すめらぎかなわたるに言った「ひのかみかいによるしん消耗の対策として手配した副操縦士」とは、彼女のことであった。

「しかし、よく付いてきたな。怖くはないのかい?」
さきもりわたるさんの操縦なら大丈夫だって、は既に知っているです」

 彼女の同乗は初めてのことではない。
 開戦の夜、最初に搭乗してこうこくへ乗り込んで皇宮へ辿たどいたのは、彼女の案内にるところが大きい。
 そんな訳で、この組み合わせで再びこうこくに乗り込むのはむしろ原点に戻ったともいえる。

もちろんぼくだって今回も死なせるつもりは無いさ。だが、気になるのは先遣隊の状況だ)

 わたるは前方の友軍が突如として感知出来なくなったことを気にしていた。
 同時に、何か妙な胸騒ぎを感じている。

(不気味なのはこの妙な静けさだ。明らかに何か危険が待ち受けているのに、驚く程に何も感じない……)

 わたるは一つ、うることの言葉を思い出していた。

『居るのよね、しんを抑えることも知らない間抜けが』

 再会した際、ことわたりりんろうに向けた辛辣な酷評である。

『お前の様にわざわざしんひけらかすは、じいさまの組織にも裏切り者にも腐る程居たわ。お前はくそなのよ、しんの扱いが』

 わたるの額に冷や汗がにじむ。
 ことの言葉、裏を返せば真の実力者は強大なしんの脅威を感じさせないということだ。

ちゃん、きみが来てくれて良かったかも知れない。恐ろしい敵が待ち受けている気がするんだ」
「はい、もそう思いますです」

 わたるは敵と遭遇する前にからしんを借りておいた方が良いと判断した。
 常にひのかみかいを発動し、持てる全ての力を発揮出来る状態で進むべきだと。

ちゃん、しんを借りられるか?」
「勿論です!」

 からしんの貸与を受けようとした、その時だった。
 不意に、わたる達の上空からしやくねつの光が降り注いだ。
 一瞬にして、世界があかほのおに包まれた様な感覚だ。

ちらとよなか! さきもりさん、上だ!』

 とよなか一尉から通信が入った。
 しかし、わたるも言われずともわかっている。
 天を覆い尽くす巨大な破壊力の塊――わたるはその圧倒的脅威を既に知っている。

「この力……別次元のしん……皇族か……!」

 わたるのうに皇族達の顔が代わる代わる瞬く。
 その中で、敵として戦場に出て来てこれ程の巨大な暴を振るう者。
 第二皇女・たつかみや第三皇子・みずちかみけんではないだろう。
 しんを失ったじんのうや第三皇女・こまかみらんでもないし、勿論戦死した第二皇子・しゃちかみも除外される。

(残るは第一皇女・かみせいと第一皇子・かみえい。そのうち日本国に対して特に敵対的なのは……)

 わたるは背筋がく感覚に襲われた。
 忘れもしない、脳裏に焼き付いた恐怖の美女の顔。

(あのひとが目の前に迫っているのか!)

 動揺するわたるだったが、状況はそんな彼を待ってくれない。
 天を覆うあかい光の塊は目に見えて降下し始めていた。
 どうやらこのままわたる達を圧しつぶすつもりらしい。

さきもりわたるさん!」

 わたるは背後の副操縦席から温かな光が自身に降り注ぐのを感じた。
 彼の知っている「しんの貸与」とはどこか違う、己の中に別の何かが流れ込んで染み渡る様な感覚だった。

「これは……一体……?」
『説明は後です! 今はあれを!』

 の声が自分の中から呼び掛けてくる――わたるは多少戸惑いを覚えつつも、彼女の言うとおりにひのかみかいを発動させた。
 あふれんばかりのしん、これならば常時発動状態でも苦にならない。

(以前、こまかみらんと戦った時とも全く違うこの力、ちゃんが中に入ってきた様な感覚、もしかしてこれが……。いや、ちゃんの言うとおり、今は敵の攻撃をどうにかしないと……)

 カムヤマトイワレヒコは手に切断ユニット「ふつのみたまのつるぎ」を構えた。
 一月前、硫黄島防衛戦でタカミムスビから手に入れた新たな力である。

(あの規模だときんほうじゃどうにもならない。ならばここは……!)

 わたるふつのみたまのつるぎを天に振り上げたカムヤマトイワレヒコを急上昇させた。
 丁度、空を覆う紅い光の塊にきつさきを向けて機体を突っ込ませる形である。

さきもりさん、何を!』
「おおおおおおっっ!!」

 ふつのみたまのつるぎが紅い光に突き立てられた、その瞬間、天を覆う塊に青白い雷光が飛び散り、はしり回り、とどろいた。
 すさまじい力と力のぶつかり合いにより、激しい衝撃が辺り一面を何度も何度も襲い、断続的に空間を揺らす。

「砕けろ!!」

 わたるはそのままカムヤマトイワレヒコを紅い光の壁に突き入れる。
 轟くへきれきは壁のひび割れとなり、ついには紅い塊を粉々に砕いた。
 砕け散ったその破片は火のつぶてとなって太平洋に降り注ぐ。

