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第六章
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2 死因について
私が文芸部に入ったのは仕方ない事情があったからです。
三か月間在籍していたバトミントン部で私はいじめに遭っていました。
きっかけは何だっけ?
冬の合宿中に部員たちで流行っていた音楽を私が別に好きじゃないと言ったからだったかな?
私、一言余計なところがあるので、はい。
まあいいや。とにかく私はバトミントン部にいづらくなって居場所を探さないといけません。学生は何がしかの部に入れという校則があります。しかもどこかの部活に所属するだけではなく活動実績がなければいけません。一か月以上、部活をさぼったりしますと、強制退部になります。
厄介なことになりました。去年の六月でした。文芸部を知ったのは本館校舎の一階に置いてあった新入生向けのビラが貼られているのを見かけたからです。
本当にたまたまです。そこで志麻さんに話しかけられました。当時の私は小説になんて微塵も興味がありませんので、成南学園の有名な人ぐらいの認識です。
「お前、小説に興味あるか? だったら文芸部に入れよ」
腰に手を当てながら私を見ています。弛んだ眠そうな顔をしながら欠伸を書いています。右に首を傾げる癖があるみたいでした。この人はいたずらっ子という印象がありました。
着ているセーターを腰に巻き、着ているシャツはよれよれではたから見て黄ばんでいるみたいです。くりくりと長髪でいじっている。とても変な人に絡まれてしまった。私の所感です。
「別に帰ってもいいですか?」
じゃと言って立ち去ろうとしたら
「待てよ。名前ぐらい教えろ」
「白樺真木です。もういいですか?」
「松崎陽花、樫原実歩、藤垣美星、白樺真木、銀杏小夏……」
深木さんは俯きながらぶつぶつと何か言っていました。
「そうかお前か! いや、これでちょうど面子が揃う! うちは小説を書ける奴しか採らんが、あと一人で揃うんだが足りん。お前は何かの縁で特別だ。というわけで入れ」
はあ?
私の頭は浮かんだのはその一言でした。当たり前ですよね。会ってもない人に急に勧誘されて、突然大声を出されたらビックリしました。
でも悪意なるものは何一つない純粋な人です。
単純?
ばか?
天然?
とにかく天才と馬鹿は紙一重なのは確かです。
「あの興味ないですから。本当にそういうのは」
「ま、ま。話ぐらい聞いてくれ。最初は籍を置くぐらいいいから。飯とか奢ってやる。それで頼む」
文芸部。ビラを読むと活動内容が書いてあります。月一の定例で書いた小説の講評、読んだ本の紹介などなど。確かにこれなら籍を置くだけなら、いい気がします。
「バトミントン部に入っているのであまりいけないですけど」
「全く問題ない。とにかく来てくれーぜひぜひお頼み申します」
変な人。でも憎めない人柄でした。
小説なんて人生にどんな役に立つのか聞いてみたい。本質的な疑問を部員の皆は思ってもないらしく面白すぎます。
でも余計なことを言えば干されてしまいます。深木さんを見ていると落雷にでも当たって黒焦げになればいい。物騒な想像をしたことは多々ありました。
変で面白いところはあります。入部してみてやっぱりそうだなと思いましたが、志麻さんは面倒な人です。特に小説になると人が変わります。
楽な気持ちで入ってみましたが仕事はあります。まず自己紹介。これも独特。JIS形式の履歴書に自分の経歴を書くそうです。私は事前に履歴書を渡されて書きました。
志麻さんに連れられて誰の記憶の片隅にもない別館に向かいます。大理石で敷き詰められた正面玄関。長い赤い絨毯が敷かれた廊下、廊下を照らすランプ、
いつの時代だと呆れるばかりです。
一番奥の部屋が文芸部の部室です。私は部屋の扉の上に掲げられた看板に書かれた「まかふしぎの会」の文字に吹き出してしまいました。
「なにこれ? ばかみたい」
「おかしいか?」
「いや変でしょ。誰がどう見ても」
「面白いと思うんだけどな」
私はゲラゲラと誰もいない廊下で笑ってしまいました。
「どなた?」
中からたおやかな声がして扉が空きました。とても育ちのいいすらりとした方でした。視線が合えば先輩だと雰囲気で分かります。このとき会ったのが松崎先輩でした。どう見てもこちらのほうが小説家らしく見えてしまいます。
深木志麻は誰かの操り人形で背後に術者が動かしていると考えたくなります。実は松崎先輩が深木さんの小説を書いているかもしれません。
「志麻、戻ったの。後でいいからスケジュールについて相談させて。後ろにいるのが新しい部員の子ね」
私は軽くお辞儀をしました。
「扉の上に書いてあったのはサークル名ですか?
