ろまけん - ロマンシング剣闘 -

モノリノヒト

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第4部

第22試合 - 我流剣闘術

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「あ~、すっきりした!
 すごすご帰っていったわね!」

(これがカードを使う新型ギアブレードなのか……。
 凄いや、カード一枚で、ギアブレードの性格がガラリと変わる)

「ちょっとああいうのは趣味じゃなかったから、天晴くんが勝ってくれてよかったわ~!」

(最初の剣速を上げるカード、むちゃくちゃ振りやすかった。
 ギアの補助で、あんなに振りやすくなるものなのか。
 俺が今まで使ってたのって、なん、だったんだ……)

「私のギアブレードって、新型でもちょっと弱めの部類なんだけど、そんな事関係なく勝ったわね!
 やっぱり旧型で強敵を倒し続けてきただけあるわ!」

(別物だ。新型と旧型は、全然違う。
 今ならはっきりとわかる。旧型で新型に勝つなんて土台無理だ。
 今までは運が良かったか、何か相手にトラブルが発生していたんだ)

「……えっ……? これで弱め?」

 新型の強さにショックを受けていた天晴は、思わず聞き逃しそうになったが、信じられない単語を何とか拾った。

「うん、バランスタイプって言ってね。
 四天王かつ暫定ディフェンディングチャンピオンのシュンが使ってる型……っていうと強そうに聞こえるけど、実際のところ……。

 取り回しはテクニカルタイプに劣り、攻撃力はアタックタイプ未満、防御力はディフェンスタイプはおろか、旧式のアドバンスドタイプと同等……。

 特に防御力はね、天晴くんが使ってた旧式の方が上なのよ」

「新型でも、旧式に劣る部分があるんだ……」
「そうなの。
 私がバランスタイプを使ってるのは、使いやすいからだって思ってたけど……多分、格下が格上を倒すっていう、ロマンに憧れてるのかも」

「格下が、格上を倒す……」
「実際にはありえない出来事を、天晴くんは何度も起こしてきた。
 実は黒澤戦、私も見に行ってたのよ」

「黒澤……あ、あの時ですか……」

 匠の域にまで達した完璧なディフェンスタイプ使いであった黒澤。
 天晴から見れば一分の隙もなかったが、なぜか打ち合いに応じてくれたおかげで、寸でのところで勝ちを拾った危ない戦いであった。

「だからね、私……憧れてるの。
 天晴くんに」
「えっ……」

「さ、剣闘の勝者に商品の贈呈でーす」
「え、あ、あの」

 するりと翔の手が、天晴の首に回される。

 訪れる一瞬の静寂。
 見つめ合った二人は、どちらからともなくその瞳をゆっくりと閉じていく。

 あまりに甘美なそのひと時は、永遠に感じるほど長く、惜しむ暇も与えてくれない程、一瞬の出来事であった。

 * * *

「翔さん、俺……」
「え、ああ、うん、大丈夫。
 わかってるつもりではいるから、うんうん。
 何でもお姉さんに任せなさいっ」

「さっき、翔さんのギアブレードを借りた時……。
 凄く、ショックを受けました。
 なんて使いやすいんだろう、なんて"強い"んだろうって」
「あ、あら、そっち?
 ……自信、なくしちゃった?」

「そうかもしれません。
 どう戦えばいいかが、わからなくなったんです」
「そっか~……」

 日が傾きかけ、さざ波の音が海辺を支配する。
 
「天晴くん、そういう時は、基本に立ち返るといいんじゃないかな。
 天晴くんには、蕎麦屋の塚原日剋がついてるじゃない」
「おじさんかぁ……確かに、おじさんに色々教わってるけど」

「やっぱり! それなら、旧式でも戦えてる天晴くんの強さ、わかる気がする!」

(いや、待て、今の話はおかしい。
 おじさんと旧式で戦えてる事が、どう繋がるんだ?)

