俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第43話「それでも、隣を選ぶ理由」

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桐嶋家のリビングには、重苦しい沈黙が流れていた。

誰かが咳払いをしたわけでもなく、
冷蔵庫のブーンという微かな音すら聞こえるような静寂。

 
その中心に座っていたのは――凛音。
ソファの中央で腕を組み、斜に構えている。

そして、左右を囲むように座るのは、
例の3人の暴走系姉。

 
「……つまりさ」

と、美咲が口を開く。

「今度の海外ステージ、あんた一人で行くってわけ?」
 

「“一人”じゃねぇ。天音と“二人”だ」

 
「うわー出た! その“隣は天音”感、甘々か!
お姉ちゃん達、うっかり口に糖分溜まったわ!」

 
「……騒ぐな。会議になんねぇだろ」

 
次に、由依が冷静に口を挟む。

「空港の送迎は事務所側が手配済み。
現地のスタッフも同行、ホテルも専属付きで安全管理万全。
現地での移動ルートもシミュレーション済み……ふむ、まぁ“危険度A-”ね」

 
「Aマイナスってなんだよ」

 
「つまり、私たちが同行すればA++に上がるということ」

 
「勝手に来んな。いい加減自立しろ、俺から」

 
すると、今までおとなしくしていた紗奈が、むくりと体を起こす。

「……でもさ……」

 
凛音が肩をすくめた瞬間、紗奈は一言。

「天音ちゃんが!
外国の男に言い寄られたらどうすんの!?」
 

「…………」
 

「すっごい美少女だし、海外の人って積極的じゃん!
“ハローカワイイ、キミはエンジェルデスネ”って言われたら!?
それで“ヒュゥ!”って抱き上げられて、キラッとウインクされたら!?」


「そんなテンプレ漫画みたいな展開あるか……」
 

「ある!!!」(3姉妹ハモリ)

 

 

結果――
「同行はしないが、荷造りは姉3人で担当する」
という謎の合意が成立した。

 
その夜、凛音の部屋にはスーツケースと、
美沙から届いた「海外遠征用!完全マニュアル冊子」が積まれた。

 
「なぁ、俺の荷物、スキンケア用品と栄養ドリンクで埋まってんだけど」

 
「当然でしょ? 海外こそ肌が命」

美咲はきっぱりと言い切る。

 
「この保湿ミスト、現地じゃ手に入らないんだから。
あと、夜は絶対シルクの枕カバー使って」
 

「俺は枕より、歌う声帯の方が大事だっつの……」
 



 
翌日。天音の家のリビングでも、同じく小さな騒動があった。

父・白石一真、お堅い県庁に勤めているサラリーマン。
母・白石真理、実は元モデルで現在は専業主婦。
 

「へぇ~。ついにアジア圏ね? いいじゃない。
うちの子、世界デビューじゃない」

と、真理は満足げに笑う。

 
「安全管理だけは念入りに。
美沙さんのとこなら安心だけど……通訳は?」
 

「現地の事務所の方がついてくれるって」
 

「でも、凛音くんも一緒でしょ? それなら安心ね♡」

母の笑みがどこか微妙にズレている気がして、天音はちょっと居心地悪そうに笑った。

 
(お母さん、凛音くんにだけは異様に甘いよね……)

(お父さんは、凛音くんの前だとちょっと静かになるし)
 

そういえば、凛音が家に来るたび、
なんとなく空気が“ちょっと高級になる”のは気のせいじゃない。
 


 

出発当日。
空港には、美沙の事務所スタッフ、各社のマネージャー、
さらには数人の報道記者までがこっそり集まっていた。

空港の一角で、天音は少し緊張した面持ちでスーツケースを握りしめる。

 
「……ふぅ。いよいよだ」

 
凛音が隣に立つ。

「緊張してんのか?」

 
「うん。少しだけ……でも、大丈夫。
隣に凛音がいてくれたら、それだけで平気」

 
「そっか。……じゃあ、俺は世界でも最強のセキュリティだな」

 
天音は小さく笑った。
 

その瞬間、背後から美咲の叫び声。

「凛音ぉーー! このポーチ忘れてるー!」

 
「……っ! おい姉ちゃん来てんじゃねぇか!」
 

「由依が後ろからついて来てる! 紗奈は出国ゲートで待機中!」
 

「監視体制どんだけだよ!!」
 

だが、その“いつもの騒がしさ”が、
二人の緊張を和らげてくれていた。
 

「……さて、行くか」

凛音が手を差し出す。

天音は、その手をぎゅっと握る。

 
「行こう。
“世界に、二人で歌いに”」

 
搭乗ゲートの先には、まだ見ぬ景色と、
まだ聞いたことのない拍手が待っている。

そして二人は、ゆっくりと、その第一歩を踏み出した。

 
【つづく】
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