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第三章『争乱篇』
第七十話『黄昏時の天空へ捧げる讃美歌』 序
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首領Дこと道成寺太の衝撃的な告白を受け、議場は静まり返っていた。
武装戦隊・狼ノ牙は皇國で最も勢力が大きく、そして有名な叛逆組織である。
彼らがヤシマ人民民主主義共和国の正統後継者を名乗るのは、ヤシマ政府の主席と次席の孫が組織したという理由だと、誰もがそう思っていた。
だが今その道成寺が言うには、首領の道成寺太と参謀の久地縄元毅はヤシマ政府の道成寺公郎と久地縄穂純その人達であるらしい。
「我輩達は嘗て、理想に燃えていた。文明開化も久しく、列強国の一員になろうなどと思い上がっていた嘗ての神和維新政府は富国強兵政策を推し進めていた。その裏で貧しい者達は富める者達に劣悪な労働環境で死ぬまで搾取される惨めな人生を強いられていたにも拘わらず、顧みることなく……。弱者を踏み付けにする性根はやがて外へと拡大し、不幸と怨嗟を振り撒いた。この国家がこのまま栄えることは世界にとって厄災にしかならないと思った……」
道成寺は拳を握り締め、感情を込めて語る。
そんな彼の言葉に内閣総理大臣・都築廉太郎が異を唱えた。
「一面的な見方だ! 文明の進歩、国家の発展は国民に多大なる恩恵を齎した! 今日の我々の健康的で文化的な生活は当時の歩み、富国強兵を礎として成り立っているものだ!」
「伝え聞いただけの者が知った風な口を利くものではないよ。我輩はこの目で見たことを語っているのだ」
「一人の人間が目に見える範囲など限られている! 一個人の体験や人生で時代の全てが語れるなどというのは傲りに過ぎない!」
都築ら皇國の政治家は、基本的に神和政府を継承しているつもりであり、その統治に対して肯定的な見方をしている。
それは神皇が政権を奪還した正当性に繋がる為、道成寺の物言いは看過出来ないのだ。
「やれやれ、脱線してしまったよ……」
道成寺は溜息を吐いた。
「結局、神和政府は世界大戦に敗れ、我々に斃された。我々はこの民族を一から立て直そうとした。一切の罪を清算し、過去を断ち切り、身の丈に合わぬ自意識は捨て、足るを知る慎ましい幸せの国へと作り変えようとしたのだ。千年以上もの間、民族を呪い続けた因習から解き放とうとした……」
道成寺の表情が憎しみに歪んだ。
「だが! 拒絶された! 貴様ら日本人共は結局のところ古き支配者を選んだ! 文明という餌に釣られ、罪と厄災の道へと再び突き進んだ! その時我輩は思ったのだ! 日本人とはこれ程までに度し難い民族なのかと!」
道成寺は両腕を広げ、高らかに宣言する。
「だから決めたのだ! 次に革命を起こした先に、貴様らに掛けてやる思い遣りは何も無いと! 理想国家など貴様らには千年早い! 日本人とは所詮、悪の帝国の臣民になることを望み、強きを助け弱気を挫く性根の腐った狗の民族だ! だからまずは、全ての日本人から国家を奪ってやるのだと! 敢えて言おう! 日本人に相応しき革命とは、反日亡国に他ならないのだ!」
余りの狂気に気圧され、議員や貴族は一様に押し黙ってしまっていた。
しかしそんな中唯一人、第一皇女・麒乃神聖花だけは大笑いし始めた。
「ぷっ、あはははははは!」
「何が可笑しいのかね?」
「これは失礼、情けない負け惜しみを堂々と言い触らす滑稽さに失笑してしまいました」
怒りに満ちた表情で睨め付ける道成寺に対し、麒乃神は全く物怖じせず、蒼白な顔色に口角から血を垂らしながらも不敵に笑っていた。
その佇まいは何処までも強者、特権階級、高貴なる者のそれである。
彼女は自身が上位の存在であることを、この期に及んで全く疑っていないのだ。
「要するに、御前達は無能故に国家運営に失敗し、民心を失ってしまった。神皇陛下は畏れ多くも一度は自分を捨てた民を、海よりも深い慈悲の心で救い上げた。結果、御前達の稚拙な統治で貧困に喘いだ国は皇國の統治で力強く蘇り、世界一の大国にまで押し上げられた。御前達は国の舵取りを誤り、私達が正しく治めた、それだけのことでしょう。所詮御前達はその程度の、私達皇族を到底越えられぬ、国家を統治するに値せぬ器でしかなかったということです」
麒乃神は道成寺を嘲笑う様に言い放った。
それに呼応する様に、議場は響めきに包まれる。
「麒乃神殿下の仰るとおりだ!」
「自分の失政で支持を失った癖に、国民に責任転嫁して狗呼ばわりか!」
「恥を知れ、恥を!」
道成寺は両眼を血走らせ、怒りに震えていた。
図星を突かれて返す言葉も無い、といったところか。
「イ・ヌ・ド・モ・がアアアアアアッッ!!」
道成寺の拳銃が天に向かって発砲された。
怒髪天を衝く、という心持ちを銃声が代弁したかの様だ。
「いつまで寝ているのかね、同志屋渡・沙華・金剛! この高慢魔羅女を黙らせろ!」
倒れていた三人が徐に立ち上がる。
彼らは道成寺から神為を分け与えられており、大抵の傷はすぐに恢復してしまうのだ。
一方で、皇國体制側の者達は神為を奪われ、戦いで負った傷は簡単には癒えない。
状況は依然として連合革命軍の方が圧倒的に有利であった。
だがそんな中、もう一人の女が密かに動き出していた。
この状況、道成寺は一つだけミスを犯している。
それは、要となる人質、第三皇女・狛乃神嵐花の支配を自分以外の他者に、それも戦闘要員でない逸見樹に委ねてしまっていたことだ。
「狛乃神殿下!」
敷島朱鷺緒が狛乃神を救出すべく、彼女の首輪の鎖を握っている逸見の許へと駆けた。
幸いにして敷島は肩に傷を負っただけだった為、逸見には為す術が無かった。
「退けェッ!」
「キャン!!」
逸見は敷島の突貫に驚いて尻餅を搗き、その隙に敷島は狛乃神を奪還する。
これにて、狛乃神は狼ノ牙の管理下から外れた。
つまり、道成寺はもう狛乃神の神為を使えなくなってしまったのだ。
「殿下、遅くなって申し訳御座いません。今、拘束を解かせていただきます」
敷島の刀が狛乃神を縛っていた拘束具を斬り裂いた。
狛乃神は衰弱しきっているが、これ以上辱められることは無いだろう。
「道成寺、この莫迦騒ぎも終わりだ」
敷島は道成寺に刃を向けた。
「貴様の術識神為は把握している。管理下に置いた者の神為を我が物として接収・利用・分配する能力と、自らの神為に応じた範囲に居る者の神為使用を禁じる能力。だが今、狛乃神殿下は貴様の管理下から外れた。狛乃神殿下の神為が使えなくなった以上、この叛乱はこれ以上続けられまい」
形勢逆転、狛乃神を奪還された狼ノ牙。
本来、道成寺が神為の使用を禁じられる範囲は精々が今居る議場程度の広さである。
また、狛乃神の強大な神為でなければ残る皇族の神為まで封じることは出来ない。
元々神為を失っている神皇や麒乃神は兎も角、皇宮に控えている三人の皇族が鎮圧に動けば狼ノ牙に勝ち目は無い。
連合革命軍は一転、窮地に追い込まれた、かに見えた。
「そう思うかね?」
道成寺は憎しみに歯噛みしているが、まだ何か手があるかの様な言い種である。
「そんなものは再び皇族を捕えれば済むことだ」
「出来るとでも?」
麒乃神が再び扇を構えた。
血の滴る口角を上げ不敵に笑う麒乃神だが、その表情からは血の気が引いており、いつ突然倒れてもおかしくない様相だ。
そんな第一皇女の姿を前に、道成寺は再び歪んだ笑みを浮かべる。
「やれやれ、出来れば皇族相手にこの能力は使いたくなかったのだがね。しかし、君を相手にするのは骨が折れると充分解った」