「そうよ」
「何だかおかしくないですか?」
松崎先輩は聖母のような微笑みを絶やさず言葉を紡ぐ。
「私たちは慣れているけど、初めて見る方は混乱しちゃうわね。志麻には言ったけど」
「だってこれ――」
私にはすぐに分かり、松崎先輩に伝えました。
「なるほど。気が付かなかった。なんてばかな名前にするんだって言ったけど、そういう意味なのね」
松崎先輩は納得という表情でうなずいています。
「知らなかったんですか?」
私はびっくりしました。こんな単純な意味に気づかないなんて。案外賢い人ほど盲点に嵌りやすいのかもしれません。
心の底から笑うのは久しぶりでした。志麻さんはいいセンスしています。
皆さんの経歴を見せて頂きました。まあビッチリと。この人たちはとても活字魔なのでしょう。
私の履歴書を静かに読んでいました。変人の深木志麻とは大違い。松崎先輩が耳をかくとき映る白いしなやかな手は天女のようです。ほっそりとしたマネキンのような足は目を見張るほど奇麗でした。
「ジョージオーエルの1984が好きなんて面白いわね」
「作中で人々は常に見張られています。私たちも見張られているんです」
思い切ったことをいいました。アハハと快活に笑いを得ることができました。
「確かに指導教員の先生は厳しく私たちの品性を見ているわ」
「校則に従わなかったら、指導室に呼ばれますよね。ああ、名作って日常を描いているなって思いませんか? 1984の作品に出てくる拷問部屋の101号室の話はまさしく学校の指導室。教化が図られ人は改心する」
「言いたいことはわかる。窮屈なルールなんてなくなってしまえばいいと心から思う」
「意外ですね。松崎先輩にとってのルールって何ですか?」
「曖昧さを孕んだ秩序の要かしら。人は愚かにも争うもの。だからこそ法があり、道徳がある。でも行き過ぎたルールの徹底は創造性を失います。私は小説を書いてルールを正しく定義する。私の書いた小説は堅苦しくていいところまでいくけどね」
「大人ですね」
「どういうこと?」
「高校生でルールの正しさを理解しているなんて」
「白樺さん、私は生徒会よ」
松崎先輩は伺うようにジロリと人を見ます。この人を敵に回すと怖いなと思いました。秩序、道徳、法律。堅苦しい言葉が松崎先輩に似合いそうです。
それと対極に位置するのが……
「だったら寝ているあの人を何とかしてください」
深木さんはソファの上で早くも寝そべってうたたねをしていました。人に履歴書を書かせておいて読むこともなく本人は寝ている。混沌そのものです。
「指導が必要ね」
寝ぼけまなこを擦りながら「何だよ、これー」とぼそぼそと言います。
「白樺さんの履歴書。あなたが書かせたんでしょ。寝るなら来月のスケジュールについて話が済んでからにしなさい」
「スケジュール、スケジュール、時間、時間ってうるさいなあ」
「時間は言っていない。創作は小説だけにして」
「あのお、で、どうすればいいんですか?」
何だか痴話げんかを始めたので私は間に入る。
「私たちのサークルはプロの小説家を目指す人たちの集まりなの。だから面白い本を紹介したり、実際に小説を書いたりして、お互いの小説の講評をします。あなたもご興味があれば書いてみて」
「皆さんはどんな小説を書いているんですか?」
「日々のニュースで気になったこととか、時々顧問の深木先生からお題を出されることがあります」
「お題って何ですか?」
「例えば死(タナトス)をテーマにして小説を書いたこともあるわ」
「死? ギリシャ神話ですか」
「あら詳しいわね。」
「うちのジジイは神話が好きなんだよ。お前の履歴書はシンプルでいいや。気が向いたときに遊びに来いや」
あーあと欠伸をつくので何だか話す気が萎えます。マイペース過ぎます。
「お父さんでしょ。あとは学校では先生と呼んで」
「それで役に立ちますか?」
「創作にはどんな知識も知っているだけで有利になる。ファンタジー小説でも書いてみたら?」
「考えておきます」
ボーンと柱時計が十七回音を立てました。
「帰らないと。うちは家が厳しいので。門限が十八時なので」
「早いわね。これから一緒によろしく」
部活動の初日はこんな感じでした。ちょっとだけ興味がそそられました。でも実際に小説を書いて出してみると、すごい量の指摘が飛んできます。原稿を手にすると人が変わるのです。文芸部も悪い場所ではなかったので一年もいます。楽しくもあり、辛いときもありました。現状、自分の筆力は無に近いですから。
ワイワイやってあの日がやって来ます。
四月二十七日。志麻さんを見かけた最後の日です。
「どうしたんですか?」
学食を食べて教室に戻る途中で志麻さんと会いました。
「早退する」
何を考えているのでしょう。体調が悪いなら保健室にいればいい。
「大事な用がある。じゃあな」
激しい雨の中、志麻さんの姿は黒影となっておぼろげになります。
ピカッ!
