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4.1 艶消
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「親友と、いきなり連絡がとれなくなったんです」
ジントニックの氷が、からんと音を立てる。
吸っても大丈夫ですよ、と彼が言ってくれたので私はVAPEをふかす。
薄暗い店内に、白い煙とメンソールの香りが上っていく。
「本当にいきなりで。次の週に会う約束とかしてたのに、LINEが未読のままで。
で、なんかおかしいなって思って・・・
まあ、最初は、どうせスマホ壊れたとか、失くしたとかなんだろうなーて。
本人はそんなにSNSをやるタイプではないんで、ツイッターのDMとかも待ってたんですけど、僕からあえて連絡するのも気が引けて。
でも、なんだろう、機種変更とかって1、2週間あれば済む話じゃないですか。
なんか不吉な感じがしてきて。1ヶ月経ったあたりで、ああもう会えないのかなって思って・・・」
「彼とはこのバーで知り合ったので、共通の友人も元々少なくてなかなかわからなかったんですよね。
何か理由があって、もう僕とは縁を切ろうとしたのなら深追いできないなと。
でも他の人も連絡つかないって言ってて。
で、ひとり事情知ってるひとがいて、でもその事情っていうのがなんだろう、受け入れがたくて。
彼はバイクに乗るんです。向こうの大通りで、トラックにはねられて、救急車で運ばれて、病院で亡くなったらしいって。自殺か事故かも、わからないって・・・」
「正確にいうと失踪なのかもしれないですね。
その人も、僕が変な希望を抱かないように、強めに言ってくれたのかもしれないし。
でも僕には確かめる術がないんですよ。
友人なんて最終的には他人だし、いざというときに報せが来るのは家族だけなんですよ。
どこの病院に運ばれたのかもわからないんです・・・
たとえ病院がわかったとしても、ウイルス流行のせいで面会も全部ダメだし
・・・もう、お手上げです。」
彼の手元は震えていた。
震えながら、静かに怒っていた。
トングで掴んでいた氷が、シェイカーの縁にかしゃんと当たって落ちた。
「睡眠薬を、飲みました。でも死ねるほどは飲んでない。
然るべき資料をあたれば適した方法と致死量くらい素人にも概ねわかります。
・・・酔って朦朧とした頭で、この近辺の救急病院に運んでもらおうと思いました。
もしかしたら彼と同じ病院かもなんて。」
「馬鹿ですよね、本当に。
それでこんな迷惑かけてしまって、本当にしんどい」
病院ではよくある話。
その話をこちら側から聞くと、こんなにも残酷でやりきれないものなのか。
バーの客足はまばらで、私たちの他にはテーブル席に一組の男女と、カウンターの逆サイドに一人客の中年男性だけだった。
彼は順番に注文をとり、お酒を作り、サーブし、合間に私たちの方に戻ってきて断片的に話し続けた。
私たちは薬剤師の話を再開する気分にもならず、彼が話しているときは相槌を打ち、彼がいなくなると無言で生ハムとオリーブをつまみ、カクテルの味を楽しんだ。
私たちが2杯目を飲み終える頃に、彼は今まで以上にためらいながら言葉を続けた。
「先生、あの、無理を承知でいいですか?僕の友達が御崎十字に運ばれてたとしたら・・・」
薄暗い中でも、下唇を噛んでいるのがわかった。
友人を失くして1ヶ月、彼の涙はまだ枯れていない。
「生きているかどうか、確かめていただくことって可能ですか・・・?」
ジントニックの氷が、からんと音を立てる。
吸っても大丈夫ですよ、と彼が言ってくれたので私はVAPEをふかす。
薄暗い店内に、白い煙とメンソールの香りが上っていく。
「本当にいきなりで。次の週に会う約束とかしてたのに、LINEが未読のままで。
で、なんかおかしいなって思って・・・
まあ、最初は、どうせスマホ壊れたとか、失くしたとかなんだろうなーて。
本人はそんなにSNSをやるタイプではないんで、ツイッターのDMとかも待ってたんですけど、僕からあえて連絡するのも気が引けて。
でも、なんだろう、機種変更とかって1、2週間あれば済む話じゃないですか。
なんか不吉な感じがしてきて。1ヶ月経ったあたりで、ああもう会えないのかなって思って・・・」
「彼とはこのバーで知り合ったので、共通の友人も元々少なくてなかなかわからなかったんですよね。
何か理由があって、もう僕とは縁を切ろうとしたのなら深追いできないなと。
でも他の人も連絡つかないって言ってて。
で、ひとり事情知ってるひとがいて、でもその事情っていうのがなんだろう、受け入れがたくて。
彼はバイクに乗るんです。向こうの大通りで、トラックにはねられて、救急車で運ばれて、病院で亡くなったらしいって。自殺か事故かも、わからないって・・・」
「正確にいうと失踪なのかもしれないですね。
その人も、僕が変な希望を抱かないように、強めに言ってくれたのかもしれないし。
でも僕には確かめる術がないんですよ。
友人なんて最終的には他人だし、いざというときに報せが来るのは家族だけなんですよ。
どこの病院に運ばれたのかもわからないんです・・・
たとえ病院がわかったとしても、ウイルス流行のせいで面会も全部ダメだし
・・・もう、お手上げです。」
彼の手元は震えていた。
震えながら、静かに怒っていた。
トングで掴んでいた氷が、シェイカーの縁にかしゃんと当たって落ちた。
「睡眠薬を、飲みました。でも死ねるほどは飲んでない。
然るべき資料をあたれば適した方法と致死量くらい素人にも概ねわかります。
・・・酔って朦朧とした頭で、この近辺の救急病院に運んでもらおうと思いました。
もしかしたら彼と同じ病院かもなんて。」
「馬鹿ですよね、本当に。
それでこんな迷惑かけてしまって、本当にしんどい」
病院ではよくある話。
その話をこちら側から聞くと、こんなにも残酷でやりきれないものなのか。
バーの客足はまばらで、私たちの他にはテーブル席に一組の男女と、カウンターの逆サイドに一人客の中年男性だけだった。
彼は順番に注文をとり、お酒を作り、サーブし、合間に私たちの方に戻ってきて断片的に話し続けた。
私たちは薬剤師の話を再開する気分にもならず、彼が話しているときは相槌を打ち、彼がいなくなると無言で生ハムとオリーブをつまみ、カクテルの味を楽しんだ。
私たちが2杯目を飲み終える頃に、彼は今まで以上にためらいながら言葉を続けた。
「先生、あの、無理を承知でいいですか?僕の友達が御崎十字に運ばれてたとしたら・・・」
薄暗い中でも、下唇を噛んでいるのがわかった。
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