42 / 55
第42話「RとT、交差する未来」
しおりを挟む
あの日のステージをきっかけに、天音の世界は少しずつ変わり始めた。
美沙の事務所には「白石天音ソロで起用したい」という声が数件寄せられ、
イベントスタッフや音楽ライターたちの中では、
「R+Tの“歌姫”は、想像以上に才能を持っていた」と話題になっていた。
だが、それは同時に、“ある噂”を引き寄せる。
天音、R+T卒業説。
凛音、ソロデビュー確定か?
SNSを中心に拡散された小さな火種は、
ほんの数日のうちに燃え広がり、
一部メディアにも取り上げられるほどの話題にまで発展していた。
◆
「ねぇ、これ見た?」
朝の教室で、夏菜がスマホを差し出す。
そこには、『次世代シンガー・白石天音にソロ契約のオファー殺到』の見出し。
「……また憶測記事か」
悠真がため息をついて、静かにスマホを置く。
「でも……天音ちゃん、最近プロのレッスンとか受けてるでしょ?」
「……知ってる。見てたからな。何も悪くねぇよ」
悠真の声は、どこか少し淋しそうだった。
だが、それ以上は何も言わず、彼はそっと目を伏せた。
◆
その日の放課後。
屋上の手すりにもたれながら、凛音は風に髪をなびかせていた。
空は高く、夕陽がオレンジ色にグラデーションをかけていた。
隣にいたのは、美沙。
黒のサングラスを外し、真剣なまなざしを凛音に向ける。
「……で、どうするの? あんたに来てる話、受ける気はある?」
「……ソロ?」
「うん。某レーベルから正式オファー。
“R+T”じゃなく、桐嶋凛音として契約して、音楽番組にも出演って話」
「……ふーん」
凛音は腕を組み、視線を空へ流した。
「悪い話じゃねぇな。
けど……今、俺にとってそれって、あんまり面白くねぇ」
「どうして?」
「俺が歌いてぇのは、
――一人とか誰かとじゃなく、天音とだからだよ」
美沙は驚いたように目を見開き、すぐに笑った。
「……ふふっ。あんた、ホントに変わったわね」
「変えられたんだよ、あいつに」
その時、凛音のスマホが鳴る。
画面には『天音』の名前。
「はい。……ん? 今? 分かった、行く」
通話を切ると、美沙がにやりと笑う。
「ラブラブで何より」
「うるせぇ。
けどまあ……少し、ラブラブかもな」
◆
呼び出されたのは、河川敷の小さな土手道。
ベンチに腰掛けて待っていた天音は、髪を揺らして微笑んでいた。
「……ね、ちょっと歩かない?」
「急になんだよ」
「なんとなく、今日は……ちゃんと話したかったの」
二人は並んで歩く。
足元には、秋風に揺れるススキの影。
少しだけ冷たい空気が、肌をくすぐる。
「……ね、凛音。噂、見た?」
「ああ。見た。
……全部、ウソだな」
「うん。ウソなんだけど、
私、自分でも少しだけ怖くなったの。
“このまま私が一人で進んでったら、
凛音の隣から消えちゃうんじゃないか”って」
「消えねぇよ」
「でも、凛音にだってソロの話来てるって聞いた。
もし、それを選んだら……って、思ったら、
胸がギュってなって……」
天音は立ち止まる。
秋風が、頬を撫でる。
「凛音。私、選んだんだ。
私、どんなにチャンスをもらっても、
“R+T”をやめない。
……あなたの隣で、歌い続けたい」
凛音は、静かに彼女の肩を引き寄せた。
「じゃあ、決まりだな。
俺も、同じだ。
一人で歌う気なんか、はなっからねぇよ」
「……よかった」
「でも、さ。
選んじまったからには――
お前、覚悟しとけよ」
「え?」
「これから先、俺と一緒に進むってことはさ、
普通じゃねぇ未来に行くってことだ。
テレビも、ライブも、ファンも、アンチも、
お前のことを“好き”とか“嫌い”とか勝手に言ってくる。
それでも、歌うってことなんだよ」
天音は、少しだけ目を伏せた。
「……分かってる。
それでも、私は――
“誰かに選ばれる自分”じゃなくて、
“自分が選んだ道”を歩きたい」
「……かっけぇな」
「ふふっ、でしょ?」
夕陽が差し込む中、二人はふと笑い合う。
いつの間にか、指がそっと重なっていた。
「凛音」
「なんだよ」
「次のステージさ。
2人で世界に挑もう?」
「おう。
“R+T”、世界仕様で行こうぜ」
ふたりの影が、寄り添いながら伸びていく。
足元の落ち葉が、カサリと音を立てていた。
その音も、彼らの音楽になる日が、もうすぐそこまで来ている。
【つづく】
美沙の事務所には「白石天音ソロで起用したい」という声が数件寄せられ、
イベントスタッフや音楽ライターたちの中では、
「R+Tの“歌姫”は、想像以上に才能を持っていた」と話題になっていた。
だが、それは同時に、“ある噂”を引き寄せる。
天音、R+T卒業説。
凛音、ソロデビュー確定か?