突然よどんだ分厚い雲に白雷が差し込みます。まるでゼウスの雷が大地に振り落とされたかのようでした。
ドシン!
激しい雷光を私は目の当たりにしました。あの雷が深木志麻の頭上に振り落とされたと直感的に思いました。
悲鳴が近くの教室から聞こえてきます。
後日に志麻さんが死んだと聞いて、何の話もないのは変でした。帰宅途中で落雷に当たって本当に黒焦げになってしまった。とても同級生を集めた葬式をやれる状態ではない。
私の意見は支離滅裂でしょうか。私は災害死が原因で書くことになっています。これって一番難しいですよね。
まったく。長い文章を書くのは大変です。書いて終わりではなく添削することはもっと大変です。
私の話は以上です。偉大なる天才深木志麻に安らかな眠りを。どうか私たちを祟らないでくださいね。
完
部屋の灯りが付いて朗読が終わる。
「白樺さん、発表ありがとう。あなたらしい筋の通した作品でした。あなたとは面白い話をしたわね。ルールがどうとか。思い出したわ。ふふ、志麻は落雷に当たって黒焦げになった。幼なじみが死ぬのは悲しいけれども、劇的な死に方ね。まさに文豪に相応しい死だわ。次のテーマは死にざまにしましょうか?」
「天罰、でもいいかもしれませんね」
「ずいぶん抽象的なテーマだわ。主観が入りすぎて気が滅入る内容が多くなりそう。あと一つ、ご指摘したいことがあります。実在する特定の誰かを非難するのはしない方がいいわね」
陽花は懐かしいような口調で場を締めくくる。
私が文芸部に入ったのは仕方ない事情があったからです。
三か月間在籍していたバトミントン部で私はいじめに遭っていました。
きっかけは何だっけ?
冬の合宿中に部員たちで流行っていた音楽を私が別に好きじゃないと言ったからだったかな?
私、一言余計なところがあるので、はい。
まあいいや。とにかく私はバトミントン部にいづらくなって居場所を探さないといけません。学生は何がしかの部に入れという校則があります。しかもどこかの部活に所属するだけではなく活動実績がなければいけません。一か月以上、部活をさぼったりしますと、強制退部になります。
厄介なことになりました。去年の六月でした。文芸部を知ったのは本館校舎の一階に置いてあった新入生向けのビラが貼られているのを見かけたからです。
本当にたまたまです。そこで志麻さんに話しかけられました。当時の私は小説になんて微塵も興味がありませんので、成南学園の有名な人ぐらいの認識です。
「お前、小説に興味あるか? だったら文芸部に入れよ」
腰に手を当てながら私を見ています。弛んだ眠そうな顔をしながら欠伸を書いています。右に首を傾げる癖があるみたいでした。この人はいたずらっ子という印象がありました。
着ているセーターを腰に巻き、着ているシャツはよれよれではたから見て黄ばんでいるみたいです。くりくりと長髪でいじっている。とても変な人に絡まれてしまった。私の所感です。
「別に帰ってもいいですか?」
じゃと言って立ち去ろうとしたら
「待てよ。名前ぐらい教えろ」
「白樺真木です。もういいですか?」
「松崎陽花、樫原実歩、藤垣美星、白樺真木、銀杏小夏……」
深木さんは俯きながらぶつぶつと何か言っていました。
「そうかお前か! いや、これでちょうど面子が揃う! うちは小説を書ける奴しか採らんが、あと一人で揃うんだが足りん。お前は何かの縁で特別だ。というわけで入れ」
はあ?
私の頭は浮かんだのはその一言でした。当たり前ですよね。会ってもない人に急に勧誘されて、突然大声を出されたらビックリしました。
でも悪意なるものは何一つない純粋な人です。
単純?
ばか?
天然?