道成寺は腰に両手を当てて大きく踏ん反り返った。
その姿は衣服の下に眠る男の象徴を突き出し、見せ付けるようでもある。
「今こそ見せてやろう、我輩の切り札を! 本来なら皇族の血など根絶やしにしてやりたいところだが、天神の子を気取る血筋の女を我が物にして、来世で皇位を簒奪するのもまた一興!」
道成寺の股間が眩い光を放つ。
『第一の術識神為・親利恋茶裸覇』
麒乃神は嫌悪感に満ちた呻き声を上げ、初めて自分から後退った。
手に持った扇は口元どころか顔全体を覆い隠している。
「良い勘だ、流石は第一皇女・麒乃神聖花。しかし、神為を失った今の君に我輩の能力からは逃れられん。我輩の第一の術識神為は先程も言ったとおり、己の子孫に魂を生まれ変わらせる能力。そしてその前段階として、確実に子孫を残す為に如何なる女をも我輩に激しく欲情させ、子種を求めずには居られなくさせるのだ!」
「こ、皇族を強姦して子を産ませ皇位を継がせようとは……。なんという下品な、正統性の欠片もありはしない……! それに、能力に態々名前まで付けて……! その口から吐かれる全ての言葉が汚されて泣いていますよ……!」
「なんとでも言うが良い。とはいえ抵抗出来るとは予想外、その精神力は褒めてやろう。しかし、もしこの能力が皇族の神為を得たとしたら、果たして耐えられるかね?」
「何ィ……?」
道成寺の方へ、先程助け出された狛乃神がふらつきながら歩き出した。
麒乃神は強い意思能力で抵抗出来ても、衰弱しきった妹は抗えないらしい。
「嵐花っ……!」
麒乃神の周囲の空気が揺らいだ。
彼女の体から込み上げる怒気が目に見える様だ。
「麒姉様……お願い……」
狛乃神の両目から涙が零れ落ちる。
これまで散々痛め付けられ、国家転覆の為に利用され、尚も辱められようとしているのだ、皇族としてその苦しみは計り知れない。
姉の麒乃神にもそれは痛い程理解出来るだろう。
妹の懇願、その意味するところも。
「解りました……」
麒乃神の姿が消え、一瞬のうちに狛乃神へと肉薄した。
気付いた時には、姉の腕が妹の左胸を貫いていた。
「何だと……!?」
「許しなさい、嵐花。私もすぐに逝きます」
麒乃神は手に持った血塗れの臓器を握り潰した。
指の隙間から鮮血が飛び散り、刺し貫かれた狛乃神の体は糸の切れた人形の様に姉の腕に身を委ねた。
その死顔は長い苦役から解放された様に、どこか安らぎに満ちた微笑みを浮かべていた。
「で、殿下……」
議場の貴族や政治家達、特に目の前で凄惨な身内殺しを見せ付けられた敷島は瞠目して絶句していた。
そんな彼女に、麒乃神は血塗れの顔で微笑みかける。
「弟を、皇太子殿下を頼みましたよ……」
麒乃神の腕が狛乃神の胸から引き抜かれ、崩れ落ちる妹の遺体を姉が抱き留めた。
そして麒乃神は硬く目を閉じ、狛乃神を抱きしめたまま俯せに倒れる。
「麒乃神殿下……御自分で己の心臓を……」
妹を庇う様に倒れた姉はピクリとも動かない。
第三皇女・狛乃神嵐花は姉に尊厳を守る為に心臓を握り潰され、第一皇女・麒乃神聖花はその責任を取る様に自らの心臓を無理矢理止めて絶命したのだ。
「フン、気に入らんね。我輩の子を産むより死を選ぶとは……。命という宝を蔑ろにする悪魔の血筋め……」
股間の光を収めた道成寺は毒虫を見る様な眼で二人の女を見下して吐き捨てた。
その暴言が議場の怒りを誘う。
「おのれ、叛逆者共……! 許さん……!」
真先に怒りを露わにしたのは摂関家当主の一人、丹桐士糸だった。
普段は腹黒く澄まし、慇懃無礼な態度の彼が珍しく激昂している。
「人の皮を被った狼共よ、今に見ろ! 道成寺、最早貴様は皇族の神為を失った! すぐにでも残る皇族方にこの場へお越し頂き、その大逆を贖うことになるだろう!」