SNSを中心に拡散された小さな火種は、
ほんの数日のうちに燃え広がり、
一部メディアにも取り上げられるほどの話題にまで発展していた。
◆
「ねぇ、これ見た?」
朝の教室で、夏菜がスマホを差し出す。
そこには、『次世代シンガー・白石天音にソロ契約のオファー殺到』の見出し。
「……また憶測記事か」
悠真がため息をついて、静かにスマホを置く。
「でも……天音ちゃん、最近プロのレッスンとか受けてるでしょ?」
「……知ってる。見てたからな。何も悪くねぇよ」
悠真の声は、どこか少し淋しそうだった。
だが、それ以上は何も言わず、彼はそっと目を伏せた。
◆
その日の放課後。
屋上の手すりにもたれながら、凛音は風に髪をなびかせていた。
空は高く、夕陽がオレンジ色にグラデーションをかけていた。
隣にいたのは、美沙。
黒のサングラスを外し、真剣なまなざしを凛音に向ける。
「……で、どうするの? あんたに来てる話、受ける気はある?」
「……ソロ?」
「うん。某レーベルから正式オファー。
“R+T”じゃなく、桐嶋凛音として契約して、音楽番組にも出演って話」
「……ふーん」
凛音は腕を組み、視線を空へ流した。
「悪い話じゃねぇな。
けど……今、俺にとってそれって、あんまり面白くねぇ」
「どうして?」
「俺が歌いてぇのは、
――一人とか誰かとじゃなく、天音とだからだよ」
美沙は驚いたように目を見開き、すぐに笑った。
「……ふふっ。あんた、ホントに変わったわね」
「変えられたんだよ、あいつに」
その時、凛音のスマホが鳴る。
画面には『天音』の名前。
「はい。……ん? 今? 分かった、行く」
通話を切ると、美沙がにやりと笑う。
「ラブラブで何より」
「うるせぇ。
けどまあ……少し、ラブラブかもな」
◆
呼び出されたのは、河川敷の小さな土手道。
ベンチに腰掛けて待っていた天音は、髪を揺らして微笑んでいた。
「……ね、ちょっと歩かない?」
「急になんだよ」
「なんとなく、今日は……ちゃんと話したかったの」
二人は並んで歩く。
足元には、秋風に揺れるススキの影。
少しだけ冷たい空気が、肌をくすぐる。
「……ね、凛音。噂、見た?」
「ああ。見た。
……全部、ウソだな」
「うん。ウソなんだけど、
私、自分でも少しだけ怖くなったの。
“このまま私が一人で進んでったら、
凛音の隣から消えちゃうんじゃないか”って」
「消えねぇよ」
「でも、凛音にだってソロの話来てるって聞いた。
もし、それを選んだら……って、思ったら、
胸がギュってなって……」
天音は立ち止まる。
秋風が、頬を撫でる。
「凛音。私、選んだんだ。
私、どんなにチャンスをもらっても、
“R+T”をやめない。
……あなたの隣で、歌い続けたい」
凛音は、静かに彼女の肩を引き寄せた。
「じゃあ、決まりだな。
俺も、同じだ。
一人で歌う気なんか、はなっからねぇよ」
「……よかった」
「でも、さ。
選んじまったからには――
お前、覚悟しとけよ」
「え?」
「これから先、俺と一緒に進むってことはさ、
普通じゃねぇ未来に行くってことだ。
テレビも、ライブも、ファンも、アンチも、
お前のことを“好き”とか“嫌い”とか勝手に言ってくる。
それでも、歌うってことなんだよ」
天音は、少しだけ目を伏せた。
「……分かってる。
それでも、私は――
“誰かに選ばれる自分”じゃなくて、
“自分が選んだ道”を歩きたい」
「……かっけぇな」
「ふふっ、でしょ?」
夕陽が差し込む中、二人はふと笑い合う。
いつの間にか、指がそっと重なっていた。
「凛音」
「なんだよ」
「次のステージさ。
2人で世界に挑もう?」
「おう。
“R+T”、世界仕様で行こうぜ」
ふたりの影が、寄り添いながら伸びていく。
足元の落ち葉が、カサリと音を立てていた。
その音も、彼らの音楽になる日が、もうすぐそこまで来ている。
【つづく】
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる