俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第34話「この距離、君だけに許された」

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「お疲れさまでした~~! R+Tさん、初取材、最高でした~!」

 

その日、放課後に行われた音楽誌の取材撮影が終わったのは、もう夕方近くのことだった。
校舎の裏手にある特設スペースに、撮影用の白いパネルや、ライト、マイクが並んでいて。
凛音も天音も、いつもの制服とは少し違うスタイリングで挑んでいた。

 

カメラマンの「いいね!その距離感!」という言葉に、
天音は内心ずっとドキドキしていた。

 

(“その距離感”って……私たち、そんなに近かった……?)

 

凛音はいつものように無表情だけど、
撮影の合間に「腰、痛くね?」と背中に手を添えてきたり、
「寒かったら上着貸す」とポケットから自分のブレザーを出しかけたり。

 

……そういうのが、たまらなくズルい。

 

撮影後、スタッフが撤収していく中、
天音は凛音と2人、校門を抜けて帰路についた。

 

でも――なんとなく、まっすぐ帰る気にはなれなかった。

 

「ねぇ、寄り道……してもいい?」

 

凛音が片眉を上げた。

 

「どこに?」

 

「ひみつの場所」

 

「お前の“ひみつ”はだいたい俺にバレてるけどな」

 

「むぅ……じゃあ“共有のひみつ”ってことで!」

 



 

向かったのは、学園近くの河川敷。

少し草が高くて、人通りもほとんどない。
小さな木のベンチがひとつあるだけの、静かな場所。

 

「ここさ、実は小学生の頃、私が落ち込むとよく来てたんだ」

 

「へぇ」

 

「でも、誰にも言ってなかったの。……凛音以外には」

 

凛音は、ベンチに座って小さく笑った。

「つまり、俺だけに教えてるわけだ」

 

「うん。特別だから」

 

「そうか。じゃあ、俺もお返し」

 

「えっ?」

 

凛音は、制服のポケットから小さな包みを取り出した。

薄いグレーのリボンに包まれたそれは、小さな紙袋だった。

 

「……何これ?」

 

「今日の取材、お前緊張してたろ。
口では平気って言ってても、耳まで赤くなってた」

 

「うっ、ばれてた……」

 

「だから、終わったら渡そうと思って。
お疲れさま、ってやつ」

 

天音は、そっと袋を開けた。

中には、小さなハート型のクッキーが2つ入っていた。
ほんのりラベンダーの香りがする、手作り風のやさしい焼き菓子。

 

「……凛音、作ったの?」

 

「いや。姉貴たちに頼んだ。俺がラッピングしただけ」

 

「でも、ちゃんと私のこと考えてくれたんだね」

 

「当然だろ」

 

天音はクッキーを見つめてから、ゆっくりとひとつ口に運ぶ。

 

「ん……おいしい。あまい」

 

「そうか」

 

「……でも、凛音の言葉のほうが、もっと甘かったかも」

 

その瞬間、凛音がわずかに目を伏せた。

少し風が吹いて、天音の髪がふわっと舞う。
それを、凛音の指先がやさしく払った。

 

「お前の声も、さっきの“おいしい”も、反則だ」

 

「え?」

 

「俺にだけ見せる顔、多すぎる」

 

「……だって、凛音だけに見せたいもん」

 

「知ってる。だから困る」

 

「どうして?」

 

「……俺も、止めらんなくなるから」

 

天音が息を呑む。
頬にほんのり赤が差す。

 
「なぁ、キスしてもいい?」


「えっ、えっ、急に?」


その距離、わずか10センチ。

手を伸ばせば、触れられる。

「これから忙しくなったら、こんなに甘い時間も取れないかもしれないし…」

凛音の顔が少し寂しそうに見えた。

天音は思い切って、凛音にキスをした。


「っつ!」


「あっ、ごめん!」


勢いあまってお互いの歯が当たってしまった。


「まぁ、天音に奪われるのもいいかもな。」


凛音は嬉しそうに天音を引き寄せた。


「えへっ」
 

(この時間、ずっと止まっててほしいな……)

 

天音は、そう願いながら凛音の横顔を見つめた。

 

彼は空を見上げ、ぼそっとつぶやいた。

 

「デビューって、案外忙しい。今日も、明日も、練習と打ち合わせ」

 

「うん」

 

「それでも、こうやって“ただのお前と俺”でいられる時間は――」

 

「大切だよね」

 

「……ああ」

 

2人は、それ以上何も言わず、ただ静かに並んで座っていた。

空が赤く染まり、夜がゆっくりと近づいてきても。

 

(歌のこと、デビューのこと、たぶんこれからもっと大変になる)

(でも、私には――)

(この人の隣が、なによりの“帰る場所”だから)

 

天音はそっと、凛音の袖をつかんだ。

何も言わなくても、彼はそれに気づいてくれる。

それが嬉しくて、こっそりと微笑んだ。


 
【つづく】
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