丹桐の啖呵を皮切りに、議場は怒号に包まれた。
この場の大部分の議員にとって、貴族院議員・麒乃神聖花は目の上の瘤であった。
しかしそれでも、皇族の長姉としての強者の矜持に満ちた在り方は揺るぎ無い敬愛を集めていたのだ。
「国賊集団! 地獄に落ちろ!」
「国の一大事に国盗りを企む非国民共が!」
しかし、道成寺は天井に向けて発砲し、その声を黙らせた。
「喧しいぞ狗共が! 神為が無ければ皇族の威を借ることしか出来ぬ腰巾着め! 君達の目論見は叶わない!」
道成寺は麒乃神と狛乃神の遺体に向けて四発の弾丸を撃ち込んだ。
「君達は我輩の能力が終わったと思っているようだ。しかし、我輩の第二の術識神為・神威詐無は時限式なのだよ。一度発動してしまえば何が起きようとも一定時間経過するまでは解除されん。あと三日、皇國中の誰一人として我輩の許可無く神為は使えん。仮令皇族であろうともな!」
「な、なんだと!?」
一転、議場は深い絶望に包まれた。
皇國中で三日間も神為が使えないということは、その間連合革命軍を制圧することは出来ないだけでなく、国家として汎ゆる機能は麻痺したまま壊死してしまう。
「同志久地縄! 天空上映を準備しろ! 世界の眼前でこれより人民裁判を開始する! 皇族は死刑! 貴族も死刑! 資本家も死刑! そして日本人という狗の民族から国家を剥奪する、真の八月革命を成就させるのだ!」
皇國の地獄は全く終わってなどいなかった。
武装戦隊・狼ノ牙は皇國で最も勢力が大きく、そして有名な叛逆組織である。
彼らがヤシマ人民民主主義共和国の正統後継者を名乗るのは、ヤシマ政府の主席と次席の孫が組織したという理由だと、誰もがそう思っていた。
だが今その道成寺が言うには、首領の道成寺太と参謀の久地縄元毅はヤシマ政府の道成寺公郎と久地縄穂純その人達であるらしい。
「我輩達は嘗て、理想に燃えていた。文明開化も久しく、列強国の一員になろうなどと思い上がっていた嘗ての神和維新政府は富国強兵政策を推し進めていた。その裏で貧しい者達は富める者達に劣悪な労働環境で死ぬまで搾取される惨めな人生を強いられていたにも拘わらず、顧みることなく……。弱者を踏み付けにする性根はやがて外へと拡大し、不幸と怨嗟を振り撒いた。この国家がこのまま栄えることは世界にとって厄災にしかならないと思った……」
道成寺は拳を握り締め、感情を込めて語る。
そんな彼の言葉に内閣総理大臣・都築廉太郎が異を唱えた。
「一面的な見方だ! 文明の進歩、国家の発展は国民に多大なる恩恵を齎した! 今日の我々の健康的で文化的な生活は当時の歩み、富国強兵を礎として成り立っているものだ!」
「伝え聞いただけの者が知った風な口を利くものではないよ。我輩はこの目で見たことを語っているのだ」
「一人の人間が目に見える範囲など限られている! 一個人の体験や人生で時代の全てが語れるなどというのは傲りに過ぎない!」
都築ら皇國の政治家は、基本的に神和政府を継承しているつもりであり、その統治に対して肯定的な見方をしている。
それは神皇が政権を奪還した正当性に繋がる為、道成寺の物言いは看過出来ないのだ。
「やれやれ、脱線してしまったよ……」
道成寺は溜息を吐いた。
「結局、神和政府は世界大戦に敗れ、我々に斃された。我々はこの民族を一から立て直そうとした。一切の罪を清算し、過去を断ち切り、身の丈に合わぬ自意識は捨て、足るを知る慎ましい幸せの国へと作り変えようとしたのだ。千年以上もの間、民族を呪い続けた因習から解き放とうとした……」
道成寺の表情が憎しみに歪んだ。
「だが! 拒絶された! 貴様ら日本人共は結局のところ古き支配者を選んだ! 文明という餌に釣られ、罪と厄災の道へと再び突き進んだ! その時我輩は思ったのだ! 日本人とはこれ程までに度し難い民族なのかと!」
