俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第39話「羨望と予感、初めての“すれ違い”」

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夜のリビング、柔らかな間接照明の下。
天音は、何度目かのメールを読み返していた。

 
――【ご出演決定】音楽番組「SOUND WAVE SP」
出演アーティスト:Flora、JYUN、神埼ルイ、R+T(コラボ枠)
本番日:○月○日(スタジオ収録)

 
「Flora……」
 

その名前をつぶやいただけで、心がざわつく。
美沙の会社でも所属アーティストとして君臨する、日本が誇る女性シンガー。
その圧倒的な歌唱力と、表現力は、天音にとってまさに“雲の上”の存在だった。

 
(……すごい。本当に、この人と共演する日が来るなんて……)

 
だが――もうひとつ、胸の奥にひっかかるものがある。

 
Floraは、かつて凛音がボーカル指導を受けていたアーティストでもあった。
実質、彼女が凛音の音楽の礎をつくったと言っても過言ではない。
 

「……私、ちゃんと歌えるのかな……あの人の隣で……」

 
ほんの少し、怖くなる。
誰かの“憧れ”だったその人の前で、
自分がただの“足手まとい”になってしまうんじゃないかって。

 

 

本番当日。
都内の大型スタジオには、各レーベルのマネージャーや音響スタッフが所狭しと動いていた。

控室に案内されたR+T。
美咲が横で天音のメイクを整えながら、さりげなく話す。

 
「Floraさん、今日ね、凛音のこと“成長したね”って言ってたのよ。
あの人がそこまで言うの、珍しい」

 
「……へぇ……」

 
「それに、収録終わったら久々に一緒にご飯でもって。
お互い忙しかったし、元師弟再会って感じよね」

 
「……うん……そうだね」

 
(なんでだろう。……胸が、チクってする)

 
メイクを終えた天音は、凛音と並んでステージへ。

スタッフから「15秒前です!」の声。

 
緊張で、呼吸が浅くなる。

ふと横を見ると――

凛音はまっすぐ前を見ていた。

いつものように落ち着いていて、
だけど、その視線の先には――Floraの姿があった。

 
(……ああ、綺麗な人……)

(凛音が、あんな風に“憧れ”た人……)
 

頭では分かってる。
でも、感情はうまく抑えられない。
 

「R+Tのふたりには、今回、Floraさんとの特別コラボをお願いしています!」

司会者の明るい声が響く中、スポットライトが3人に当たる。

音楽が始まる。
 

Floraが奏でる、しっとりとしたハミング。

その間に凛音が入り込む。
まるで、彼女の息遣いを理解しているかのような、見事なハーモニー。
 

(すごい……)

(2人の息が、ピッタリ……)

 
けれど、同時に――その中に自分が“入り込めない”感覚に陥った。

 
(私は、ただ……立ってるだけ……)

(声を重ねても、届いてない気がする)

 
それでも、天音は歌った。
必死に、凛音の背中を追うように。

けれど、どこか心はざわついていた。

それがほんの小さなズレを生み、音の重なりに少しの違和感を生む。
 

収録後。

 
Floraが軽く凛音の肩を叩いて微笑む。

「上出来。よくあそこまで声をコントロールできたね。
昔よりずっと、大人の音を出せるようになってる」

 
凛音は軽く頷き、「ありがとうございます」と答えた。

そのやりとりを、天音は控室の外から見ていた。
 

手が、少し震えていた。

別に、Floraが悪いわけじゃない。
凛音が笑ったからって、それが何かじゃない。

だけど――

 
(……あの時の私には、笑ってくれなかった)

(Floraさんには、笑うのに……)

 
その瞬間、扉の向こうから凛音の声がした。

「……天音? そこにいんのか?」

 
(だめ、顔見せられない)

天音はとっさに裏側の通路に隠れるように、足早に去っていった。

 


 
帰り道。

夜の空気が、肌に冷たかった。

自転車を押しながら、天音は下を向いたまま歩いていた。

後ろから、静かな足音。

凛音が、無言で歩いてきた。

並んで、肩が触れそうな距離。

でも、どちらも言葉を発さない。

数十メートル、そんな沈黙が続いた後。

 
「……悪かったな。さっき」

凛音の声が、ぽつりと降ってくる。

 
「……別に」
 

「お前が、ちゃんと歌えてなかったのは分かってた。
でも、“置いていった”わけじゃねぇ。
ただ……俺も、あの人に褒められたくて、必死だった」
 

天音は立ち止まった。

そして、顔を上げる。

 
「……分かってるよ、凛音の気持ちも。
でもね――
私は、凛音に“追いつきたい”んじゃない。
“隣にいたい”の。
“憧れの先”を見つめてる君の、横にいたいの」

 
「……」

 
「でも今日、ステージの中の凛音は、
私のことなんか見てなかった」
 

そう言って、天音は小さく微笑んだ。
どこか、寂しげに。
 

「バカ。そんな顔すんな」

 
凛音が、彼女の手を強く握る。

 
「ちゃんと見る。
“今の天音”も、“これからの天音”も、
どこにも行かせねぇって決めたんだから」

 
「……ホント?」

 
「ああ。
今日、あいつに褒められて思った。
……でも、俺が一番誇りたいのは、
お前と歌った“最初の音”だって」
 

天音の目に、涙がにじむ。

でも、それはもう、淋しさじゃなかった。
 

(……私はまだ、追いついてない。
だけど、歩いてる。ちゃんと、凛音の隣で)

 
「……うん、信じてる。
私、もっと強くなるね。
凛音の隣で、ちゃんと歌えるように」
 

2人は、静かに指を絡めた。

音楽だけじゃない、“絆”の音が、そこにあった。

 
【つづく】
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