とにかく天才と馬鹿は紙一重なのは確かです。
「あの興味ないですから。本当にそういうのは」
「ま、ま。話ぐらい聞いてくれ。最初は籍を置くぐらいいいから。飯とか奢ってやる。それで頼む」
文芸部。ビラを読むと活動内容が書いてあります。月一の定例で書いた小説の講評、読んだ本の紹介などなど。確かにこれなら籍を置くだけなら、いい気がします。
「バトミントン部に入っているのであまりいけないですけど」
「全く問題ない。とにかく来てくれーぜひぜひお頼み申します」
変な人。でも憎めない人柄でした。
小説なんて人生にどんな役に立つのか聞いてみたい。本質的な疑問を部員の皆は思ってもないらしく面白すぎます。
でも余計なことを言えば干されてしまいます。深木さんを見ていると落雷にでも当たって黒焦げになればいい。物騒な想像をしたことは多々ありました。
変で面白いところはあります。入部してみてやっぱりそうだなと思いましたが、志麻さんは面倒な人です。特に小説になると人が変わります。
楽な気持ちで入ってみましたが仕事はあります。まず自己紹介。これも独特。JIS形式の履歴書に自分の経歴を書くそうです。私は事前に履歴書を渡されて書きました。
志麻さんに連れられて誰の記憶の片隅にもない別館に向かいます。大理石で敷き詰められた正面玄関。長い赤い絨毯が敷かれた廊下、廊下を照らすランプ、
いつの時代だと呆れるばかりです。
一番奥の部屋が文芸部の部室です。私は部屋の扉の上に掲げられた看板に書かれた「まかふしぎの会」の文字に吹き出してしまいました。
「なにこれ? ばかみたい」
「おかしいか?」
「いや変でしょ。誰がどう見ても」
「面白いと思うんだけどな」
私はゲラゲラと誰もいない廊下で笑ってしまいました。
「どなた?」
中からたおやかな声がして扉が空きました。とても育ちのいいすらりとした方でした。視線が合えば先輩だと雰囲気で分かります。このとき会ったのが松崎先輩でした。どう見てもこちらのほうが小説家らしく見えてしまいます。
深木志麻は誰かの操り人形で背後に術者が動かしていると考えたくなります。実は松崎先輩が深木さんの小説を書いているかもしれません。
「志麻、戻ったの。後でいいからスケジュールについて相談させて。後ろにいるのが新しい部員の子ね」
私は軽くお辞儀をしました。
「扉の上に書いてあったのはサークル名ですか?
「そうよ」
「何だかおかしくないですか?」
松崎先輩は聖母のような微笑みを絶やさず言葉を紡ぐ。
「私たちは慣れているけど、初めて見る方は混乱しちゃうわね。志麻には言ったけど」
「だってこれ――」
私にはすぐに分かり、松崎先輩に伝えました。
「なるほど。気が付かなかった。なんてばかな名前にするんだって言ったけど、そういう意味なのね」
松崎先輩は納得という表情でうなずいています。
「知らなかったんですか?」
私はびっくりしました。こんな単純な意味に気づかないなんて。案外賢い人ほど盲点に嵌りやすいのかもしれません。
心の底から笑うのは久しぶりでした。志麻さんはいいセンスしています。
皆さんの経歴を見せて頂きました。まあビッチリと。この人たちはとても活字魔なのでしょう。
私の履歴書を静かに読んでいました。変人の深木志麻とは大違い。松崎先輩が耳をかくとき映る白いしなやかな手は天女のようです。ほっそりとしたマネキンのような足は目を見張るほど奇麗でした。
「ジョージオーエルの1984が好きなんて面白いわね」
「作中で人々は常に見張られています。私たちも見張られているんです」
思い切ったことをいいました。アハハと快活に笑いを得ることができました。
「確かに指導教員の先生は厳しく私たちの品性を見ているわ」
「校則に従わなかったら、指導室に呼ばれますよね。ああ、名作って日常を描いているなって思いませんか? 1984の作品に出てくる拷問部屋の101号室の話はまさしく学校の指導室。教化が図られ人は改心する」
「言いたいことはわかる。窮屈なルールなんてなくなってしまえばいいと心から思う」
「意外ですね。松崎先輩にとってのルールって何ですか?」
「曖昧さを孕んだ秩序の要かしら。人は愚かにも争うもの。だからこそ法があり、道徳がある。でも行き過ぎたルールの徹底は創造性を失います。私は小説を書いてルールを正しく定義する。私の書いた小説は堅苦しくていいところまでいくけどね」
「大人ですね」
「どういうこと?」
