俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第40話「音に溺れて、君を探した」

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日曜の午前。
東京都内某所にある、完全防音の音楽スタジオ。

 
天音は、その部屋の中心に立っていた。

緊張で指が冷たくなる。
呼吸が浅い。
喉が、乾く。
 

目の前の大きな鏡に、
「プロの現場に来たんだ」と言わんばかりの自分が映っていた。
 

そこへ、ヒールの音が軽やかに響く。

「白石天音さんだよね?」

振り向くと、スラリとした長身の女性がいた。

 
艶のある黒髪を高く結い上げ、
モード系のファッションをさらりと着こなす彼女。

その隣で少し遅れて入ってきたのは、――真白リオ。

 
彼女は、17歳。
中学生でオーディションに合格し、すでにCMソングやアニメの主題歌を担当している。

 
「はじめまして、天音ちゃん。リオって呼んでくれていいよ」

 
そう言って差し出された手は細くて、指が長く、
しなやかにしっかりしていた。

 

(……この人、ちゃんと“歌う人”なんだ)

天音は少し躊躇いながらも、手を取った。

 
「よかったら、今日は一緒にハーモニーの練習しよ。
ユニットって言っても、ボーカルの掛け合いとか意外と難しいから」

 
明るくて、感じが良い。
でも、その奥にある“自信”が、まぶしかった。

 


 
2時間後。
レッスンは続いていた。

ピアノに合わせて、コーラスの練習。
その中でリオの声は、まるで絹のように空間を滑っていく。
 

一方で、天音はなかなか思うように声が伸びない。
音が届く前に、喉で止まる。
 

「うーん、そこ、“抜け”が甘いかも。
息の通り道、もっとイメージして」

と、トレーナー。
 

「そっか、こうかな……?」

と、リオ。

 
(すごいな……もう、“歌ってる”だけで綺麗)

(私、今なにやってるんだろ……)

 
どんどん差が広がる気がして、
天音は思わず視線を落とした。

 
「大丈夫? 天音ちゃん、疲れてない?」

リオが気づいて声をかける。

「無理しなくていいよ。最初は誰でも緊張するし」

 
「ううん、大丈夫。ありがとう……」

 
笑ってみせたけれど、心は全然落ち着かなかった。

 


 
一方そのころ――

 
そのスタジオの外にあるカフェテラス。
凛音は、腕を組んでソファに座っていた。

向かいの席には、美沙と由依。
 

「……で? お前なんでついてきてんの」

凛音の口調はぶっきらぼうだったが、由依は余裕の表情でコーヒーを啜っていた。

 
「心配なんでしょ? 天音ちゃん」
 

「……別に」
 

「ふうん。
でも、さっきから10分おきにスマホ見てるけど?」
 

「……チェックしてんのは、お前だろ。スケジュール管理で」

 
「はいはい、言い訳は結構。
……で? 天音ちゃんが、別の女の子とハモってるの、
想像してみてどう?」

 
その瞬間、凛音の目がピクリと動いた。

 
「……別に」
 

「へぇ? でも、顔がちょっと怖いよ?」

 
凛音は、腕を解いて立ち上がった。

「俺、外の空気吸ってくる」
 

「……嫉妬って、案外可愛いもんね」

由依は、妹ながら少し微笑ましく思っていた。
 


 

夕方。
レッスンが終わり、天音がスタジオを出ると、
道路の反対側に、壁に背を預けて立っている凛音の姿が見えた。

 
「……凛音?」

 
天音は小走りで駆け寄る。

「なんで……来てたの?」

 
「なんとなく」

 
それだけ言って、視線を合わせようとしない。
 

(あ……拗ねてる?)

 
「リオさん、すごく上手だったよ。
声、綺麗で……なんか、羨ましくなっちゃった」

 
「……だからって、お前の良さが消えたわけじゃねぇ」

 
ぽつりと、低い声で凛音が言う。

「お前の声、誰よりも俺が知ってる。
誰と組もうが、俺が一番合ってるって分かってるから」

 
天音は、胸がぎゅっとなった。

(……あ。これって――)

 
「……凛音、もしかして……」

 
「してねぇよ」

 
「まだ何も言ってない!」

 
「うるせぇ。
嫉妬とか、そういうんじゃねぇ。……ただ、ムカついただけだ」

 
「それ、嫉妬って言うんだよ」

 
「じゃあ……そうかもな」
 

凛音が、ふっと目を逸らす。

その横顔が、妙に愛しくて。
天音は思わず、指先でその頬をつついた。

 
「……バカ。お前が俺の声、聞いてねぇと、俺が狂いそうになる」

 
「っ……」

 
「お前が歌うなら、俺の隣でしか歌わせねぇ。
……勝手に、どっか行くなよ」

 
天音は、ふるふると笑った。

「分かってる。行かないよ。
だって私、どこまで行っても――“R+T”のTだから」

 
凛音は、ようやくその場で小さく笑った。

そして、そっと手を差し出す。

「……じゃあ、帰るぞ。俺の“隣”から」

 
天音は、その手をぎゅっと握った。

(私の声は、凛音となら、きっともっと強くなる)

(だって、あなたが“信じてる”って言ってくれたから)

 
そして2人は、ゆっくりと駅の方へ歩き出した。

夕焼けが、いつかの初夏の記憶と同じ色で空を染めていた。

 
【つづく】
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