『総員、回避行動!』

 ひようの如く空から襲い掛かる紅い炎を、七機のスイゼイは光線砲や切断ユニットを駆使してかわし続ける。
 海に落ちた火の玉は水面に溶ける様に消えていく。

『みんな耐えろ、耐え抜くんだ!』

 元は火星と同じ体積を持った巨大な火の玉である、降り注ぐ火の雨の量は本来一日二日で尽きるものではない。
 だがほとんどのしんふつのみたまのつるぎが放った雷光によって消滅しており、そのかげでスイゼイ七機は数分の降雨をしのぐだけで済んだ。
 わたる達はどうにか途方も無い攻撃に耐え切り、生き延びることが出来た。

「みんな、大丈夫か?」
『なんとか助かった。だが今の攻撃で七機ともかなり損傷している』
「良かった……」

 わたるとよなか隊の無事にひとず胸をろした。
 しかし、同時にこれから待ち受けている敵を思うと、このまま同行させるのは危険だとも考え始めていた。

「みなさん、言いにくいですが、ここから先はぼく一人で行かせてもらえませんか?」
『何? どういうことだ?』
「多分、これまでにない恐ろしい敵が待ち受けています。今の攻撃はその一端に過ぎない。こう言っては難ですが、多分ぼくしか生き残れない……」

 おそらく、とよなか隊を始めとした自衛官は皇族の脅威を誰一人として知らない。
 そんな状態で戦ってもすべ無く殺されるだけだろう。
 前方の先遣隊から気配が消えたのも、そういうことだと容易に察せられる。

『そんな相手に貴方あなた一人で行かせろと言うのか? 国民を守るべき我々が、民間人の貴方あなたを……』
ことですがとよなか隊長、今のぼく貴方あなたの指揮下で動く特別警察特殊防衛課の一員です。昨日今日任に就いたばかりの新米ですが、職務としてへ来ています」

 しばし通信が途絶える。
 とよなかも迷っているのだろう。
 これがわたるで無ければ「生意気に勇敢ぶるな」とでも一喝していたところだろうが、誰よりも戦果を挙げているわたるの言葉は決して軽くない。

 と、その時わたるは別の気配を感じた。
 ハワイの方面から七機の敵が接近してくる。

「みんな、後だ!」
『解っている! 総員、背後から敵! 戦闘準備!』

 東から襲来した七機のちようきゆうどうしんたいが襲来した。
 ちらが巨大な火の玉に対処していた隙に回り込んでいたらしい。
 ミロクサーヌ零式とは明らかに違う、新型のちようきゆうだ。
 わたるはその姿にどことなく見覚えがあった。

「あれは……ガルバケーヌ……!」
『南鳥島で動員された新型だ! 厄介な相手だが……!』

 ガルバケーヌ――わたるがミロクサーヌ改で初めてのどうしんたい戦を行った相手である。
 そうせんたいおおかみきばあきとの一戦は、此方に不利な条件が重なっていたものの、引き分けに持ち込むのがやっとだった。
 その強力な兵装と堅固な装甲は今も印象に残っている。

 スイゼイと敵、それぞれ七機が交戦状態に入った。

布哇ハワイたたけとの命令だが、此処で全員葬ってしまえばそれまでよ!』
『この新型ちようきゆうどうしんたい・ガルバケーヌしきをミロクサーヌれいしきと同じと思うなよ!』

 これまでこうこくの最新鋭機として運用されていたミロクサーヌれいしきは機動力重視のミロクサーヌ型を元にしてガルバケーヌの長所を取り込んだ高性能機であったが、この戦争ではカムヤマトイワレヒコに力負けするなど、馬力や火力に難が見られた。
 しかし、今回新たに導入された新型ちようきゆうどうしんたい・ガルバケーヌしきは火力重視のガルバケーヌ型を元にしてミロクサーヌの長所を取り込むことで、欠点の力不足を克服している。
 南鳥島の戦いでも、スイゼイを七機のうち六機撃破した難敵である。

さきもりさん! さっきの話、了解した!』

 わたるとよなかからの通信が入った。

『此処は我々が食い止める! 貴方あなたの退路は確保するから、少しでも駄目だと思ったら迷わず戻って来い!』
「ありがとうございます!」

 わたるはカムヤマトイワレヒコを西へ向かわせた。

(みんな、どうか御武運を……!)

 わたるとよなか隊を信じ、えて彼らの気配から感覚を閉ざした。
 ここから先の相手、他のことを気にしていて勝てはしないだろう。

ちゃん、行くぞ!」
『はい! 大丈夫です、が付いていますから!』

 わたるがこれからすべきこと、ずはこの先に待ち受ける敵、第一皇女・かみせいの駆るぜっきゅうどうしんたい・カムムスビを突破し、そしてこうこくとうきように上陸する。
 そして皇宮に再びカムヤマトイワレヒコを臨場させ、寝室で眠るじんのうの身柄を確保する。

 極めて困難な任務だが、この一戦に日本国の存亡が懸かっていることは間違いない。
 わたるはカムヤマトイワレヒコを加速させた。

「さあ、この戦争を終わらせるぞ!」

 はるか西方ではカムムスビも此方に接近している。
 こうこく顕現で地殻変動し、様変わりした太平洋を両機が飛んでいる。
 変わり果てたとうしよの位置関係、現在ではハワイからとうきようを結ぶ一直線上にウェーク島とその諸島が存在する。
 このまま運べば、接敵の地点はミッドウェー島の上空となるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...