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第34話「この距離、君だけに許された」
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「お疲れさまでした~~! R+Tさん、初取材、最高でした~!」
その日、放課後に行われた音楽誌の取材撮影が終わったのは、もう夕方近くのことだった。
校舎の裏手にある特設スペースに、撮影用の白いパネルや、ライト、マイクが並んでいて。
凛音も天音も、いつもの制服とは少し違うスタイリングで挑んでいた。
カメラマンの「いいね!その距離感!」という言葉に、
天音は内心ずっとドキドキしていた。
(“その距離感”って……私たち、そんなに近かった……?)
凛音はいつものように無表情だけど、
撮影の合間に「腰、痛くね?」と背中に手を添えてきたり、
「寒かったら上着貸す」とポケットから自分のブレザーを出しかけたり。
……そういうのが、たまらなくズルい。
撮影後、スタッフが撤収していく中、
天音は凛音と2人、校門を抜けて帰路についた。
でも――なんとなく、まっすぐ帰る気にはなれなかった。
「ねぇ、寄り道……してもいい?」
凛音が片眉を上げた。
「どこに?」
「ひみつの場所」
「お前の“ひみつ”はだいたい俺にバレてるけどな」
「むぅ……じゃあ“共有のひみつ”ってことで!」
◆
向かったのは、学園近くの河川敷。
少し草が高くて、人通りもほとんどない。
小さな木のベンチがひとつあるだけの、静かな場所。
「ここさ、実は小学生の頃、私が落ち込むとよく来てたんだ」
「へぇ」
「でも、誰にも言ってなかったの。……凛音以外には」
凛音は、ベンチに座って小さく笑った。
「つまり、俺だけに教えてるわけだ」
「うん。特別だから」
「そうか。じゃあ、俺もお返し」
「えっ?」
凛音は、制服のポケットから小さな包みを取り出した。
薄いグレーのリボンに包まれたそれは、小さな紙袋だった。
「……何これ?」
「今日の取材、お前緊張してたろ。
口では平気って言ってても、耳まで赤くなってた」
「うっ、ばれてた……」
「だから、終わったら渡そうと思って。
お疲れさま、ってやつ」
天音は、そっと袋を開けた。
中には、小さなハート型のクッキーが2つ入っていた。
ほんのりラベンダーの香りがする、手作り風のやさしい焼き菓子。
「……凛音、作ったの?」
「いや。姉貴たちに頼んだ。俺がラッピングしただけ」
「でも、ちゃんと私のこと考えてくれたんだね」
「当然だろ」
天音はクッキーを見つめてから、ゆっくりとひとつ口に運ぶ。
「ん……おいしい。あまい」
「そうか」
「……でも、凛音の言葉のほうが、もっと甘かったかも」
その瞬間、凛音がわずかに目を伏せた。
少し風が吹いて、天音の髪がふわっと舞う。
それを、凛音の指先がやさしく払った。
「お前の声も、さっきの“おいしい”も、反則だ」
「え?」
「俺にだけ見せる顔、多すぎる」
「……だって、凛音だけに見せたいもん」
「知ってる。だから困る」
「どうして?」
「……俺も、止めらんなくなるから」
天音が息を呑む。
頬にほんのり赤が差す。
「なぁ、キスしてもいい?」
「えっ、えっ、急に?」
その距離、わずか10センチ。
手を伸ばせば、触れられる。
「これから忙しくなったら、こんなに甘い時間も取れないかもしれないし…」
凛音の顔が少し寂しそうに見えた。
天音は思い切って、凛音にキスをした。
「っつ!」
「あっ、ごめん!」
勢いあまってお互いの歯が当たってしまった。
「まぁ、天音に奪われるのもいいかもな。」
凛音は嬉しそうに天音を引き寄せた。
「えへっ」
(この時間、ずっと止まっててほしいな……)
天音は、そう願いながら凛音の横顔を見つめた。
彼は空を見上げ、ぼそっとつぶやいた。
「デビューって、案外忙しい。今日も、明日も、練習と打ち合わせ」
「うん」
「それでも、こうやって“ただのお前と俺”でいられる時間は――」
「大切だよね」
「……ああ」
2人は、それ以上何も言わず、ただ静かに並んで座っていた。
空が赤く染まり、夜がゆっくりと近づいてきても。
(歌のこと、デビューのこと、たぶんこれからもっと大変になる)
(でも、私には――)
(この人の隣が、なによりの“帰る場所”だから)
天音はそっと、凛音の袖をつかんだ。
何も言わなくても、彼はそれに気づいてくれる。
それが嬉しくて、こっそりと微笑んだ。
【つづく】
その日、放課後に行われた音楽誌の取材撮影が終わったのは、もう夕方近くのことだった。
校舎の裏手にある特設スペースに、撮影用の白いパネルや、ライト、マイクが並んでいて。
凛音も天音も、いつもの制服とは少し違うスタイリングで挑んでいた。
カメラマンの「いいね!その距離感!」という言葉に、
天音は内心ずっとドキドキしていた。
(“その距離感”って……私たち、そんなに近かった……?)
