孤島に浮かぶ真実

戸笠耕一

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第四部

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 警察官の佐津間は、島の巡回の時間になったので、ゆっくりと立ち上がる。年のせいか最近腰が痛い。おかげで若いころみたいにパパッと動けなくなっていた。

 くそっ、忌々しい腰だ。

 悪態をつけるだけ、今日はましだ。ひどいときには、それすらできない。

 携帯すべきものを身に着け、えっちらおっちら行くとしよう。

 こんなのどかな事件なんて起こらない島でも、警察官として果たすべきことはしなければいけない。至極当然のことだ。

 警察官は、所持しているものが多い。それでも何一つとして欠かすことはできない。

 このところ、人が死んでいる。なぜか変わらない。あまりにも死んでいるので、本庁がいよいよ動くという話だ。1人、2人という数ではない。島の警察では任せられないということだ。

 異例の事態。ならば自分は、島を巡回し危険から市民を守らねばならない。

 指名は重い。でも引き受けたからには、果たすべきだ。

 職責と仕事の構えについて、考えている最中で、彼はあることに気付いた。

 ない……

 佐津間の顔はみるみるうちに険しくなっていく。大事なものが、ない。あるべき場所にない。拳銃だけが、なぜ?

 そんな馬鹿な……

 彼の頭から、仕事への熱意や義務感は消え去った。後に残ったのは、処罰をされることへの現実として差し迫る恐怖だった。
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