道成寺は両腕を広げ、高らかに宣言する。
「だから決めたのだ! 次に革命を起こした先に、貴様らに掛けてやる思い遣りは何も無いと! 理想国家など貴様らには千年早い! 日本人とは所詮、悪の帝国の臣民になることを望み、強きを助け弱気を挫く性根の腐った狗の民族だ! だからまずは、全ての日本人から国家を奪ってやるのだと! 敢えて言おう! 日本人に相応しき革命とは、反日亡国に他ならないのだ!」
余りの狂気に気圧され、議員や貴族は一様に押し黙ってしまっていた。
しかしそんな中唯一人、第一皇女・麒乃神聖花だけは大笑いし始めた。
「ぷっ、あはははははは!」
「何が可笑しいのかね?」
「これは失礼、情けない負け惜しみを堂々と言い触らす滑稽さに失笑してしまいました」
怒りに満ちた表情で睨め付ける道成寺に対し、麒乃神は全く物怖じせず、蒼白な顔色に口角から血を垂らしながらも不敵に笑っていた。
その佇まいは何処までも強者、特権階級、高貴なる者のそれである。
彼女は自身が上位の存在であることを、この期に及んで全く疑っていないのだ。
「要するに、御前達は無能故に国家運営に失敗し、民心を失ってしまった。神皇陛下は畏れ多くも一度は自分を捨てた民を、海よりも深い慈悲の心で救い上げた。結果、御前達の稚拙な統治で貧困に喘いだ国は皇國の統治で力強く蘇り、世界一の大国にまで押し上げられた。御前達は国の舵取りを誤り、私達が正しく治めた、それだけのことでしょう。所詮御前達はその程度の、私達皇族を到底越えられぬ、国家を統治するに値せぬ器でしかなかったということです」
麒乃神は道成寺を嘲笑う様に言い放った。
それに呼応する様に、議場は響めきに包まれる。
「麒乃神殿下の仰るとおりだ!」
「自分の失政で支持を失った癖に、国民に責任転嫁して狗呼ばわりか!」
「恥を知れ、恥を!」
道成寺は両眼を血走らせ、怒りに震えていた。
図星を突かれて返す言葉も無い、といったところか。
「イ・ヌ・ド・モ・がアアアアアアッッ!!」
道成寺の拳銃が天に向かって発砲された。
怒髪天を衝く、という心持ちを銃声が代弁したかの様だ。
「いつまで寝ているのかね、同志屋渡・沙華・金剛! この高慢魔羅女を黙らせろ!」
倒れていた三人が徐に立ち上がる。
彼らは道成寺から神為を分け与えられており、大抵の傷はすぐに恢復してしまうのだ。
一方で、皇國体制側の者達は神為を奪われ、戦いで負った傷は簡単には癒えない。
状況は依然として連合革命軍の方が圧倒的に有利であった。
だがそんな中、もう一人の女が密かに動き出していた。
この状況、道成寺は一つだけミスを犯している。
それは、要となる人質、第三皇女・狛乃神嵐花の支配を自分以外の他者に、それも戦闘要員でない逸見樹に委ねてしまっていたことだ。
「狛乃神殿下!」
敷島朱鷺緒が狛乃神を救出すべく、彼女の首輪の鎖を握っている逸見の許へと駆けた。
幸いにして敷島は肩に傷を負っただけだった為、逸見には為す術が無かった。
「退けェッ!」
「キャン!!」
逸見は敷島の突貫に驚いて尻餅を搗き、その隙に敷島は狛乃神を奪還する。
これにて、狛乃神は狼ノ牙の管理下から外れた。
つまり、道成寺はもう狛乃神の神為を使えなくなってしまったのだ。
「殿下、遅くなって申し訳御座いません。今、拘束を解かせていただきます」
敷島の刀が狛乃神を縛っていた拘束具を斬り裂いた。
狛乃神は衰弱しきっているが、これ以上辱められることは無いだろう。
「道成寺、この莫迦騒ぎも終わりだ」
敷島は道成寺に刃を向けた。
