孤島に浮かぶ真実

平野耕一郎

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第二部

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 放課後、まもなく午後4時という頃になる。

 初の部活動での練習に、私は部活をしたい願望を持っていた。違う環境での違う競技、早く実践練習がしたかった。

 しかし、すぐにはラケットを握らせてもらえない。初めにやるのはどの部活でもそうだがお決まりの体を温めるウォーミングアップだし、その次は基礎トレーニングだろうとみていた。

 これでもかというぐらいテニス部では基礎をやらされた。ラケットを握っても1年生は玉拾いかコーチが投げる球を打ち返すこと。

 初日はそんなんだろうと、期待感を持ちながらも、割り切っていた。でも違う。

 10人しかいない、バドミントン部はさっさとアップを済まし、トレーニングもほどほどにして、練習試合を行うこととなった。

 私は、彩月とやった。彼女が一番強いらしい。

「うちとやる?」

 人差し指を自分に向け、首をかしげる。やめておいた方がいいという仕草に思えた。

「へえ」

「いいじゃない」私は、笑って挑発をかわす。試合がしたい、それだけだ。

「あ、そう。じゃあご要望に叶えてやって差し上げましょう」

 彩月はうやうやしい態度で、私の挑戦を引き受けた。彼女のお父さんの田村さんとそっくりだ。人をたてるところ、なのか内心何を思っているのかわからないところが……

 サービスは私からだ。親切に、譲って下さった。

 なら、ありがたく……

 私はテニスで鍛えた技がどこまで、高校で1番上手い生徒に通用するのか試すことにした。

「ああ、もうやめた!」

 彩月はワッと大きな声を上げ、地団駄を踏む。キュッキュッと足ににじんだ汗で濡れた床をぬぐう。彼女の姿勢は前かがみになり、顔をしかめる。先ほどと気持ちの入れ方が違うのがよくわかった。

 気を引き締める必要がある。

 私も体を前かがみにして相手のサービスをうかがった。

 小柄な彼女の体が電撃のように前に動き、腕が伸びる。ラケットが羽根を捉えていた。私は反応に少し遅れ気づいた時には床に羽根が落ちている。

 サービスを取られた。

 チッと思わず舌打ちしそうになったが、すぐにやめる。衝動は抑えなければいけない。相手に気持ちを悟られてはお終いだ。

 ともかく取られたサービスを奪い返さないといけない。

 気持ちにいささかの焦りが生まれたとき履いているシューズがキュッと音を立てる。滴り落ちた汗に滑ってしまう。体のバランスが崩れ、前のめりによろける。

 当然、一瞬のミスを彩月は見逃さない。

 羽根は、矢となり、槍となり、鋭く叩きつけられる。

 今は相手のサービスで、彼女から奪取しなければならないのに……私は秘かに唇を噛みしめる。ミスをしたときに取るべき行動はいつも同じだ。相手の顔も見ないし、喚声も聞こえないふりをする。

 スポーツは常にポーカーフェイス。例えそれが単なる部活の練習にせよ、友達との遊びにせよ向かい合って対戦する競技は、いつも相手を意識せずにはいられない。

 特に個人競技はイライラしたら負けで、相手からのプレッシャーをいかに回避しミスをしないかが全て。今回は自滅のミスだ。

 結局、終始圧倒されたゲームになっていた。

 悔しいけど、これが経験の差だ。最初から、うまくなっていかないし、まあ、これが現実だ、現実。

「練習試合でも、ガチでやるんだ」

 彩月は薄ら笑いを浮かべそう言った。それに勝負だからとそっけない口調で返した。

「勝負だから……」

 負けたときは、しゃべりたくない。きっと何もかもが言い訳に聞こえて見苦しく思われるから。
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