 とうとう天晴も違和感に気付いた。

「翔さん、俺のおじさんが、何だって?」
「ん? だから、伝説の剣豪、塚原日剋その人だよ?」

「で、伝説の剣豪……? 誰が?」
「天晴くんのおじさん。蕎麦屋とわりの店長が。
 6年前の大会で、決勝戦でシュンを相手にオールドタイプのギアで勝利をもぎとったの。
 だけど表彰式に現れなくて、賞金だけもらって引退したんだって」

 開いた口が塞がらないとは、この事である。
 予想外の内容に、一瞬天晴の頭が真っ白になる。

「じゃ、じゃあ暫定って」
「シュンを超えないと塚原日剋を超えたって事にはならないから、シュンがチャンピオンと四天王の両方を兼任してるのよ」

 薄れかけていた記憶が少しずつ蘇る。

 天晴、10歳の頃。まだ山に捨てられる前。
自宅のテレビで剣闘大会を見ていた。

 その時の決勝戦の映像が脳裏に浮かぶ。

 暫定チャンピオンのシュンと果敢に剣を交える、ハチマキを巻いた男……。

(確かに! 確かにあれはおじさんだった!)

 当時、天晴は食い入るようにテレビの画面を見つめ、塚原日剋のギアブレードに惚れ込んだ。

 ──拾われてこの店に来た頃、これを見つけた俺は、飛びついて離さなかったらしい。

 思い出してみれば当たり前である。
 自分の憧れたギアブレードが目の前にあるのだから、離さなくて当然だ。

 そして剣闘士・塚原日剋に憧れた夜宮少年は、知らないうちに憧れの人から指導を受け、育っていたのだ。

(どうして忘れていたんだ……!
 っていうか、どうして気付かなかったんだ!?)


「翔さん、俺っ!」

「……ふふ、いい目になったわね。
 好きよ、そういう目。
 ……また会ってくれるわよね?」

「翔さんが呼ぶなら、いつでも行くよ」
「ありがとう、じゃあ、今は私を置いていくことを許してあげる」
「いじわるな言い方するなあ」

「ふふ」
「じゃあ、また!」
「うん」

 駆けていく天晴の背中を見つめる翔。
 彼女もまた、翔という女性ではなく、アーサーとしての気迫を取り戻していた。


 * * *


「ぐひぃ、はひぃ」
「カイル、呼吸を整えろ」

「は、はひぃ、ぜ、ぜんしゅーちゅううう!」
「その単語は、そこはかとなく危険な香りがするから、静かにやれ」
「は、はいぃ、神威先生ぇ……」

「目を閉じろ。体内を巡る血液の流れを感じ取れ」
「……」

「そうだ。よく集中できている。
 その血液の流れこそが、神威気功術の神髄"気の流れ"だ」

 そう言うと近くにあった木の枝を、おもむろにカイルに投げつける。

「……!」

 自らの気の流れに集中していたカイルは、肌が危険を察知した事を、気の流れで知る。

「ふっ!」

 目を閉じたまま、飛んできた枝を裏拳で叩くカイル。
 迎撃には成功したが、ぽっきりと折れた枝がカイルの顔面に突き刺さる。

「いてててて!」
「集中が途切れたぞ」
「刺さりましたからね! 痛いですからね!?」


 山は相変わらず騒がしかった。


「……飯にしよう。今日はリゾットだ」
「うおっ、マジですか! 米料理じゃないですか!」

「以前、米が食いたいと言っていただろう。
 摂取すべき栄養を考えるとリゾットが適していると判断した」
「神威先生、マジぱねえっす!
 栄養士の資格でも持ってるんですか!?」

「神威気功術を極めれば、身体が何を欲しているかもわかるようになる。
 食べる物には常に気を使え」
「ウィッス!」

 リゾットを作りながら、神威は語り出す。

「例えば、腹が満たされている時は、何も食べたくないだろう。
 仮に食べても美味しいとは感じない。
 身体が求めていないからだ」
「ふむふむ……」

「反対に、腹が減ると何か食べたくなるだろう。
 だが、ただ腹を膨らませても、身体が欲している栄養が不足している場合、どこか満足感が不足する」
「あー、空腹をお菓子でごまかした時なんか、そうですね!」

「実体験があるなら理解も早いだろう。
 常に気の流れを感じ取れるようになれ。
 午後も"気配どり"の訓練を続けるぞ。

 ……食え」
「あっ、ハイ。いただきまーす!」

(カイルか。なんだかんだ言って、飲み込みは早い。
 泣き言は多いが、決して諦める事なく続けている。

 学生という身分から、あまり長く山に閉じ込めるわけにもいかないが……。
 短期集中の特訓としては十二分に成果が出ている状態だろう。

 塚原日剋、俺はこいつをどこまで育てればいい?

 このまま育成すれば、そろそろ壁にぶつかるぞ)

「びゃぁぁぁうまいぃぃぃ!
 熱々のリゾット、たまりませんね!!」
「フ……」

(まあ、俺としては、この時間はなかなか有意義だ。
 感謝する、塚原日剋)


 * * *


 ──ガラララ!