「貴様の術識神為は把握している。管理下に置いた者の神為を我が物として接収・利用・分配する能力と、自らの神為に応じた範囲に居る者の神為使用を禁じる能力。だが今、狛乃神殿下は貴様の管理下から外れた。狛乃神殿下の神為が使えなくなった以上、この叛乱はこれ以上続けられまい」
形勢逆転、狛乃神を奪還された狼ノ牙。
本来、道成寺が神為の使用を禁じられる範囲は精々が今居る議場程度の広さである。
また、狛乃神の強大な神為でなければ残る皇族の神為まで封じることは出来ない。
元々神為を失っている神皇や麒乃神は兎も角、皇宮に控えている三人の皇族が鎮圧に動けば狼ノ牙に勝ち目は無い。
連合革命軍は一転、窮地に追い込まれた、かに見えた。
「そう思うかね?」
道成寺は憎しみに歯噛みしているが、まだ何か手があるかの様な言い種である。
「そんなものは再び皇族を捕えれば済むことだ」
「出来るとでも?」
麒乃神が再び扇を構えた。
血の滴る口角を上げ不敵に笑う麒乃神だが、その表情からは血の気が引いており、いつ突然倒れてもおかしくない様相だ。
そんな第一皇女の姿を前に、道成寺は再び歪んだ笑みを浮かべる。
「やれやれ、出来れば皇族相手にこの能力は使いたくなかったのだがね。しかし、君を相手にするのは骨が折れると充分解った」
道成寺は腰に両手を当てて大きく踏ん反り返った。
その姿は衣服の下に眠る男の象徴を突き出し、見せ付けるようでもある。
「今こそ見せてやろう、我輩の切り札を! 本来なら皇族の血など根絶やしにしてやりたいところだが、天神の子を気取る血筋の女を我が物にして、来世で皇位を簒奪するのもまた一興!」
道成寺の股間が眩い光を放つ。
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麒乃神は嫌悪感に満ちた呻き声を上げ、初めて自分から後退った。
手に持った扇は口元どころか顔全体を覆い隠している。
「良い勘だ、流石は第一皇女・麒乃神聖花。しかし、神為を失った今の君に我輩の能力からは逃れられん。我輩の第一の術識神為は先程も言ったとおり、己の子孫に魂を生まれ変わらせる能力。そしてその前段階として、確実に子孫を残す為に如何なる女をも我輩に激しく欲情させ、子種を求めずには居られなくさせるのだ!」
「こ、皇族を強姦して子を産ませ皇位を継がせようとは……。なんという下品な、正統性の欠片もありはしない……! それに、能力に態々名前まで付けて……! その口から吐かれる全ての言葉が汚されて泣いていますよ……!」
「なんとでも言うが良い。とはいえ抵抗出来るとは予想外、その精神力は褒めてやろう。しかし、もしこの能力が皇族の神為を得たとしたら、果たして耐えられるかね?」
「何ィ……?」
道成寺の方へ、先程助け出された狛乃神がふらつきながら歩き出した。
麒乃神は強い意思能力で抵抗出来ても、衰弱しきった妹は抗えないらしい。
「嵐花っ……!」
麒乃神の周囲の空気が揺らいだ。
彼女の体から込み上げる怒気が目に見える様だ。
「麒姉様……お願い……」
狛乃神の両目から涙が零れ落ちる。
これまで散々痛め付けられ、国家転覆の為に利用され、尚も辱められようとしているのだ、皇族としてその苦しみは計り知れない。
姉の麒乃神にもそれは痛い程理解出来るだろう。
妹の懇願、その意味するところも。
「解りました……」
麒乃神の姿が消え、一瞬のうちに狛乃神へと肉薄した。
気付いた時には、姉の腕が妹の左胸を貫いていた。
「何だと……!?」
「許しなさい、嵐花。私もすぐに逝きます」
麒乃神は手に持った血塗れの臓器を握り潰した。
指の隙間から鮮血が飛び散り、刺し貫かれた狛乃神の体は糸の切れた人形の様に姉の腕に身を委ねた。
その死顔は長い苦役から解放された様に、どこか安らぎに満ちた微笑みを浮かべていた。
「で、殿下……」
議場の貴族や政治家達、特に目の前で凄惨な身内殺しを見せ付けられた敷島は瞠目して絶句していた。
