孤島に浮かぶ真実

戸笠耕一

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第三部

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 寄田勉の何に自分がほれたのか分からない。彼に大した取り柄はない。極端な話、あいつは何もできない種類の男子だ。

 それでも私はあいつを好きなり、こっちから告白した。女子から言うなんて、滅多にないことだ。儲け者、幸せ者とは、こいつのことを言う。

 棺の中に安置されている。

 あんた、そんなところで何しているの? 寝ちゃってさ、起きろよ。心ではいくらでも叫んでいた。許されるならいくらでも体を揺さぶって目が覚めるまで、ビンタをしてやる。

 馬鹿なの、冗談でしょ?

 またクラスで通夜。いい加減飽きたよ、それなのにこのバカは。

 遺体に花束を安置、なんてやりたくなった。こんな百合のキツイ臭いなんて勉は好きじゃないだよう。私は手に持ったお供えの花を床にたたきつけてやりたくなった。

 ツーンと百合の花束の臭いが自分の鼻を貫く。花が鼻をつくなんて、ちっとも面白くない。これっぽっちも!

 心の叫びは続く。何だか1人でボケてしまい、一人でツッコんでいる。

「あーあ」

 私は誰に向けてでもなく、空気に向かってつぶやくようにぼやいた。

「……」

 案の定、誰も反応はしない。

「死んだ、死んだ」

「……」

 みんな無言。

「ねえ」

「……」

 それでも無言。

「ねえ!」

 私は、近くにいた佐津間の腕をつかまえる。

「あんた警察官の息子でしょ? なに、なにやっていんの? しっかり仕事してよ? 人を見殺しにしてさ!」

 葬儀の場が、ぶち壊しだ。全員が私のことを見ている。きっとよそ者、よそ者って心でほざいている。そんなの知るかよ。ああ、そうさ。私はよそ者。

 佐津間は済まなそうな顔をしたままだ。全員が目のやり場に困っている。

「ねえ彩月」

 近くに寄ったのは、メイだ。悲しそうな顔をするメイ。こんな彼女は知らないし、私の友人などではない。

「出よう」

「へえーなに? なにうちの後ろをついてくのが能のくせに!」

私は心の奥底から現れてはいけないものに影から動かされていた。

「気持ちわかっているから、いったんここを出よう」

 出歯が今日はいやだ。自然と拳が握られていた。

「だめよ、出ましょう」

 手をパシッと捕まえたのは、お嬢様だ。周りに止まられる自分を見て私は勝てないと知る。

 私は場を騒がせたお尋ね者にされて斎場をつまみ出される。

 ため息をつく。これ以上何を話せばいいのか、わからない。最近まで生きていた人が死ぬ。それがどんなことか、改めてそのつらさを痛感させられる。

 何か聞いてほしいという気持ちはある。でも今さっきさく裂した感情で、私は大人しくなれた。もうどうでもよかった。

 あとは何もないのだ。勉を殺した犯人が見つかれば、それでいい。

 通夜は終わり、クラスは自由解散になった。何度も通る道だ。山門を出て

 石段を下る。その途上、島のすべてが目に映し出される。そして島の幹ともいえる大通りを進む。

 途中でまだ涙を流し続けるメイが別れを告げる。あとは、いつもの二人だ。

 私たち転校生。奇遇な関係だ。よそから来たもの同士で、お互いに隣の家に住んでいる。趣味にも共通点があって。

 2人でいつも登校していた。仲がいいはずの2人。自分で言うのもなんだけど……

 言葉のない、帰り道で明美は言う。

「私、分かった気がするの。この島で起きている事件の犯人がね……」

 明美は、詩を読むような口調で私に言う。だが、それは重大なことだ。

「なんで?」

 私の問いかけに彼女は首を振る。

「でも確信が持てなくなったわ。どうして、人を殺めることができたのか、それがどうしても分からないの」

 明美の口ぶりは全く謎だ。

「で、どうするの?」

「そうね……」

 ぼそぼそと耳で何かを話す。その内容は、実に突拍子もない。
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