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第44話「きみと世界を歌う日」
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熱気。
耳の奥がキンとするほどの熱量。
湿った空気と、鮮やかなネオン。
ここはタイ・バンコク。
現地で開催される国際音楽フェス「Asia Pop Harmony」は、
アジア圏内の若手音楽ユニットを招いて行われる世界的なイベントのひとつだった。
そのメインステージに――
R+Tが、ついに立つ。
◆
「――Welcome to the stage, from JAPAN… R-PLUS-T!!!」
司会者のアナウンスと共に、
凛音と天音は、スポットライトに照らされてステージ中央へと歩み出た。
割れんばかりの拍手と歓声。
そのすべてが、彼らの名を呼ぶ。
だが――天音の足は、ほんの少しだけ震えていた。
(こんなに……人がいる)
(見渡す限り、知らない顔、知らない国の人たち)
(言葉も通じない)
凛音がそっと視線を寄越した。
「……大丈夫か?」
小さく頷く天音。
だが、その目はどこか不安げ。
(私は……ここで、ちゃんと歌えるのかな)
◆
最初の曲は、R+Tのオリジナルバラード。
二人で作詞した「君と呼ばせて」。
サビ前のソロパートは、天音の担当だった。
イントロが流れ始めた瞬間、
ステージの空気が、すっと引き締まる。
数千人が、呼吸を止めたような静けさ。
(……いける。私は、凛音となら)
そして、マイクに口を近づけた瞬間――
その震えは、ぴたりと止まった。
「……どんなに遠くにいても あなたを想えるのなら
それは たぶん 恋じゃなくて――」
――“愛”なんだ。
天音の声が、会場の空気を震わせる。
それは、言語を超えて、
感情として観客に伝わっていった。
凛音のハーモニーが重なる。
厚く、深く、そして優しい旋律が流れる。
大きなLEDビジョンに映る、天音の表情。
汗を光らせながら、でも目はまっすぐ前を見ていた。
サビのラスト、
二人の声が交差する。
「君を呼ぶ、それだけで――世界が、歌になる」
◆
終わった瞬間、客席が沸いた。
拍手、口笛、歓声。
「アリガトウ!」「R+Tサイコー!!」
日本語で叫ぶ現地ファンの姿も見えた。
凛音と天音は顔を見合わせて、
ほんの少しだけ微笑み合った。
――あぁ、やっぱり。
ここに来てよかった。
二人で来て、よかった。
その後も、3曲立て続けに披露。
途中のMCでは、天音が現地語で拙くも懸命に挨拶し、
観客から「かわいい~!」と黄色い声援が飛んだ。
凛音はと言えば――
「言葉なんか知らなくても、
こいつの声は、どこの国でも届くから。……保証する」
と、俺様節を炸裂させ、現地の記者陣すら吹き出させた。
◆
ライブが終わった控室。
天音はタオルで汗を拭きながら、
放心したように天井を見ていた。
「……すごかったね」
「おう。マジで、“世界”だったな」
凛音がペットボトルの水を差し出す。
天音は受け取り、少し飲んで――
小さく、震える声で言った。
「……怖かった、ちょっとだけ。
でも、すっごく楽しかった」
「そうか」
「ありがとう、連れてきてくれて」
「違ぇよ」
凛音が彼女の手を取った。
「お前が俺を、ここに連れてきたんだよ」
一瞬、天音の目が見開かれる。
そのまま、ふっと――涙がこぼれた。
「……あ」
「泣くなバカ。
目、腫れんだろ。次、インタビューだぞ」
「でも……嬉しくて」
「……そっか」
凛音は、彼女の頬に手を添えて、拭った。
そのまま――その額に、軽くキスを落とす。
「お前は、俺の誇りだよ。
白石天音」
天音は、赤くなって俯いた。
だが、その笑顔はどこまでも誇らしかった。
◆
インタビューブース。
美沙の手配で集められた現地メディアが、
二人を囲んで次々に質問を浴びせる。
「お二人の関係は?」
「今後の海外ツアーの予定は?」
「R+Tという名前の由来は?」
凛音は言葉少なに答えていたが――
その中で、たったひとつ、はっきり言った。
「“R+T”ってのは、
Rinon and Tenonの略だ。
――でも、ただの頭文字じゃない」
一拍、間を置いて。
「“俺と天音がいないと、成り立たねぇ”って意味だよ」
天音は横で、ぽかんと口を開けていたが、
すぐに赤くなって笑った。
記者たちは一斉にシャッターを切る。
