27 / 34
7.6 吐露
しおりを挟む
「僕の一目惚れだったんですよ」
押し問答の結果、私たちが悠馬に付き添って、山本拓也の検査終了まで待つということで合意した。
本当なら日中は病棟か研修医室にいるのだけれど、悠馬を関係者ゾーンに引き摺り込むわけにもいかず、
かといって本来面会謝絶の院内に置いておくわけにもいかない。
真子と相談した結果、エントランスのある外来棟と、病棟のある第二棟との間に広がる中庭のベンチに今、私たちは座っている。
厳密にいうと勤務中の研修医が居ていい場所ではないのだが、
今日はふたりを引き合わせるにあたって何個ルールを破ったのかわからないし、
あと1-2時間仕事をさぼったところで、良心が更に傷むことはない。
PHSの着信がないかちらちらと気にしながら、いつのまにか盛り上がっている和やかな会話に耳を傾ける。
「へー!それで付き合ったんですか?最初のデートはどこいったんですか?」
「えぇ・・・最初のデートか、いつだったっけ・・・
んー、付き合ってからだと映画とかですかね。
家に来るようになってからは宅配ピザ頼んで家でDVD観たりして、映画館も行かなくなりましたけど。」
「え~、素敵~!じゃあ、記念日とかのデートどこいくんです?誕生日とか!
大人のお付き合い、参考にしたいです!」
「大人っていうほど特別なもんじゃないです。
あ、でも、拓也はああいう感じなんで、結構かっこつけるんですよ。
記念日も夜景見える高層ビルで祝ってくれたりして。
僕なんかは正直ちょっと恥ずかしいですけどね。花束とか出てくると、うわぁってびびっちゃう・・・」
「あはは、そんな感じします!拓也さんめっちゃキメキメでドヤ顔で花束出してきそう!
でも家では半袖短パンでだらだらしてそう~」
「あ、わかります?元アメフト部なんで、学生の頃の練習着とか未だに着てて。
僕ら28なのにもう、早く他の買えって言ってるんですけどね」
全然困ってなさそうな顔をして笑う。
真子と話している悠馬は、どこか解けたような柔らかい雰囲気を漂わせていた。
愛する人が結局生きていたことに安堵したのか、
それとも秘めていた関係について誰かに肯定してもらえるのが嬉しいのか、
はにかんだ微笑みを浮かべる様子は、歳上だというのに実年齢よりもずっと幼く見える。
やっぱり印象がころころと変わる。
不思議で綺麗なひとだ。
「ああ見えて気を許すといいやつなんですよ。
でもふとスイッチ入ると攻撃的になるのが困るんですよね・・・
今日もなんか、申し訳ないです・・・」
悠馬の顔が心配そうに曇ったのを見た真子が、悠馬の背中を親しげに叩いた。
「いいんですよ!今話してくれてるのでチャラにします!なのでもっと話してください!!」
悠馬が、真子の頭越しにちらりと私の方を見る。
聞いてますよ、という顔をして笑いかけると、片方の眉をくいっとあげておどけた表情を返してくれた。
(・・・さっき私がぶちぎれたことは内緒にしておこう。)
秋も終わりかけだというのに今日は気温も高く、降り注ぐ暖かい日差しが私たちの全身を包んでいた。
木漏れ日が揺れ、草のそよぐ小さな庭で、私たちは悠馬の紡ぐ恋の物語にゆっくりと浸っていた。
押し問答の結果、私たちが悠馬に付き添って、山本拓也の検査終了まで待つということで合意した。
本当なら日中は病棟か研修医室にいるのだけれど、悠馬を関係者ゾーンに引き摺り込むわけにもいかず、
かといって本来面会謝絶の院内に置いておくわけにもいかない。
真子と相談した結果、エントランスのある外来棟と、病棟のある第二棟との間に広がる中庭のベンチに今、私たちは座っている。
厳密にいうと勤務中の研修医が居ていい場所ではないのだが、
今日はふたりを引き合わせるにあたって何個ルールを破ったのかわからないし、
あと1-2時間仕事をさぼったところで、良心が更に傷むことはない。
PHSの着信がないかちらちらと気にしながら、いつのまにか盛り上がっている和やかな会話に耳を傾ける。
「へー!それで付き合ったんですか?最初のデートはどこいったんですか?」
「えぇ・・・最初のデートか、いつだったっけ・・・
んー、付き合ってからだと映画とかですかね。
家に来るようになってからは宅配ピザ頼んで家でDVD観たりして、映画館も行かなくなりましたけど。」
「え~、素敵~!じゃあ、記念日とかのデートどこいくんです?誕生日とか!
大人のお付き合い、参考にしたいです!」
「大人っていうほど特別なもんじゃないです。
あ、でも、拓也はああいう感じなんで、結構かっこつけるんですよ。
記念日も夜景見える高層ビルで祝ってくれたりして。
僕なんかは正直ちょっと恥ずかしいですけどね。花束とか出てくると、うわぁってびびっちゃう・・・」
「あはは、そんな感じします!拓也さんめっちゃキメキメでドヤ顔で花束出してきそう!
でも家では半袖短パンでだらだらしてそう~」
「あ、わかります?元アメフト部なんで、学生の頃の練習着とか未だに着てて。
僕ら28なのにもう、早く他の買えって言ってるんですけどね」
全然困ってなさそうな顔をして笑う。
真子と話している悠馬は、どこか解けたような柔らかい雰囲気を漂わせていた。
愛する人が結局生きていたことに安堵したのか、
それとも秘めていた関係について誰かに肯定してもらえるのが嬉しいのか、
はにかんだ微笑みを浮かべる様子は、歳上だというのに実年齢よりもずっと幼く見える。
やっぱり印象がころころと変わる。
不思議で綺麗なひとだ。
「ああ見えて気を許すといいやつなんですよ。
でもふとスイッチ入ると攻撃的になるのが困るんですよね・・・
今日もなんか、申し訳ないです・・・」
悠馬の顔が心配そうに曇ったのを見た真子が、悠馬の背中を親しげに叩いた。
「いいんですよ!今話してくれてるのでチャラにします!なのでもっと話してください!!」
悠馬が、真子の頭越しにちらりと私の方を見る。
聞いてますよ、という顔をして笑いかけると、片方の眉をくいっとあげておどけた表情を返してくれた。
(・・・さっき私がぶちぎれたことは内緒にしておこう。)
秋も終わりかけだというのに今日は気温も高く、降り注ぐ暖かい日差しが私たちの全身を包んでいた。
木漏れ日が揺れ、草のそよぐ小さな庭で、私たちは悠馬の紡ぐ恋の物語にゆっくりと浸っていた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる