日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第三章『争乱篇』

第六十九話『革命』 急

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 とうきようこうこく大学病院、にも連合革命軍の魔の手が及んでいた。
 集中治療室に先のミッドウェー島上空の戦いで傷付いた第一皇女・かみせいが入院しているからだ。

 武装した男達数名の歩いてきた道には病院関係者の死体が転がっている。
 そして彼らはとうとう目的の扉の前まで辿たどいた。
 男の一人が扉に手を掛けた。

「……開かない?」

 男は力尽くで扉を動かそうとするが、全くびくともしない。
 集中治療室は病院関係者の身分証がなければ解錠されないので、当然のことである。

「どいていろ」

 そんな彼らをけ、軽装の男が扉に手を掛け、力尽くで扉を破った。
 どうやらこの男が一団のリーダー格で、一人だけとうえいがんを飲みしんってりよりよくを大幅に向上されているらしい。

「む……」

 扉を破った男は室内で眠るかみに目をり、何かに気が付いて立ち止まった。
 そんな彼の後から、武装した男達が集中治療室に侵入する。

かみせいこうこくの貴族主義者の筆頭……!」
「この女だけは生かしておかん……!」

 男達は眠るかみに銃を向けた。
 だがその瞬間、かみの目蓋が勢い良く開いた。

「不届き者」

 次の瞬間、かみ寝台ベツドから跳び上がった。
 同時に、武装した男達が軒並みなぎたおされる。
 唯一人、異変に気付いて立ち止まったリーダー格の男だけは攻撃をガードする素振りを見せ、寝台ベツドの脇に着地したかみにらんでいた。

「弱った者を手に掛けようとは、にも身分卑しきはんぎやく者の考えそうなことですね」
「よく言う。昨日しんを失い死に掛けたばかりの女がこの大立ち回りか。化物め……」
「そういうまえは他の者と違いわたくしのことを警戒していましたね。かで会いましたか?」
おれは『じようさそり』のこんごうさとるだ」

 じようさそり――そうせんたいおおかみきばの別働隊で、武力闘争に特化した精鋭部隊であり、かつはたの姉・が所属していた。
 しかし、しゆりようДデーに告げた話にると、六年前の蜂起で壊滅したはずである。

「そういえば居ましたね、その様な名の破落戸ごろつき共が。わたくしのことは調べていたという訳ですか」
「あの時はお前達皇族に煮え湯を飲まされた。かげで組織を失い、よりどころも無く身を隠す羽目になった。だが、さそりにとって常に砂中に紛れて身を潜めるなど慣れたものなのだ」

 こんごうさとるかみに銃口を向けた。

「今ようやく雌伏の時が終わり、ふくしゆうを果たせるよ」
「ほう、わたくしと戦うつもりですか?」
「いや、来てもらう。おおかみきばしゆりようДデーから皇族共は残らず国会議事堂に連行するように言われているのでな」

 こんごうの言葉を聞き、かみは不敵な笑みを浮かべた。

「面白い。まえ達の趣向に付き合ってあげましょう」

 かみこんごうに銃を突き付けられたまま背を向け、背筋を伸ばして優雅に歩き始めた。



    ⦿⦿⦿



 こうこくの議会は地獄絵図と化していた。
 わたりりんろうの肉のやりが議員達を刺し貫き、粛正という名の虐殺に取りかかったのだ。

「ははははは、い気味だなァ! 暴力を前にすべ無く殺されるしかない弱者の気分はどうだァ?」
「同志わたり、程々にしたまえよ。閣僚や有力議員の断罪は公開せねばならんからね」

 しゆりようДデーくぎを刺すも、既に最年長の閣僚であるごうむねのり逓信大臣がこの事態のショックで心臓を起こして息を引き取っている。

しゆりようДデー、同志わたりが議員をみなごろしにする前に公開処刑するべき者達を一箇所に集めておきましょう」
「そうだね。では同志なわ、同志はなと共に議員や摂関家当主共を壁際に並ばせ給え」

 しゆりようДデーの命を受け、なわはなが議場の階段を昇り始めた。
 なわが閣僚達のもとへ、はなが摂関家当主達のもとへと向かう。

「ククク、久し振りだな、とおどうあや
はな……たま……!」

 見下ろしあざわらはな、睨み上げるとおどう
 嘗てはとおどうの絶対的な力の差の前にひれすしかなかったはなだが、今この状況では完全に力関係が逆転している。

「我は今、心底後悔しておるよ。あの時貴様に情けを掛けてしまったことをな……」
「耳心地の良い言葉だな。あの時の恩を盾にして命乞いでもしてみるか?」
「いや、そういう意味ではない……」
「あん?」

 このような状況にもかかわらず、摂関家の当主達は眉一つ動かさず、至って冷静にただはなはつしゆうを睨んでいる。

じんのう陛下は慈悲深いかたじゃ。貴様らに決して希望は与えなんだが、一方で根絶やしにもしなかった」
「それはわたし達をいたずらに苦しめて臣民共の見せしめにしていただけだろう。まあ、今はそれがあだになった訳だがな」

 はなとおどうの髪をわしづかみにした。

「恨むなら、下手を打ったじんのう様を恨むんだな」
「何を言っておる。もう革命を成した気でおるのか……」

 とおどうは溜息を吐いた。

「我の後悔はむしろ、貴様のこの先を思ってのことじゃよ。あそこで貴様を殺してやった方が良かった。間違い無く、貴様らもそう思うことになるじゃろう」
「フン、負け惜しみか……」
「そう取ってくれても構わんがの、すぐに思い知ることになる。こうこくしんを奪った程度で転覆出来る程甘い国家ではないぞよ」

 その時、一人の女が議場に駆け込んできた。
 メイド服に帯刀した長身の女、第一皇子・かみえいの近衛侍女・しきしまである。

「貴様らぁァァッッ!!」

 怒りに叫ぶ彼女は既に抜刀し、返り血に染まっている。
 此処へ来るまでに既に何人か斬ったのだろう。
 その姿を見たはなは敵意と歓喜の表情と共に迫る。

「久し振りだなはた、この裏切り者のばいが!」

 はなの髪が伸びて束なり、毒々しく変色してむちの様にうねる。

「貴族のじようさまめ、昔からお前のことは気に入らなかった! 命惜しさに皇太子の情婦にちた今のお前なら遠慮無くなぶごろしに出来るってもんだ! 後で御主人様もあの世に送ってやるから好きなだけめまくってもらうが良い!」

 しきしまはなが交錯し、ぶきが舞い散る。

「ギャアアアアッッ!!」
「悪いがしんが無くとも貴様に遅れなど取らんよはなわたくしもこの六年、ただかみ殿下の腕の中に溺れていた訳ではないのでな」

 しきしまは胸を斬られて倒れ伏したはなを冷たく見下ろす。
 ただ、命が助かっているのははなもただ斬られるだけの弱者ではなかったのだろう。

「ち、畜生……」
「今死にたくなければ大人しくしているんだな。しんかいふく力で傷はそのうちふさがるだろう」

 しきしまの視線が議長席のしゆりようДデーに向いた。
 そんな彼女に、もう一人の男が迫る。

はなめ、しんを失った相手にい。やはりおおかみきばで真の戦士と呼べるのはしゆりようДデーおれだけのようだなァ」
わたりか、厄介な相手だ。だが妹が随分世話になったらしいな」

 わたりりんろうが異形へと変貌し、八本の槍をしきしまへと差し向ける。
 しきしまは刀一本でわたりの猛攻をしのぐも、防戦一歩といった様相だ。

「くっ、すがに強い……!」
「訳あってこの一箇月間鍛え直したからなァ。今なら万全の状態でも貴様を殺す自信はあるぞ!」

 一本の槍がしきしまの左肩を貫いた。
 しんを欠いて大幅に弱体化した状態では、はなは下せてもわたりの相手は厳しいらしい。

「うぐっ……!」
はたおれは一つだけはなと同じ意見だ。貴様のことが気に入らん、此処で殺せて清々するというのだけはなァ!」

 わたりの槍、残る七本が一斉にしきしまへ向けて伸びる。
 刀が下がってしまった今、しきしまは絶体絶命であった。

 だが七本の槍がしきしまを串刺しにするかと思われたその刹那、それらは突如炎上してはじばされた。
 一人の、長い黒髪の女がしきしまの前に入って金の扇を振り抜いていた。

「ぐっ、貴様は……!」
「随分と派手に暴れ回ってくれたようですね……」

 第一皇女・かみせいが一瞬にしてわたりとの間合いを詰める。

「くっ!」

 しきしまへの攻撃に集中していたわたりの懐はガラ空きになっている。
 とはいえ、じやばら状の装甲に守られた彼の胴部はそう簡単に攻撃を通さない。
 だが、かみが振るった扇はその胴部を激しく打ち据え、わたりの体を高く舞い上げた。

「ぐおおおおっっ!?」
「やれやれ、やはりしん無しで戦うのはくたれますね。本来ならば今の一発でこなじんつぶせていたものを……」

 金の扇が振るわれた軌跡が炎を上げている。
 どうやら空気との摩擦熱で発火したらしい。
 かみせいしんを失い、更にはひんからの病み上がりでなお、超人的な身体能力を発揮していた。
 わたりの体が派手な音と共に議員席に落下した。

「ぬぅっ、かみせい……。じようさそりの同志こんごうに迎えに行かせた筈だが……」
「ああ、あの男ですか……」

 かみせいしゆりようДデーの疑問に答える様に入り口へと目を向けた。
 一人の男が傷だらけの状態でふらつきながら歩いてきていた。

「ど、同志こんごう……!」
しゆりようДデー、申し訳御座いません……」

 こんごうは力尽きてその場に倒れた。
 しゆりようДデーは冷や汗をきながら構えを取る。

「仕方が無い。こうなっては我輩が直々に『椿つばきりゅうごうたいじゅつ』で相手をしようではないかね」
「おや、嘗て椿つばきただゆきがその腕一つで陛下の政権奪還に貢献して男爵位を得た技を、息子のはるあきまとめた格闘術ですね。それを叛逆に使おうなどと、随分と不届きなものです……」