そんな彼女に、麒乃神は血塗れの顔で微笑みかける。
「弟を、皇太子殿下を頼みましたよ……」
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「フン、気に入らんね。我輩の子を産むより死を選ぶとは……。命という宝を蔑ろにする悪魔の血筋め……」
股間の光を収めた道成寺は毒虫を見る様な眼で二人の女を見下して吐き捨てた。
その暴言が議場の怒りを誘う。
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普段は腹黒く澄まし、慇懃無礼な態度の彼が珍しく激昂している。
「人の皮を被った狼共よ、今に見ろ! 道成寺、最早貴様は皇族の神為を失った! すぐにでも残る皇族方にこの場へお越し頂き、その大逆を贖うことになるだろう!」
丹桐の啖呵を皮切りに、議場は怒号に包まれた。
この場の大部分の議員にとって、貴族院議員・麒乃神聖花は目の上の瘤であった。
しかしそれでも、皇族の長姉としての強者の矜持に満ちた在り方は揺るぎ無い敬愛を集めていたのだ。
「国賊集団! 地獄に落ちろ!」
「国の一大事に国盗りを企む非国民共が!」
しかし、道成寺は天井に向けて発砲し、その声を黙らせた。
「喧しいぞ狗共が! 神為が無ければ皇族の威を借ることしか出来ぬ腰巾着め! 君達の目論見は叶わない!」
道成寺は麒乃神と狛乃神の遺体に向けて四発の弾丸を撃ち込んだ。
「君達は我輩の能力が終わったと思っているようだ。しかし、我輩の第二の術識神為・神威詐無は時限式なのだよ。一度発動してしまえば何が起きようとも一定時間経過するまでは解除されん。あと三日、皇國中の誰一人として我輩の許可無く神為は使えん。仮令皇族であろうともな!」
「な、なんだと!?」
一転、議場は深い絶望に包まれた。
皇國中で三日間も神為が使えないということは、その間連合革命軍を制圧することは出来ないだけでなく、国家として汎ゆる機能は麻痺したまま壊死してしまう。
「同志久地縄! 天空上映を準備しろ! 世界の眼前でこれより人民裁判を開始する! 皇族は死刑! 貴族も死刑! 資本家も死刑! そして日本人という狗の民族から国家を剥奪する、真の八月革命を成就させるのだ!」
皇國の地獄は全く終わってなどいなかった。
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どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
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剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
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ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
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ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
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東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
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