R+Tの“これから”は、
確かに、そこにあった。
【つづく】
耳の奥がキンとするほどの熱量。
湿った空気と、鮮やかなネオン。
ここはタイ・バンコク。
現地で開催される国際音楽フェス「Asia Pop Harmony」は、
アジア圏内の若手音楽ユニットを招いて行われる世界的なイベントのひとつだった。
そのメインステージに――
R+Tが、ついに立つ。
◆
「――Welcome to the stage, from JAPAN… R-PLUS-T!!!」
司会者のアナウンスと共に、
凛音と天音は、スポットライトに照らされてステージ中央へと歩み出た。
割れんばかりの拍手と歓声。
そのすべてが、彼らの名を呼ぶ。
だが――天音の足は、ほんの少しだけ震えていた。
(こんなに……人がいる)
(見渡す限り、知らない顔、知らない国の人たち)
(言葉も通じない)
凛音がそっと視線を寄越した。
「……大丈夫か?」
小さく頷く天音。
だが、その目はどこか不安げ。
(私は……ここで、ちゃんと歌えるのかな)
◆
最初の曲は、R+Tのオリジナルバラード。
二人で作詞した「君と呼ばせて」。
サビ前のソロパートは、天音の担当だった。
イントロが流れ始めた瞬間、
ステージの空気が、すっと引き締まる。
数千人が、呼吸を止めたような静けさ。
(……いける。私は、凛音となら)
そして、マイクに口を近づけた瞬間――
その震えは、ぴたりと止まった。
「……どんなに遠くにいても あなたを想えるのなら
それは たぶん 恋じゃなくて――」
――“愛”なんだ。
天音の声が、会場の空気を震わせる。
それは、言語を超えて、
感情として観客に伝わっていった。
凛音のハーモニーが重なる。
厚く、深く、そして優しい旋律が流れる。
大きなLEDビジョンに映る、天音の表情。
汗を光らせながら、でも目はまっすぐ前を見ていた。
サビのラスト、
二人の声が交差する。
「君を呼ぶ、それだけで――世界が、歌になる」
◆
終わった瞬間、客席が沸いた。
拍手、口笛、歓声。
「アリガトウ!」「R+Tサイコー!!」
日本語で叫ぶ現地ファンの姿も見えた。
凛音と天音は顔を見合わせて、
ほんの少しだけ微笑み合った。
――あぁ、やっぱり。
ここに来てよかった。
二人で来て、よかった。
その後も、3曲立て続けに披露。
途中のMCでは、天音が現地語で拙くも懸命に挨拶し、
観客から「かわいい~!」と黄色い声援が飛んだ。
凛音はと言えば――
「言葉なんか知らなくても、
こいつの声は、どこの国でも届くから。……保証する」
と、俺様節を炸裂させ、現地の記者陣すら吹き出させた。
◆
ライブが終わった控室。
天音はタオルで汗を拭きながら、
放心したように天井を見ていた。
「……すごかったね」
「おう。マジで、“世界”だったな」
凛音がペットボトルの水を差し出す。
天音は受け取り、少し飲んで――
小さく、震える声で言った。
「……怖かった、ちょっとだけ。
でも、すっごく楽しかった」
「そうか」
「ありがとう、連れてきてくれて」
「違ぇよ」
凛音が彼女の手を取った。
「お前が俺を、ここに連れてきたんだよ」
一瞬、天音の目が見開かれる。
そのまま、ふっと――涙がこぼれた。
「……あ」
「泣くなバカ。
目、腫れんだろ。次、インタビューだぞ」
「でも……嬉しくて」
「……そっか」
凛音は、彼女の頬に手を添えて、拭った。
そのまま――その額に、軽くキスを落とす。
「お前は、俺の誇りだよ。
白石天音」
天音は、赤くなって俯いた。
だが、その笑顔はどこまでも誇らしかった。
◆
インタビューブース。
美沙の手配で集められた現地メディアが、
二人を囲んで次々に質問を浴びせる。
「お二人の関係は?」
「今後の海外ツアーの予定は?」
「R+Tという名前の由来は?」
凛音は言葉少なに答えていたが――
その中で、たったひとつ、はっきり言った。
「“R+T”ってのは、
Rinon and Tenonの略だ。
――でも、ただの頭文字じゃない」
一拍、間を置いて。
「“俺と天音がいないと、成り立たねぇ”って意味だよ」
天音は横で、ぽかんと口を開けていたが、
すぐに赤くなって笑った。
記者たちは一斉にシャッターを切る。
R+Tの“これから”は、
確かに、そこにあった。
【つづく】
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