凛音はいつものように無表情だけど、
撮影の合間に「腰、痛くね?」と背中に手を添えてきたり、
「寒かったら上着貸す」とポケットから自分のブレザーを出しかけたり。
……そういうのが、たまらなくズルい。
撮影後、スタッフが撤収していく中、
天音は凛音と2人、校門を抜けて帰路についた。
でも――なんとなく、まっすぐ帰る気にはなれなかった。
「ねぇ、寄り道……してもいい?」
凛音が片眉を上げた。
「どこに?」
「ひみつの場所」
「お前の“ひみつ”はだいたい俺にバレてるけどな」
「むぅ……じゃあ“共有のひみつ”ってことで!」
◆
向かったのは、学園近くの河川敷。
少し草が高くて、人通りもほとんどない。
小さな木のベンチがひとつあるだけの、静かな場所。
「ここさ、実は小学生の頃、私が落ち込むとよく来てたんだ」
「へぇ」
「でも、誰にも言ってなかったの。……凛音以外には」
凛音は、ベンチに座って小さく笑った。
「つまり、俺だけに教えてるわけだ」
「うん。特別だから」
「そうか。じゃあ、俺もお返し」
「えっ?」
凛音は、制服のポケットから小さな包みを取り出した。
薄いグレーのリボンに包まれたそれは、小さな紙袋だった。
「……何これ?」
「今日の取材、お前緊張してたろ。
口では平気って言ってても、耳まで赤くなってた」
「うっ、ばれてた……」
「だから、終わったら渡そうと思って。
お疲れさま、ってやつ」
天音は、そっと袋を開けた。
中には、小さなハート型のクッキーが2つ入っていた。
ほんのりラベンダーの香りがする、手作り風のやさしい焼き菓子。
「……凛音、作ったの?」
「いや。姉貴たちに頼んだ。俺がラッピングしただけ」
「でも、ちゃんと私のこと考えてくれたんだね」
「当然だろ」
天音はクッキーを見つめてから、ゆっくりとひとつ口に運ぶ。
「ん……おいしい。あまい」
「そうか」
「……でも、凛音の言葉のほうが、もっと甘かったかも」
その瞬間、凛音がわずかに目を伏せた。
少し風が吹いて、天音の髪がふわっと舞う。
それを、凛音の指先がやさしく払った。
「お前の声も、さっきの“おいしい”も、反則だ」
「え?」
「俺にだけ見せる顔、多すぎる」
「……だって、凛音だけに見せたいもん」
「知ってる。だから困る」
「どうして?」
「……俺も、止めらんなくなるから」
天音が息を呑む。
頬にほんのり赤が差す。
「なぁ、キスしてもいい?」
「えっ、えっ、急に?」
その距離、わずか10センチ。
手を伸ばせば、触れられる。
「これから忙しくなったら、こんなに甘い時間も取れないかもしれないし…」
凛音の顔が少し寂しそうに見えた。
天音は思い切って、凛音にキスをした。
「っつ!」
「あっ、ごめん!」
勢いあまってお互いの歯が当たってしまった。
「まぁ、天音に奪われるのもいいかもな。」
凛音は嬉しそうに天音を引き寄せた。
「えへっ」
(この時間、ずっと止まっててほしいな……)
天音は、そう願いながら凛音の横顔を見つめた。
彼は空を見上げ、ぼそっとつぶやいた。
「デビューって、案外忙しい。今日も、明日も、練習と打ち合わせ」
「うん」
「それでも、こうやって“ただのお前と俺”でいられる時間は――」
「大切だよね」
「……ああ」
2人は、それ以上何も言わず、ただ静かに並んで座っていた。
空が赤く染まり、夜がゆっくりと近づいてきても。
(歌のこと、デビューのこと、たぶんこれからもっと大変になる)
(でも、私には――)
(この人の隣が、なによりの“帰る場所”だから)
天音はそっと、凛音の袖をつかんだ。
何も言わなくても、彼はそれに気づいてくれる。
それが嬉しくて、こっそりと微笑んだ。
【つづく】
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