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第36話「声がなくても、届くものがある」
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日曜の午後、駅前の広場には人があふれていた。
噴水の前に設けられた特設ステージ、
音響機器が並び、バナーにはこう書かれている。
『第28回 湘南まちなか音楽祭』
~地元アーティストと、未来のスターたち~
その下に、ひときわ目立つ一文。
特別出演:R+T(桐嶋凛音&白石天音)
この日、天音はステージに立っていた。
しかし、彼女のマイクはミュートされている。
それは、自らが選んだ“表現”だった。
◆
数日前、凛音は天音の様子にすぐ気づいた。
声を出すとすぐに喉が痛む。
そのせいで発声練習も抑え気味、会話すら控えていた。
「無理すんな。今回は見送ってもいい」
凛音はそう言った。
だが、天音は首を振った。
「私、出たい。
……凛音と一緒に、音楽をやりたい。
歌えなくても、私にできること、絶対あるはずだから」
そして、美沙にも提案した。
「私のマイク、カットしてもらえませんか?
その分、ステージングを工夫します。
“想い”だけ、届けられるように」
美沙は驚きながらも、深く頷いた。
「……その覚悟、世界に見せてやんな」
◆
そして今、R+Tはステージに立っている。
最初の曲が始まる。
1曲目は、2人のデビュー候補曲でもある『ツバサ』。
凛音の伸びやかな歌声が、駅前の空に響いた。
背筋がまっすぐで、音程に一切のブレがない。
けれど、それだけではない。
隣で歌っていないはずの天音が、確かに“歌って”いた。
指先の動き。
目線の運び。
口パクではない、“体全体での発信”。
彼女のまっすぐな表情が、歌詞の世界を代弁していた。
(……伝われ。私の想い。
凛音と一緒に、この場所に立ちたくて……)
2番に入ると、観客の間に不思議な空気が生まれた。
天音の“音のないパフォーマンス”に、自然と視線が集まり、
その存在感に、引き込まれていく。
そして、サビ終わりのブレイク。
凛音が、ふとマイクを下ろし、客席を見渡した。
「こいつは、今、歌えねぇ。
けど、今日のために誰よりも準備してきた。
だから……ちゃんと見ててくれ。
こいつの“声なき声”を」
割れるような拍手が響いた。
スマホを掲げる観客。
SNSライブは、全国数十万人が視聴中。
コメント欄には――
「天音ちゃん…表情だけで泣ける…」
「凛音くんの言葉が優しすぎて無理」
「これぞユニット…支え合いってこういうことだよね」
「R+Tに完全に心持ってかれた」
◆
2曲目『帰り道のメロディ』は、バラード調。
ここで、天音がサプライズ的にハーモニー部分の1フレーズだけ声を重ねる。
小さく、震えるような声だった。
でも、それだけで観客からは「うぉ……」と感嘆が漏れた。
(……出た。ちゃんと、出た)
天音自身も驚いていた。
声が――出たのだ。
凛音が、そっと微笑む。
「言ったろ。お前の声は、ちゃんと生きてる」
ラスト。
凛音が天音の手を取って、客席に向かって差し出す。
天音は涙をこらえながら笑って、深く一礼した。
会場から、割れるような拍手。
ステージは、幕を閉じた。
だが――
R+Tという名前は、その日を境に“本物の音楽ユニット”として刻まれることになる。
◆
ステージ後、楽屋で。
喉に保湿スチームを当てながら、天音が呟いた。
「……私、今日は歌ってないのに、歌った気がする」
「お前は歌ってた。ずっと、俺と一緒に」
天音は、凛音の肩に頭をもたせかけた。
「ありがとう、凛音。
私の声が出なくても、音楽はできるって教えてくれて」
「違ぇよ。
お前が、俺にそれを教えてくれたんだ」
静かな空間に、やさしい拍手のような静寂が降りた。
R+Tは、また一歩。
世界に向けて、その音を刻み始めていた。
【つづく】
噴水の前に設けられた特設ステージ、
音響機器が並び、バナーにはこう書かれている。
『第28回 湘南まちなか音楽祭』
~地元アーティストと、未来のスターたち~
その下に、ひときわ目立つ一文。
特別出演:R+T(桐嶋凛音&白石天音)
この日、天音はステージに立っていた。
しかし、彼女のマイクはミュートされている。
それは、自らが選んだ“表現”だった。
◆
数日前、凛音は天音の様子にすぐ気づいた。
声を出すとすぐに喉が痛む。
そのせいで発声練習も抑え気味、会話すら控えていた。
「無理すんな。今回は見送ってもいい」
凛音はそう言った。
だが、天音は首を振った。
「私、出たい。
……凛音と一緒に、音楽をやりたい。
歌えなくても、私にできること、絶対あるはずだから」
そして、美沙にも提案した。
「私のマイク、カットしてもらえませんか?
その分、ステージングを工夫します。
“想い”だけ、届けられるように」
美沙は驚きながらも、深く頷いた。
「……その覚悟、世界に見せてやんな」
◆
そして今、R+Tはステージに立っている。
最初の曲が始まる。
1曲目は、2人のデビュー候補曲でもある『ツバサ』。
凛音の伸びやかな歌声が、駅前の空に響いた。
背筋がまっすぐで、音程に一切のブレがない。
けれど、それだけではない。
隣で歌っていないはずの天音が、確かに“歌って”いた。
指先の動き。
目線の運び。
口パクではない、“体全体での発信”。
彼女のまっすぐな表情が、歌詞の世界を代弁していた。
(……伝われ。私の想い。
凛音と一緒に、この場所に立ちたくて……)
2番に入ると、観客の間に不思議な空気が生まれた。
天音の“音のないパフォーマンス”に、自然と視線が集まり、
その存在感に、引き込まれていく。
そして、サビ終わりのブレイク。
凛音が、ふとマイクを下ろし、客席を見渡した。
「こいつは、今、歌えねぇ。
けど、今日のために誰よりも準備してきた。
だから……ちゃんと見ててくれ。
こいつの“声なき声”を」
割れるような拍手が響いた。
スマホを掲げる観客。
SNSライブは、全国数十万人が視聴中。
コメント欄には――
「天音ちゃん…表情だけで泣ける…」
「凛音くんの言葉が優しすぎて無理」
「これぞユニット…支え合いってこういうことだよね」
「R+Tに完全に心持ってかれた」
◆
2曲目『帰り道のメロディ』は、バラード調。
ここで、天音がサプライズ的にハーモニー部分の1フレーズだけ声を重ねる。
小さく、震えるような声だった。
でも、それだけで観客からは「うぉ……」と感嘆が漏れた。
(……出た。ちゃんと、出た)
天音自身も驚いていた。
声が――出たのだ。
凛音が、そっと微笑む。
「言ったろ。お前の声は、ちゃんと生きてる」
ラスト。
凛音が天音の手を取って、客席に向かって差し出す。
天音は涙をこらえながら笑って、深く一礼した。
会場から、割れるような拍手。
ステージは、幕を閉じた。
だが――
R+Tという名前は、その日を境に“本物の音楽ユニット”として刻まれることになる。
◆
ステージ後、楽屋で。
喉に保湿スチームを当てながら、天音が呟いた。
「……私、今日は歌ってないのに、歌った気がする」
「お前は歌ってた。ずっと、俺と一緒に」
天音は、凛音の肩に頭をもたせかけた。
「ありがとう、凛音。
私の声が出なくても、音楽はできるって教えてくれて」
「違ぇよ。
お前が、俺にそれを教えてくれたんだ」
静かな空間に、やさしい拍手のような静寂が降りた。
R+Tは、また一歩。
世界に向けて、その音を刻み始めていた。
【つづく】
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