「高校生でルールの正しさを理解しているなんて」
「白樺さん、私は生徒会よ」
松崎先輩は伺うようにジロリと人を見ます。この人を敵に回すと怖いなと思いました。秩序、道徳、法律。堅苦しい言葉が松崎先輩に似合いそうです。
それと対極に位置するのが……
「だったら寝ているあの人を何とかしてください」
深木さんはソファの上で早くも寝そべってうたたねをしていました。人に履歴書を書かせておいて読むこともなく本人は寝ている。混沌そのものです。
「指導が必要ね」
寝ぼけまなこを擦りながら「何だよ、これー」とぼそぼそと言います。
「白樺さんの履歴書。あなたが書かせたんでしょ。寝るなら来月のスケジュールについて話が済んでからにしなさい」
「スケジュール、スケジュール、時間、時間ってうるさいなあ」
「時間は言っていない。創作は小説だけにして」
「あのお、で、どうすればいいんですか?」
何だか痴話げんかを始めたので私は間に入る。
「私たちのサークルはプロの小説家を目指す人たちの集まりなの。だから面白い本を紹介したり、実際に小説を書いたりして、お互いの小説の講評をします。あなたもご興味があれば書いてみて」
「皆さんはどんな小説を書いているんですか?」
「日々のニュースで気になったこととか、時々顧問の深木先生からお題を出されることがあります」
「お題って何ですか?」
「例えば死(タナトス)をテーマにして小説を書いたこともあるわ」
「死? ギリシャ神話ですか」
「あら詳しいわね。」
「うちのジジイは神話が好きなんだよ。お前の履歴書はシンプルでいいや。気が向いたときに遊びに来いや」
あーあと欠伸をつくので何だか話す気が萎えます。マイペース過ぎます。
「お父さんでしょ。あとは学校では先生と呼んで」
「それで役に立ちますか?」
「創作にはどんな知識も知っているだけで有利になる。ファンタジー小説でも書いてみたら?」
「考えておきます」
ボーンと柱時計が十七回音を立てました。
「帰らないと。うちは家が厳しいので。門限が十八時なので」
「早いわね。これから一緒によろしく」
部活動の初日はこんな感じでした。ちょっとだけ興味がそそられました。でも実際に小説を書いて出してみると、すごい量の指摘が飛んできます。原稿を手にすると人が変わるのです。文芸部も悪い場所ではなかったので一年もいます。楽しくもあり、辛いときもありました。現状、自分の筆力は無に近いですから。
ワイワイやってあの日がやって来ます。
四月二十七日。志麻さんを見かけた最後の日です。
「どうしたんですか?」
学食を食べて教室に戻る途中で志麻さんと会いました。
「早退する」
何を考えているのでしょう。体調が悪いなら保健室にいればいい。
「大事な用がある。じゃあな」
激しい雨の中、志麻さんの姿は黒影となっておぼろげになります。
ピカッ!
突然よどんだ分厚い雲に白雷が差し込みます。まるでゼウスの雷が大地に振り落とされたかのようでした。
ドシン!
激しい雷光を私は目の当たりにしました。あの雷が深木志麻の頭上に振り落とされたと直感的に思いました。
悲鳴が近くの教室から聞こえてきます。
後日に志麻さんが死んだと聞いて、何の話もないのは変でした。帰宅途中で落雷に当たって本当に黒焦げになってしまった。とても同級生を集めた葬式をやれる状態ではない。
私の意見は支離滅裂でしょうか。私は災害死が原因で書くことになっています。これって一番難しいですよね。
まったく。長い文章を書くのは大変です。書いて終わりではなく添削することはもっと大変です。
私の話は以上です。偉大なる天才深木志麻に安らかな眠りを。どうか私たちを祟らないでくださいね。
完
部屋の灯りが付いて朗読が終わる。
「白樺さん、発表ありがとう。あなたらしい筋の通した作品でした。あなたとは面白い話をしたわね。ルールがどうとか。思い出したわ。ふふ、志麻は落雷に当たって黒焦げになった。幼なじみが死ぬのは悲しいけれども、劇的な死に方ね。まさに文豪に相応しい死だわ。次のテーマは死にざまにしましょうか?」
「天罰、でもいいかもしれませんね」
「ずいぶん抽象的なテーマだわ。主観が入りすぎて気が滅入る内容が多くなりそう。あと一つ、ご指摘したいことがあります。実在する特定の誰かを非難するのはしない方がいいわね」
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