 かみもまた、扇を構えて臨戦態勢を取った。
 その表情には普段のほほみは無く、しゆりようДデーことどうじようふとしを一筋縄ではいかない相手と認識していることが見て取れる。
 だがそんな彼女を前にして、しゆりようДデーは突如構えを解き、ゆがんだ笑みを浮かべた。

「隙の無い構えだ、戦って勝てんことはないだろうが、やめておこう」
「何?」
ちらには切り札があるのだよ」

 しゆりようДデーが指を鳴らすと、彼の傍らに二人の男女が姿をあらわした。
 女装をした男と、首輪とくちかせを嵌められ肘と膝を折り曲げて拘束された少女である。
 その姿を見て、議場の誰もが絶句した。
 かみも扇を広げて口元を隠し、極めて鋭い目付きでしゆりようДデーを睨んでいる。

「こ、こまかみ殿下!」

 ろうばいして叫んだのは、まつがんで死んだふみあきから内閣総理大臣を引き継いだ元外務大臣・づきれんろうである。

「貴様ら、年端も行かぬ乙女に何ということを……!」
「ただの乙女ならばな」

 なわづきの後頭部に銃口を突き付けた。

「同志かみせいが少しでも怪しい動きをしたらどうなるか、見せ付けてやれ」
「はぁい」

 女装の男・いつきが首輪の鎖に取り付けられた小型制御装置のスイッチを押した。
 同時に、電流音が流れてこまかみもだえ苦しむ。
 がスイッチから指を離すと電流は収まり、こまかみは涙目で呼吸を荒らげた。

「フハハハハ、どうだね諸君! きみ達が我々を困らせると、この年端も行かぬ乙女とやらは通電に苦しむことになるのだよ! これでは我輩に手は出せまい!」

 しゆりようДデーかみを拳で激しく打ち据えた。

「ぐっ……!」
「おや、我輩の拳をらっても膝を屈しないとは、いぬの民族とはいえ支配階級だけあって自尊心プライドだけは一人前の様だね。だが、あまり痩せ我慢をしていて良いのかね?」

 かみの扇の裏から赤いしずくが滴る。
 そしてむ音――どうやら彼女は吐血しているらしい。

かみせいきみは本来安静にしていなくてはならない身なのだよ。つい二日前に死に掛けたばかりの人間が戦いの場に出ようなど、思い上がりも甚だしい」

 しゆりようДデーは拳を振り上げた。
 その時、づきたまらず声を上げた。

「いい加減にしなさい! このようなやり口、恥知らずにも程があるとは思わんかね!」

 づきの訴えにしゆりようДデーは拳を下ろしたが、あきれた様に肩をすくめた。

「虫の良い話だね。自分達に不利になった途端に相手の振る舞いを問い詰めるきみ達の方こそ見苦しいと我輩は思うよ」
「黙りなさい。ような振る舞い、嘗て理想を掲げて国をったきみ達のじいさまに顔向け出来るのかね。ええ、そうだろう? ヤシマ人民民主主義共和国国家主席・どうじようきみと首相・なわずみの孫達よ」

 づきの背後でなわが苦虫をつぶした表情を浮かべている。
 どうやら彼の言葉に多少なり思う処はあるようだ。
 しかし一方、もう一人彼の言葉を向けられたしゆりようДデーことどうじようふとしは大笑いし始めた。

「ハハハハハ、いやまさか国家の憎ききゆうてきである二人の名を出すとは、こうこくも追い詰められるともろいものだね。一層あわれですらある」
どうじよう……!」
「それに、きみの今の言葉は滑稽極まり無い。なあ、同志なわ
「そう……ですね……」

 なわの銃口がづきの後頭部に強く押し当てられる。

「同志なわ、今こそ言ってしまおうか」
「ええ……」

 どうじようはゆっくりと議長席に向かって歩き出した。

「嘗て国を奪われたたいの英傑・どうじようきみとその腹心・なわずみは必ずや反動勢力に対して再び革命を起こすと誓った。何年掛かっても、何世代とうとも……。その為にじゆつしきしんとくし、二人の魂を自らの子孫に転生させ続ける能力を得たのだ……」

 議員達の間にどよめきが起こる。
 どうじようは天井に向けて発砲し、議場を静まりかえらせた。

「そう、それが我輩と同志なわの正体。今此処に、どうじようきみなわずみさんだつされた政権を奪い返す為に帰って来たのだよ」

 どうじようは悪鬼羅刹の如き狂気の表情で、おぞましい高笑いを上げた。
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