「おじさん!」
「おう、おかえり。無事だったか」

 蕎麦屋とわり。
 店内には閑古鳥が鳴いており、暇そうにしている店長とバイトが一人。

「おじさん、俺、おじさんに聞きたい事があって……!」
「とりあえず落ち着けよ、ユッコちゃん、水」
「は~い」

 ユッコに渡された水を一気飲みし、呼吸を整える天晴。

「おじさん、あの……」
「なんだよ?」

 いざ、問いただそうとすると、妙な恥ずかしさがこみあげてくる。
 アガっている、緊張している。

 本当にあの塚原日剋だったら、と考えると。
 自分はなんて失礼だったのだろう、とおのが身振りを後悔してしまう程に。

「おじさん」
「な、なんだよ」

 普段とは違う、妙に距離を置いた天晴の態度に、うろたえる店長。

「おじさんって、塚原日剋なの?
 6年前の大会で優勝した……」

 三人の視線が固まった。

 最初に動いたのは店長の視線。
 ユッコに向けてだ。

 ユッコは店長の視線を受け止め「私は言ってない」と横に首を振る。
 それを見た店長は、再び天晴へと視線を向ける。

 未だ、まっすぐと店長を射抜く視線は、憧れとも、恐怖とも判別がつかない、不思議な視線であった。

「……そうだよ」

 ごまかそうかとも考えたが、観念する店長。

「おじさん、いや、日剋さん。
 俺、どうしても聞きたいことがあって」
「わかった、話は聞くから、日剋さんってのはやめろ。
 今まで通り、おじさんでいい」
「う、うん……」

「おじさん」
「おう」

「おじさんはどうやって、最新式のギアブレードに勝ったの?」
「ん、あー、シュンと戦った時か。
 ありゃ、まぐれだ」

「「まぐれ!?」」

 天晴とユッコの声が重なる。

「シュンが俺との打ち合いに応じたのもそうだし、お互いのテンションが上がってて正常な判断ができなかったのもそう。
 もちろんあいつだってカードを使ってきたが」

「そ、そこだよ。
 俺、さっき最新式のギアブレードを触ってわかったんだ。
 カードって、思ったよりずっとヤバいやつだった。
 旧式で勝つなんて、ホントにまぐれでしか起こせないって」

「まあ、そこまで複雑な事じゃねえよ?
 カードを選んで挿し込むという隙は、最新式のギアブレード全般における弱点だ。
 最新式同士で争うから、弱点とは言えなくなってるだけでな」

 天晴とユッコが食い入るように話を聞いている。

 伝説の剣豪、塚原日剋の剣闘講座である。
 グラディエーターでもない、一般デュエリストがタダで聞いていいものではない。

「俺はその弱点を突いた。
 2メートルという決まった距離をいち早く詰めて、カードを挿し込んでる相手に先手を取るんだ。
 そのための技術が"踏み込み"と"振り下ろし"。
 単純だろ? 一応我流の型で、鷹の目斬りって名付けてるけどな」

 踏み込みと振り下ろし。
 天晴にも覚えがあった。
 自らが、何度となく繰り返したルーチンワークでの動き。
 それは、6年前の大会で見せた、塚原日剋の最初の一手。

 そう、鷹の目斬りに他ならなかった。

「もうひとつ、烈風夜叉横断って技もあるが……実用性はあんまりないな」
「なんか、仰々しい名前ですね」

 今まで言葉を失っていたユッコがつい、ツッコミを入れる。

「一応解説すると、反復横跳びの要領で、敵をかく乱して斬りつける技だ」
「確かに、今の剣闘シーンには向いてないかもしれませんね」

「まあな。昔のストロングスタイルの斬り合いでは多用していたが、カード相手にそんな小手先の技は無意味だ。
 それより基本を重視した堅実な技を磨いた方が、上手く立ち回れる。
 だから、鷹の目斬りなんだよ」

「……」

 さすがの説得力である。
 これが本当に一線を引いた剣闘士の気迫なのだろうか。
 剣闘を語る塚原日剋は、蕎麦屋の店長ではなく、牙を研いだ猛虎のようであった。

「……で? まだやりたいのか? 剣闘」

 核心を突くその質問に、思わず返答に詰まる天晴。
 ユッコも心配そうに天晴の返答を見守る。

「……俺、俺は……」

 天晴の返答は──。

 
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