俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第35話「音を失くした日、君の声があった」

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「……ごめんなさい……」

 
その一言が、スタジオの空気を凍りつかせた。

 
レッスン室には、防音の壁と調音材が張られ、
鏡張りのスタジオには、たった2人。
凛音と天音。
そして、2人のボイストレーナー。

 
「天音ちゃん、今日はちょっと喉の調子悪いかな?焦らなくていいよ」

 
トレーナーが柔らかく言ってくれたけど、
天音の心は、ちっとも落ち着いてくれなかった。

 
彼女の声は、明らかに伸びがなかった。
高音が少しかすれて、タイミングもずれて、リズムも不安定。

 
……ただの“疲れ”じゃない。

本人が、一番それを感じていた。

 
(どうしよう……声が出ない)

(怖い。凛音の隣に立てなくなるのが、怖い……)

 
凛音は何も言わず、ただ彼女をじっと見ていた。

天音はそれが、余計に辛かった。
 



 
レッスン後。
外はもう暗く、夜風が涼しく吹いていた。

凛音は黙って、天音の荷物を持ってやった。

「帰るぞ」

 
「……うん」

 
歩き出してからも、二人の間には言葉がなかった。
それが珍しくて、天音はなおさら焦ってしまう。

 
(もしかして、怒ってる……?)

(私のせいで、足引っ張ってるって思ってる……?)

 
もう、どうしたらいいか分からなかった。

ついに天音は、立ち止まった。

 
「凛音……ごめん。今日、全然ダメで……」

 
「……ああ」

 
「声が、出ないの。分かってるのに、体が反応してくれない。
歌いたいのに、うまくいかないの。怖いよ……どうしよう……」

 
その場で、涙が溢れた。

凛音は何も言わずに、天音の前に立った。

そして――そっと、彼女の頭に手を置いた。

 
「……バカか、お前は」
 

「っ……」

 
「歌えない時は、休めばいい。
誰だって、調子が悪い日くらいある。
喉の不調だって、プロでもある」

 
「でも……初ライブなのに……私……」

 
「だから、ちゃんと“守る”って言ったろ。
お前の声が出ない日くらい、俺の声でカバーしてやる。
それが“ユニット”ってもんだ」
 

天音の涙が、ぼろぼろこぼれた。

それでも彼女は、ぎゅっと目をつぶって首を振った。

 
「でも……それじゃ、私が隣に立ってる意味がない。
ただ守られてるだけじゃ、私、嫌なの……!」

 
凛音は目を細めた。

しばらく黙って、天音を見ていた。

 
そして――

 
「お前な、わかってねぇ」

 
「えっ……?」
 

「隣に立ってる意味?
もう“ある”だろ。お前が、俺の隣に“いる”ことが、意味だ」

 
「……」

 
「俺の声が、お前と重なったときだけ、ちゃんと音楽になる。
一人じゃ足りねぇ。
二人で“R+T”だ。
歌うってのは、音を出すことじゃねぇよ。
お前がそこにいて、俺がいて――
その瞬間が、歌になるんだよ」

 
天音は、息を飲んだ。

そして、ようやく――ほんの少しだけ、笑った。
 

「……凛音って、ほんと、時々ずるい」
 

「今さら」

 
「でも、ありがとう。
泣いても、ダメでも、声が出なくても。
隣で“意味”があるって言ってくれるの、嬉しかった」

 
凛音は、何も言わず、天音の涙を親指でそっと拭った。

 
「少し休め。
無理して潰れたら、それこそ“意味”がねぇ」

 
「うん……ごめん、私……ちゃんと、休む」

 
「えらい」

 
「……なにそれ、子ども扱い?」

 
「お前が泣くたびにガキに戻ってるのは事実」

 
「むぅ……」

 
そうして二人は、また並んで歩き出した。

さっきよりも、肩が少し近い。

言葉がなくても、伝わる距離だった。
 



 
その夜、天音はリビングでマスクをしたままソファに寝転がっていた。

喉を休めるため、温かいはちみつレモンを飲んでいた時、
スマホが震えた。

送信者:凛音

「明日、何もなかったら歌わなくていい。
ただ、そこに来い。
お前がいるだけで、音楽は始まる」

 
その言葉に、胸がいっぱいになる。

そして、返信はせず、ただ画面にキスをした。

 
「……うん。行くよ、凛音」

 
声にならないその言葉が、心の奥でやさしく響いた。

 
【つづく】
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